2017年10月26日、福島第一原発で働いていた猪狩忠昭さんは、防護服、全面マスクの姿のまま構内で倒れ、亡くなった。死因は「致死性不整脈」だったという。
猪狩さんが亡くなった当日、東京電力は「業務との因果関係はない」と記者発表。しかしその後、亡くなるまでの半年、猪狩さんは毎月100時間を超える時間外労働を強いられていたことや、務めていた5年間、一度も有給休暇を取れなかったことがわかった。
猪狩さんの遺族は、猪狩さんが勤めていたいわき市の自動車整備会社「いわきオール」と元請けの建設会社などに、あわせて約4300万円の損害賠償を求めていた。
2021年3月30日、福島地裁は「いわきオール」と経営者夫妻に2400万円あまりの賠償を行うよう命じる判決を下したが、元請けの建設会社・宇徳と東京電力に対する訴えは退けた。
この判決前、福島地方裁判所いわき支部前で、「福島第一原発過労死責任を追及する会」の主催で行なわれたアピール行動と、判決後の午後3時30分からいわき市役所記者クラブで行われた記者会見をIWJ福島中継市民が取材した。
記者会見では原告の猪狩忠昭さんの妻が、今回の判決について、悔しさを滲ませながら、以下のように述べた。
「夫が長時間労働による過労死であることを労災認定を受けて、また、この度もきちんと認められました。そのことについては、私どもも納得しております。
ただ、発注者である東京電力、それから元請けである宇徳、こちらに対してはまったく責任がないという…責任は棄却されました。例えば交通事故が起きたときに100-0ということはほとんどないと思います。けれど今回は東電・宇徳に対しては『ゼロ』ということになります。
もちろん雇用元のいわきオールでの労働の状況からしましても、そちらの責任が大きいというのはもちろんなんですけれども、そもそも、原発事故を起こした東京電力の構内で夫は働いておりまして、死亡も就業中に倒れての死亡ということで、私は東電と宇徳がまったく責任を負わないという…これが、今後もまた多重請負構造の責任逃れをするという、そういったこともずっと続いてしまうと危惧しております」
さらに、声を震わせ、涙ながらに以下のように続けた。
「もともと、裁判を起こしたのも、私ども遺族はお金がほしくてやっているわけではありませんから。今回の東電・宇徳(の責任)が『ゼロ』ということが、金額の問題ではなく、夫が亡くなった当時からきちんとした説明も謝罪も何も、一言もされていません。
そして、告別式の2日後に気が付いた、東電の記者会見の内容を、私どもはそれを聞いてこれは何かがおかしいと、そこからこの裁判にまで戦ってきたわけです。もし、あの記者会見をされた当事者がご自分の大事な人が亡くなったときに、あのような会見をされて、何も悪くないと言うでしょうか。きっとご自分の身に同じことが起こったら、あのまま会見を聞いて、今の私の気持ちと同じ気持ちになると思います。
それは企業だからとか、元請けだからとか、下請けだからとか、大企業だからとか、原発の作業員だからとか、そういうことではなくて、ひとりの人間として…命を大切にするという当たり前のこと、普通、当たり前のことを私は訴えてきたと思います」