「九州玄海訴訟北九州学習会 福井地裁判決に学ぶ」が11月15日(土)13時半より、福岡県北九州市小倉南区の小倉南生涯学習センターで行われ、大飯原発差し止めを争い福井地裁で住民側が勝訴した2014年5月の判決について、北九州第一法律事務所の池上遊弁護士が解説した。佐賀中央法律事務所の稲村蓉子弁護士は、原発避難計画の問題点について説明した。
池上弁護士と稲村弁護士は、ともに九州電力玄海原子力発電所(佐賀県)の即廃炉を求める「原発なくそう!九州玄海訴訟」弁護団の主要メンバーとして活躍している。
▲池上遊弁護士(北九州第一法律事務所)
はじめに登壇した池上弁護士は、関西電力大飯原発3、4号機の差し止めを命じた福井地裁の判決を紹介した。
「大飯原発から250m圏内に居住する原告らは、大飯原発の運転によって人格権が侵害される具体的な危険があるから、その原告らとの関係では原子炉を運転してはならない」
「生命を守り生活を維持するという人格権の根幹部分に対する具体的侵害のおそれがあるときは、人格権そのものに基づいて差し止めを請求できる」
池上弁護士は、この福井地裁判決を「素晴らしい判決」と評価し、裁判で争われた論点について解説した。
- 講演 池上遊氏(弁護士、北九州第一法律事務所)大飯原発判決について/稲村蓉子氏(弁護士、佐賀中央法律事務所)避難計画について
原発に求められるべき安全性=差し止めが認められる場合とは?
「原発稼働は、電気を生み出すための一手段である経済活動の自由(憲法22条3)に属する。すなわち人格権の中核部分よりも劣位に置かれる」と池上弁護士は説明。「大きな自然災害や戦争以外で、この根源的な権利が奪われる事態を招く可能性があるのは、原発事故以外では想定しがたい」として、具体的な危険性が万が一でもあれば、差し止めが認められると説明した。
これについて、福井地裁判決ではこう述べられている。
「原発技術の危険性の本質およびそのもたらす被害の大きさは、福島原発事故を通じて十分に明らかになった。このような事態を招く具体的危険性が万が一でもあるのかが判断の対象。福島原発事故の後にこの判断を避けることは、裁判所に課された最も重要な責務を放棄するに等しい」
大飯原発の重大な欠陥が指摘された
さらに池上弁護士は、「原発は、『止める、冷やす、閉じ込める』の3つがそろって初めて安全性が保たれる」とした上で、「大飯原発は地震の際の冷やす機能、閉じ込める構造において欠陥があった」と指摘した。
判決では、原発の冷却機能の維持について、「地震大国日本において、基準地震動を超える地震が大飯原発に到来しないというのは、根拠のない楽観的見通しにしか過ぎない」とされている。
放射性物質を閉じ込めるという構造においても、判決では次のように述べられており、関西電力の主張がすべて排斥されたという。
「使用済み核燃料は、原子炉格納容器の外の建屋内の使用済み燃料プールに置かれており、その本数は1000本を超えるが、プールから放射性物質が漏れたときに、敷地外部に放出されることを防御する格納容器のような堅固な設備は存在しない。使用済み核燃料は、原発稼働によって日々生み出されていくものであるのに、深刻な事故はめったに起きないだろうという見通しのもとに電力会社が対応している」
原発の稼働は電力供給の安定性、コスト低減、CO2排出削減につながる?
