安保関連法案は、これまで「非戦闘地域」に限定されていた自衛隊の活動範囲を、「現に戦闘行為が行われている現場以外」にまで拡大する。政府は認めないが、自衛隊員のリスクは格段に高まると考えられる。同時に、自衛隊員が武器使用する可能性も高まるだろう。しかし、である。
「海外で自衛隊が武器を不当に使用したときの罰則はすっぽり抜けている」
(原佑介)
特集 安保法制
安保関連法案は、これまで「非戦闘地域」に限定されていた自衛隊の活動範囲を、「現に戦闘行為が行われている現場以外」にまで拡大する。政府は認めないが、自衛隊員のリスクは格段に高まると考えられる。同時に、自衛隊員が武器使用する可能性も高まるだろう。しかし、である。
「海外で自衛隊が武器を不当に使用したときの罰則はすっぽり抜けている」
参院の平和安全法制特別委員会で、2015年7月29日、無所属の水野賢一議員が、自衛隊員による武器の不正使用に対する罰則が設けられていないことを指摘した。
これに中谷元防衛相は「自衛官による武器使用は、いついかなる活動を行う場合であっても、法令に基づいた適正な武器使用が求められ、かつ極めて厳正な注意義務が求められている」と反論したが、いくら「適正な武器使用」や「厳正な注意義務」を求めたところで、逸脱するケースは起こりうる。だからこそ罰則規定が必要なのである。
にも関わらず、中谷防衛相は「法令に基づいた適切な武器使用が行われるよう徹底した訓練を行っており、自衛官が海外で違法な武器使用を行うということは一般的に想定されない」と取り合わず、安倍総理は「別途、不断の検討をする」とかわした。
検討課題が残っているということは、法案の「不備」ではないか。法案を出し直すべきではないか。水野議員はそう指摘する。
さらに水野議員は「盧溝橋事件など、一発の銃声によって泥沼の戦争になることがある」と懸念を示し、「総理自身も、大臣もこれは問題だと言っている以上、出し直しを改めて要求して、私はこれ以上質問できないということを申し上げる」と質疑を打ち切った。
以下、質疑の詳細な要旨も掲載する。
水野賢一議員「この法改正が成立すれば、集団的自衛権以外にもPKOや邦人救出などで自衛隊の海外での活動はより広がっていくと予想されますので、私は、今回、自衛隊法に国外犯の処罰規定を設けたということは一定の評価をしています。
自衛隊員だって海外で犯罪を起こす可能性だってあるわけですから、この国外犯処罰規定には一定の理解はしますが、この自衛隊法改正案の中に入っているものには決定的に重要なものが抜けているんです。
自衛隊法118条1項4号(※)に、武器の不当使用についての罰則があるんです。だから、国内で自衛隊が武器を不当に使用すれば、当然、罰則がある。ところが、せっかく国外犯の処罰規定を設ける中で、海外で武器を不当に使用したときの罰則はすっぽり抜けているわけですよね。
では海外で、例えば『正当防衛や緊急避難のときにしか武器は使っちゃいけない』と書いてあるけど、勝手に使った場合の罰則がないんですよ。これ、なぜこれ抜いたんですか?」
※自衛隊法第118条
次の各号の一に該当する者は、1年以下の態役又は3万円以下の罰金に処する。
4項 正当な理由がなくて自衛隊の保有する武器を使用した者
中谷元防衛相「不当の武器使用でございますが、本号の法定刑は1年以下の懲役又は3万円以下の罰金であり、刑法上の国外犯処罰規定が事実上3年以上の懲役を伴う罪とされていることとの均衡を考慮いたしまして、国外犯処罰規定を設けていないということでございます」
水野議員「それではPKOでも邦人救出のときでも、武器の使い方を法律に書いてあるものと全然違う使い方をしても、国内でやったってそれは一年以下というその感覚が間違っているんだけれども、こんな感覚が。国外でやったときは法律上何の罰則もないということでいいんですね。お咎めなしなんでしょう」
中谷防衛相「自衛官による武器使用にあたっては、いついかなる活動を行う場合であっても法令に基づいた適正な武器使用が求められ、かつ極めて厳正な注意義務が求められております。また、派遣に際して、法令に基づいた適切な武器使用が行われるよう徹底した訓練を行っており、自衛官が海外で違法な武器使用を行うということは一般的に想定はされません。
