54名の死者を出し、「戦後最大の火山被害」を生み出した御嶽山の噴火。被害拡大の原因には、現在の火山学ではいまだに噴火予知が困難であることが挙げられる。
しかし、原子力規制委員会は、御嶽山の噴火を受けた今も「超巨大噴火は前兆がつかめる」との立場から、火山の噴火リスクが懸念される川内原発の適合性審査を見直すつもりはないとしている。火山の専門家は、こうした状況をどうみているのか。10月7日、日本火山学会の元会長で、噴火予知連の元委員でもある東大名誉教授・荒牧重雄氏に岩上安身が話をうかがった。
荒牧教授は、慎重に言葉を選びながらも火山の噴火予知の難しさを説明。「人類は月には行ったが、『地球の中』のことはわからない。SFとは違います。地底人がいれば、地下に何があるのか聞きたいくらい」と話し、地下のマグマ溜まりのメカニズムの把握がいかに困難かを力説する。
また、超巨大噴火の前兆をつかめる根拠として九州電力や規制委が持ちだした「ドルイット論文」について、「(論文を)一般化できると信じるのは、その人の頭がおかしいと思わざるをえません。議論はそこで終わり。あまりにもバカバカしく、取り合いたくない」と一蹴。いかに日本の原子力政策が非論理的に楽観視されているかを指摘した。
※以下、@IWJ_ch1での実況ツイートをリライトして再掲します
水蒸気噴火はマグマが上がってきた証拠!? 御嶽山が今後、マグマ噴火する可能性
岩上「今日は東大名誉教授で日本火山学会の元会長で、噴火予知連の元委員でもある荒牧重雄先生にお話をうかがいたいと思います。先生、よろしくお願いします」
荒牧教授「よろしくお願いします」
岩上「御嶽山噴火も予知できませんでしたが、火山予知は難しく、今の火山学問水準ではできない、と言われていますが、どうでしょう」
荒牧教授「予知できるかどうかはよくわかりません。敬愛する同僚の学者はみんな予知できない、と言うので、多分できないんだろうと思う」
岩上「理由はなぜでしょう」
荒牧教授「私は火山研究者です。研究するということは、対象を理解することで、個人的には理解が十分じゃない。もう少し理解すれば、世の中に役に立つ予知ももう少しできるんじゃないかな、と思っていますが、その程度です」
岩上「研究が深まっていないというのは、技術的限界があるからでしょうか?」
荒牧教授「両方です。最初は自分の頭が悪いのではないか、と自分を責めますが、技術的な部分が進歩すれば、もう少し火山のメカニズムがわかるかもしれません」
岩上「今回の御嶽山は水蒸気噴火ですが、火山弾、溶岩が出るマグマ性噴火のほうが深刻で大きいものなのでしょうか」
荒牧教授「マグマ水蒸気噴火というものもあります。マグマ性噴火のほうが強い、と言い切ることはできません。今までの論文だと、過去の巨大噴火の大抵はマグマ噴火ですね。だからあえて誤解を恐れずにいえば、マグマ噴火のほうが大きい可能性がある、とも言えるかもしれません。
地下には地下水があって、マグマはもっと深いところにあります。まだマグマと地下水が接触する前段階でも、マグマが上がってくると地下水が温められる。地下水は圧力がかかっているので沸点は高いですが、200〜300度くらいになると沸騰します。地下水が沸騰し、石を吹き飛ばして噴火するのが『水蒸気噴火』の定義です。マグマ噴火は、マグマ自体が爆発することです」
岩上「マグマの上に水がある。水蒸気噴火は、マグマが迫ってきて地表に現れる前兆、と見ることができるということでしょうか」
荒牧教授「そうでしょうね」
岩上「では今回の御嶽山も、その下にはマグマがあって、これからマグマ噴火が起こる可能性が…」
荒牧教授「大いにある。水蒸気噴火のもとはマグマの熱。マグマが地殻に来ていると思うのが人情ではありませんか」
岩上「雲仙普賢岳の噴火(※)の記憶が鮮明にあります。最初は水蒸気噴火が続いて、少し落ち着いた。しかし越年してからマグマ性の噴火が起きた。今回の御嶽山でもああいうタイプの噴火が起こると怖いな、と思いますけども」
- (※)1990年11月から噴火活動を再開した雲仙普賢岳は活発な活動を続け、1991年6月3日、噴火開始後最大規模の火砕流が発生し、死者・行方不明者43人の被害をもたらした。噴火活動は長期化し、土石流や火砕流等により家屋、道路、農地等に甚大な被害をもたらした。
- 参照 内閣府HP
荒牧教授「同意見ですね。しかし、(マグマ性の噴火につながるかどうかは)見分けられないらしい。見分けろ、と言われたらお断りします。わからない」
火山学の限界「マグマを直接観察することができない」
岩上「『マグマが直接観察することができない』ということが原因としてあるようですが」
