【フルテキスト掲載!】1157万3千円の「出所不明金」が発覚!自民党・末松信介参議院議員(兵庫選挙区)の疑惑に迫る!~岩上安身によるインタビュー 第634回 ゲスト 神戸学院大学・上脇博之教授 2016.3.26

記事公開日:2016.6.18取材地: テキスト動画独自
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(前文・西原良太)

 安倍総理は2016年3月2日参院予算委員会で、「在任中」の憲法改正を目指す考えを表明した。これはすなわち、7月の次期参院選において「改憲」が争点となることを意味している。しかし総理は、国会の場で「改憲」についてまともに議論せず、選挙が近づくにつれて「改憲」を語ることが少なくなった。

 特に6月に入って以降、首相は地方遊説の場で一切改憲を語らず、露骨な「争点隠し」をおこなっている。

 自民党が参院選に向けて作成した政策パンフレットは26ページであり、計269項目の政策が示されている。このうち「改憲」については、最後の最後、なんと269番目に「衆議院・参議院の憲法審査会における議論を進め、各党との連携を図り、あわせて国民の合意形成に努め、憲法改正を目指します」という、「何」を「どのように」変えるのか明示しない曖昧な記述があるのみである。

 なお、憲法審査会は2015年6月11日に参考人として招致された慶応義塾大学の小林節名誉教授、早稲田大学の長谷部恭男教授、笹田栄司教授の3人がそろって「平和安全法制は違憲である」(=自民党、公明党は立憲主義に反している)と述べて以来、丸一年間ほとんどまともな審議がなされておらず、実質的な停止状態にある。

 次期参院選以降、実際に「改憲」が議論される場合、緊急事態条項の創設が対象となる可能性が高い。緊急事態条項の創設は9条の「改憲」に比べて国民の抵抗感が少ないと考えられているためである。

 IWJはこれまで緊急事態条項について、現行憲法を直接的に変えることなくその効力を停止させる「万能のジョーカーである」と指摘し、その危険性を訴えてきた。

 日本はいま、民主主義、立憲主義を共通の価値観とする先進国の一員としての地位を保つことができるかどうかの瀬戸際に立っている。

 次期参議院選は「一票の格差」是正のために選挙区定数が「10増10減」されるため、これまでの選挙とは様相が異なる。

 このうち兵庫県選挙区は定数2から3へと増員される。ここには自民党の末松信介議員、民進党の水岡俊一議員が立候補する方針であるほか、公明党、共産党、おおさか維新の会の各党が新人候補を擁立している。公明党の独自候補擁立は24年ぶりである。

 関西は公明党、おおさか維新の会が強く、改憲勢力である自民党、公明党、おおさか維新の会に議席を独占される恐れがある。

 関西の有権者の方々は、ぜひとも自民党の改憲草案についてのIWJの特集記事を御覧いただきたい。おおさか維新は独自の改憲草案を掲げている。自民党の改憲案とは異なり、耳障りのいい言葉が並んでいるが、自公によってそれらが採用される保証はない。改憲勢力に3分の2の議席を与えてしまうと、有権者は「白紙委任」した覚えはなくても、与党を含め改憲勢力は、それを「白紙委任」されたとみなし、改憲の発議に悪用する可能性が十二分にある。

 このような危機的状況のなか、兵庫県選挙区に立候補予定の自民党現職、末松信介議員が2016年2月2日、政治資金規正法違反などの疑いで、「政治資金オンブズマン」共同代表の上脇博之教授(神戸学院大学)らによって、刑事告発された。

 岩上安身は2016年3月27日、一連の告発についての上脇教授にインタビューをおこなった。上脇教授はその中で、末松議員告発の被疑事実となった1157万円もの「出所不明金」、会費名目の「寄付」のほか、選挙資金を生活費に流用した疑い、さらには集団的自衛権の問題点や自民党による改憲の危険性についても詳しく解説した。

 以下、インタビューの全編動画と全文文字起こしを、公共性を鑑みIWJ会員以外にも特別に全公開する。

■ハイライト

  • 日時 2016年3月26日(土)13:30〜17:00
  • 場所 神戸学院大学ポートアイランドキャンパス(神戸市中央区)

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刑事告発第3号は自民党の末松信介参議院議員!「集団的自衛権を持つことで抑止力が高められる。被害は小さくてすむ」と主張する勘違い議員!

岩上安身(以下、岩上)「皆さん、こんにちは。ジャーナリストの岩上安身です。すっかりおなじみになった『刑事告発された8議員の正体』と題しましたシリーズ、本日は第3号、末松信介参議院議員です。もちろん、自民党です。

▲末松議員のホームページより(http://suematsu.org/

 その末松信介さんの正体について、神戸学院大学教授・上脇博之先生にお話をうかがいたいと思います。先生は、本来のご専門は憲法学ですが、選挙制度、政治学、行政、そして選挙のことについてもお詳しく、安全保障問題や集団的自衛権から、落選運動まで、幅広い問題について論じられています。先生、よろしくお願いします」

上脇博之氏(以下、敬称略)「よろしくお願いします」

岩上「先生のご著書はたくさんあります。一つは『誰も言わない政党助成金の闇』(2014年、日本機関紙出版センター)。これは政治とカネの本質に迫る本です。

 それから『財界主権国家ニッポン~買収政治の構図に迫る』(2014年、日本機関紙出版センター)。これは政治献金の問題を論じていますね。政党助成金という制度も作ったのに、相変わらず献金が行われている。大企業は一番資力があるのだから、その求めに応じた政治になってしまうのは当たり前だという話です。

