再稼働候補ナンバーワンと目されている鹿児島県の川内原発。
しかし、いまだに十分な避難計画は定まっておらず、再稼働に必要な「地元の同意」も曖昧で、新たに施行された新規制基準を満たしたとしても、さまざまな検討課題が残されている。
そうした課題を省みることなく再稼働すれば、新たな「安全神話」の幕が開けることにはならないだろうか。地元住民は、どのように考えているのか。
南日本新聞社で長年、報道に従事したのち、2010年に鹿児島大学法文学部「マスコミ論」の准教授として着任した杉原洋氏(鹿児島市在住)。シンポジウムや社会人対象の講座など、幅広いフィールドで草の根的な教育を続けてきた杉原氏は、ジャーナリストとしての視点と、市民としての目線を合わせもっている。
「反原発・かごしまネット」の事務局長をつとめながら、川内原発の再稼働問題に鋭い批判を続ける杉原氏に10月26日、原発問題とともに、地方に痛みを押し付ける差別構造について、IWJ記者が話を聞いた。
▲杉原 洋氏
以下、インタビューの模様を掲載する。
「反原発の市民団体が左翼と見られていることは不幸なこと」
IWJ記者「長年、鹿児島で反原発の中心人物として活動されてきた杉原さんは、現在の原発政策をどのように見られますか。また、東京主導による経済至上主義があらわとなったグローバリズム、アベノミクスについて、ご意見をうかがいたいと思います。よろしくお願いします」
杉原氏「政治家は、『安全神話』を復活させたいと思っている人ばかりですね。小泉純一郎氏や細川護熙氏などのような保守系の反原発運動は、もっとやってほしいと思います。私たちと毛色はまったく違いますが、言っていることは間違っていません。
反原発の市民団体が左翼と見られていることは不幸なことです。これはイデオロギーの問題ではありません。原発問題は、人類の課題です。もうちょっと保守系のなかでリベラルな人がいたら、と思いますが、なかなか出てきません」
匿名アンケートで85%が再稼働に反対
IWJ記者「地元の原発関連労働者や、周辺の商売をしている人たちが、再稼働を待ち望んでいる、という報道も一部にはありますが、どうお感じになられますか?」
杉原氏「原発が稼働することでうるおう人がいるのは事実です。タクシー運転手、ホテル従業員、ホテルに食材を提供する業者…。しかし、全体ではなく、あくまで一部の人たちです。再稼働推進は、うるおっている人だけの言い分。その証拠に、人口は減り続けています。
『自分のことだけ考えていればいいのか?』と言ってやりたいです。九州には九電の孫請けの業者がたくさんいるため、ものがいえない雰囲気があります。一部の特化された業種のみが儲かって、地場産業などは顧みられないということがままあります。
それでも、匿名アンケートをすれば、85%が再稼働に反対でした(※)。集めた団体が驚いていたほどです。本当のところは、『原発はおかしい』と皆、心の中で思っているのでしょう」
(※)「さよなら原発いのちの会」が今年の夏前に行った川内市民アンケートに1133通の回答が寄せられ、そのうちの約85%が川内原発の再稼働に反対する意見だった。
IWJ記者「たとえ個人として、実際には恩恵を受けていなくとも、九州全体の経済が衰退していく危機感から、やはり原発再稼働の経済効果を心強く思う人がいる、ということもあるのでしょうか」
杉原氏「再稼働によって生まれる経済効果を綿密に分析すべきだと思います。労働者の雇用が何人分生まれて、飲食店や宿泊施設の売り上げがどれだけ上がって……など。誰もそんな分析をしていません。
なんだかんだ言っても暮らしをよくしてほしい、という声があるのは確かですが、昨今のアベノミクスだって騒いでいるのは中央ばかり。鹿児島にはおよんでいません。原発による活況も、アベノミクスも、全体から見れば目くらましでしかありません。
原発も、武器も、安倍政権が海外に売り出そうと考えているものは、巨大資本のものばかり。そんなグローバリズムを肯定している人はごく少数の人たちだけではないでしょうか」
九電の主張を丸呑みした規制委
IWJ記者「川内原発は火山の噴火リスクが指摘されていますが、御嶽山の噴火は、鹿児島県民にどれほどの影響を与えたのでしょうか」
杉原氏「御嶽山とは比較できない面があると思います。姶良カルデラなど、九州の火山と比べて、御嶽山は小さすぎます。鹿児島の火山リスクはあんなものではないでしょう。
しかし、原子力規制委員会は『姶良カルデラは3万年前に噴火した。だからあと6万年は大丈夫』などという九電の主張を丸呑みしました。規制委員会としての機能をまったく果たせていません。
私が言いたいのは、原発そのものの危険性だけではなく、原発を地方に押し付けてきた構造を支える政治のおかしさです。過疎地にしか原発が建っていないということは、まさに差別の構造。この構造を温存しているのが原発推進派であると考えています」
県庁の主要ポストは全て中央からの出向
東京が肥大化し、地方が衰退するという二極化は、池田勇人内閣による所得倍増計画のころから始まった『集団就職』に、すでにその兆しを見せていました。鹿児島からは、15万人の中学生が引き抜かれて上京したのです。
その結果、地方がどうなるか、目に見えていたのにも関わらず、です。その犠牲となった地、福島、新潟、鹿児島…。すべて原発立地となっています。地方の抱えている痛みを、中央の人は分かっていません。
また、鹿児島県庁の主要なポスト、総務部長や財政部長などはすべて、中央省庁から来た人で占められています。官僚が牛耳る、この構造が壊れない限り、なにも変えられないでしょう。そのためには官僚自身が変わっていかないといけません。