荒牧教授「それはいいポイントです。人類は月に行きました。月まで約44万キロくらいですか。大成功したので、『地球を中心に40万キロの空間を征服した』と言ってもいいかもしれない。しかし、その征服した中に『地球の中』は入らないんです。SFとは違います。地底人がいれば地下に何があるのか聞きたいくらい。
人類は地球の中にどれほど行けるかというと、4000メートル弱しか行けないんです。地球の半径は6370キロだから、ほんのちょっとしか行けないことになります。
ボーリングの世界記録は12キロ。まだ6370キロには遠い。これはロシアの世界記録で、日本記録は6キロなんです。決して日本に技術がないわけではなく、日本の場合、どこを掘っても熱くなっちゃうんです。火山口で。熱くなると掘れないらしい。地球の中はもっと熱い。さらに掘ると、もっと熱くなります」
岩上「金さえ出せば技術は進歩する、予算をつければなんとかなる。そういってX線や超音波でマグマを透視しよう、という人もいます」
荒牧教授「CTスキャンのようなことはやっています。ある程度はスキャンできますが、人間を見るのとは違い、地球を研究している人はサンプルを取れない。ボーリングがマグマ溜まりまで到達した例は一つもない。高温、高圧でドリルの先がダメになっちゃうんです」
岩上「マグマはどれくらいの温度があるんですか?」
荒牧教授「たぶん、低くて650度。普通は900〜1200度。溶鉱炉が1500度くらいあります。つまり、マグマの温度は人間の技術で再現できます。しかし、マグマ溜まりのサンプルをとって実験結果とつき合わせることができない。『なぜ突如噴出するのか』を知りたいが、そのためには本物のマグマを分析したいんです。プレートの理論も仮説です。プレートがあるのも例えば地下100キロとか50キロですから、届かない。プレートのサンプルも取れないんです」
地震と火山は連動する? 東日本大震災に伴う巨大噴火は起こるのか
岩上「地震と火山の噴火は、どういう関係なのでしょう」
荒牧教授「3.11は千年に一度の地震と言われています。あれだけの地震も、誰一人として予知がうまくいかなかった。噴火予知はもっと難しいという人もいます。だからまぁ、当たらないと思ったほうがいい」
岩上「噴火と地震は連動している、と。貞観地震(※)のときは三陸が大津波でやられましたが、あのときに富士山も大噴火していますよね。これは連動しているのでは」 (※)平安時代前期、貞観11年(869年)に三陸沖で発生した推定M8.4以上の巨大地震で、地震と津波で1,000人以上の死者という甚大な被害が出た。貞観地震の5年前には富士山が大噴火を起こした(貞観大噴火)。
荒牧教授「連動していると言わざるを得ません。時系列で言うと」
岩上「江戸時代の宝永地震でも富士山噴火があり、連動することが過去にあった。大きな噴火、地震はこれからも連続するのでしょうか」
荒牧教授「私の答えは『Yes & No』です。よくわからない。両方ありうる。二度あることは三度あるとも言える」
岩上「川内原発の側には姶良カルデラがあって、桜島も今、噴火の頻度が高い。その上、御嶽山の噴火もありました。それでも規制委は、川内原発の適合性審査について、まったく見直さないそうです。『巨大噴火は予知できる』としているんです」
荒牧教授「予知はできないと思います」
岩上「水蒸気噴火は予知できないが、超巨大噴火は予知できるとしていますが」
荒牧教授「素人の言っていることは信じる必要ないでしょ。私には理屈がわからない」
川内原発の燃料搬出には5年かかる! それ以前に巨大噴火を予知できるのか
岩上「仮に噴火が数カ月前にわかったとして、原発を止めて燃料棒を搬出しなければなりませんが、その作業には5年かかると規制委は認めています。『5年後に巨大噴火が起こるので今から燃料を冷やします』と決断を下せるほどの前兆を得ることができるのでしょうか」
荒牧教授「それを『できる』というなら不思議ですね。5年前に予知できる可能性は低い。それはもうサイエンスではないですよ」
岩上「政府は47の火山でモニタリングしていますね」
荒牧教授「マグマ性でも予知は疑わしい。5年前にわかるかといえば、ますます疑わしい」
岩上「規制委は川内原発の火山リスクが小さい根拠に、サントリーニ火山のミノワ噴火について『噴火直前の100年の間にマグマが急にあがった』と書いた『ドルイット論文』を持ち出していますが、本人がカルデラ一般で述べたわけではない、と言っているんですよね」。
荒牧教授「議論になっていないですね。バカバカしい。私も個人的に知っていますが、ドルイットさんが、『特定の噴火に対する自分個人の意見だ』と言っている。私もサントリーニに行ってきたが、文明が廃れたほどの大噴火で、恐ろしい話。これが起きれば川内原発もちょっとやばい。