 それから非常に分厚いんですけれども、『告発! 政治とカネ』(2015年、かもがわ出版)。『政党助成金20年、腐敗の深層』というサブタイトルがついています。『財界主権国家ニッポン~買収政治の構図に迫る』と『告発! 政治とカネ』の話は一体ですね」

上脇「そうですね」

岩上「重要な話です。そして、『追及!民主主義の蹂躙者たち』(2016年、日本機関紙出版センター)。今、このシリーズインタビューでは、落選運動の話が盛り上がっていますけれども、その落選運動について、詳しく書かれています」

上脇「そうですね。解説しています」

岩上「皆さん、落選運動は自由ですからね。行使していい大事な権利だし、むしろ積極的に取り組むことによって、民主主義は活性化する。よりましな議員を選び出すことができるという可能性を秘めているんですね。まだ我々があまり使っていないカードですね。それについて詳しく書かれている。

 そして、『自民改憲案VS日本国憲法』(2013年、日本機関紙出版センター)と『安倍改憲と「政治改革」』(2013年、日本機関紙出版センター)。改憲の話といえば、集団的自衛権の問題、9条の問題があり、そういうことを実現できてしまう緊急事態条項の問題があります。

 これらのご著書には、上脇先生のサインを入れていただきました。このサイン本をたくさん用意しましたので、ぜひ皆さん、IWJ書店でお買い求めください。IWJ会員限定なので、ぜひ皆さんに会員になっていただきたいと思います。

 現在は出版不況であり、悪書が出回るという悪循環になってしまっているので、いい本がなかなか目につきにくい。書店に行ってもなかなか気づかないことがあります。良書を届ける出版界への応援、読者にもよい本を届けたいという思い、そして我々がお話を聞いている先生方のメッセージが確実に届くようにという思い、いろいろな意味合いを込めて、このIWJ書店を開いています。ぜひお買い上げいただきたいと思います」

 さて、『刑事告発された8議員の正体』第3号の末松信介さん。1号、2号、3号と言っていると、何だか仮面ライダーのようですけれども、そんな可愛いものじゃないですね。このシリーズでは、だいたい当人のホームページから写真を持ってくるんですけれども、皆さん、見栄えのいい人が多いですね。ぱっと見には悪人には見えないんですよ。颯爽としている人が多いような気がいたします。そういう人が、刑事告発されているんです。

 来歴をちょっとご紹介します。兵庫県選出。今、私は神戸におりますが、先生の地元ですね」

上脇「そうなんですよ」

岩上「地元の議員を、『これはとんでもない議員だよ』というのは、差し障りはありませんか」

上脇「まったくないですね」

岩上「まったくないですか。

 (末松議員は)当選2回。国土交通委員会、沖縄及び北方問題に関する特別委員会、これは理事もしていらっしゃる。政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会理事所属。これ、いいですね。政治倫理を確立しなければいけないのに、刑事告発されてしまっている。まずこの時点で、相当恥じていただきたいですよね。

 それから、選挙運動に関する特別委員会。ぜひとも残る任期の中で、落選運動を民主主義に定着させるべきだと、一つ論陣を張っていただきたいと思います。

 54年3月、関西学院大学法学部を卒業。全日空ANAに入社して、兵庫県県議会議員に当選したのが58年、以来6期連続当選。兵庫県に根づいた方です。そして04年、参院選、兵庫県選挙区で初当選しました。

 安保法制に賛成した方です。先生方は、安保法制に賛成したということが基本的におかしいというところから、落選運動をされていて、その支援の一環として、刑事告発をしています。政治資金収支報告書などを見て、おかしなところがないか、チェックをしている。

 安保法制に賛成し、かつ政治とカネについて問題のある人を選りすぐって告発しているわけですね。

 2015年5月に神戸新聞のインタビューに答えた、末松さんの安保法制の考え方を紹介します。『非武装中立が理想とされた時代があったが、自民党は平和はつくるものと考える。集団的自衛権を通じ、平和はつくるものか、与えられるものかを国民に問いたい』ということです。また、『集団的自衛権行使の権利を持つことで抑止力が高められるという意味合いがある。日米が公海上で共同訓練中、米艦船が攻撃を受けるケースでは、日本が攻撃されてから個別的自衛権でも対応できるが、集団的自衛権を行使した方が被害は小さくて済む』ということを言っています。これは、おかしいことだらけだと思いますけれども、先生はどこがおかしいとお考えですか」

集団的自衛権は「自衛権」ではなく「他衛権」-誰のための集団的自衛権なのか?チンピラと同じ論理を振りかざす安倍総理、個別的自衛権で対応可能な例で説明する末松議員!

上脇「まず、集団的自衛権についてですが、これは厳密に言うと、自衛権ではないんですね」

岩上「集団的自衛権は自衛権ではない」

上脇「自分の国が攻撃を受けていないのに、ほかの国、親しい国が攻撃を受けた時に、その国から『助けて』と言われて、反撃するんですね。自国は攻撃を受けていないのに反撃するわけです」

岩上「はい。自ら攻撃を受けていないのに、反撃する」

上脇「だから、外国を守る権利なんですよ」

岩上「自衛ではなく、他衛権であると」

上脇「そうです。おっしゃる通り、他衛権と言ったほうがわかりやすいんですよ」

岩上「これを説明する時、安倍総理は、『麻生君と自分が夜道を歩いていたら』というたとえをしていましたね。『喧嘩の強い麻生君が向こうから来た不良にからまれた。自分が加勢に入るのは当たり前だ』と。

