自民党内にくすぶる「消費増税再々延期」論、「消費税廃止」を訴える山本太郎議員! 減税合戦の先に、国債と日本円の信用はどうなる!? 改憲による「緊急事態条項」創設に固執する安倍政権は、財政破綻とハイパーインフレを予期している!? 2019.5.20

記事公開日:2019.5.20 テキスト
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(文:IWJ編集部)

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 米中貿易摩擦の激化が伝えられると、その先行きへの不安に市場が敏感に反応した。日経平均株価は大型連休明けに続落した。そんな中で、安倍政権の消費税増税に関する判断に注目が集まっている。

 安倍政権は現時点で今年10月に税率を10%に引き上げる方針は変えていないものの、夏の参院選を控えて自民党内でくすぶる再々延期論が、今後の経済指標の動向次第で強まることが予想される。

 景気後退をうかがわせるニュースは他にもある。

 たとえば、みずほフィナンシャルグループ(FG)が15日発表した2019年3月期連結決算によれば、同社の純利益が前期比83.2%減の965億円と大幅減益となったという。純利益が1千億円を下回ったのは、リーマン・ショックで大幅赤字に転落した2009年3月期以降で初めてのことと報じられている。かつて安倍政権が、消費増税を見送る際の条件とした「リーマン級」の景気後退が、今度は本当に現実のものとして迫りつつある。

 一方、新党「れいわ新選組」を立ち上げて野党の結集を目指している山本太郎参議院議員は、この新党結成に際しての4月10日の記者会見で、次のような公約を披露した。

▲山本太郎参議院議員(2019年4月10日、IWJ撮影)

 「8つの緊急政策『政権とったらすぐやります!』」と題したスライドには、「①消費税廃止 ②全国一律! 最低賃金1500円『政府が補償』 ③奨学金徳政令 ④公務員増やします ⑤第一次産業戸別所得補償 ⑥『トンデモ法』の一括見直し・廃止 ⑦辺野古新基地建設中止 ⑧原発即時禁止・被曝させない」という、8つの政策が掲げられた。

 こうした山本議員の公約のうち、②や③や⑤などは、格差を拡大してきた安倍政権に対する真っ向からの批判であり、有効な代替案のように見える。⑦や⑧のように、基地と原発の問題に向き合う点や、第2次安倍政権下で成立した特定秘密保護法、安保法制、共謀罪といった「トンデモ」法への批判も、多くの国民にとって首肯できる内容だろう。

 しかし、山本議員の政策構想の前提には、日本経済の現状への楽観が含まれているようにも思われる。

 山本議員は上記の4月10日の会見の中で、経済に関しては、立命館大学の松尾匡(ただす)教授から学んでいると述べた。左派のリフレ派論客である松尾教授は、アベノミクス批判を展開してはいるが、異次元金融緩和そのものを否定しているのではない。松尾教授は金融緩和の不足を批判しているのであり、別の言い方をすれば松尾教授は、アベノミクスにさらなるドライブをかけるべきと主張しているともいえる。

▲京都大学大学院教授の藤井聡氏(左)と立命館大学教授の松尾匡(ただす)氏(2019年1月19日、シンポジウム「山本太郎×藤井聡×松尾匡 本当に日本を再生できる みんなのための財政政策 Part 3」にて(IWJ撮影)

 一例を挙げれば、松尾教授は「黒田(東彦)日銀は、実は肝心なところでお金を出し惜しんできたきらいがあるので、野党が言っているのとは逆に、『足りないぞ』という批判をしなければならない」と発言している。

 「消費税廃止」を訴える山本議員の経済政策が、有権者の支持を集めるとしても、安倍政権側がその公約をほぼ丸のみして、「消費税廃止」とまでいかなくても、消費税の再々延期や消費税減税を打ち出す可能性はないだろうか。

 この点に関しては、統計不正問題を追及している明石順平弁護士が、今年3月に行われた「岩上安身によるインタビュー」の中で、今の日本の財政危機を楽観視することに強い危機感を示している。ぜひ、以下のURLより、岩上安身による明石順平弁護士インタビューをご覧いただきたい。

