「日本は大国ではないことを自覚しなければいけない」 ~日本が守るべきものは何か、とるべき安全保障の道筋とは――有識者らが提言 2014.12.23

記事公開日:2015.2.4取材地: テキスト動画
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(記事:IWJ・箕島望、記事構成:IWJ・安斎さや香)

特集 集団的自衛権|特集 憲法改正|特集 日米地位協定

※2月4日テキスト追加しました!

 「自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会」主催による第4回シンポジウム「新たな日米関係と日本の安全保障」が2014年12月23日(火)、千代田区立日比谷図書文化館の大ホールで行われた。

 植木千可子・早稲田大学国際学術院教授、小原凡司・東京財団研究員、伊勢崎賢治・東京外国語大学教授、加藤朗・桜美林大学教授による、米国、中国の戦略と現状、今後の日本の安全保障をどう考えるのかについて、講話が続いた。

 小原氏は、中国が経済的に米国を追い抜き、軍事力でも追つこうとしている現状を正しく認識した上で、日本が守るべき「豊かな国民生活」のために、「国民自らが日本の安全保障を考えていかなければいけない」と主張。

 加藤氏も、「日本はもはやアジア唯一の大国ではない」と述べ、「軍事、経済におけるアジアの大国は中国であり、技術を始めいかなる分野においても、日本は大国ではないということを自覚しなければいけない」と発言し、「平和大国という日本のブランドを堅持していく」重要性を説いた。

■ハイライト

  • 日時 2014年12月23日(火)13:45〜
  • 場所 千代田区立日比谷図書文化館(大ホール)
  • 主催 自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会(告知

※以下、発言要旨を掲載します

米国の対中戦略は冷戦時の対ソ戦略と同じか、異なるのか

柳澤協二氏(以下、柳澤・敬称略)「問題提起として、安全保障を考えると米中の狭間に日本がいます。冷戦時代は核の恐怖、今は経済的関係と、抑止構造が変わってきました。米中の間にどういう抑止力が働いているのか、それがどう変わってきているのでしょうか。

 大きな争いは避けようというのなら、小さなことはやっていいのでしょうか。どういうふうに危機管理するのでしょうか。米国は昔ソ連に対して行ったようなことを中国に対して行おうとしているのか、それとも別のことを行おうとしているのでしょうか」

世界を住み心地良くするため、中国との協力が必要

植木千可子教授(以下、植木・敬称略)「日米の対中戦略は成功しているのか、答えを出すのは難しい問題です。GDPを比べると、1970年から2014年にかけて中国が大きく成長しました。購買力平価(PPP)で見ると、2014年に中国は米国を経済規模で追い抜いています。

 今後世界に訪れる変化は、米国の影響力の低下、相対的な力の低下です。財政赤字で国防費も強制的に削減していきます。米国は世界の警察官ではないと言いますが、これまでに比べ自分達と直接関係のない紛争や戦争へ介入するハードルは高くなるでしょう。世界はアメリカ抜きになんとか自分達でやっていくようなっています。一方で中国は、2014年に購買力平価で米国を追い抜きました。中国が世界のトップに立つことの意味は何でしょうか。

 これまで米国がいろいろ国連決議のないようなケースで軍事介入したような時、選択を誤った時でも、世界中のほかの国々が米国をストップできなくても、民主的な手続きを経て、国民がもう戦争は嫌だというな感じになっていく自浄作用があります。一方、中国の場合は、世界中で中国をコントロールできなくなる事態が起きた時、中国人が自ら、戦争はもう嫌だというような声はなかなか出せない状態です。

 中国は国内問題が山積しており、国際主義的な感覚は外に向けて国益を守る以外に力を発揮することはありません。米中は経済的に相互依存が強いので、大陸間の戦争の可能性は低いですが、小規模な紛争は増えます。今より高いレベルで緊張が増えるでしょう。米国にとって石油が出るなど、自国へ利益のない周辺国の国内紛争は、今より無視する可能性が高いです。つまり、『少し住み心地の悪い世界になる』でしょう。これらの問題を解決していくためには、中国との協力の必要性が増大していきます」

