「えん罪をなくせ!盗聴法の拡大と司法取引の導入に反対する国会議員と弁護士・市民の集い」が 5 月 26 日午後 6時から、永田町の星陵会館大ホールで開かれ、約 200 人が参加した。総合司会は米倉洋子弁護士、前半の司会は山本太郎参議院議員、後半の司会は小池振一郎弁護士が担当した。
以下、当日の速記メモと配布されたレジュメをもとに、報告者(登壇順)の発言要旨をまとめた(文責・山口正紀)。
(文責・山口正紀)
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「えん罪をなくせ!盗聴法の拡大と司法取引の導入に反対する国会議員と弁護士・市民の集い」が 5 月 26 日午後 6時から、永田町の星陵会館大ホールで開かれ、約 200 人が参加した。総合司会は米倉洋子弁護士、前半の司会は山本太郎参議院議員、後半の司会は小池振一郎弁護士が担当した。
以下、当日の速記メモと配布されたレジュメをもとに、報告者(登壇順)の発言要旨をまとめた(文責・山口正紀)。
記事目次
日弁連会長は、この法案に関する方針を賛成28・反対23で決めた。こんな強引ことは今までになかった。そして、「弁護士は従わなければいけない」と言って、単位弁護士会に圧力をかけている。しかし、それに千葉弁護士会が反対の会長声明(5 月 1 日)を発表した。これは非常に重要なことだ。
刑訴法一部改正法案の基となる答申をした法制審の部会の名称は「新時代の刑事司法制度特別部会」で、何か新しいものができるような期待を抱かせたが、見事に裏切られた。
特別部会に期待されたのは、菅生事件、これは警察官が交番を爆破して共産党のせいにした事件だが、布川事件、袴田事件、志布志事件などの冤罪事件を再発させないことだった。それが次々と暴露されて、冤罪が人の問題ではなく、捜査構造の問題であること、それにメスを入れなければならないことがはっきりした。特別部会は、「刑事訴訟法を日本国憲法に沿ったものに直していくこと」を検討しなければならなかった。 ところが、この部会は、憲法に何一つ触れなかった。憲法 31 条について一言も述べない。
憲法には、被疑者・被告人を訴訟の主体として扱う、と書いてある。これまでは、被疑者・被告人を主体、人として扱ってこなかった。それを変えるのが今回の部会の役割だった。
可視化自体は捜査の構造を変えるものではない。少しでも良くしよう、少しでも害の少ないものにしよう、というものだ。それすら、今回全く実現していない。
日弁連は、取引をした。答申は治安、盗聴拡大、司法取引と、警察が全面に出るものだ。部会の警察出身委員は「満足できる答申」と言っている。
日本の警察は、警備公安に本質がある。政治秩序維持のために情報収集、無差別検問などの人権無視をやるのが警察の本質だ。それが刑事警察にも反映して、異常な取調べ、被疑者・被告人を「基本的人権を有する人」として扱わず、自白を取るためにあの手この手のことをやっている。ここにメスを入れなければならない。
伊藤栄樹という、かつて検事総長をやった人が、回想記の中で「おとぎ話」として、こんなことを書いた。警察が悪いことをした。調べていくとトップに行き当たる。その時、警察と検察は手打ちをした。わが国でも、かりに警察や自衛隊というような大きな実力部隊を持つ組織が組織的な犯罪を犯した場合に、検察はこれと対決して、犯罪処罰の目的を果たすことができるかどうか、怪しいとしなければならない、と。
今回は、こういう警察の構造にメスを入れるチャンスだったのに、逆に警察権限の拡大になった。特別部会は、捜査の現状を賛美した。いわく《取調べによる徹底的な事実の解明と綿密な証拠収集及びその立証を追求する姿勢は、事案の真相解明と真犯人の適正な処罰を求める国民に支持され、その信頼を得るとともに、わが国の良好な治安を保つことに大きく貢献してきたとも評される》
むこうは、治安強化の立場からこれを作った。一昨年 12 月から、戦争法制を見越して治安対策が強化されている。法制審答申、刑訴法改正法案は治安対策の一環として、戦争する国に反対する国民から治安を守らなければならない、ということでできている。
5月22日の日弁連会長声明には、盗聴の部分で「安易な拡大に反対してきた」と書いてある。しかし、2013年1月18日の特別部会第18回会議で部会長試案が提案されて3日後、日弁連推薦委員から部会長宛てに出された修正意見には、こう書かれている。
<通信傍受の対象犯罪を拡大し、振り込め詐欺や組織窃盗も含め、通信傍受が必要かつ有用な犯罪において活用できるものとする>