 ちょっと待ってください。安倍総理も落選運動の対象にしたほうがいいんじゃないですか。これ一つとっても、辞めていただいたほうがいいんじゃないかと思います。

 暴力沙汰に巻き込まれた友人を救出するのはいいことです。『喧嘩はやめろよ』と言うのもいいことです。警察か誰かを呼ぶのもいいと思います。つまり、喧嘩という行為を止めさせるということですよね。一方的に殴られているなら、『殴るな』と言うのもいいと思いますけれども、加勢して殴り合いに加わって、相手をぶっ飛ばすというのは、ただの喧嘩行為ですよ。自分が殴られていたら、正当防衛ですが、友だちの麻生君の喧嘩に加勢するというのは、まったくもって不謹慎です。

 これは、刑法上の考え方ですけれども、日本は交戦権を持っていない。戦争をしない国。それでも自衛権はある。これを正当防衛の論理と同じだと、たしか説明していたんじゃないでしょうか。それとは関係なく、『俺たちの仲間がいて、仲間がやられた時には、加勢して報復に出るのは当たり前じゃねえか』というのは、町のチンピラあるいは暴力団の論理に近い」

上脇「そうですね。日本は武力攻撃を受けていないわけだから、相手国は日本を恨んでいないんですよ」

岩上「そうですね。他国と他国がもめているという話ですから」

上脇「もめている時に、日本が一方に加勢して戦争に参加するということは、今度は憎まれてもいないほうから憎まれることになるわけです。憎まれていないのに憎まれることにわざわざ参加して、どんどん日本が戦争に参加していく。日本が戦争に参加すると、日本に住んでいる国民が被害を受けるわけでしょ」

岩上「そうですね」

上脇「個人的に、仲がいいから喧嘩に加勢したという話とは、レベルが全然違うんですよね。おそらく卑近な例しか言えないから、説明できないから、そういうことを言うんでしょうけれども、まったくもって、国家と国家の戦争の話を正確に理解できていないですね。

 末松議員の説明だと、『被害は小さくてすむ』ということですけれども、誰の被害ですか。日本にはそもそも被害がないんですよ」

岩上「『日本が攻撃されてから個別的自衛権でも対応できるが、集団的自衛権を行使した方が被害は小さくて済む』。それは米国の艦船が攻撃を受けるケースで、つまり米国の艦船の被害が小さくてすむ、という話です」

上脇「アメリカにとっては助っ人が来るからいいかもしれないけれども、日本は被害を受けるはずがなかったのに、被害を受けるわけだから、わざわざ被害を受けるような状況に置くわけだから、危険なことをしているんですよね。この説明は誰のための説明なんですか。アメリカのための説明でしょ」

岩上「そういうことですね。日本のためではなくて、アメリカの利益を代弁して、アメリカの利益のためには、国の支援、自衛官の命、それから、報復攻撃によって日本国民の生命財産が脅かされることも上等、というようなことを言っているわけですね。

 先ほど先生は、『個人間の話と国家間の話は違うでしょ』とおっしゃいましたが、あの説明をあえて使うと、例えば、不良の麻生君と不良の安倍君が、『俺たちは仲間だ』と言って、喧嘩を繰り返して、ものすごい怨恨が生まれるような闘争になった場合、そのお馬鹿さんな麻生君と安倍君のために、麻生家と安倍家のご家族まで命を狙われる、極端に言うとそういうことですよね」

上脇「おっしゃる通りですね」

岩上「だから、家族の一人が馬鹿で、あまりにも愚かしいやくざ者に仲間入りして、命のやり取りをされようものなら、それは家族にとっていい迷惑なわけですよ。そういうことも考えていない話ですよね」

上脇「今、いろいろなところでテロが起きていますよね。あれにはやはり原因があるわけですよね」

岩上「そうですね」

上脇「一見、無差別に思えるかもしれないけれども、なぜテロが起こるのでしょうか。やはり国際法を守らないアメリカが今まで戦争をやってきましたよね。イラク戦争もそうですよね」

岩上「そうです。ISはイラク戦争の結果生まれてきたものですからね」

上脇「厳密に言うと戦争という概念ではないけれども、彼らはひょっとすると自衛戦争をしているつもりかもしれないですよ」

岩上「そうですね」

上脇「どんどん、どんどんテロをやっている中で、今までも日本はアメリカの戦争に荷担してきたけれども、これまで以上に荷担していく方向で、今、動いているわけですから、日本人は将来テロに遭いますわね。戦争の加害者になっていくからテロに遭うんですよ。そこを見間違うと、やはり間違える。テロをしているのは、問題は問題だけれども、原因を作っているのはどこかということを、出発点に考えておかないといけない。そのアメリカについていこうと言っているわけですから、とんでもないことですね」

岩上「それに、末松さんは、『日米が公海上で共同訓練中、米艦船が攻撃を受けるケースでは』と言っていますが、訓練中、共同行動をとっている時に攻撃されたら、集団的自衛権がなければ応戦できない、救出できないというのはおかしい。公海上といっても、これは遠く離れたところの話ではなく、日本の周辺に決まっています。そういう場合は、個別的自衛権で十分対応できるというのが専門家の話ですよね」

上脇「日本の主権が及ぶところだと、そういう説明になりますね」

岩上「だからこれは十分、個別的自衛権で対応できる。集団的自衛権をわざわざ結ぶ必要がまったくない。それをわざわざ結んで、遙か彼方の、日本と何の関係もないもめごとに手を出すという。

 さっきの麻生君と安倍君のたとえで言えば、麻生君がからまれた喧嘩なんだけれども、その喧嘩が飛び火して、自分まで『お前は友だちだろう』と殴りかかられたら、『ちょっと待て』と火の粉を払うことはできるということですね。

 やはり正当防衛が成り立つのは、自分から喧嘩を売らないということですよね。平和的に努めて、やむなく降りかかったら、正当防衛だと言える。専守防衛は、正当防衛と非常に概念として似ていると思いますけれども、個別的自衛権でできるわけですから、やはり末松さんの考え方はおかしいんじゃないかと思います」

上脇「そうですね」

選挙資金を生活費に流用?!公私混同も甚だしいずさんな資金管理!法的には時効でも、政治的には時効にしてはならない!