日本の対中戦略は70年代から変わっていない

植木「米の対中戦略の目的は3つ、抑止、経済的利益の確保、アジアの経済成長を米国のものにすること、政治的な安定をはかり民主化の方向へ向かわせることです。これら戦略を達成するための手段は、日韓や日豪といった同盟国ネットワークによる地域安定化を図り、TPPで経済メリットをあげ中国を取り込み、2国間外交により関与することです。米国のアジア戦略は、米国中心の安全保障と地域経済統合です。ASEANなど米国の入っていない地域連携や地域統合は、米国の利益ではありません。だからTPP、これは自由度が高く米国の利益が守られます。

 最近の中国の動きを見ますと、ADIZ(防空識別圏)設定、南シナ海の滑走路工事、米対戦哨戒機に異常接近等があります。一方、APECでCO2排出削減数値目標や、軍用機異常接近の禁止、レーダー照射の禁止を米中合意した意義は大きいです。

 日本は何をやっていきたのでしょうか。武器輸出3原則の緩和、特定秘密保護法施行、集団的自衛権、国連PKOの武器使用、ODA大綱の改定といった日米同盟強化を行いました。日本の対中戦略は70年代から変わっていません。成功するためには、軍事能力と意図があること、相手に正しく伝えること、状況の共通認識があることが必要ですが、うまくできていません。何が問題なのでしょうか。

 日米韓の連携がうまく進まず、TPPのメリットを中国に見せられずにいます。また、日本にとっては、戦略的ポジションが悪化している。米国にとっての日本の戦略的プレゼンスが低下しています。まだ安定した地域的な枠組み作りには至っていません」

中国指導部は国内問題の方を恐れている

小原凡司研究員(以下、小原・敬称略)「中国の対日政策は、中国の内面や考え方を含めたものになります。最近の中国国内報道に事実関係のみが多いのも、反日の口実を国民に与えないためと考えられます。つまり、中国指導部は国内問題、社会の不安定化をもっとも恐れています。

 中国指導部は、終戦70周年の2015年に発表されるだろう安倍談話の内容を気にしています。米欧国際会議でも、中国側は日中友好を強調し、日中協力の必要性を力説しています。これは、当面日中間関係が改善しないだろうという逆説に基づくものです。APEC2014の日中首脳会談はたった25分間、通訳を介して正味10分程度でしょう。それでもやらなければいけなかったことに意味があります。とにかく軍事衝突をさけなければいけないと双方考えて話しました。

 APECと同時に中国珠海でエアショーが開催され、J31ステルス戦闘機が初めてメディアに公開されました。口だけでなく、実際に大国としての軍事力を持っていることをアピールしたかったのでしょう。米国に次ぐ大国だということを、中国は示し、米中2国がアジア太平洋の安全を決めていくんだという思いでしょう。しかし、ロシアが頭の上に乗っている中国は、米ソのバランスを常に見ながら外交を続けています」

日本は相手にする必要はないと中国指導部は考えている

小原「2012年9月に野田内閣が尖閣を購入したとき、中国は水面下で関係改善を探りました。しかし2013年3月末、対日強硬姿勢をとることを決め、米国と接近しました。米国は中国との軍事衝突をする気はありません。経済的利益を共にしたいが、危険な状況が起きつつあると認識しています。米中は考えが異なりますが、協調的な共存は難しいという結論です。対立的共存ということです。

 中国は『新型大国関係』という、中国が自国の利益を追求し、自由に行動しても、米国が手を出さない世界という米中関係戦略を提唱しています。中国の『西進』戦略は内陸部の経済発展のため、西へ向かうことです。これは対日強硬派の圧力はかわすという理論のすり替え効果もあります。中国の国際社会の中で地位を高めるため、日本という小さなことに関わっている必要はないと考えています。中国は安倍首相とは関係改善は難しく、日本は相手にする必要はないと考え、軍事衝突を避けようとしています。

