沖縄県民の、いや、日本国民全体の恐怖が現実になった。
2016年12月13日22時頃、米軍普天間飛行場所属のMV22-オスプレイが、名護市の約80メートル沖の浅瀬に墜落、胴体と翼が分離し大破した。
空中給油訓練中に不具合が生じて飛行が困難になったという。搭乗員5人は米軍に救助され、2人が怪我をした。幸い、搭乗していた米軍人にも、地元住民にも死者は出なかった。
▲大破したMV22-オスプレイ(撮影:IWJ原佑介記者)
ところが、米軍側の主張は到底受け入れがたいものであった。
安慶田光男(あげだみつお)副知事は14日、在沖米軍トップのローレンス・ニコルソン四軍調整官に抗議した。その際、ニコルソン氏は県の抗議に怒りを露わにし、「県民や住宅への被害がなかったことは感謝されるべきだ」と述べたという。沖縄の副知事が、事故を起こした駐日米軍の幹部から怒られ、「感謝しろ」などと言われるのは、あまりに筋違いである。
「空飛ぶ恥」「未亡人製造機」――重大事故頻発のオスプレイ 米軍はいまだ「構造的欠陥」を認めず
オスプレイの危険性については、かねてより指摘されていた。米国ではその事故率の高さから「空飛ぶ恥」「未亡人製造機」と呼ばれ、米国内での訓練は厳しく制限されている。
米側は、オスプレイの「安全性が確認されるまで」飛行を一時停止するとしているが、米軍はこれまでのオスプレイ事故についても、事故原因をめぐり納得のいく説明をしてきたことはない。
沖縄にオスプレイが配備された2012年には、各地で相次いでオスプレイの事故が起きた。4月にはモロッコで演習中に墜落死亡事故、6月には米フロリダ州で墜落し5人が負傷する事故を起こした。米軍は、いずれの事故に関しても「人為ミス」が原因であるとして、機体の構造や特性との因果関係については明らかにしなかった。
安全性の確認ができないオスプレイ配備に対し当時、沖縄県民は普天間飛行場のすべてのゲートを封鎖するほどの猛抗議を繰り広げた。IWJがその時の様子を現地から生中継でお伝えし、「岩上安身のIWJ特報!」でルポ化している。
オスプレイがいかに危険なものかは、「岩上安身のIWJ特報!」で詳しく解説しているので、ぜひご一読いただきたい。
また、オスプレイの構造的欠陥については、岩上安身が沖縄在住の建築家の真喜志好一氏さんにインタビューをしているので、こちらもご一読いただきたい。
安倍総理は事故を受け、「重大な事故を起こしたことは大変遺憾だ」と述べたというが、そもそもこのような事故頻発機が日本に配備されていることそのこと自体への抗議がなければならないはずだ。
事故のあった同日夜、事故機とは別のオスプレイが普天間飛行場に胴体着陸していたことも明らかになった。住宅街の中に立地する普天間飛行場での事故は、一歩間違えれば即、住民を巻き込んでいただろう。
事故原因特定前から「不時着」と報道した日本メディア 「墜落」と報じず事故を過小評価?