 また、明石弁護士と松尾教授は、ツイッター上で直接的に議論もしている。その議論はトゥギャッターでまとめられており、下記URLから閲覧できる。

 アベノミクスに対する代案として、欧米の急進左派にならい、 MMT理論(※)にもとづく「反緊縮」を松尾教授らは主張しているが、安倍政権が緊縮財政をとっているとは言いがたい。むしろ、その逆で安倍政権は放漫財政を続けているといってよい状況にある。

(※)MMT理論:
 Modern Monetary Theory理論。現代貨幣理論、あるいは現代金融理論と訳される。
 政府の財政赤字が拡大すれば、金利上昇と景気悪化を招くという従来の経済理論に対し、「貨幣的主権を持つ政府は貨幣の独占的な供給者であり、物理的な形であれ非物理的な形であれ任意の貨幣単位で貨幣の発行を行うことができる。そのため政府は将来の支払いに対して非制限的な支払い能力を有しており、さらに非制限的に他部門に資金を提供する能力を持っている。そのため、政府の債務超過による破綻は起こりえない。換言すれば、政府は常に支払うことが可能なのである」とする考え。
 ただし支持者からもこの理論に当てはまるのは基軸通貨のドルを持っている米国と、国債のほとんどを自国民が保有している上に、ゼロ金利下かつ物価上昇率が低い日本ぐらいとされている。その日本でも、この先、本当にMMT理論が通用するのかについては、賛否が分かれる。

 たとえば、衆議院本会議で3月2日可決された2019年度予算案は、一般会計総額が過去最大となる101兆4571億円に達した。このように、安倍政権は、財政危機と再三指摘されているにもかかわらず、支出を増やしているのである。緊縮予算を組んでいるとの指摘は当たらない。

 問題なのは、支出のその中身である。安倍政権は、966件もの欠陥があるF35戦闘機購入(6機916億円、今後さらに105機買い増しの方針)や、米軍新基地建設のための辺野古埋め立て(地盤改良工事の費用が1500億円)も強行しようとしている。

▲明石順平氏(2019年4月26日、IWJ撮影)

 重要なことは、ドイツのように財政健全化の達成をあきらめずに追求しながら、大企業・大資本に有利な不公平な税制と分配政策を、人びとのための福祉を重視する政策に変更することであろう。そして本来なら、その経済・社会政策を通じて、政府はすべての問題の根幹にある少子化・人口減少という負の傾向に歯止めをかけなくてはならないはずである。そうでない限り、日本の社会・経済の見通しは明るさを取り戻せない。

 弁護士として労働者の権利をめぐる問題に携わってきた明石氏の鋭い指摘がより多くの方々に届くことを望み、岩上安身が明石氏に連続インタビューを続けている。下記URLよりご視聴いただきたい。

 財政規律が一定程度保たれているという前提があれば、減税と財政支出の拡大は景気の拡大や人びとの福祉ために間違いなく有効である。しかし、現状の日本はあいにくそうした条件下にはない。政府債務残高が対名目GDP比ですでに200%を超えている日本で、減税とともに、さらに政府支出を増やすことには、国債の暴落リスクを高める可能性がある。このような財政の不健全さの放置は、国債と日本円の信用を損なう理由としては十分であろう。

 現在の、名目GDP比の200%を超える債務累積というのは、1937年に勃発した日中戦争から戦時国債を乱発し、戦線を拡大してついには対英米戦争に突入し、敗戦を迎えた時期に日本が抱えていた債務と同水準にあたる。この膨大な債務も一因となり、敗戦後の日本は物価が急上昇した。その上昇は、年率300%にも達した。こうした歴史的事実を忘れてしまっているような理念的空論は、果たして有効だろうか?

