過酷な現場で多くの作業員が被曝していく実態――縄田和満・東京大学教授が電力会社社員と下請け作業員の待遇の差を問題視 ~福島第一原発における労働災害に関するヒアリング 2015.3.5

記事公開日:2015.3.10取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・奥松)

※3月10日テキストを追加しました!

  「誰かが責任を持って一元的に管理しないと、今後40年も続く廃炉作業はできない」──。福島第一原発の労働実態に詳しい東京大学教授の縄田和満氏は、このように危機感を表明した。

 2015年3月5日、東京都千代田区の衆議院第1議員会館にて、超党派の国会議員によって構成される、原発ゼロの会の主催で、「福島第一原発における労働災害に関するヒアリング」が行われた。東京大学教授の縄田和満氏が原発作業員の重層下請け構造の問題点について、さまざまデータを提示して説明し、東京電力、厚生労働省、資源エネルギー庁などの担当者らが参加した。

 縄田氏は、長年、原発で請負労働者が使われて来た理由は、労働規制や使用者責任を回避ができるからだとし、特に、請負労働者の被曝が、電力会社の社員の何倍にもなることを問題視。安倍総理の標榜する「同一労働、同一待遇」は、原発下請け労働者にこそ適用すべきだと主張し、このように訴えた。

 「福島が、今の状況で済んでいるのは、そこで働いてくれている人たちがいるからだ。われわれは、それを忘れてはいけない。労働者がきちんと働いて、将来的な補償も受けられるようにしなければ、福島第一原発の収束はない」

 福島第一原発での、深刻な労働災害の発生を憂慮する阿部知子衆議院議員は、「この先の作業員確保にも、収束作業にもマイナスになる。厚労省は、東電にさまざまな要請をするより、法令できちんと定めてもらいたい」と要望した。それに対して厚労省担当者は、「法令づくりよりも、リスク・アセスメントをしっかり行う」として、あくまでも現状の枠組みの中で対応するという姿勢を崩さず、議論は平行線を辿った。

 阿部議員は、「労働安全衛生管理ができていない実態があるのに、『二階から目薬』のようなことをやっていても効き目はない。労働安全行政をやっているのだから、真剣に自分たちの役割を考えるべき。死亡事故が起きているのに、今のような言い方は倫理的にも許されない」と厳しく断じた。

記事目次

■ハイライト

  • ヒアリング① 縄田和満氏(東京大学教授)/ヒアリング② 東京電力、厚生労働省、資源エネルギー庁
  • 日時 2015年3月5日(木) 16:00~
  • 場所 衆議院第1議員会館(東京都千代田区)
  • 共催 原発ゼロの会

10ミリシーベルト以上の被曝は、電力社員2名、請負労働者1055名

 司会を務める阿部議員が、「福島第一原発で働く労働者の待遇改善、被曝管理はきわめて重要」と語り、放射線業務従事者の労働問題に詳しい縄田和満氏を紹介した。

 縄田氏は、「原発労働では、数百社以上が関わる重層下請け構造が問題になっている」とし、自身が2008年に発表した「原子力発電所内請負労働者の安全衛生教育訓練」に基づいてレクチャーを開始した。

 原発での業務請負は、主に定期検査の期間に利用される。原子力施設は少なくとも13ヵ月に1度は定期検査をしなくてはならず、検査期間は平均198日。「つまり、原発における請負労働者の比率は常に高い」と縄田氏は言い、電力会社社員と請負労働者を比較した、次のようなデータを示した。

 「電力会社の社員に較べて、請負労働者は約6倍の人数が働いており、被曝する人の数も、請負労働者は桁違いに多い。5ミリシーベルト以上の被曝をした人は、電力社員42名に対し、請負労働者は3642名。10ミリシーベルト以上は電力社員2名に対して、請負労働者は1055名に上る」

 派遣契約と請負契約の違いは、労働者が供給される先(原発の場合は電力会社)と労働者の間に、直接的な指揮命令関係がある場合は派遣となり、ない場合は請負となる。

 「つまり、原発で働く請負労働者に、電力会社が直接指示をすることはできない。それをやると、偽装請負ということになる」と縄田氏は語り、加えて、原発では建設関係の仕事が多いが、建設業は労働者派遣が禁止されていることから、請負が主流になっている、とした。

 請負労働者を使う利点には、使用者責任の回避、雇用調整が容易、人件費が安価、ということがある。たとえアルバイトでも、電力会社が直接雇うと使用者責任が発生する。「そのため、多重下請け構造になっている」と縄田氏は説明する。

規制回避と責任逃れのために、請負労働者を使う

 多重下請け構造が、なぜ、問題なのかについて、縄田氏は3つの理由を挙げた。

 1. ひとつの作業を行うにも、いちいち元請けに確認することになり、指揮命令系統が不明確になる。結果的に責任の所在もあいまいになる。
 2. 情報の一元化が困難になる。伝言ゲームのような状態に陥りやすく、情報を他社の労働者と共有する環境も生まれない。
 3. 多重下請け構造の各段階で管理コストが生じるため、末端の作業員の手取り賃金が減少する。

 「これらの問題は、国土交通省も認識している」と縄田氏は語り、「重層下請け構造は、間接経費の増加による生産性の低下、労務費へのしわ寄せ、施工責任の不明確化、品質の低下、安全指示の不徹底などによる安全性低下を生じさせ、経済的に不合理との指摘がある」という国土交通省の資料を示した。

 福島原発事故以前のデータを見ると、電力会社はそれほど労働者のコストをケチっていたわけではない、と言う縄田氏は、「では、請負労働者を使い続ける理由は何か。『短期業務、専門的業務だから』という真っ当な理由もあるだろうが、さまざまなデータを分析した結果、その目的は『規制の回避、使用者責任の回避』であると判断せざるを得ない」と指摘して、このように続けた。

 「原発では『社員』と呼ばれる電力会社の社員1人に対し、『企業』と呼ばれる下請け労働者は7~8人働いている。いかに下請けに頼っているか。白血病の労災を認められた年間5ミリシーベルト以上の被曝をした人の割合も、『社員』は非常に少ない」

安倍総理の「同一労働、同一待遇」は原発下請け労働者に適用を!

 ここ1年ほどは、福島第一原発で働く作業員が倍増しており、「普通の建設現場でも、働く人間が増えれば事故が起きやすくなるのだから、今の福島第一原発のような特殊な現場であれば、なおさらだ」と縄田氏は危惧する。

 2011年3月11日から2014年12月31日までに、福島第一原発で作業した労働者の年齢分布を見ると、50代と60代が4割を占める。これらの人々には、衛生安全管理において、若い労働者とは違う配慮が求められるはずだが、被曝線量のデータを見ると、被曝するのも50代、60代が4割である。

 「福島第一原発での労働者の被曝線量は『社員』と『企業』では数倍の差がある。平均値で見ても、請負の人間は1ヵ月に1ミリシーベルトは被曝しており、事故前の1年分が、今の1ヵ月分に相当する」と縄田氏は言う。

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