前掲の沖縄タイムスによれば、安慶田副知事はニコルソン氏の発言をうけ、「植民地意識が丸出しだ」と猛反発した。
一方で、日本のマスコミ報道を見てみると、驚くほどに米軍の植民地意識に対する反発の気持ちや抗議の意思が薄い。
それが極端に表れているのが、今回の事故を報じた第一報だ。沖縄タイムスと琉球新報を除くほとんどのメディアが、「墜落」という表現でなく、防衛省発表の「不時着」という表現をそのまま使い、事故を過小評価する流れに加担した。
- NHK(「不時着」)
- TBS(テロップには「墜落」とあったものの、ナレーションは「不時着」と読み上げ)
- テレビ朝日(「不時着」)
- 日本テレビ(「不時着」)
- フジテレビ(「不時着」)
- テレビ東京(「不時着」)
- 読売テレビ(「不時着」)
- 読売新聞(「着水」)
- 朝日新聞(「不時着」)
- 毎日新聞(「不時着」)
- 産経新聞(「不時着」)
- 東京新聞(「不時着」、15日社説では「 」つき)
- 琉球新報(「墜落」)
- 沖縄タイムス(「墜落」)
▲オスプレイ墜落事故をめぐる各主要メディアの報道
しかし、海外報道を見てみると、軒並み”crash”(墜落)が使われ、”crash landing”(不時着)は使われていない。また、記者会見をしたニコルソン氏自身も、”crash site”(墜落現場)と発言した。
「操縦不能に陥って地面(海面)と衝突すること」を「墜落」、「コントロールをしながら着地(水)すること」を「不時着」とする解釈もあるが、航空法に両者の明確な定義はない。
また、事故当時、操縦士が「操縦不能に陥っていたか」「コントロールをしていたか」については、詳細な検証がなければ断定はできないはずである。米側が「原因を究明する」としているうちに「不時着」と断定して報じることは、不可解極まりない。
日本政府はオスプレイを1機200億円の桁違いの高額で購入!? 再来年にも佐賀空港に17機を配備予定
そんな中、防衛省は2018年度に佐賀県・佐賀空港に、今回の墜落機と同型のMV22-オスプレイ17機を配備する予定である。本来は1機あたり約80億円のところ、日本は米国に1機あたり200億円を支払うとされる。桁違いの高額を支払うということである。
まさに、日本が、とりわけ沖縄が、いまだに米国の植民地的な状況に陥っていることを象徴している。
なぜ、日本は米国の「植民地状態」から抜け出せないのか? 岩上安身は琉球新報・新垣毅記者と鹿児島大・木村朗教授にインタビューをし、1879年の「琉球処分」から、沖縄がいかに「捨て石」として犠牲を強いられて、それが今も続いているかを紐解いている。ぜひ、ご一読いただきたい。
また、今回事故現場には、米軍と警察の規制線が敷かれ、地元の稲嶺進名護市長さえも立ち入れなかったと言われている。
▲警察の敷いた規制線の手前までしか入れない報道関係者(撮影:IWJ原佑介記者)
同じことは、2004年8月13日、沖縄国際大学に在日米軍海兵隊のヘリコプターが墜落した際にも、起こった。事故直後、米軍は大学をただちに封鎖し、日本の警察、消防、行政、大学関係者などを徹底的に締め出した。日本の主権など一切ないに等しい状態であった。
米軍がこのような対応を取るのは、「日米地位協定」があるからである。『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』(「戦後再発見」双書)の著者で、沖縄国際大学の前泊博盛教授は、IWJの取材に「日米地位協定第3条では、米軍が事故を起こしても、その中身については、米国側が開示する情報しか受け取ることができない、日本側が開示請求しても、米国側が“好意的”に対応しなければ事実を知ることもできない、ということになる」と応えている。
日米地位協定の不平等性は、前泊氏が岩上安身のインタビューを受けて詳しく語っている。こちらもぜひ、ご視聴いただきたい。
オスプレイの国内配備や沖縄の基地問題、米兵の事件の扱いなど、数々の重要な日米間の合意については、「日米合同委員会」で決められている。なぜ、在日米軍兵士は正当に裁かれないのか。そしてなぜ、日本の空は今も米軍に支配されているのか。日米地位協定を運用するために、在日米軍の幹部と、日本の各官庁の幹部が顔を突き合わせて、秘密裏に重要なことを決めてしまい、国民に公表しないばかりか、国会にも報告しない。「影の政府」のような役割を果たしているのが、「日米合同委員会」である。
岩上安身はジャーナリストで『「日米合同委員会」の研究』著者の吉田敏浩・立教大学特任教授にインタビューをして、この「日米合同委員会」について徹底的にお聞きしているので、こちらもぜひ、ご視聴いただきたい。現在、動画を全編公開している。
なお、岩上安身の過去のインタビューは、IWJのサポート会員にご登録いただくと、フルで視聴できる。また、サポート会員は「IWJ特報」を無料でお読みいただける。ぜひ、この機会にご登録をご検討いただきたい。