池上弁護士は、人々の生命に関わる問題と電気料金の問題について、次の判決文を紹介した。
「極めて多数の人の生存そのものに関わる権利と、電気代の高低の問題等とを並べて論じるのは、その議論の当否を判断すること自体許されない。原発への依存率等からすると、稼働停止によって人の生命、身体が危険にさらされることもない」
判決では、コストが上昇する問題について、「(原発停止に伴い)国富の流出等の議論があるが、多額の貿易赤字が出るとしても国富の流出等と言うべきでない。豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失である」とされている。
CO2排出削減についても、判決では「原発でひとたび深刻事故が起こった場合の環境汚染はすさまじい。福島原発事故は、わが国始まって以来最大の公害、環境汚染である。環境問題を運転継続の根拠とすることは甚だしい筋違い」と厳しい見解が出されている。
池上弁護士は、「この判決により、『原発は、経済上も環境問題上も有益』という関西電力の主張が、完全に覆された」と力説した。
鹿児島県川内原発訴訟「決して厳しいという見通しでもない」
IWJは、佐賀県の玄海原発よりも先に再稼働が予定されている鹿児島県の川内原発について、司法判断の今後の見通しを質問した。
池上弁護士によると、「再稼働阻止を求めた仮処分審尋が今月11月28日に予定されており、結審する予定だという。裁判所で判断が出るのは、年明けくらいのタイミングではないだろうか」と回答した。加えて、「私の感想となるが、弁護団の先生達の議論を聞いている限り、決して厳しいという見通しでもない」と述べた。
▲稲村蓉子弁護士(佐賀中央法律事務所)
続けて登壇した稲村弁護士は、「原発の避難計画を通して透けて見えるおかしさを知って欲しい」と訴えた。
原発の避難計画を考えることの意義を、稲村弁護士はこう語る。
「市民の命・健康に対する国や電力会社の本音を明らかにできる。原発が人間のコントロールできない技術であることを明らかにできる。原発賛成・反対を問わず、たくさんの人達に原発問題を考えてもらうきっかけになる」
避難計画自体が「国は国民の命を守らない」と宣言している
稲村弁護士は、「国は『原子力災害対策指針』で方針を定めるだけであり、具体的な避難計画を作成・実施するのは、個々の自治体(県・市町村)や事業者(民間企業)とされている。これでは、責任の所在が曖昧かつ避難計画の実効性が担保されない」と国の無責任さを指摘。
「避難計画は、原発の新規制基準とも連動しておらず、法の仕組み自体が『国は国民の命を守らない』と宣言しているようなもの」と批判した。
アメリカなどで採用されている国際基準では、深層防護の概念が取り入れられ、プラント建設「前」に、実行可能な緊急時計画が定められていなければならない。もし、確認できなければ、原発の稼働自体が許されない。
被曝することが前提の原子力災害対策指針
稲村弁護士は、原子力災害対策指針で被曝が前提とされていることについて、こう解説する。
「原子力災害対策指針では、退避の目標時間が、500μSv/hまでは24時間以内(つまり、たった1日で12mSv)、20uSv/hでは、一週間以内を目途に避難せよと定められている。逆に言えば、この期間内の被曝は許容せよということ」
また、避難想定範囲は少なくとも250km圏内は必要であり、現状の指針では狭すぎること、「避難」として想定されている時間が短期間過ぎることなど、根本的な対策が全く不足しているとした。
不備だらけの防災計画
稲村弁護士は、防災計画の不備について、以下の8点を挙げた。
①情報提供が素早くできない:「最悪のシナリオでは、78分でメルトダウンするとされている」
②素早く逃げるための避難手段、避難経路が確保されていない:「車での避難が原則だが、車自体が足りない可能性が高い。佐賀県の想定では、バスは車を利用できない人の16%しか乗せられず、避難経路も未整備のため、30km圏外に出るまでに30時間半もかかるとされている」
③避難者受け入れ体制の不備:「避難先に水・食料・燃料などが準備されていない。スクリーニングの機器もない。避難者受け入れのためのスペースもない」
④再避難が必要になった場合の避難先、対策がない:「住民は放射性物質とともに移動することとなる」
⑤被曝した際の医療体制がない:「佐賀県の二次被曝医療機関は、唐津赤十字病院(原発から13km)であるが、受け入れ可能人数はたった300人。準備できる車は4台しかない」
⑥社会的な弱者が避難できない:「福島県では、避難途中に衰弱死が続出。3月未までに60名が死亡した。佐賀県では、30km圏内に217か所の病院・介護施設があるが、避難計画を定めたのは、2014年6月18日時点で10施設のみ」
⑦複合災害への備えがない
⑧オフサイトセンターが機能不全に陥る
避難訓練の形骸化――無意味な「訓練のための訓練」
2013年11月30日、佐賀県は原発災害における広域避難訓練を実施した。ここで参加した自動車の数は想定される数万台に対してわずか15台。要援護者の参加人数は、想定された8685人に対して、わずか32人だった。
こうした状況に対して稲村弁護士は、こう指摘する。
「国による訓練では、『住民の不安、混乱を増幅しない。立地自治体の立場にも配慮する』という理由で、いわば『訓練のための訓練』が続けられた。とにかく『訓練』を行えば足りるということで、実際の事故発生に備える現実的な姿勢に欠けていた」
稲村弁護士は最後に、「これで再稼働を進めること自体、『国民の命・健康はどうでもいい』と言っているに等しい」と主張。「考えれば考えるほど、原発事故に対応することなどできない」とし、こう訴えた。
「避難計画で、国や電力会社の、国民の命・健康に対する無視、軽視の態度が明らかになった。避難計画の問題は、原発賛成・反対の立場に関わらず、国のあり方を考える素材になる。ぜひ、周りの人たちと考えて欲しい」(取材・文:IWJ中継市民・こうのみなと)
【参考リンク】