岩上「それでは、末松さんの政治資金問題を考えます。実は末松さんは、過去にも政治資金問題がありました。2004年の参院選の際、後援会幹部から5000万円の提供を受けたが、政治資金収支報告書に記載していなかったことが、2006年12月31日に発覚しました。先生、これは時効なんですか?」

上脇「これはもう時効ですね」

岩上「時効で逃れることはずいぶんできるんですね。もうちょっと時効を長くとってもいいんじゃないですかね」

上脇「おっしゃる通りだと思うのですが、我々が頭にきちんと刻み込まないといけないのは、時効であっても政治的には時効にしてはだめだということですよね」

岩上「なるほど」

上脇「法的な刑事責任とは別に政治的責任は当然ありますので、これはやはり主権者が常に問い続けないとだめですよね」

岩上「なるほど。この事件は、末松議員が03年12月10日に後援者の県内の会社経営者から選挙資金として5000万円を借りた。借用書は作成したが、返済期限や利子は決めなかった。お金を借りたということですね。

 5000万円は末松議員の個人口座に振り込まれた。約1700万円は看板代、郵便代、生活費に使ったが、大阪地検が金の趣旨について、この後援者に任意で事情聴取したため、直後に利子分も含め5200万円あまりを返済したという。生活費に使っちゃったというところが気になるんですけれども。ちょっとよくわかりません」

上脇「我々がチェックする時は、これが選挙資金なのか政治資金なのか、わからないケースもあるわけですよ。だから両方をチェックするんです」

岩上「なるほど」

上脇「どちらかで記載していればOKだけれども、どちらにもないとなると、どちらかの可能性が出てくるわけですね。選挙資金だと、公職選挙法に基づいて、選挙運動費用収支報告書に記載しないといけない。選挙資金ではなく政治資金というのであれば、政治資金規正法に基づいて、政治資金収支報告書に記載しないといけないですね。問題は、どういう目的で誰にお金が支払われたかなんです」

岩上「これは、政治資金収支報告書に記載していなかっただけではなく、選挙運動資金収支報告書にも記載されていなかった」

上脇「そういうことになりますよね。だから、公職選挙法違反の可能性もあります。政治資金であれば政治資金規正法違反。選挙運動資金で、本人に寄付した、あるいは貸し付けたというのであれば、選挙運動費用の収支報告書に書かないといけない」

岩上「なるほど。政治資金収支報告書に記載していなくても、選挙運動資金収支報告書に記載されていたら、何も問題ないわけですね。この5000万円、内訳に生活費というのがあるんですよ。これは、どうなんですか」

上脇「本当に貸し借りがあったと仮定して、どういうふうに言ったんですかね私、『金に困っているから貸して』と言ったのか、『選挙のために使うから選挙資金として貸してください』と言ったのか。もし選挙資金と言って借りたんだったら、生活費に使っちゃまずいですよね」

岩上「まずいですね」

上脇「これは、場合によっては、詐欺の可能性も出てくるのですが、いずれにしても、この人が個人口座で受け取っていますよね。これはもう最初から……」

岩上「あ、個人口座で受け取っちゃいけないんだ」

上脇「政治団体なら政治団体の口座ですよね。選挙の場合にどうするかです。選挙の場合に、口座を作って、そこで管理をするというやり方もあると思うのですが、個人口座であれば、個人口座の管理を出納責任者に任さないといけないですね。

 個人の生活費が入っている口座を選挙の時に使うというのは、やはりよくないですよね。だから、厳密に分けるべきなんです」

岩上「現行法では、口座は厳格に分けるべしという規定はあるんですか」

上脇「特になかったと思いますけれども」

岩上「だめだな。これもザル法ですね。変えなくちゃいけないですね」

上脇「現金のやり取りもあり得るので、必ず口座とは限らないんですよね。ただ、個人口座で受け取っているでしょ。けじめをつけて、出納責任者に管理させるという道があるので、絶対だめだとは思わないけれども、個人口座に振り込まれたと聞いただけで、『ああ、どうも変だな』と思いました。この人は公私の区別がつかない人なのかと」

岩上「なるほど。しかしやはり、法律的にも分けたほうがいいですね。選挙に出ようという皆さんは、まだ法律改正がなされていないにしても、やはりそこは峻別していただきたいですよね」

上脇「そうですね。明らかに公私の区別をつけていないということは、最初から裏金として選挙で使おうとしたんじゃないですか」

岩上「なるほど。やはりそこには作為がある、と」

上脇「ましてや、選挙の裏金だけじゃなくて、生活費まで使っていますから、ポケットマネーにしているんですよね」

岩上「公私混同も甚だしいと」

上脇「実は寄付だったという可能性もありますよね。借用書を一応作成したとはいえ、返済期限や利子を決めていなかったということだから、『返すのはいつでもいいよ』という形で、一応、貸し金にはしているけれども、最終的に、本当に返してもらう形になっていたかどうかということですね。これはわかりません」

