気づかぬ間に川内原発再稼働の「地元の同意」がとられていた。そんな事態が現実になろうとしている。となれば、原発再稼働に「王手」がかかったも同然である。
九州電力川内原発を抱える鹿児島県・薩摩川内市の市議会原発対策調査特別委員会は10月20日、川内原発再稼働に賛成する市民らの陳情を賛成多数で採択した。早ければ28日に開かれる臨時本会議でも賛成の陳情は採択され、岩切秀雄市長も再稼働同意を表明する見通しだ。川内原発の再稼働が急ピッチで進もうとしている。
(IWJ・原佑介)
気づかぬ間に川内原発再稼働の「地元の同意」がとられていた。そんな事態が現実になろうとしている。となれば、原発再稼働に「王手」がかかったも同然である。
九州電力川内原発を抱える鹿児島県・薩摩川内市の市議会原発対策調査特別委員会は10月20日、川内原発再稼働に賛成する市民らの陳情を賛成多数で採択した。早ければ28日に開かれる臨時本会議でも賛成の陳情は採択され、岩切秀雄市長も再稼働同意を表明する見通しだ。川内原発の再稼働が急ピッチで進もうとしている。
記事目次
原子力規制委員会は9月、川内原発の安全対策は新規制基準に適合していると判断し、これを受けた政府は即座に「事故が起きた場合、政府は責任をもって対処する」などと書いた、再稼働を推進する方針の文書を鹿児島県と薩摩川内市に渡した。現在、再稼働に対する地元の同意がとれるかどうかが最大の焦点となっている。
法律上、地元の同意は再稼働の条件ではないが、九電は県、市と「安全協定」を結んでおり、再稼働には両自治体の同意が必要である。ここでいう「地元」の定義は決まっていないが、鹿児島県の伊藤祐一郎知事は「鹿児島県と薩摩川内市だけで十分」だと繰り返し強調している。しかし、一度、原発事故が起これば、被害は薩摩川内市だけに留まらないのは明白だ。
なぜ、伊藤知事は「地元」の範囲を矮小化するのか。
事故が起きたら避難しなければならない原発30キロ圏内に一部がかかっている姶良市は、2014年7月、川内原発の再稼働に反対し、廃炉を求める決議案を可決した。面積の約半分が30キロ圏内である日置市と、いちき串木野市の議会は、「地元の同意」の範囲に、それぞれの市も含めるよう求める意見書を可決した。
これらの自治体は、被害地元候補であるにも関わらず、立地地元のような原発交付金などの保証金をもらえるわけでもない。もし「地元の同意」の範囲に含めれば、再稼働に対して「うるさい存在」になるだろう。伊藤知事はそれを恐れたと考えるのが自然だ。
原子力規制庁と県は10月、再稼働へ向けたプロセスの一環として、原発30キロ圏内の市町と共同で、全5カ所で住民説明会を開催した。
IWJは薩摩川内市と日置市で開かれた住民説明会の模様を報じたが、いずれの会場でも市民からは、川内原発が適合性審査に合格したことへの疑問、怒りの声が噴出していた。質疑応答では、薩摩川内市で10人中9人が、日置市で9人中9人が再稼働へ疑問を呈し、どちらも予定の時間内には終わらず、質問を求める手があがり続けたまま、30分近くオーバーしたのちに強制的に打ち切られた。
にも関わらず、川内市議会の原発対策調査特別委員会の橋口博文委員長は、「慎重審査を行い、議論は十分尽くされた」との認識を示し、委員会は、1件の賛成陳情を採択し、10件の反対陳情を不採択とした。
再稼働賛成の陳情に賛成した議員は、「重大事故に対する九電の多重的多層的対策が有効なことが確認された」「これまで審査した規制委の対応を評価する」「ある研究では、原発を再稼働しないとGDPが減るという調査もある」「採決をお願いします。十分審議した。経産省も責任をとると言っている」などと主張した。
さらに、「いちき串木野市での住民説明会がまだ終わっていない。なぜ、今日採決するのか? 市議会は市民の付託を受けている。こんなことが許されるのか?」と指摘する議員に対し、再稼働の陳情に賛成した議員は、「薩摩川内市での説明会は終了した。十分だ」などとばっさり切り捨てた。
再稼働の陳情に反対した議員は、「過酷事故が起これば、20分前後でメルトダウンが始まり、40分後に放射性物質が漏れ出す。対応できるかどうか、検討されていない」「どの世論調査をみても、再稼働反対が、賛成を上回っている」「福島では双葉病院の避難の途中で多くの人たちが亡くなった。火山の問題もある」「火砕流が原発に到達する可能性は、九電も認めている。東京大学の中田節也教授が、確率的にいつ起きても不思議はない、と指摘している」「再稼働したからといって経済が上向くわけではない。原発をかかえている地域は、どこも疲弊している」と訴えた。