 日中軍事衝突がない理由は2つあります。(1)自衛隊と日米軍事同盟、(2)経済改革に日本からの投資が必須だ、ということです。ここで通常兵力を誇示しても対中国抑止力にはなりません。かえって逆効果です」

スカイネットを生み出そうとする米国

小原「中国は空母に続き大型駆逐艦の建造を始めています。世界へ戦略的に使うつもりです。中東、北アフリカ、地中海で軍事プレゼンスを示すつもりです。米国だけでなく、中国も自国に有益な地域情勢を軍事力で作り出したいという意図があります。中国の軍事拡大は、米中衝突ではなく、米国と同じ方向を向いた競争、つまり軍事プレゼンス競争です。

 一方で中国は米国の核兵器攻撃を恐れています。原子力潜水艦による抑止力は、中国は南シナ海でしか運用できません。他海域は自衛隊や米軍にすぐに感知されます。そこで南シナ海が重要になってきます。

 中国の国内問題として、空軍内の不満が高まり不満をそらす政策をとりました。その結果、今空軍はイケイケどんどんの状態です。しかし、国際常識を知らない、素養が低いなど中国空軍のパイロットに問題が多く、それが異常接近の事態に繋がっています。

 また、人民解放軍は今までは戦える軍隊ではありませんでした。装備を近代化してもシステムは弱く、十分な訓練をもなかった。そこで改革を行っています。米国はCPGS、中国はASBM、という新しい戦略兵器を開発しています。一方、米国は中国が対等な抑止力を持つことを決して許容しません。そこで新たな手段、軍事システムを構築しています。

 そのシステムでは、ネットワークが軍備配置を決め、探知もできる。どこから攻撃するかネットワークが決める。人間の意思を介さない軍事行動が出現します。つまり、ターミネーターのスカイネットの世界が出現していきます」

中華王国を再現するために小国との衝突はやむなし

小原「中国の軍事戦略は、共産党による長期安定統治のため、継続的な経済発展、そして経済発展を外に求めています。世界のGDPの4分の1を占める中華王国を再現したいと考えています。しかし、世界の経済成長を考えると、他の国が割を食うことになります。米国との軍事衝突は回避するが、それ以外の国とは回避するとは言っていません。つまり、小国との衝突はやむなしという考えです。

 南シナ海で中国は、軍事力を使わない方向に進んでいます。漁船は軍ではありません。これを使っている国際衝突は軍地衝突ではないという考えです。これにどうやって対応していくかは問題になってきます」

日本は、国民自らが、日本の安全保障を議論していく覚悟が必要になる

小原「島嶼防衛で日本は、各レベルで中国に負けない努力をする必要があります。日本独自の軍事力を考えないといけません。事例ごとでなく、平時から行動できる覚悟が必要です。戦時でない時、それがグレーゾーン。なにができるかを議論しなければいけません。戦時と平時の間ではなく、戦時でない時です。日本は今まで軍事力行使について考える必要がありませんでした。しかし、今後はそうではありません。

 自衛隊は対処できるよう機動化を進めてきました。しかし、法整備、解釈が追いついていません。日本は今後、いつ、どこで、何が起こるか分からないという中で、安全保障について自ら議論する覚悟が必要になります。

 安全保障は軍事力だけではありません。国家の持てる資源全てを活用すべきです。それは経済が全ての基礎になります。日本が目指すものは何か、豊かな国民生活こそが我々が求めるものです。それこそが外国が憧れるものです。国民自らが、日本の安全保障を考えていかなければいけません」

カシミール問題で始まり、CIAが育てたテロ戦の問題

(…会員ページにつづく)

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