日弁連推薦委員の修正提案は日弁連執行部が認めたものだ。これで、どうして「盗聴法拡大に反対してきた」と言えるのか。私たちが国会で鈴木貴子議員を訪ねた時に、日弁連執行部が鈴木議員を説得に来ていた。どんな面をして「早期成立を願う」と言えるのか。声を大にして、日弁連執行部を批判する。
盗聴法は今、対象犯罪を4罪種、組織犯罪に限定している。ところが、改悪法案は、対象を一般刑法犯罪、窃盗や詐欺にも広げている。普通の刑法違反も盗聴に対象になる。これは、盗聴法の質的な転換、変質だ。今後、警察が対象を他にも広げたいと思った時、簡単に法改正できる。警察は、自分にとって都合が良ければ何でも導入する。
盗聴の要件について、新たに拡大された犯罪に関しては、「当該犯罪があらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われたと疑うに足りる状況があるとき」とされている。組織的犯罪処罰法では大枠としての団体があり、その中の組織が問題とされているが、答申では団体の要件がないので、単なる人の集まりでもそれが組織と認定されれば要件に当てはまることになる。「数人の共謀」さえあれば、そこには当然、役割の分担も含まれているので「組織性の要件」を満たすことになる。
今後の課題だが、盗聴法改悪が目指すのは、国家に都合の良い人間作り、思想統制が大なる目的である。国民をある一つの方向に持っていく。特定秘密保護法は共謀罪の独立処罰を認めた。今年の秋にも、共謀罪が上程される恐れがある。それによって、捜査にとって必要な会話傍聴に突き進むだろう。このような改悪は、小さい芽のうちに断固として摘み取らなければいけない。
逮捕されるまで、「検察は正義の味方だ、警察は脅してくるが、検察は警察よりましだ」と思っていた。しかし、取調べを体験すると、検察の方が怖い。人間的でない。
マスコミの皆さんは、自分たちを反権力だと言っているが、警察・検察担当のマスコミほど権力に迎合しているところはない。検察はリークする。それはテレビを見ていればわかる。検察が証拠物を押収するところをテレビが映す。検察には出世主義があると思う。10年に1回、政治家を捕まえて出世コースに乗る。リークをメディアが取り上げる。その扱いの大きさで、次のリークを考える。
437日間、東京拘置所にいた。「賄賂はもらっていない」と言うと、拘置所から出してくれない。裁判所も情けない。検察から特殊案件だと言われて、「罪証隠滅・逃亡の恐れあり」と認める。この顔でどこに逃げるのか。判検交流と言うものがある。質問趣意書を何度も出したら、3年前から交流をやめるようになった。
検察は、マスコミ、世論の反応を見て次の手を打つ。記事を書いた側も出世になる。私を担当した谷川宏太・東京地検特捜部副部長は岩手の検事正になり、次に小沢一郎さんの秘書を抱き込んで事件にした。証人・参考人の取調べ可視化がもっと大事だ。参考人に対して、「おまえは何を言っても罪にならない。カッコの談合も問題にされない」と脅す。
検察は取調べの「Q&A」を作る。シナリオを作って、それに当てはめていく。そうして調書をとり、最後に私を捕まえた。その人たちが、裁判が終わって、私が出てきてから「申し訳ありませんでした」と謝って、検察にもらったQ&Aを出してくれた。
それを持って今、再審請求に向かっている。先月の三者協議で、裁判所が「調書を出せ」と指示した。だれかが検察と闘わないといけない。検察・権力を野放しにしてはいけない。 可視化に対して、警察がクレームをつけている。民主党政権で(法務大臣になった)千葉(景子)さんはやってくれると思ったが、だめだった。江田(五月)さんは前向きに取り組んでくれた。これをもっと前に進めなければいけない。
国会議員に言いたい。検察が間違った権力を行使するのは民主主義の危機であり、あすはわが身と思ってほしい。検察に狙われたら終わりだ。参考人・証人の取調べ可視化をしないと冤罪はなくならない。
1999年(盗聴法制定)以前から、警察は電話・室内盗聴をやっていた。40件発覚したが、証拠をつかまれ、裁判になって、「警察官が職務として盗聴をやったこと、実行犯もわかった」のは、私の事件(86年発覚)が初めてだった。
日本で初めて警察の犯罪が暴かれた。有線電話で盗聴をやったために証拠が残った。近くにアジトを構えて泊まり込んだ警察官の生活の跡があり、盗聴がはっきりした。