この日の川内市原発対策調査特別委員会には、県内外から、多くの原発再稼働に反対する市民が押し寄せ、場は一時、騒然とした。傍聴席は限られており、市民は傍聴控室で音声を通じて傍聴。再稼働に反対する陳情をことごとく切り捨て、慎重意見に耳を傾けない議員に対し、怒った市民らが委員長室前まで押しかけて、怒声を上げるという一幕も。傍聴席に入った水俣市の市民が、「薩摩川内市だけで決めるな!」と怒鳴り、退席を命じられることもあったという。
川内原発の再稼働に反対する市民らは、川内市原発対策調査特別委員会の閉会後、鹿児島県庁に出向き、県民の反対意見を無視して川内原発の再稼働への同意を進めないよう求める要請書と署名を、県庁と県議会に提出した。署名には、呼びかけからわずか2日間で個人2754筆、団体賛同188団体が名を連ねた。
委員会を傍聴し、署名提出したFoE Japanの満田夏花氏にIWJは電話インタビューした。
「今日の署名提出には、鹿児島の方や薩摩川内市の方もいたのですが、相変わらず受け取るだけで。『承りました、上に伝えます』という回答しかもらえず、手応えはなかったです」
また、薩摩川内市で開かれた委員会について「シナリオができ上がっていたように感じました。反対の委員はたった2人で、危険、慎重意見が一人ずつ。残る6人が再稼働賛成派で、まだ、いちき串木野市の説明会に行く川内市民だっているのに、数の論理で押し切ったという感じがしました」との印象を語る。
委員会では、住民説明会で配られたアンケートの結果、52%が「理解せず」という項目にマルを付けず、53%の人が「説明会に参加してよかった」と回答していることが明かされた。「でも、これはアンケートが恣意的な作り方がされているんです」と満田氏は言う。
説明会で配られたアンケートは、「説明のうち理解できなかった項目はどれですか(複数選択可)」として、「1.地震対策、2.津波対策、3.火山対策、4.自然現象及び人為事象への対策、6.電源の強化…」といった具合に12項目が並ぶ「選択式」だ。
12項目以外に納得がいかない事柄があった場合は「ご自由にお書きください」という「ご意見」の欄に記入しなければならず、それが委員会でどのように集計されているかもわからない。何もかもが納得いかなかった場合、すべての項目にマルを付けなければならず、再稼働に疑問がある人でさえ、わざわざすべてを選択する人は少ないだろう。根本的な原発政策のあり方に反対する人の意見を汲み取るつもりが、最初からない。確かに満田氏の言うように「恣意的」に作りこまれていると言わざるを得ない。
他方、一種の「やらせ」を疑う声もあるという。住民説明会の参加者募集期間中、中間発表の時点で400人程度の申込数だったものが、そのわずか数日後に1300人にまで急増したのだ。「九電が大規模な動員をしたのではないか」との見方である。九電には、「やらせ」の前科があるからだ。
2011年6月、運転停止中の九電・玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)の2、3号機の再稼働をめぐり、経済産業省が地元向けの説明会を開いた。その際、九電の原子力発電部門の社員が本社や子会社の社員に対し、一般市民を装って再稼働を支持する意見メールを送るよう依頼していたことが明らかになったのだ。これを受け、当時の九電の真部利応社長は引責辞任した。
もちろん、住民説明会に九電が動員を仕掛けた証拠は何一つない。しかし、再稼働反対の意見が多数を占め、怒りの声が多く上がった住民説明会を見る限り、「説明会で理解できた」「説明会に参加してよかった」という意見が多数を占めるかどうか、疑問は残る。
署名提出の際、佐賀から参加した市民が、県担当者に「九電は同じこと(やらせ)をしないという認識はあるんですか」と確認したところ、「同じことをしないという認識でいます」と回答したという。
忘れてはならないのが、住民説明会で設けられた質疑応答に、「新規制基準の適合性審査に関する説明会なので、避難計画や防災計画、再稼働に関する質問は遠慮せよ」との縛りがかけられていたことだ。
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【IWJブログ】川内原発再稼働、秒読み開始!? 地元・川内市の特別委が再稼働要請を採択、アリバイ作りに利用された住民説明会 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/187034 … @iwakamiyasumi
もう、この国を変えるには”民主的な”やり方では駄目なのではないだろうか。
https://twitter.com/55kurosuke/status/524891281755885568