2019年6月5日、参議院本会議で国有林管理経営法改正案が可決された。この改正案は、全国の国有林を最長50年間、大規模に伐採・販売する権利を民間業者に与えるもので、自民・公明両党、国民民主党、日本維新の会などの賛成多数で成立した。この改正法の重大な問題は、伐採する業者に植林の義務を定めていない点にある。
安倍晋三政権は、同法によって国有林を民間業者に開放し、先細りが見込まれている日本の林業の成長産業化を目指すようだが、結果としてそれが一部の集団の経済的な利益となり、業者に植林の義務を定めないことで、野放図な乱開発が進み、日本中の山林がハゲ山になりかねないのではないかと問題視されている。
国有林管理経営法の主に3つの問題点について、IWJはこの法案を担当した林野庁経営企画課企画管理の担当官に直撃取材した。
国が確実に植栽を行う!? 罰則規定がない中で実効性は本当にあるのか?
国有林管理経営法の第1の問題は、国有林伐採後の植栽について次のように規定している点である。
「農林水産大臣は、樹木採取区内の採取跡地において国有林野事業として行う植栽の効率的な実施を図るため、当該樹木採取区に係る樹木採取権者に対し、当該植栽をその樹木の採取と一体的に行うよう申し入れるものとする」
「意欲と能力のある林業経営者」である樹木採取権者に植栽を申し入れると弱い表記になっており、義務化していない点が問題である。
なぜ義務していないのか。IWJが林野庁に直撃取材したところ、同庁の担当官は以下のように回答した。
林野庁「樹木採取権は生えている木に対して設定されます。採取すると土地が残されます。残された土地は権利も何もない国有林野そのものになります。
国有林野に木を植えなくてはいけないのは、国なんです。そこに木を植えなくてはならない義務があるのは国なんです。道義上も経営管理の主体になることからもそこ(伐採後の国有林野)に木を植えなくてはいけないのは国なんです。
条文では、8条の25に次のように規定しています。『(採取跡地の植栽)第八条の二十五 農林水産大臣は、樹木採取区内の採取跡地において国有林野事業として行う植栽の効率的な実施を図るため、当該樹木採取区に係る樹木採取権者に対し、当該植栽をその樹木の採取と一体的に行うよう申し入れるものとする。』ここで『国有林野事業として行う』と法律で書かれています。これは国が自ら植栽をちゃんと行うということを法律上明記しているということです」
――「これは国が責任を以て植栽を行うということですか?」
林野庁「そうです。国が植栽に100%責任を持ちます。その上で、木を植える作業を外注します。国の職員が木を受けているのではなく、外に発注しています。その外注作業をいちいち入札するのではなくて、木を切った人に、効率がいいので、木を植えてくださいねということをあらかじめ申し入れる、という意味合いの条文です」
――「それは契約上の前提条件になっているわけですか?」
林野庁「そういうことになります」
――「すると、国が確実に植栽を行いますよ、という条文なんですね?」
林野庁「おっしゃるとおりです」
このように、林野庁は植栽の義務は国にあると明言した。
しかし、多くの「意欲と能力のある林業経営者」に植栽を外注することになるため、その管理が十分にできるのかどうかという問題が残る。義務と責任の所在は国になると言ったところで、実効性がなければほとんど意味はない。国有地がハゲ山になる懸念は払拭できていないのである。
コンセッション方式を取るのではなく、運営・経営は「これまでどおり国が行う」? 具体的な運用の多くを政令・省令に委ねる中で、業者の選び方に公正性が保てるのか?