安倍政権が掲げる「強固な日米同盟」。そんな茶番劇に付き合わされて割のあわない矛盾を押しつけられるのは、いつも沖縄県民だ。
沖縄の米軍北部訓練場の半分超(7513ヘクタール中、4010ヘクタール)の土地が2016年12月22日、日本側に返還された。沖縄に集中する在日米軍専用施設面積の割合は返還後も日本全体の70.6%と高く、今後も沖縄への過重な基地負担は続く。
▲沖縄県本島北部にある広大な北部訓練場
沖縄県名護市では同日、返還式典が行われ、日本側からは菅義偉官房長官や稲田朋美防衛相、そして辺野古新基地建設に「Goサイン」を出した仲井真弘多前沖縄県知事などが参加。米国側からはケネディ駐日米大使やマルティネス在日米軍司令官らが出席した。
やはりというべきか、今回の返還について、ネットではネトウヨを中心に、「米軍の厚意で土地を返還してもらったのに文句を言うな」と言わんばかりの属国根性丸出しの言説が出回っているが、その内容はとても無邪気にはしゃげるようなものではない。
米軍の本音「使用不可能な土地を返還して新ヘリパッドを作ることで土地を最大限活用」
1996年のSACO(沖縄に関する日米特別行動委員会)合意で、北部訓練場の過半の返還には、高江の集落を囲む6つのヘリパッドを新たに建設することが条件とされた。地元住民らの強い反発でヘリパッド建設は大幅に遅れたが、政府は結局、今年7月、本土から500人ともいわれる機動隊を送り込み、暴力もいとわずにヘリパッドを強引に完成させた。
▲高江ヘリパッド建設に反対する市民を暴力的に排除する機動隊
米海兵隊は、アジア太平洋地域における戦略や基地運用計画をまとめた「戦略展望2025」の中で、北部訓練場について、「最大で51%の使用不可能な土地を返還し、新たな施設を設け、土地の最大限の活用が可能になる」と本音を記している。
IWJ代表・岩上安身のインタビューにこたえた琉球新報の東京支社報道部長の新垣毅氏は次のように指摘している。
「そもそも、なぜ住民が基地に反対するか。『負担軽減策』はいつも表面的な返還で、米軍が使わなくなった土地ばかり。そして返還には必ず2つの条件がつく。代わりに県内に新しい基地を作ること、そしてバージョンアップすること」
北部訓練場で行われたことは、まさに新垣氏が指摘する「基地機能の強化」の側面が強い。新らに作られたヘリパッドを主に使用するのは、12月13日に名護市沖に墜落したあの欠陥機・オスプレイだ。ヘリパッド新規建設によって、オスプレイの飛行回数は年間2520回にものぼる。高江の住民にとってこのようなかたちでの土地返還は、負担軽減どころか負担増でしかない。
現実がまったく見えていない佐藤正久議員!高江住民は「米軍ヘリはわざわざ集落を飛び、集落を標的に見立てている」と証言
北部訓練場の過半の返還式典に参加した自民党・佐藤正久議員は、オスプレイが名護市の海上に墜落したことを「感謝されるべきだ」と言い放った在沖米軍トップのローレンス・ニコルソン四軍調整官と満面の笑みで握手している写真をツイッターに投稿した。
佐藤議員は、「北部訓練場ではオスプレイを使用したものも行われますが、集落を避けた飛行ルートの設定等安全管理には十分配慮して実施することになります」とも書いているが、まったく現実が見えていない。
新ヘリパッドの完成で「生活ができなくなると思う」と語るのは、高江に住む伊佐真次・東村議だ。伊佐氏は「飛行禁止の取り決めなど、まったく守られていない」と証言する。12月17日、IWJのインタビューで高江の現状を語った。
▲IWJのインタビューにこたえる伊佐真次・東村議
「高江には、米軍ヘリが集落を避けて飛行するために3つの誘導灯が立っているが、守られた例がない。村議会で、『高江の飛行禁止区域はどこか』と聞いたら、『飛行禁止区域はない』という回答が返ってきて、誘導灯はかたちだけということがわかった」
さらに、伊佐氏は、「このあたりは大半が森で、宜野湾などとは違って、避けようと思えばいくらでも集落を避けられる」と指摘。「それなのに、米軍のヘリはわざわざ集落(の上空)を飛ぶ。私たちが住んでいる集落を敵地と想定して、標的に見立てているのではないか」と批判した。
佐藤議員は高江の現実を直視せず、米軍のほうばかりを向いているようだ。一体、どこの国の国会議員なのか。そしてネトウヨなどは佐藤議員の「安全管理には十分配慮して実施する」というミスリードを信じ込み、基地に反対する住民を口汚く攻撃する。無知に基づく沖縄差別を、政権与党の国会議員が煽るという、最悪の構図だ。
伊佐氏は、「北部訓練場は、全面返還でないと安心して暮らせない。今度の返還式典は、返還という名のもとのオスプレイパッド完成祝賀会に過ぎない」と断じ、「そんな式典に出席できるはずもない」と憤った。
オスプレイの配備撤回を求めてきた翁長雄志沖縄県知事も返還式典を欠席し、名護市で行われた「欠陥機オスプレイ撤去を求める緊急抗議集会」に参加。翁長知事が姿をみせると、会場に集った4200人の参加者が大きな拍手で讃えた。
翁長知事は、「重大事故を起こしたオスプレイの着陸帯を造り、返還式典を強行した政府には、県民に寄りそう姿勢がまったく感じられない」と批判。「辺野古の新基地は絶対に造らせない、オスプレイの配備撤回の公約実現に向け、不退転の決意で取りくむ」と決意を新たにした。
翁長知事の権限「無効化」を模索する政府、憲法に違反して地方自治を抹殺する安倍政権の暴挙!これは緊急事態条項の先取りだ!
辺野古新基地建設をめぐり、国側が沿岸部の埋め立て承認を取り消した翁長雄志知事の対応を違法と訴えた訴訟の上告審判決で、最高裁は12月20日、県側の上告を棄却。承認取り消しは違法だとした福岡高裁の結論が維持され、県の敗訴が確定した。
さらに政府は今後の辺野古新基地建設に関して、翁長知事による移設阻止に向けた権限を「無力化」する検討に入ったと報じられている。
翁長知事は政府が工事に伴うサンゴ移植や岩礁破砕に関する申請をしてきても、知事の権限を行使して許可や承認を拒否して対抗する構だが、政府は知事の許可や承認を得ずに工事を進める方法を模索。翁長知事が権限を乱用していると判断すれば、政府は損害賠償請求や代執行も視野に入れるという。
政府のやり方は、憲法で保障された地方自治を抹殺する暴挙に他ならず、沖縄の民意を踏みにじることになる。民主主義、立憲主義に対する正面からの否定である。
安倍政権が掲げている自民党の改憲草案には、「緊急事態条項」が含まれている。そこには、明白に地方自治の否定が述べられている。今、沖縄で行われていることは、緊急事態条項の先取りではないだろうか。
安倍政権が続く限り、この構図は変わらないだろう。安倍政権の強権政治を許していいのか。沖縄の犠牲を見過ごすことは、やがては他の都道府県に住む人々にとっても自らの権利の侵害が行われた時に抵抗する術を失うことを意味するのではないか。
「緊急事態条項」を含む自民党の改憲草案は許してはならないと、IWJは訴え続けてきた。沖縄県民は辺野古新基地建設を明確に拒否する民意を示し続けている。今、問われているのは、沖縄県民以外の市民の選択ではないか。