TPPで「大筋合意」が発表された翌日、2015年10月6日、安倍総理は記者会見で「自由民主党がTPP交渉参加に先立って掲げた国民の皆様とのお約束はしっかりと守ることができた」と豪語した。しかし2週間たらずで、それが「真っ赤な嘘」であることが、政府から明かされた。
農水省は2015年10月20日、TPP交渉における農産品全品目の関税交渉の結果を公表。ふたを開けてみれば、全体の8割(2,328品目中1,885品目)で関税撤廃、政府が「守る」と言い続けてきた「聖域(重要5品目)」でも3割(細目で586品目中174品目)が撤廃されるというもので、「国益を守れた」とは到底言えない結果となった。
しかし、森山裕農水大臣は同日朝に行われた定例会見で、「関税は参加国の中ではしっかり守れた」などと、苦しい弁明に終始した。
- 日時 2015年10月20日(火) 10:15頃~
- 場所 農水省
関税撤廃率81%でも「しっかり守れた」と強弁!
関税撤廃を免れるのはわずか19%だが、森山大臣はカナダの5.9%を引き合いに出して「(日本は)群を抜いて高い。参加国の中ではしっかり守れた」と話し、交渉成功を印象づけようとした。
重要5品目(コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、サトウキビなど甘味資源作物)は、自民党が「聖域」と呼んで死守すると約束し、参議院農林水産委員会でも「(聖域確保できない場合は)脱退も辞さない」よう決議(2013年4月18日)されていた。
【衆議院のTPP国会決議より抜粋】
一 米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物などの農林水産物の重要品目について、引き続き再生産可能となるよう除外又は再協議の対象とすること。十年を超える期間をかけた段階的な関税撤廃も含め認めないこと。
六 交渉に当たっては、二国間交渉等にも留意しつつ、自然的・地理的条件に制約される農林水産分野の重要五品目などの聖域の確保を最優先し、それが確保できないと判断した場合は、脱退も辞さないものとすること。
にもかかわらず、その3割で関税撤廃に合意した理由について、「輸入金額が小さい」「国産品の代替性が低い」「かえって生産者のメリットになる」などと説明し、「内容を精査いただければ『なるほどと思っていただける』と理解している」と話した。
前述の決議にもある通り、食料自給率がわずか39%(カロリーベース、2014年度)の日本で、さらに自給率低下につながる農林水産品の関税撤廃は、食料安全保障上はもちろん、経済・環境・地域共同体にも重大な影響を与える問題だ。
ところが、森山大臣の話しぶりは、学校のテストで赤点をとった子供が「平均点も低かった」から大丈夫、と報告しているような軽さに終始した。
突っ込んだ質問には「事務方から説明させる」
記者からは、従来の経済連携協定では手つかずで、今回、関税の削減や撤廃に合意した品目数、発効時に即座に撤廃される品目数、それでも生産者は守られるという認識なのか、などの質問が相次いだが、大臣は「詳細の資料を持っていないので、事務方から説明させる」と答えるにとどまった。
品目別に予定されている影響試算に関して、試算対象の範囲は「一次産業だけなのか、加工業や輸送業なども含めるのか」と質問したIWJの佐々木記者に対しては、「食品製造業にも影響を与えることを承知しており、それらも(試算対象に)含める」と回答した。
2015年10月5日に「大筋合意」の閣僚会見が行われてから、全品目の交渉結果を公表するまでに2週間かかり、生産者の中から「小出しにしているのではないか」と不信の声が上がっているとの指摘に対し、「数が膨大なため、今まで公表に至らなかった」と説明した。