盗聴されるということは、一言でいうと家族、友人、あらゆる人が丸裸にされるということだ。損害は回復されない。盗聴データは警察にストックされる。きのうのおかず、香典の金額も全部わかる。プライバシーも政治活動の自由も侵害される。それがいかにひどいかは、一審に続いて神奈川県警の公安警察官による組織的な電話盗聴を認めた国賠訴訟の東京高裁確定判決(97年6月)で認定された。
しかし、警察は謝らない。盗聴法案の責任者だった自民党の与謝野馨さんは、「警察は認めないんだよ」と言っていた。警察庁の山田(英雄)長官は「過去においても現在においても、電話盗聴ということは行っていません」と国会で答弁した(1987年5月)。警察は未だに謝罪・反省をしていない。反省なき警察に拡大した盗聴法の武器を与えていいのか。警察は平気でウソをつくところだ。
警察・公安が強くなると、民主主義が後退する。秘密保護法による官僚の適性検査など、警察があらゆることをやる。
盗聴を拡大すると、非合法盗聴のすそ野は広がる。対象はすべての国会議員になる。公明党の議員もそうだ。警察に秘密を握られる。市民運動をする人もそうだ。反対運動が本当に大事だ。みんなで反対しないといけない。
私の事件は、警察が表沙汰にできない大チョンボであり、いまも有効打になる。前回の盗聴法案審議も緒方事件で延長審議になった。98年の時は、やはりこの会場(星陵会館)で開かれた反対の集会に、元札幌高検の佐藤道夫議員や、名古屋市長になった河村隆議員、公明党の浜四津敏子議員も参加した。
世論、議員に訴えて、盗聴への不安をもっと呼び起こすことが大事だ。
鈴木(宗男)さんが言われた通り、検察が「刑を軽くしてやる」と言ってターゲットを落としていくような、ダーティな手続きが公認されれば、冤罪は制度化される。
法案の司法取引は二つあって、一つは「捜査協力型協議・合意制度」、もう一つは「刑事免責」。本来、この二つは別物で、前者は当事者の手続き処分権、後者は自己負罪拒否特権の剥奪だが、捜査・訴追機関との取引が介在する共通性から、両方を司法取引と言う。
司法取引はどこの国にもあるが、日本版司法取引の特異性は、三つ指摘できる。
一つは、「取調べ中心主義・糾問的捜査プラス司法取引」という構造の特異性。諸外国での取調べの比重は日本ほど高くない。
二つ目は、捜査協力型協議・合意制度が、一定の共犯事件・組織的犯罪の解明目的であること。協議・合意は、司法の負担軽減が通常の目的だ。
三つ目は、強い検察官権限と弱い裁判所の関与。諸外国では、一定程度の裁判所関与、ないし司法的規制があるが、日本の協議・合意制度の場合、警察による権限代行という諸外国にない制度が考えられていて、冤罪の温床・正当化に使われる恐れがある。
司法取引の危険性としては、共犯者の自白自体に内在する危険性が非常に高い。無実の他者の引っ張り込み、なすりつけが捜査側の利益誘導として行われる。たとえば幸浦事件、松川事件、青梅事件、八海事件、梅田事件などだ。また、暴力団関係事件、組織的犯罪でもこの危険性は少なくない。
司法取引の前提として、本来は「捜査全体の可視化・双方向化」が必要であり、それによって捜査機関と被疑者の実質的対等が保障されなければならない。これは取調べ中心主義・糾問的捜査観とは矛盾するが、法案はこの矛盾を放置している。
供述者Xの供述による他人Aの犯罪事実の解明のための取引では、証拠開示、起訴前弁護などの強化によって、A側はXの供述内容・供述過程を知る必要がある。しかしこれは、司法取引の「手の内の暴露」となり、司法取引成立の前提と両立しえない。A側はX側に対して有効な反対尋問をできるか。法案の規定する「弁護人の存在」や「虚偽供述の禁止」ではまかなえない、法制度として危険なものが埋め込まれている。
これで、公正な手続きと言えるのだろうか。
きょう、法案の趣旨説明があり、それを聞いて、危機感を持ってこの場に臨んでいる。私たちは、この事態を阻止できなかった。
今回の司法取引は、2010年9月10日、村木事件の無罪判決をきっかけに登場した。当時、私は衆議院の与党筆頭理事の立場で、取調べ全過程可視化に向けて法案を詰めていた。法務省などから「暴力団関係事件、性犯罪事件、選挙違反では、取調べ全面可視化には弊害がある」といった反対論らしきものが出ていたが、私たちは「全過程の可視化」の法案を2011年1月から詰めていく段取りをしていた。
しかし、江田(五月)法務大臣は、それを法制審特別部会に丸投げした。「捜査手法の高度化、精密司法・取調べの有用性」を前提にした諮問で、「可視化はその一つ」になり、あとは法務省の言いなりになった。可視化のチャンスが逆転されてこういう事態になり、残念で、申し訳なく思っている。
