「良識・見識・勇気を欠いた最低最悪のお粗末な判決だ」「司法が自らその本来の役割を放棄した」「この判決は憲法自体を崩壊させる。安保法案と全く同じ構造だ」——。テントひろばに集まった報道陣を前に、弁護士、専門家らは国と司法の姿勢を痛烈に批判した。
経済産業省敷地内の通称「ポケットパーク」と呼ばれるスペースにテントを張って反原発運動の拠点としている市民らが、経済産業省からテントの撤去を求められている裁判の控訴審判決が2015年10月26日、東京高裁で言い渡された。判決は「市民側の控訴棄却」。これにより原告である経産省側は、一審判決についていた仮執行宣言を用い、判決の確定前でもテント撤去の強制執行ができるようになった。
市民側は即座に最高裁に上告するとともに、強制執行の停止を申し立てている。しかし29日未明、国がテントの強制撤去に踏み切るのでは、との情報が流れると、テント周辺に緊張が走った。IWJは同日早朝にテント前に急行し、周辺の様子を中継した。
同日昼過ぎになっても強制執行は行われず、テント前では、もともと予定されていた市民らと弁護団、応援団による記者会見が13時から行われた。会見には多くの報道陣が駆け付けた。
- 発言 鎌田慧氏(ルポライター、テント応援団)、内藤光博氏(専修大学教授・憲法学)、宇都宮健児氏(テント弁護団)、大口昭彦氏(テント弁護団)、淵上太郎氏(経産省前テントひろば)、正清太一氏(経産省前テントひろば)、他
- 日時 2015年10月29日(木) 13:00〜
- 場所 経産省前テントひろば
- 主催 経産省前テントひろば
▲記者会見の様子
国側はやろうと思えばいつでも撤去できる状況に
会見で、「撤去に関する具体的な新しい情報は?」とのIWJ記者の質問に、大口昭彦弁護士は、あらためてテントを守り抜く決意を語った。
「現在経産省の方で強制執行しようと思えばいつでもできるという状況になっている。いつでもできる、いつ来るかわからないという状況になってしまった以上、いろいろ忖度してもあまり意味が無い。テントを守りぬくという団結とこの状況の世界へ発信していくということを心に留めて対応していく」
大口弁護士によれば、未明・早朝の強制撤去との報を受け、この日はテントに15人が泊まり込み、撤去に備えたという。
▲強制撤去に備えIWJも早朝からテント前で中継を続けていた
「良識・見識・勇気を欠いた最低最悪のお粗末な判決だ」弁護士が厳しく批判
今回の高裁判決について大口弁護士は、「良識・見識・勇気を欠いた最低最悪のお粗末な判決だ」と厳しく批判。裁判の本来の争点を次のように訴えた。
「すなわちテントは誰のものか。被告とされた正清・渕上両氏だけのものなのか。そして1500日以上にわたって続けられてきたこのテントの憲法上の意義はなんなのか。さらに損害はどう計算するのか」
▲大口昭彦・弁護士
しかし裁判では、この3つの争点にはほとんど言及のないまま、一審判決が支持されてしまったという。
さらに大口弁護士は、「力あるものが法律的な手法を駆使して市民を黙らせるスラップ訴訟だ」とし、「政権に迎合した、くだらない、下劣な判決だ」と声を強めた。
宇都宮健児氏「司法が自らその本来の役割を放棄した裁判」
会見ではほかに、弁護団副団長をつとめる宇都宮健児氏が、本質的な司法の問題点を指摘した。
「司法が自らその本来の役割を放棄した裁判だ。三権分立の中で司法権の一番大事な役割、『国民の人権を守る』という役割を放棄している。
全国民の生存にかかわる原発政策に反対して声を上げる権利、憲法21条で認められた重要なその権利の重要さをまるで考察せず、ほとんど利用されていなかった公有地を使用することによる国の損害と比較しているのは、本質的な点で国民の基本的人権を守る姿勢が全く欠如している。人権を守ると言った視点から行政・立法をチェックするという司法の使命を放棄している」
▲宇都宮健児・弁護士
淵上氏「たとえ撤去されても、脱原発の国民的意志の表明は止むことがない」
会見ではさらに、「被告」の一人である淵上太郎氏が、自身の意見に代えて「経産省前テントひろばの声明」を読み上げた。
「国側の主張を全面的に認めた高裁判決は、大方の予測通りの不当判決であったが、原発再稼動反対という自分たちの意志は明快であり、たとえ国がテントを撤去したとしても、脱原発のためのテントひろばは継続されるであろう。脱原発の国民的意志の表明は止むことがない」
▲淵上太郎氏