岩上「たしかに。少額でもいいから利子を取るとか、返済期限がちゃんと決められているとか、あるいは返済の約束があるとか、そういうことも何もない曖昧な取り決めは、贈与とみなされても仕方がないですよね」

上脇「生活費に使っているでしょ。最初から返さないといけないと思っていれば、そう簡単に生活費に使えないですよね」

岩上「困窮した人が供託金を払って選挙に出るというのも変です。それに、贈与の可能性があったら、贈与税を払わなければいけないですから、脱税の可能性も出てくるわけですよね」

上脇「おっしゃる通りですね」

岩上「実は何重にも悪質なんじゃないかという気がしてきました」

上脇「疑惑としては、そう思われても仕方がないですよね」

岩上「やはり政治家たる者、普通の人より高潔であってもらわなければ困るんですよね。ちゃんとしてもらわなければいけない。こんなものじゃ困る」

2010年7月の参議院選挙資金において1157万円3000円もの出所不明金発覚!表に出せない金は「自己資金」と弁明~ほかの告発議員と手口が似すぎており、自民党内で不正が常態化しているのでは?!

岩上「2004年の政治資金事件をふり返りました。次は、2010年の事件です。

 7月の参院選に際し、兵庫県選挙区支部から1157万3000円の寄付を受けたと、選挙運動収支報告書に記載したが、2010年の政党支部の収支報告書には1157万3000円の記載がなかったということです。これはどういうことでしょうか?」

上脇「選挙運動の収支報告書は、公職選挙法に基づいているんですね。選挙があると、比較的すぐに、収支をきちんと選挙管理委員会に報告しないといけません。それとは別に、政治団体とか政党支部は、毎年、1年間に使ったものを、翌年の春までに収支報告書に記載して提出しないといけません。

 これは参議院選挙なので、夏の比較的早い時期に提出して、政党支部のほうは翌年に収支報告書を提出するんですね。常識で考えると、選挙運動費用の収支報告書は、比較的お金の入りが多く、出についてはいろいろあるかもしれないけれども、入りについては正直に報告しているはずなんですよ。第一、お金がなかったら使えないですから。使ったという報告をごまかせば別だけれども、1千万いくらの寄付をもらったということは、たぶん正直に報告したと思うんですね。

 しかし、この1157万3000円は、その支部にとっては表に出せない金だったとしか考えられない。僕の記憶に間違いがなければ、このケースもそうなんですが、政党支部に1千何百万円を払うお金はなかったように記憶するんですね」

岩上「このシリーズ第2号の松村祥史さんの回でもそんな話がありましたね。これはそのパターンに極めて似ているということですか」

上脇「似ていますね。金額が違うだけ」

岩上「選挙運動収支報告書には記載されている。片方には記載しているということですよね。政党支部の収支報告書には記載なし。この方は、政党支部において何の働きをしているんですか?」

上脇「議員の場合、特に自民党の場合は、支部長になるんですね。支部の代表になりますから、お金を管理できる立場ですよね。それで、自分の選挙で『ああ、いくらいるな』ということで寄付するわけです」

岩上「なるほど。自分のところに持っていく」

上脇「そうそう。自分の選挙で金が足りないと、『いくら工面しよう、あ、支部から寄付しておけばいいな』となるわけですね。ところが、一応寄付はしたけれども、どうも表に出せないお金だったのではないか。それを受け取っている可能性がある」

岩上「でも、政党支部に入ってくるのは、自民党本部からの交付金(寄附)でしょう?」

上脇「そうだけれども、たぶんほかに使うんですよね。だからお金が足りなくなっているんですよ。このケースは」

岩上「ああ、そうですか」

上脇「1千いくらかを寄付してもらったという報告は、たぶん本当だと思うんです。ところが支部のほうは、表に出せないお金を受け取って寄付してしまったものだから、記載しないまま提出してしまった。たまたま僕が発見して、これはどう考えてもミスが起こり得ないはずだと思った。

 公職選挙法によると、寄付を受けたら、その明細書を提出しないといけないことになっています。それを会計帳簿に書いて、収支報告書に書くんですね。出納責任者はミスが怖いですものね。第一、明細書がないと、誰からのお金かもわからない」

岩上「そうですね」

上脇「1千万となると、現金ではなかった可能性がありますよね。口座間の振り込みでお金が移動している可能性がある。そうすると、記録が残っていますから、たぶん、出納責任者は正直に収支報告書に書いたと思うんですね。ところが、寄付した側の政党支部は、表に出せないお金を受け取っていたんだろうとしか考えられないです」

岩上「なかなか難しい。これを聞いて、すーっと理解できた方、どれだけいらっしゃるかな。でも、今の話は、全部仮説ですよね」

上脇「そうですけれども、本当にお金があれば書いてあるはずです」

岩上「書いてあるはずというのは、政党支部の報告書にですね」

上脇「書いてあるはずです。現に、告発してから、どう弁明したかというと、例えば、訂正の仕方として、『1千いくら寄付を受けていました。さらにそれを本人に寄付しました』という仕方もあると思うけれども、そういう訂正になっていない」

岩上「どういう訂正になっているんでしょうか?」

上脇「自己資金だと」

岩上「あ、これも自己資金。これもまた、前回の松村さんに似たような言い方ですね」

上脇「同じですね」

岩上「何ですかね。こういうパターンが、偶然にたまたま起きてしまうことがあるんでしょうか。それとも、ある種の手口として、踏襲され、共有され、ハウツーとして確立しているということでしょうか」