次の噴火もドルイットのいう通りに予想できるのであればバンザイだけど、誰も予想できるとは思わないんじゃないですか。一般化できると信じるのは、その人の頭がおかしいと思わざるをえません。議論はそこで終わり。あまりにもバカバカしいので、取り合いたくもない。
予知は難しい。では、難しいものをなぜやっているか。わからないけどやれ、というのであれば『世の中のため』とか、なにか動機付けが必要です。誤解を恐れず申し上げれば、私は、いくら努力してもわからない噴火予知を『世の中のためだからやれ』と言われたら断るね。できないんだから」
311でずれたプレート「富士山噴火のシナリオについて」
岩上「富士山も気になります。我々は富士山を静かな大人しい山だと思っているが、過去に大噴火している。そろそろ東海大地震などの大きな地震があると言われている。大きな地震や噴火が起これば、被害は桁違いですが、富士山が噴火する確率はどうでしょう」
荒牧教授「セロではないが、定量化するまではわかっていない。自分で設問してわからなくなるが、絶対にゼロじゃない。確率で言うと、10中5より下くらいだと思います」。
岩上「311の地震以降、プレートがずれて、新たな地震を呼ぶ可能性ある、とお聞きしています」
荒牧教授「可能性はありえる。僕なら新たな地震・噴火の確率が高まったほうに票を入れる。だけどそれは311の直後の話。直後は余波、余震が何百と起こるが、だんだん頻度は下がってくる」
岩上「(311から)3〜4年というのは、(地質学などで考えれば)短い時間だと思いますが、まだ余波の範囲内でしょうか」
荒牧教授「わからない。私の想像ですが、たぶん3.11直後は、火山学者はみんな、固唾を飲んで噴火を見守っていたのではないでしょうか。私を含めて。しかし、噴火しなかった。少なくとも今日まで『これぞ3.11がキッカケで噴火した』と説明できる噴火はなかった。御嶽山が311のキッカケかというと、ちょっとどうかと考えてしまう。好きで火山を研究している人間にとっては、『外れた』というわけです。
ぎゅうぎゅう押しているプレートが外れて地震が起きる。周りがぎゅーって、おしくらまんじゅうしているんだから、マグマ溜まりのマグマも圧力を感じている。それが311でボーンってはじけたんだから、マグマの圧力も下がったと考えられる。その影響で、火山が噴火する方向に動く確率が上がると私は思う。どこの火山が吹くかをみていた。おそらく日本の学者みんな。ただ、なぜ噴火しなかったかはわからない」
岩上「プレートとマグマが連動しない、ということなのでしょうか」
荒牧教授「そこまで言えるかどうか、という問題ですね。例えば気象庁は110の活火山のうち、20は311の地震に何らかの形で反応した、と発表しました。火山性微小地震が増えた火山が複数あった、と言っている。
例えば箱根山は小さな火山地震がしょっちゅう起こる。311後もたくさん起きましたが、それが徐々に下がった。富士山は全然小さな地震が起こらなかったが、3日半後に突然、富士山直下でM6.4の地震があった。火山性地震としてはものすごい大きな地震で、私も気象庁もびっくりしました」
噴火の前兆か!? 毎年1000回を超える桜島の小噴火
岩上「噴火活動が活発化している桜島はどうでしょう。82年から08年までに起こった年間の噴火回数は、1983年が643回と多く、もっとも少ない05年にはわずか17回しか噴火していません。
ところが、09年に入ると噴火回数は急増加。年間755回噴火して、83年の記録をあっさり追い抜き、翌2010年には1026回と1000回台に突入。2011年には1355回、2012年には1107回、2013年には1097回と、年間1000回台の噴火が続いていますが」 荒牧教授「桜島は1955年くらいから活発になりましたが、その前は静かだった。活発なときとそうでないときがある。桜島が死んだように静かな時、浅間山がバンバン吹いていた。大正から昭和前半にかけて。ところが昭和後半から死んだように浅間山が静かになった。
人間の一生に比べて火山の一生は長い。50年間でどうっていうのはわからない。マスコミは10年なら長いと考えるかもしれませんが、火山を見るなら、もっと数十年、数百年、数千年という長い周期で見る必要がある。
今、日本には火山研究者が少ないと言われています。僕もそう思う。後ろを振り向くと誰もいないという恐れがある。それが、噴火予知がうまくできない、ということにつながるかと思うと、これは社会問題ともいえます。そのへんを役人や政治家には考えてほしいな、と思う。
私は引退したから気楽ですが、私が第一線にいたころの日本の火山学は、世界でも一流でした。今はどうかというと、一流です。ただし、落ちかけている気がする。研究者の数が足りないから、それが心配です」