 松尾教授は5月9日付東京新聞の取材に答え、薔薇マークキャンペーンについて、消費税を増税凍結、あるいは減税し、将来的には大企業や富裕層への課税強化を訴えながら、「税制改革はすぐには実現しない。実現までの財源は国債発行で賄うべきだ」と述べている。

 松尾教授の主張は、財政に対する責任感があまりに薄いと言わざるをえない。そもそも、国債発行で当面の財政がやりくりできてしまえば、大企業や富裕層へ課税強化するインセンティブが希薄化してしまう。結局、生じた税の空洞化は国債によって埋め尽くすことになるだろう。

▲「社会保障・税一体改革について」(財務省、2012年)

 むろん、戦時中および占領下の日本と現在の日本とで、国債の膨張が全く同じ要因や条件で発生したわけではない。ただ、あえて両者の共通点を挙げるならば、国債を買い支えることを可能にした、日本人の国民性ともいうべきある習性に行きつく。それは、日本国民が自身の財産の多くを消費したり、あるいはその財産を投資するよりも、その大部分を日本円で国内に貯蓄することを好む傾向である。

 戦前の日本においては、日中戦争勃発後の1938年、国民精神総動員運動の一環として、貯蓄奨励運動が盛んに展開された。第一次近衛文麿内閣の賀屋興宣(かや・おきのり)蔵相は、率先して貯蓄奨励のための講演で全国を回った。賀屋がそこまでして貯蓄奨励にこだわった意図について、1937年9月10日に公布された臨時軍事費特別会計法とその運用を検証した鈴木晟氏は、賀屋の講演に依拠して次のようにまとめている。

 「臨時軍事費の財源の多くが公債であることは前述したが、賀屋によれば支那事変(日中戦争)が始まってから昭和14年(1939年)5月27日までに発行した国債の総額は74億6000万円で、その消化の内訳は、大蔵省預金部(郵便貯金などを運用)が引き受けたのが14億3000万円、国債引受銀行団が1億円、『日本銀行がまず一手に引受けたものを民間等に売却したものが49億1600万円』である。(中略)このような公債の消化は国民の貯蓄の増加に依存している。大蔵省預金部にしろ、また市中の銀行・信託会社・保険会社にしろ、その保持している公債の元手は、郵便貯金や銀行預金にほかならない

 このようにして戦中の日本は、国民の預貯金を根拠にして発行された大量の国債を用いて、戦争を続けたのである。これが日本の軍国主義を支えてしまったことは、敗戦後、経済復興のための調査研究に従事した日本人自身によっても問題視された。

 外務省調査局事務官の大来佐武郎(おおきた・さぶろう)が中心となり、技術系の専門家やエコノミストや・経済学者らが集結してまとめた外務省特別調査委員会の報告書『日本経済再建の基本問題』(1946年3月、同年9月に改訂)には、以下のような記述がある(現代仮名遣いに改めて引用し、代名詞などは適宜ひらがなとした)。

 「証券取引が未発達であり、国民の投資に対する関心が薄く貯蓄は大部分郵便貯金または銀行預金の形をとり、直接株式その他の企業投資に向かうことが少なかった。その結果として金融機関は自己または政府の意志に基いて自由に運用し得る多額の預貯金を持つことが出来たのである。かくて集中せられた資金は軍需工場の拡大や政府公債の引受等に向けられ、国民大衆の利益に還元し来ることが極めて少なかったのである」

  • 外務省特別調査委員会「改訂日本経済再建の基本問題」1946年9月、中村隆英、大森とく子編『資料・戦後日本の経済政策構想』第1巻(東京大学出版会、1990年)166頁。下線による強調はIWJ編集部による。

 それでは現代の日本は、どういう状況にあるのか。

 明石順平氏は、その著書『データが語る日本財政の未来』(集英社インターナショナル、2019年)232-234頁で、国債の大量発行が可能な前提として、「円の価値が高くて、さらにそれがたくさん預金されていたから」日本の国債は今まで約90%が国内で買われていたのだと述べている。戦中の日本と同じ状況が続いてきたのである。

