歴史的な大幅譲歩となった「大筋合意」。ふたを開けてみれば、例えば自民党が守ると国民に約束してきた「聖域(農産品重要5品目)」を見ても、牛肉の関税が38.5%から16年目に9%まで下がり、豚肉も高級品は4.3%から10年目からはゼロになる。さらに農林水産省は8日、この「聖域」以外の農産物数百項目についても、関税撤廃することを突然発表。農家にとってはまさに「青天の霹靂」だ。
「聖域を守れなければ脱退も辞さない」とする衆参両院の国会決議(※)は守られなかった。しかし、2015年10月7日に新たに農水大臣に就任した森山裕氏は記者会見で、記者の質問に対し「私は国会決議は守れたと思っております」と強調。しかし、「ただ、今から対策をしっかりしていって、初めてそのことが成就するのだろうと思います。今の状況でいいというふうに申し上げているわけではありません」と、前言を打ち消した。
「対策」をしっかり講じなければ、国会決議を守れたことにならない、というのはつまり、現段階では国会決議を守れていないということだ。しかもその「対策」として検討されているのは、収益が生産コストを下回った場合に、その差額の8割を国と生産者の積立金などで補填するというものだ。しかし、関税収入が減るなかで、補填の財源をどうするのか、という問題がある。
IWJはこの点をふまえて、JAや農家に約束した「聖域」は結局守られなかったとの声があがっているが、どう申し開きされるのか? と単刀直入に質問。しかし森山大臣は、「希少価値のある黒毛和牛は心配していないが、ホルス(タイン)などはできるだけ雄が産まれないようにしたり、初産に対しては、和牛を産ませるなどの改革にしっかり取り組むことが、大事ではないか」と論点を逸らし、明言を避けた。
【衆議院のTPP国会決議より抜粋】
一 米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物などの農林水産物の重要品目について、引き続き再生産可能となるよう除外又は再協議の対象とすること。十年を超える期間をかけた段階的な関税撤廃も含め認めないこと。
六 交渉に当たっては、二国間交渉等にも留意しつつ、自然的・地理的条件に制約される農林水産分野の重要五品目などの聖域の確保を最優先し、それが確保できないと判断した場合は、脱退も辞さないものとすること。