【IWJブログ】「市民運動をしている人でなければその場で釈放されるような罪」――「Aさん」の刑事弁護人、宇都宮健児・日弁連前会長の見解は? 経産省前の逮捕劇の真相に迫る! 2015.6.3

記事公開日:2015.6.3取材地: テキスト
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(取材・須原拓磨、ぎぎまき 記事構成・原佑介)

 経産省前で5月28日夜、経産省に抗議していた市民3人が突如、逮捕された。市民の本名は一部の新聞やネットでもすでに書かれており、広く知られているが、本人たちの意向が確認できていないため、ここでは、現在、黙秘を続けている点に配慮し、名前をAさん、Bさん、Cさんと記載する。

任意同行拒否から現行犯逮捕へ 経産省“敷地内”で何があったのか

 IWJの取材によると、突然の逮捕劇の経過は次のようなものだ。

 5月28日夜21時半頃、経産省前で脱原発や武器輸出反対を訴えるため、抗議活動を行っていた市民ら3人が「建造物侵入」の容疑で現行犯逮捕された。現在、3人はそれぞれ別の警察署に勾留されている。

 当日、現場にいた市民によると、逮捕された市民らは、経産省の正門と歩道の間の敷地内で活動を展開し、警備員に歩道まで出ていくよう促されたが応じなかった。

▲赤いタイルが歩道で、警備員が立っている位置が正門。逮捕された市民らは当日、カラーコーンと正門の間の経産省敷地内で抗議活動をしていた。

 経産省側は警察に通報し、10人を超える警察官と3台のパトカー、輸送車両が現場に到着。警察官らは市民らを敷地外に移動させ、任意同行を求めたという。

 市民らは任意同行に応じず、そのうちのひとりBさんは、「どうして任意同行で連れて行かなければならないんだ。任意同行は、行かなくていいんだろ?」などと訴えたが、警察官のひとりが誰かと電話したのちに、「現行犯逮捕に切りかえる」と発表した。

 現場に居合わせた市民は「弁護士がくるので、ちょっと待ってください」と掛け合ったが、警察官は、「弁護士は丸の内署にきてください」として応じず、3人はそれぞれ別のパトカーで連行された。

 その後の取り調べに対しても3人は黙秘を続け、10日間の勾留延長が決定。今も丸の内署、中央署、東京空港警察署にそれぞれ勾留されている。

要請に従わず敷地内に留まり続けた抗議者と、なぜか家宅捜索までする警察

 なぜ今回、逮捕にまで至ったのか。

 脱原発を訴える「経産省前テントひろば」は、経産省の敷地内ですでに4年近くも座り込みを続けている(現在、裁判中)。また、これまでにも抗議活動中の参加者が、敷地内に足を踏み入れることはあったが、逮捕まではされなかった。さらに今回はどういうわけか、逮捕された市民らの自宅には家宅捜索まで入っているという情報もある。

 現場にいた市民によると、「これまでは『敷地外に出るように』という指示が出たら、敷地から出ていた」のだが、この日は、退去要請を無視して「10分以上敷地内で抗議を続けていた」という。これが警察が逮捕に踏みきるきっかけになったというのだ。そうだとしても家宅捜索までする必要があるのだろうか。疑問が残る。

 逮捕されたBさんは、以前にも抗議活動中に建物のガラスを蹴破り、「器物破損」で現行犯逮捕され、その後「威力業務妨害」で有罪判決を受けて執行猶予期間中だった。この有罪判決には「不当判決だ」といった指摘もあるが、もともと警察には厳しくマークされていたのは明らかだ。Bさんは丸の内署に移送された。

 Cさんは5月8日、米国大使館前で抗議活動に向かおうとしていた最中に警察に取り囲まれ、抵抗した際に足が警察官の身体にあたったことから「公務執行妨害」で現行犯逮捕され、12日間にわたって勾留されていた。この時にも家宅捜索を受けたといわれている。Cさんは現在、中央署に勾留されているという。

 留意しておきたいのは、市民ら3人はそれぞれ独立した個人の有志であり、同じ組織に属しているわけではないということだ。抱えている事情も背景も、それぞれに違う。この日の抗議行動も任意で集まったもので、組織的なものではない。

 また、日弁連前会長・宇都宮健児弁護士はAさんの刑事弁護人にはついたが、Bさん、Cさんにはついていない。

宇都宮弁護士「運動に対する見せしめ的な要素がかなりあるのではないか」

▲ Aさんが勾留されている東京空港警察署。5月31日には「仲間を返せ」と訴える抗議行動が行われた。

 宇都宮氏は6月1日、東京空港警察署に勾留されているAさんに初めて接見した。宇都宮氏はかつて、「Aさんが万が一逮捕されたら1000人の弁護団をつくって闘う」と語っていた。

 宇都宮氏は接見直後、IWJのインタビューに答えた。

――今回の警察の対応をどうみているか。

宇都宮弁護士(以下、宇都宮。敬称略)「一般的に見たら、経産省の敷地に入ったくらいで、物を壊したわけでも人を傷つけたわけでもありません。罪が成立するとしても、大変な微罪ですよね。それなのに逮捕し、身柄を拘束し、しかも長期間勾留するのは、非常に不当なやり方だと思っています。

 ですから、運動に対する見せしめ的な要素がかなりあるのではないかと思います。運動を萎縮させる一環として逮捕、勾留している可能性が強いですね」

――弁護人として、どのように早期釈放を求めていくのか。

宇都宮「『微罪なのに長期に拘束するというのは不当である』ということと、『この程度の罪で起訴すべきではない』…つまり『不起訴処分にすべきだ』ということですよね。

 今回の場合、逮捕された人が市民運動をやっている人でなければその場で釈放されるような罪です。それが今回、逮捕された人が熱心に市民運動をやっていた人だから、見せしめ的に逮捕し、勾留もしている。運動を萎縮させる狙いがあったと思います。早期釈放すべきだという抗議活動を強める必要があるかと思います」

――抗議活動を強めることでどういった効果があるのか。

宇都宮「逮捕、勾留についてみんな監視をしているよ、という意味になります。不当な対応については許さない、というような運動を広めるのは非常に意味がある。そうしないと、みんなが監視しないところで簡単に自由を奪ってしまったり、強硬な取り調べを許したりしてしまいますから」

――黙秘はいい選択なのか。どういったメリットがあるのか。

「色々な考え方はありますが、闘い方のひとつです。メリットとしては、警察の思うような証言、供述はしないということですよね。

 もともと冤罪事件は、警察の誘導によって、やっていないのに、(誘導的な)取り調べに応じて喋ることから発生しています。冤罪になった人が、ありもしない事実を話しもしなければ、冤罪は発生しないわけですから」

――勾留期限の10日間が経つ前に釈放される可能性もある?

宇都宮「その可能性もありますし、勾留がさらに10日間延長される可能性もあります。日本の刑事上の手続きでは、起訴前の勾留というのは、10日と10日、合計20日の勾留が法的には認められることになっています。それでも起訴しない場合は、釈放しなければいけません。

 ただ、この事案に関しては、逮捕とか勾留をするまでもなく、簡単な事案ですので、通常はただちに釈放してもおかしくない事案だと思っています。やはり不当に長期勾留しているということですね」

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