 ここで明石氏は、「家計金融資産に占める現金・預金の割合(2016年)」というグラフを用い、日本では家計金融資産の51.5%が現金で預金されていることを明示している。日中戦争の時期と同じように、日本政府は国民の預貯金をあてにし、国債を大量に発行し、金融機関に引き受けさせている。状況は似通っているのである。

 しかし、家計の金融資産は今後、これまでの水準を維持できるという保証はない。明石氏が同書でグラフ化したように、生産年齢人口(15~64歳)の急激な減少(2018年は7515万8000人、2054年は推計で5072万6000人)が見込まれており、日本経済が縮小していくとともに家計金融資産、すなわち国民の預貯金も減り続けていくのは避けられない。

 戦中の日本と現在の日本の共通点、そして今後の日本の人口と経済規模の縮小に歯止めがかからない点をあわせ考えると、国債の償還が苦しくなり、敗戦後に発生したようなハイパーインフレが現在の日本でも起こる可能性について、真剣に考えなくてはならないことがわかるだろう。

 日本円が暴落してハイパーインフレが発生してしまえば、普段のように安い価格で食料を購入することは困難となる。戦後直後の時期は、日本の人口の5割弱は農民であり、農産物を自給する条件はまだしも整っていた。

 しかし、現代は条件がもっと悪化している。現在の農業人口の減少は深刻である。販売農家の農業人口は1985年には1563万人であったが、2010年には650万人に、2015年には488万人にまで減少した。2010年から2015年にかけての減少率は、25%に達する。仮にこの推移を参照して2020年以降を予測した場合、2020年には355万人、2025年には268万人、2030年には198万人、2035年には143万人にまで減少するだろう、と算出した調査報告も出ている。敗戦直後の時期のように、国民の約半分が農民だった時代と、条件が全く違うのである。

 日本の食料自給率は、2017年度にカロリーベースで38%を記録している(※生産額ベースであっても66%に過ぎない)。しかも、農水省は2010年11月、TPPが発効すれば、さらに自給率が14%まで下がるとの予測を発表した。ところが、農水省は2016年6月には、食料自給率は「TPPによる影響を大きく受けるものではない」ため、交渉で獲得した措置と国内対策を用いれば、「自給率の維持は可能だと考えて」いると明言した。2016年の農水省の見解は、交渉が日本に有利に進み、国内対策で競争力が高まれば、という希望的観測にもとづいており、TPPの影響を正面から検討した結果とは到底いえない。

 食料や飼料、そしてトラクターなどの農機具を動かす石油を輸入に頼っている日本においては、円の暴落は輸入価格の暴騰を招き、都市部の庶民は食べ物を手に入れることもままならない飢餓状態に直面させられるだろう。特に年金生活者は、いくら物価スライド制で支給されるとしても、現実の物価上昇に年金額の上昇が追いつかず、その生活が成り立たなくなる恐れがある。

 国債や円の信認が失われること、そしてその結果としてのハイパーインフレは、多くの人びとの生活を困難にする点で絶対に避けなければならない事態である。とはいえ、それが発生した場合にどのような手段で対処しなければならなくなってしまうのか、我々は知っておく必要がある。本記事では敗戦直後のハイパーインフレに関する事実経過を簡単に紹介し、その過程で異例の措置がとられたことを確認する。このハイパーインフレ収束の過程における異例の措置に着目するのは、安倍政権によって「緊急事態条項」創設の口実とされる要素が含まれているからである。

敗戦直後の経済状況とハイパーインフレの要因

 1945年8月14日、日本はポツダム宣言を受諾して敗戦した。その翌日、英米に宣戦布告して始まった太平洋戦争、それ以前の1937年から継続していた日中戦争が、日本の敗戦で終結したことを知らされた日本人は、きわめてみじめな状況に直面することになった。当時の日本の状況を、1925年生まれの経済史家、中村隆英氏は次のように表現している。

