「労働者本人に被曝情報が伝わっていない。これが実態。元請けの鹿島建設に指導をお願いしたい」──。
「被ばく労働を考えるネットワーク」のなすび氏は、2014年10月9日、東京都千代田区の参議院議員会館で行われた「環境省発注 福島県田村市除染事業における偽造健康診断書および危険手当ピンハネ等労働問題に関する関係各省交渉」の席で、こう語気を強めた。
本来、被曝を伴う労働に従事する人には、雇用時や配置換えの際、また6ヵ月に一度は、事業者が電離放射線健康診断を行うことが義務付けられている。しかし、福島第一原発事故に伴う国直轄の福島県田村市の除染事業の現場では、鹿島建設の下請け会社である松榮ワークスが作業員の健康診断書を偽造し、健康診断を受けさせずに作業をさせていたことが発覚。複数の作業員が「健康診断を受けたことにして」と言われたことや、受けた覚えのない自分名義の健康診断書があったことなどを証言している。
なすび氏らネットワーク側は、除染事業におけるずさんな賃金体系や健康診断の虚偽報告など、原発事故の収束作業に携わる人たちが直面している具体的な問題点を挙げて、関係する環境省・厚生労働省・国土交通省の各省に改善を求めた。
- 13:40〜15:00 環境省・厚生労働省・国土交通省交渉/15:00〜15:30 記者懇談会/16:30〜17:00 鹿島建設本社にて申し入れ
- 日時 2014年10月9日(木) 13:40~
- 場所 参議院議員会館(東京都千代田区)
作業員の健康診断書を偽造して働かせている実態
今回の政府交渉は、原発事故の収束作業に実際に携わった経験を持つA氏を交えて、被曝労働の具体的な問題点を語る場としてセッテイングされた。A氏が「今回の件の解決に向けて、調査をよろしくお願いしたい」と述べて、交渉は開始された。
まず、なすび氏は提出してある要望書について説明し、「一般健康診断書と電離放射線健康診断書の偽造問題に関して、国としてどのように把握をして、調査を行なっているのか」と問いかけた。
環境省は「下請け会社に対し、作業員に電離放射線健康診断を適正に受診させるよう指導している。こういった(偽造などの)事態はあってはならない」とした上で、今回、問題になっている元請けの鹿島建設に対しては事実関係を調査中である、と回答した。しかし、実際の雇用者である松榮ワークスが破産手続き中であり、調査には時間がかかっていると説明した。
また、健康診断書をチェックする機能については、「偽造された診断書を見抜くのは非常に困難である。作業員が少しでも疑問を抱いた場合には、担当職員に問い合わせをするようにお願いしている」と述べた。
続いて、厚生労働省が「電離放射線健康診断が実施されていない場合には、労働安全衛生法に照らして是正勧告することになっている」と説明した。さらに、健康診断を実施していないにもかかわらず、虚偽の報告をしていた松榮ワークスの問題に関連して、「当初、労働安全衛生法第66条(健康診断)違反に該当するものの、第100条(報告等)違反にはならないとしていたが、虚偽の報告については、第100条違反としても指導していく」と正式に回答した。
ずさんな放射線管理手帳の記録「自分の被曝量を知らない」
放射線管理区域相当の場所での労働に従事していながら、放射線管理手帳の発行を受けていない作業員が多数いる問題では、「きちんと業者が責任をもって記録し、その記録を本人に渡してほしい」というネットワーク側の要望に対し、環境省は「除染電離則に基づき、作業員が離職する場合は、被曝線量を教えることになっている。Aさんの元請け会社である鹿島に確認したところ、『1次下請けを通じてお知らせした』とのことである」と答えた。
これに対してA氏が「全然、連絡はない。手紙も電話も何もない」と答えると、なすび氏は「これが実態。もう一回、鹿島建設に指導を願う」と要求し、次のように続けた。
「A氏の雇用主は施工体系の中に入っていないため、その雇用主名では記録がないのだと思うが、どこが被曝情報を管理しているのかは重要なこと。また、労働者本人に被曝情報が伝わっていないのは深刻な問題だ。環境省が元請けと交わした契約に違反していることなので、環境省にはそれを正す責任がある」。
また、重層下請けの問題について、環境省は「われわれの目的は、労働者の放射線(被曝)の管理も含め、除染を適切に進めることである。鹿島建設以外の件で、5次、6次の下請けが存在する点については把握できていないが、工事施工体系図にない業者が出てくるのはあってはならないこと。この問題を重く受け止め、指名停止の措置を、元請けに対して行なうことも考えていく」と述べた。
不当に扱われる原発事故収束作業員の賃金体系