自衛官が派遣先で犯罪を犯した場合に、我が国と派遣先国のどちらが裁判管轄権を持つかにつきましては、派遣先国との間の地位協定等の内容いかんによることになります。その上で、あくまでも一般論として申し上げれば、故意により人を死亡させた場合には殺人罪が成立することが考えられますが、殺人罪には刑法に国外犯処罰規定が設けられているため、刑法を適用して処罰をする場合がございます。
その使用につきましては、自衛隊法118条第1項の4号で、武器の不正使用につきましては国外犯処罰規定がないために、国外で行われた行為については罰則の適用がございません。
本号につきましては、法定刑は1年以下の懲役または3万円以下の罰金ということで、刑法上の国外犯処罰規定が事実上3年以上の懲役を伴う罪とされていることと均衡を考慮いたしまして国外犯処罰規定を設けないといたしておりまして、これはこれで適切であると考えております」
水野議員「これ一番肝心なことじゃないですか。大臣、何か勘違いしているんじゃないかと思いますが、国外犯処罰規定というのは、今度新設されたのを見ると、海外で自衛隊員がストライキをしたり、サボタージュをしたりしたときに処罰する…それも必要でしょう。
しかし、この問題の本質は、海外で自衛隊が勝手に部隊を動かしたり、もしくは勝手に武器を使用したら思わぬ戦争とかに発展してしまう、満州事変のような、中央が全然把握していないのに勝手に鉄道を爆破したりとかしたら大変なことになるでしょう。
海外での武器使用は重要なことだから、危害射撃のときには正当防衛とか緊急避難とかいろいろと制約が掛かっているわけでしょう。総理、勝手に武器を使用しても何の罪に問われないというのは、いいんですか? どういうことなんですか? いや、中谷大臣はさっき、法令に従ってやっていくんですと。では、法令に従わない人がいたときにどうするんだと聞いているんです。総理、どうですか」
中谷防衛相「前回も委員から御指摘をいただきまして改正をさせていただきましたが、本日、さらに委員からも御指摘をいただきました点、また自衛隊法の罰則の在り方等につきましては、今般の法制とは別途、不断の検討を行っていくべきものと考えております」
水野議員「今の発言は、大臣も『この法律にはこのままじゃ不備がある』と、『だから別途出し直さなきゃいかぬのだ』という答弁でしょう。それだったら、欠陥があるというんだったら、これ以上審議できないですよ。これ以上の審議できないから、これは出し直しを私は要求します」
中谷防衛相「前回、委員から御指摘いただきました点で我々は検討いたしまして、法律に盛り込みをさせていただきました。今回におきましては、今回の改正におきましては、その点は盛り込みましたが、今後、この法案とは別途、非常に不断の検討を行っていきたいと思っております」
(速記中断)
安倍総理「先ほど中谷大臣から答弁させていただいたとおりでありまして、本号の法定刑は1年以下の懲役または3万円以下の罰金でございまして、刑法上の国外犯処罰規定が事実上3年以上の懲役を伴う罪とされているということとの均衡、先ほど申し上げたとおりでございまして、均衡を考慮しまして国外犯処罰規定を設けていないわけでございまして、その均衡において今回の法制はこうした形にさせていただいたということでございます。
それとはまた別途検討というのは、言わば国内犯においてこれはどのような規定を設けていくかということについてでございますが、そもそも現行の自衛隊法の罰則については、他の国家公務員との均衡などの観点から、最高刑は7年以下の懲役または禁錮とされております。
自衛隊は、志願制度の下、個別の隊員の強い責任感に基づいて厳正な規律を維持することが基本であり、専ら罰則をもってこれを維持するとの考え方には立っていないということでございまして、いずれにしても、自衛隊法の罰則の在り方については、今回の法制というのは海外における海外犯との均衡を考えて出しているわけでございますから、まったく問題のないところでございますが、それとはまた別途、常に不断の検討を行っていくべきものであるということを大臣は答弁したところでございます」
水野議員「私は総理の答弁に全く納得できないですね。一般の公務員との均衡という話を言っていましたが、そもそもこれは自衛隊員の特性として、武器を持つという特別な特性を持っているわけですよね。だからこそ武器の不当使用に対しては厳しい罰則が必要なわけです。だから、それを今まで1年以下の刑にしていたということ自体がはっきり言って甘過ぎるんです。