 「住むに家もなく、食うに米、塩もない状態であった。スイトン、ガソリン芋といわれる臭いサツマイモ、空腹をかかえておもてに出れば荒涼たる焼野原、電車もめったに来ず、乗ればすし詰め、帰ってみれば夜は停電つづき。ヤミ市に行けば何でもあるが、警察も取り締まりもできないし、アメリカの兵士がわがもの顔に日本人をからかっても咎めることもできない。よく戦争に負けて虚脱状態になった、といわれたがまさにそんな日々がつづいていた」

▲1945年3月10日の東京大空襲(Wikipediaより)

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 ただ、戦争が終結したことで、巨額の軍事支出が止まればインフレは起きないだろうとの希望的観測が、敗戦直後にはあったと中村氏は述べている。経済評論には定評のあった石橋湛山ですら、1945年9月段階では賠償問題に対応するための増税などで、むしろデフレが発生するのではないかと懸念していた。

  • 石橋湛山「社論 インフレ発生せず(一) デフレこそ寧ろ必然」『東洋経済新報』(1945年9月22日)、『石橋湛山全集』第13巻、93-98頁所収。

 しかし、その期待は裏切られ、ハイパーインフレは発生した。その原因について中村氏は戦時経済との関係で2点挙げている。ひとつは、「復員軍人への退職金支給や戦時中になされた軍需契約の補償などを賄うために莫大な臨時軍事費を支出したこと」、もうひとつは、「敗戦までは朝鮮、中国人の労働によって辛くも維持されていた石炭の生産」が敗戦とともに急減したことである。このようにして、通貨発行の膨張と産業の停滞が同時に起きたために、物価の急上昇を招いた。

 加えて中村氏は、1945年は米の不作の年で、平年の3分の2にあたる4000万石の収穫にとどまったことも、物価の急上昇の原因として指摘している。

「いっぺんみな死んだと思って」財産税を徴収!?

 敗戦後のインフレーションは1945年11月以後、急速度に昂進していく。渋沢敬三蔵相(幣原喜重郎内閣)は、一方では一回限りの財産税を徴収することにし、その調査の名目で、現在流通している紙幣をすべて預金させ封鎖した(1946年2月17日の金融緊急措置令)。その上で同日施行の日本銀行券預入令をもって、日本銀行が新通貨を発行するという荒療治を断行した(※)。これによってすべての世帯は、世帯主は月に300円、世帯員は1人各100円までしか新円を引き出せなくなったが、インフレの勢いはいったん抑えられた。

令とは明治憲法下の緊急勅令を指す。第8条は、天皇が緊急時に法律に代わる勅令を発する権限を定め、第9条は天皇が法律の根拠なく独自に命令を発する権限を規定している。これは国家緊急権の一種といえる。上記の金融緊急措置令と日本銀行券預入令は、第8条の規定を根拠とした。長谷部恭男解説『日本国憲法』(岩波文庫、2019年)153頁より。

  • 中村隆英『昭和史』下(東洋経済新報社、2012年文庫版)、512頁

▲渋沢敬三(Wikipediaより)

 財産税徴収という決断については、渋沢蔵相が次のように回想している。戦時中に累積した債務を放置すれば必ずインフレが昂進すると懸念した渋沢蔵相は「その時にはまじめな気持で一億戦死だといっておったんじゃないか。まだそういう気分が残っておるころです。だからいっぺんみな死んだと思って相続税を納めることにしたって悪くないじゃないか」と1951年に発言している。この相続税などという比喩は、現在から見ると滑稽な印象すらあるが、この発言が、当時は現実の経済政策を語る上で出てきた言葉であったことには驚かされる。

 こうしていったんは急激なインフレに歯止めがかかった(※この後の生産復興の問題、とりわけ1947年に入ってからの復興金融金庫による大量の資金融通については、別途検証すべき大きな問題である)。しかし、その過程で、国民には多大な負担が押し付けられた。国民が有していた動産(金融資産)、不動産は徹底的に捕捉されて、それに依拠して最高税率90%もの高率の課税が行われ、国民の財産は根こそぎ巻き上げられてしまったのである。

アベノミクスの失敗の尻ぬぐいのために「緊急事態条項」創設をもくろむ!?