上脇「そうかもしれないですね。今後、また取り上げますけれども、ほかにもいるんですよ」

岩上「なるほど。何でもかんでも自己資金で」

上脇「それが一番手っ取り早いというか、一番問題が少ない処理の仕方なんです。1千いくらの寄付を受けたということを書いていないという不記載、寄付をしたという不記載がありますから、二つの不記載が生まれるんですね。寄付を受けて、その寄付をさらに本人に寄付しましたという訂正の仕方があるけれども、それだと二つの訂正になっちゃうんですよ。

 しかし、選挙運動費用の収支報告書に書いたのは間違いで、実は自己資金だったということになれば、1回で済みますよね。かつ公選法のほうは時効になっていますから、彼にとっては一番被害が少ないんですよ。

 考えていますよね。そういうことが平然と行われる。困った時はそういう弁明が当然思い浮かぶのでしょうけれども。熊本の松村氏の場合もそうですけれども。選挙の時に1000万、3000万というお金の単純な不記載なんて、常識的に言うと、あり得ないですよ。

 先ほど言ったように、公選法に基づいて記載していますから、正直に書いている可能性のほうが高いんですね。二人とも選挙の時の不記載という弁明をしていることを考えれば、この人たちの選挙って何なのだと思います。どうも表に出せないお金で選挙しているとやはり思えてきます」

岩上「つまり、寄付を受けたのは事実だけれども、その寄付を受けた人の名前を出せない。だから兵庫県選挙支部からもらった形にして、まず申告してしまうということですか」

上脇「自己資金だから、支部からお金は流れていないという説明をするんですよ。そういう弁明をするんですよ。自己資金で、自分に自分が寄付したという形です」

岩上「しかし、こうして見る人が見ればわかるんですね。1157万円の寄付があった。それは兵庫県選挙区支部から。自民党の支部からあったと、選挙運動収支報告書に書いておくわけでしょ。そして次の段階で、政党支部の収支報告書には不記載。しかし、政党支部の責任者は自分じゃないですか。そこに不記載を堂々とやっておいて、まかり通るわけがないのに、通っているというのは、どういうことなんですか?ジャーナリストや研究者や弁護士、そういう非常に厳しい目を持った人は見ないだろうという前提でやっているということですか?」

上脇「たぶん、出している時期も違いますし、もう前のことよりも、今のことをどう処理するかしか考えてないんだと思います」

岩上「以前にも怪しいことを起こしていますが、それは時効になって、今だけクリアできればそれでよし、というような」

上脇「そうですね。別に前も罪に問われたわけじゃない、ということですね」

岩上「慣れてしまっているんですね」

上脇「『まあまあ、適当にやっても大丈夫』と。やはりどこかでけじめをつけさせないと。もうこんなことが平然と繰り返されていますよね」

岩上「こんないい加減なことが、常態化してしまっているんですね」

上脇「そうですね」

岩上「これ、まったく、前回のパワーポイントを間違えて持ってきたのかと思いたくなるほどそっくりですね。松村議員と同じ」

政治資金の「私物化」~2010年から2014年にかけて学校同窓会やヨットクラブに会費と称して「寄付」!公職選挙法249条の5第1項違反、横領にあたる可能性も?

岩上「この人は、ほかにもこんなことをしています。2010年以降、毎年、地元の『三田学園同窓会』や『附属明石中同窓会ユーカリ会』『高砂葡萄酒倶楽部』『明石ヨットクラブ』などに、約2万円を会費と称して寄付。これは政治資金の私物化に当たります。前回もご説明いただきましたが、会費と寄付は全然違うということですね」

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上脇「違うんですね。会費とは、ある団体の会員になった人が、義務として支払うものですね。もし払わないと、その会が督促できるんです。ところが、寄付は任意でしますから、払いたい時に払う。払いたくなかったら払わない。督促もあり得ないわけです。

 まず会費と寄付は違う。その上で、公職選挙法は、一定の寄付については、制限しているんですね。どういうことかというと、選挙区内の人、団体に、議員あるいはその後援会が寄付することを禁止しているんですね。買収の一歩手前の寄付については、やはり禁止しましょうということで、制限しているんですね」

岩上「寄付という名の下にお金が行けば、やはり『寄付してくれたんだから、あそこに1票入れちゃおうかな』という人が出るかもしれない。有権者は政策などで選ばなければいけないんだけれども、金で買収されるに近いような状態で、1票を投じてはいけない。そういう無責任な投票行動をとってはいけませんということですね。また、そういうふうに誘惑してはいけませんということですよね。
 これは松村さんのケースと非常によく似ていると言いましたが、思い返してみると、松村さんのケースでは、ママさんバレーなどに会費を支払うというのは、そもそも無理がある。ご当人、選挙支部が法人会員で入ることもちょっと考えにくい。そんなものは認められないだろうということでした。

 ただ、今回ちょっと違うのは、会費を払ったという団体が、葡萄酒倶楽部、同窓会、ヨットクラブなどで、ママさんバレーと違って、ご当人が会員だった可能性が否定できない」

上脇「それなら、ご本人が払わないといけないですよ。政党支部や後援会は別物ですからね」

岩上「立候補者といっても、同窓会の会費を払ったり、お寺の護持会の会費を払ったり、そんなことは当然するので。でもそれは、個人の財布から、個人として払う」

上脇「そうそう。政治活動じゃないですから。個人がポケットマネーから出すんですよ。支払い義務は個人にあるんです。政治団体や政党支部に支払い義務はないんですよ。ですからこれは、寄付です」