2004年の裁判員裁判法案審議の時、3週間抵抗した。民主党は賛成したが、私は反対し、院内でも集会を開いた。公判前整理手続きは密室で行われ、弁護人も証拠・手の内を見せなければいけない。法務省は「証拠開示を広げ、プラスになる」と言った。
今回も「可視化2%はプラスだ、一歩前進だ」というが、とんでもない。若手弁護士に司法取引について問うと、「選択肢が増える」という人もいるが、今回の法案は可視化を否定して出ている。本質的に警察・検察の権限を強化・拡大する法案だ。
広義の司法取引と政治の問題を見ると、造船疑獄事件では指揮権発動で佐藤栄作を免責した。田中角栄裁判(ロッキード事件)ではコーチャン証言・嘱託尋問調書に証拠能力を与えた。中坊公平不起訴は、国策庇護のために弁護士登録抹消で済ませた。小沢一郎裁判では西松・水谷(建設)関係者の司法取引がかいま見られたが、石川知裕議員が起訴後の調べを隠しテープで録音し、可視化して問題が明るみに出た。村木事件の大坪・佐賀裁判は、大阪地検特捜部を防衛するため内部取引で訴追罪名も変えられた。
司法取引は、検察の裁量権限を今まで以上に広げる。権力拡大が本質だ。6月第2週にも衆院で採決の危険性がある。国会延長もある。
これを阻止するのは難しいと危惧しているが、多くの人の憤りを作り出して、反対運動の国民的なうねりを作り出すしかない。
法案にたくさんの問題点があることは、今さら言うまでもない。冤罪を救う手立てが何もない法案だ。戦後7件目の死刑・無期懲役事件で再審無罪をかちとった経験から、ぼくは楽観主義者になった。チャンスはピンチ、ピンチはチャンスだと思っている。
警察官という職業は、冤罪を作るものだと思う。社会や人の意識を変えれば、法案はつぶせる。これからも、希望をもって闘いたい。
今、沖縄で辺野古の問題に取り組んでいるが、この法案について、6月にも院内集会を開く予定だ。民主党にいたころから取調べの全面化可視化に取り組んできた。今も国会や日々の活動で皆さんと連帯して闘っている。
人の一生を台無しにする冤罪、国家は許せない。目と心を開き、耳を傾けていく姿勢が大事だ。そうして国民の目を開いていく力になることを誓いたい。
盗聴法がいかに人権侵害するものか、この15年間の盗聴法の運用実態を暴露してきた。犯罪とは無関係な盗聴が85%にも上っている。裁判所もチェックしていない。盗聴法、秘密保護法、共謀罪を監視するために、野党がスクラムを組んで頑張る必要がある。マスコミにも、もっとこの法案について報道させて、廃案にする決意だ。
緒方さんの話で、盗聴法案審議の時、公明党の浜四津議員も反対集会に来ていたことを思い出した。今回の法案は盗聴法の大改悪だ。前回の法案審議では、傍受にNTTの立会人を付けてチェックすると言っていたが、今回はそれもなくなる。電話の内容が事件と関係ない話になると、途中で傍受を辞めるとも言っていた。
ところが、今回はすべての記録を録って暗号化し、あとから犯罪部分を取り出す、と言っている。通信記録を全部録るということは、国家権力が全部チェックし、弱みを把握し、使用する、ということだ。前回と180度違う。チェックもできない、証拠開示もできない大改悪であり、盗聴法が別のものに変質する。
何が問題か、マスコミにももっと報道してもらって反対していこう。私は国会で「戦争法」という表現を不適当だと言われたが。盗聴法も最初、そう言われた。廃案を目指して頑張ろう。
辻さん、鈴木さんのお話を聞いて、党派を超えて運動を大きくすることが大切だと痛感した。法務省は一括審議を言ってきた。私は国会質問で、緒方事件や、袴田事件で接見を録音していた問題について、謝罪すべきだと言った。しかし警察は「そうしたことはありません」と言う。緒方事件は、前回も法案審議を揺るがしたが、そのことを知らない議員も多い。権力犯罪がどんなものか、広げていきたい。
弁護士は、どんな権力からも自由でなければならない。この法案を深く知れば、千葉弁護士会の会長声明のように日本中の弁護士が反対になるはずだ。国会の内外で、与党に対して、審議打ち切りをできない状況を作り出していきたい。
緒方事件では、私も神奈川住民訴訟の原告に加わって闘った。その後、少し時間がかかったが、いま盗聴法拡大阻止のために国会に戻ってきたと思っている。
盗聴は、メールも対象になる。SNSも対象になる。私は国会で「盗聴装置を見せろ」と要求して、先週の委員会で、警察が使う電話傍受装置、メール傍受装置の写真を提示させた。盗聴装置の写真は初公開だ。