 このように敗戦直後のハイパーインフレの過程を、その収拾策を中心に確認してみると、政府が国民の財産権を侵害するような強硬措置におよんでいたことがわかる。しかも、そうした措置が旧憲法第8条に規定された緊急勅令を根拠に実施されたことも見逃せない。この歴史的事実は、いったんハイパーインフレが起きてしまうと、民主的な手続きで物価の急上昇を収束させ、通貨の信用を取り戻すことが困難であることを示すものであろう。

 上記の緊急勅令にあたる規定は、現行の日本国憲法にはない。しかし、自民党改憲4項目のひとつとして掲げられている緊急事態条項が、改憲によって憲法に書き込まれればアベノミクスの破綻の結果として円の暴落が発生した際、それを口実に、安倍政権が緊急事態宣言を発令し、内閣が全権を握る可能性は否定できない。

▲安倍晋三総理(2017年10月7日、IWJ撮影)

 自民党が出してきた「日本国憲法改正の考え方~『条文イメージ(たたき台素案)』Q&A~」にある下記の「緊急事態対応」条項案に書かれている内容は、ハイパーインフレの収束が口実であっても到底支持できない代物である。このことは、強調しておきたい。

 自民党の「緊急事態条項」案は次のようなものである。

第72条の2
 大地震【その他】の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待つ【いとまがないと認める特別の事情】があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、【国民の生命、身体及び財産を保護するため】、政令を制定することができる(【 】はIWJ編集部)。

 条文を読む際、その危険性を察知するには、それまでの意味内容をひっくり返してしまうような留保、具体的には「ただし」「その他」「~までの間」といった文言に着目する必要がある。やはり、この自民党「緊急事態条項」案には「その他」という文言が書かれている。これでは「緊急事態」は大地震であるとは限らないことになる。

 また、国会で法律を作っている時間はない、と誰がどういう基準で認定するのだろうか? 「特別な事情」という言葉も、どうにでも拡大解釈できるだろう。そして「国民の生命、身体及び財産を保護するため」ならどんな「政令」を出してもいいと解釈される恐れすら否定できない。このような注意点をもって自民党改憲案をチェックしていくと、一見もっともらしい条項案が持つ危険性が、はっきり表れてくる。

 そのような、非民主的な措置に頼る前にすべきことは何か。上記でも取り上げた1946年の提言、「日本経済再建の基本問題」に立ち返って現代の日本人は、根本的な姿勢から問い直し、現実を直視しなくてはならないのかもしれない。

 「日本経済再建の基本問題」の結言(前掲書263頁)には、「日本は先ずその国民のすべてに人間らしき生活を与える途を開拓せねばならない。これが為には軍国主義的、国家主義的諸制度を改革し、また生産に関する技術を振興することによって日本経済の将来を発展的創造的に建設する要がある」と書かれている。また人口問題に関連して海外移民の必要があるという議論に対しては「世界の信用を失った日本が現状において移民の必要を説いても早急な効果は期待されまい」と手厳しい。

 1946年段階の歴史的事実と全く同じというわけではないが、「国民のすべてに人間らしき生活を与える」ことができず、貧困世帯が激増し、過労死事件が当たり前のように起こり、他方で外国人技能実習生への深刻な人権侵害事件が頻発している現代の日本にもあてはまる文言ではないだろうか。

 さらに続けてこの文書は、「日本経済の基本的構造は徹底した改革を加えぬ限り再び軍国主義」に陥る危険がなくならないとし、「日本が再びナチスドイツの轍を踏み、自国及び全世界に惨禍を招来すること」のないように「永続的な努力が払われねばならない」と警鐘を鳴らしている。まさにこの「永続的な努力」の欠如によって、ヒトラー独裁を生んだ危険な先例を持つ「緊急事態条項」創設を許してしまいそうな事態に直面しているのだ、といえるのではないだろうか。

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