岩上「この『高砂葡萄酒倶楽部』や『附属明石中同窓会ユーカリ会』などに、もし本当に入っていて、会費を払う義務があったとして、それを政治資金で出したとしたら、これは何ですか。公費の横領のようなものですか」

上脇「支払い義務のない政党支部、政治団体が払えば、結果的には寄付になってしまいますから、これは公職選挙法違反です。政治団体が同窓会のメンバーなんてあり得ないですから。つまり、誰かが支払うべきものを政治資金で肩代わりしてしまっていることになりますので、厳密に議論したら、横領の可能性もなくはないです」

岩上「なるほどね。いずれにしても、こうした団体の会費は、『私』で払うものであって、それを政治資金から持ってきて払ったなんて、とんでもないですよね」

上脇「それと同時に、これは寄付なのに会費と書いていますから、虚偽記載ということにもなります」

岩上「虚偽記載。だめですね。そして寄付はしちゃいけない。公職選挙法違反になる」

上脇「そうですね」

岩上「いやあ、もうだめですね。まったくだめな人で、それを今、訴えているんですが、起訴になるかどうかというのは、これからですよね」

上脇「検察がどうするかですけれどもね」

岩上「そうですね。そして、起訴、不起訴、答えが出るんですけれども、その後、検察審査会というところもありますね」

上脇「ありますね。時効もあるので、その点はちょっと確認しておかないといけないですね」

岩上「ただ、そうは言っても、こうした問題があるということに対しての、ご本人の説明を聞いて、皆さんは納得しますか、ということです。末松さんのような方を、これでいいんですかということで、全国の皆様、落選運動をすべきだとお感じになった方は、なさってくださいということです」

7月の参院選では改選数3に対して与野党5人が立候補!改憲勢力に議席が独占される恐れも?!告発は活きるか!

岩上「そして、荒れ模様の兵庫選挙区の選挙区事情も少し申し上げておきたいです。兵庫選挙区は改選数3。1人区じゃないんですね」

上脇「はい」

岩上「先ほど、熊本の話をしました。熊本には、阿部広美さんという野党共闘で第1号となった方が立候補していらっしゃるわけです。前回そういう話をしました。

 兵庫選挙区は、各党の候補者がひしめき合っている状態で、自民党は末松信介議員、民進党は水岡俊一議員。公明党の伊藤孝江さん。共産党は金田峰生さん。おおさか維新の会、片山大介さんがいらっしゃいます。公明党が兵庫選挙区で独自に候補者を擁立するのは24年ぶりだそうです。先生、何かご存じのことはありますか」

上脇「兵庫選挙区は改選数3ですが、前は2だったんです。詳しくは僕も知らないのですが、公明党が立候補を立てるということは、やはり与党としては、候補者を増やすという判断があるのだろうと思います。ただし、どうも自民党と公明党の間で、必ずしも話がうまくいっているとは限らないようですね。『票をよこせ』と言い合うなどという噂も飛び交っているので、末松さんにとっては……」

岩上「逆風に次ぐ逆風」

上脇「そうなるんですね」

岩上「しかも刑事告発されましたからね。そこに公明党が出てきた。これは何ですかね。末松さんじゃ怪しいと思ったから、公明党は候補を出そうと思ったということですかね」

上脇「そこはわからないけれども、とりあえず単純に考えると、定数が増えたからですね。ただし、末松さんにとっては逆風です。僕らの告発が活きてくるのかどうか、わかりませんけれども、落選運動をする立場からすると活かしたいですね」

岩上「野党共闘は1人区だけで共闘することになっていますので、ここは民進党、共産党がそれぞれ候補者を出しています。これは野党の合意でもある。複数区はそれぞれ出すということになっているんですね。改憲勢力としては、自民党、公明党、おおさか維新と、3党がそれぞれ候補者を出しているということですね。改憲ということがもう本当に大変切実なテーマになっています」

上脇「そうですね」

岩上「議席の3分の2を改憲勢力が占めてしまうと、改憲が発議されてしまう。改憲勢力は自公だけではないですよね。おおさか維新も改憲勢力ですから、そのことを絶対に忘れてはいけない。自民党、公明党、おおさか維新の3人が改選数3を占めるということが仮にあったら、大変なことになる」

上脇「そうですね」

岩上「ここは兵庫の皆さん、有権者の皆さんには、きちんと考えていただきたい。改憲勢力が当選してもいいんですか。憲法改正案に緊急事態条項を盛り込まれたら、皆さんの人権が制限されますよ。国家の言いなりにならなければならないですよ。本来的な自由が失われますよ。それから、戦争に突き進むことにもなる。緊急事態条項は、自然災害のためにだけ用いられるものではありませんよね。先生は、『日本国憲法vs自民党改憲案』の中で緊急事態条項の話も書いていらっしゃる」

上脇「書いています」

人権を否定する自民党改憲草案、無期限の憲法停止を可能とする緊急事態条項!民主主義は権利を行使しないと意味がない。極右政党に成り下がった自民党による憲法破壊を阻止せよ!