はっきり言って甘過ぎるんだけれども、しかし、そこが甘いから、1年以下の刑だからこれ国外犯作らなくていいというのは本末転倒の議論であって、大体、一発の銃声から泥沼の戦争になっていくことだってたくさんあるわけですよ。
例えば盧溝橋事件だとか、これは日本が発砲したのか中国側か、もしくは国民党なのか中国共産党なのか、いろんな議論はありますが、いずれにせよ一発の銃声によって泥沼の戦争になっていくということはあるわけだから、武器の使用ということに対しては、特に海外での武器の使用に対しては厳しい視点というのが必要なわけであって、それを中谷大臣、安倍総理も『別途』と言いましたけれども、これで自衛隊員が海外で武器を勝手な形で使ったときには、しかも今後、救出とかいろんなことで武器の使用が増えることがあるわけですよ。
非常に論争を呼ぶようなことがあるわけですよ。そういうときに、それで別途じゃ総理、どういう方向で出すんですか。今の法律は甘いということですね」
安倍総理「私が申し上げていることは、今回、国外においてどういう量刑にしていくかということについて均衡を図った中において、国内と国外の均衡を図るということにおいて、今回はこの法律の中に付け加えなかったところでございますが、それとはまた別途、自衛隊法の中においてどうすべきかということについて議論をしていくという意味で申し上げているわけでございます。
国内法においては不断の検討を行っていくということは、それはもう様々な制度においては当然そうであるという観点から申し上げているわけでございます」
水野議員「だから、不備があるわけでしょう。つまり、これ自衛隊法を別途直さなきゃいけないといったって、この法律で百何時間も衆議院で取って、しかも10本もの法律を議論している。この場にそんな重要なことが出ていないで、それでこれ、法律が通ったら自衛隊がどんどんどんどん海外に派遣されることが増えるわけだから、『別途』という間にいろんな問題が起きることだってあり得るわけでしょう。自衛隊が勝手に武器を使用するような。
だから、別途検討するぐらい、総理自身も大臣もこれは問題だと言っている以上、出し直しを改めて要求して、私はこれ以上質問できないということを申し上げます」
安倍総理「それは、水野委員は私が問題があるというふうに発言したというふうにおっしゃっていますが、私は問題があるという発言をしたわけではございません。言わば、今回、国内法との関係におきまして、この本号の法定刑は1年以下の懲役または3年以下の罰金であり、そして、刑法上の国外犯罰則規定が事実上3年以下の懲役をともなう罪とされていることとの均衡を考慮して国外犯処罰規定を設けていない、と、いうことでございます。
そこで水野委員は、それでは、そもそもの国内犯の規定が軽過ぎるのではないかという御指摘があったわけでございますが、しかし、それにつきましては、それを変えるということを私は申し上げているわけではなくて、そもそも様々な法律について、体制については、自衛隊法の罰則の在り方については今回の法制とは別途不断の検討を行っていくべきものと考えていると申し上げているわけで、この法制そのものが問題であるということは、私は一言も申し上げていないということでございます」
(速記中断)
鴻池祥肇委員長「ちょうど最初の約束の質疑時間が来ております。たまたま、水野委員からは、これ以上質疑できないという状況になっておることは御高承のとおりでありますけれども、ここで委員長が内閣側に申し上げたいわけでございますが、なお、この件につきましては一層議論が深まっていくと思いますので、内閣の方、総理はじめ防衛大臣も、この答弁につきましてはもう一度検討していただきまして、水野議員につきましては、明日以降、再度、党の質問時間内で再び質問をしていただくと、こういうことにしたいと思いますが、いかがでございましょう」
水野議員「今の委員長の裁定というか裁きに従わさせていただきますけれども、私としては、この海外の自衛隊が勝手に発砲しようと命令以外の武器を使用と、罰則も何もないというようなこの欠陥法案については、断固反対すると同時に、出し直しを要求するということで、委員長の指示に従いたいというふうに思います」