岩上「先生、緊急事態条項がどれほどあぶないものかということを、一言言っていただきたいです」

上脇「問題は大きく二つあります。日本は、国民の代表機関である国家が法律を作って、その法に基づいて行政も動くんですよね。ところが、緊急事態条項が導入されると、法をもうほとんど無視できる。無視と言ったら怒られるかもしれないけれども、政府の判断で動くことが認められるんですね。一つはこういうことです。これは実は、大日本帝国憲法のもとにあったんですよ。実際に議会が作らないものを、天皇が命令を出して動けるという」

岩上「緊急勅令とか」

上脇「そう。そういうものを出して動けるという仕組みなんですよ。だからそこだけを見ると、日本国憲法から大日本帝国憲法に近づくんですね。

 二つ目は、先ほど言われたように、人権制限が簡単にできてしまうことです。そうすると、人権保障が根本的に変わります。実はこれは、緊急事態条項だけの問題ではなくて、自民党の改憲草案では、基本的人権という表現は使っているけれども、日本国憲法でいう基本的人権にはならないんです」

岩上「似て非なるものですね」

上脇「私たちから見ると、人権を実質否定しているんです。だからこそ、緊急事態条項という発想が出てくるんです。民主主義という統治の仕組みからいっても問題ですし、人権保障(=人権の尊重)という点からいっても問題なんですね」

岩上「しかも期限が設けられていない。非常事態のために憲法秩序を一時停止する国家緊急権というものは、いろいろな国の憲法で認められていると言う人がいるんですけれども、それらは厳格に制限がされていて、必ず期限が切られ、元に復することになっています。急に権力を持った行政府も、期限が切れれば手放さなければいけないということになっている。それがない。国会の同意も事後でよろしい。いつまでも続けられる。さらに国会をずっと延ばすことができる。

 つい最近、読売新聞が社説で、緊急事態条項が必要だと書いたんです。これは、ものすごく大きな問題だと思いますけれども、いかがでしょうか」

上脇「読売新聞がそういうことを書くということは、結局、ジャーナリストの立場を捨てたと考えていいと思います。第一、1994年に、もう改憲試案を発表していますから、そういう点で言うと、『もう私たちは、政治的集団だと思われてもいいです』というつもりで書いていると思うんです」

岩上「なるほど」

上脇「僕から見るとそういう評価になっちゃうんですね」

岩上「ある種の政治集団の機関紙。それなら『好きなように書いてください』という話ですよね。

 さらに注目すべきところは、去年の9月に安保法制が強行採決された。その直後から安倍総理は『さあ次は参院選だ。さあ次は改憲だ』と言っているんですね。11月、閉会中に審査がありました。この時、『緊急事態条項をやる』と、堂々と言っているんです。

 ところが、メディアの反応はずっと鈍かった。野党も反応が鈍かったんです。僕はすごく焦りを感じて、一人騒いでいました。1月に入ってからも、安倍総理は、改憲を行う中でも緊急事態条項で行うと言っています。改憲は逐条的にしかできないから、緊急事態条項でやるんだと。

 しかし、このことについて野党も質問するようになりました。メディアでも、うちのような弱小の独立メディアだけではなくて、ほかのところも言うようになって、書くようになった。非常に萎縮していたテレビでも、やっと、テレビ朝日の『報道ステーション』で、古館伊知郎キャスターの最終出演の3月末、ぎりぎりに押し込んで、緊急事態条項を取り上げました。

 そうすると、この3カ月ぐらいの間、前は堂々と言っていた安倍総理は、議論をぼかすようになったんですよね。野党の議員から質問があっても、『いや、条項の内容は答えません。その議論はしません』と言って、逃げていた。そして『何をやるかはわからない』とまで隠した。後ろ側へ持っていった。

 ところが読売は、『報道ステーション』の報道があったからかもしれませんが、ここへ来て、正面から『緊急事態条項は必要だ』という論陣を張り始めた。これは、もう隠し切れなくなってきて、やはりこれで行くんだと決めたのかもしれません。

 憲法を守る必要性を痛感していらっしゃる護憲の立場の方はたくさんいると思うんですけれども、『緊急事態条項の怖さを知っているけれども、与党は今はあまり言っていないから大丈夫なんじゃないか』と思って、少し油断している状態が続いていたと思うんです。読売が書いたということは、油断はもうできないということだと、私は解釈しているんですけれども、先生はいかがですか」

上脇「おっしゃる通り、94年の小選挙区制が導入された年に、改憲試案を発表したということ自体が、もう改憲の方向で行こうというスタンスということですから、悪い意味で、どんどんリーダーシップを発揮しようというように僕には見えるんですよね」

岩上「小選挙区制は改憲をしやすい選挙制度だということですか」

上脇「そう読売は判断している。経済同友会もそうなんですが、民意を歪曲して、改憲政党が過剰に代表される選挙制度なら、改憲はもう間近だという判断があったんだと思います」

岩上「実際には、自民党の党員は、ものすごく減っているわけですよね」

上脇「そうですね」

岩上「90年代の頭頃に比べると、10分の1くらいに減っている。もう必ずしも国民政党じゃないわけですよね。極右政党のようになってしまっている。そういう自民党の掲げてきた改憲草案が、果たして国民の総意を得るものなのか。

 自民党は衆議院の議席ですでに3分の2を占めていますし、今回でもし参議院の議席の3分の2を改憲勢力が取って、改憲に向かうとしたら、あと12議席程度ではないかと思いますけれども。選挙制度自体をよく見ると、そういう問題があるわけですね」

上脇「そうですね」

岩上「1人区だけではなく、この荒れ模様の兵庫選挙区のような複数区もきちんと見なくちゃいけない」

上脇「そうですね」

岩上「そして、多くの人たちが気を張って、監視して、時には落選運動を展開しましょう。先生は、民主主義は、権利を行使しないと意味がないとおっしゃいます。彼らは、集団的自衛権はあるけれども、行使しなければ意味がないと言っていますから、我々国民は主権者として、民主主義の権利を実行する必要性があるということですよね。

 ぜひとも皆さん、落選運動を展開しましょうということで、この末松さんのお話を締めくくりたいと思います。どうもありがとうございました」

上脇「ありがとうございました」

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