【岩上安身のIWJブログ】迫る会期末 集団的自衛権行使容認の行方と緊迫するイラク情勢 2014.6.20

記事公開日:2014.6.20 テキスト
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 本日は、6月20日金曜日。国会の会期末である6月22日まで、残り2日と迫った。安倍総理は、解釈改憲による集団的自衛権の行使容認を、今国会中に閣議決定しようと躍起になってきたが、「今国会では閣議決定しない」と、公明党との間で話し合いがつき(公明党が粘りをみせた、というポーズのためである)、閣議決定は7月4日に延ばされた。

 しかし、国会での審議を経ぬまま、与党協議のみで憲法の解釈を変更し、米国の意に沿うかたちで集団的自衛権の行使を容認することには何も変わりはない。

 公明党には、日米内外から圧力がかかっていた。ジャパン・ハンドラーの代表格の一人、マイケル・グリーン元米国家安全保障会議アジア上級部長は、6月1日、2日に来日し、ある自民党議員に以下のように語った、と6月14日付けの産経新聞は報じている。

 「東アジアで集団的自衛権を認めないのは中国共産党と日本共産党、社民党だけだ。公明党はどういう態度をとるだろうか・・・」

 この記事自体が、十分に脅しになったことだろう。

 また、小泉純一郎元総理の政治担当秘書をつとめた、現在は安倍政権のブレーンとして内閣官房参与の地位にある飯島勲氏は、6月10日にワシントンで講演し、公明党と創価学会の関係に揺さぶりをかけた。12日付けの朝日新聞は、以下のように報じている。

 「『公明党と創価学会の関係は政教一致と騒がれてきたが、内閣法制局の発言の積み重ねで政教分離ということになっている』。飯島氏は党と支持団体の関係は憲法の『政教分離原則』に反しないとする政府見解を説明しつつ、こう続けた。『法制局の発言、答弁が一気に変われば、「政教一致」が出てきてもおかしくはない』

 集団的自衛権の行使を禁じてきた従来の憲法9条の解釈について、安倍晋三首相は内閣の閣議決定で変えることができると明言する。しかし憲法学者からは、これが認められれば内閣の判断で他の条文解釈も自由に変えられるようになり、『憲法の空洞化』を招きかねないとの批判が出ている。

 政府の一員である飯島氏の発言は、こうした懸念を裏打ちし、露骨な圧力ともとれる」

 憲法解釈を内閣が恣意的に変更できるとする方が、本来間違っているのだから、公明党も創価学会も毅然と抗うべき場面だったはずである。しかし、公明党は結局、憲法の解釈による変更を認める方向へと寄り添っていってしまう。

 当初は抵抗する素振りを見せていた公明党は、結局のところ、どこまでも与党として自民党にくっついてゆく「下駄の雪」に過ぎなかった。公明党は、自民党の高村正彦副総裁による「新3要件」の提示を受け、事態を限定して容認する方向で最終調整に入った。

 安倍総理は5月15日、私的諮問機関「安保法制懇(安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会)」からの提言をうけ、赤ちゃんを抱いたお母さんやご老人のイラスト入りで、「米国の輸送艦で日本人が救出された時、その輸送艦が攻撃されたら、日本の自衛艦が防衛するのは当然ではないか」と情緒的に訴えた。

 しかし、安倍総理のこの説明が、国民をあざむく真っ赤な嘘だったことが明らかになっている。

 6月11日、民主党の辻元清美議員が外務委員会で、米国の国務省と国防総省の「避難民に関する合意書」を持ちだして政府を追及した。この文書の中で米国政府は、「国務省は外国政府と自国民の退避について、正式の協定を締結することを控えている」「各国は米国をあてにせず、自国民を救出せよ」と言及しているのである。

 つまり、米国の艦船は、日本人だろうと何人だろうと、外国人を救出しないのである。安倍総理が、解釈改憲による集団的自衛権行使容認のために持ちだした事例は、万が一にもあり得ないものなのだ。過去にも救出事例は一件もない。今後もありえない。しかも、辻元議員の質問にこたえて、その事実を国会で政府はなんとあっさりと認めたのである。

※辻元清美ブログ(【URL】

 安倍総理は、いったいなぜ、これほどまであからさまな嘘までついて、集団的自衛権の行使容認を急ぐのか。安倍総理は国会の答弁の中で、「年末に控えた日米ガイドライン改定のために急ぎたい」と述べている。このことからも、米国の意向を忖度していることは、火を見るより明らかだ。公明党は自民党にべったりくっついてゆく「下駄の雪」だが、自民党と日本政府は、米国のご意向であらば国民に嘘をついてでもつき従ってゆく「犬の尻尾」である。情けない話ではないか。

日本はどこの戦争に巻き込まれてゆくのか

 集団的自衛権行使容認をこれほどまで急ぐのは、武力行使の現場に自衛隊を赴かせる必要性が目前に迫っているからである、と考えるのが妥当である。日本人の血が流れたり、日本人が外国人の血を流したりする日は近い、と言わなくてはならない。

 では、集団的自衛権の行使により、日本の自衛隊員が赴くことになる戦場はどこか。現在のところ、2つの可能性が考えられる。

 ひとつは、内戦による激しい混乱が続く、ウクライナ東部だ。安倍総理は、4月末から5月初旬にかけての欧州歴訪で、NATOの軍事協力に参加するための下地作りに勤しんだ。

 そのNATOは、6月上旬から、バルト海沿岸で史上最大の軍事演習を行い、ウクライナ情勢で対立するロシアと軍事的緊張状態にある。自衛隊が集団的自衛権行使容認によってNATOの軍事行動の一翼を担うことになれば、おのずと、戦場となるウクライナ東部に派遣される可能性が強まる。

 もうひとつは、中東に派遣される可能性だ。こちらのほうが、より有力な候補と見られる。昨年、米国とイギリスが軍事介入を行う姿勢を見せ、ロシアの干渉によりぎりぎりの所で空爆が回避されたシリアは、いまだアサド政権側と反体制派との武力衝突が収まる気配を見せない。

 さらに、ここにきて急展開を見せているのが、イラク情勢だ。スンニ派の武装組織「イラクとシリアのイスラム国(ISIS)」が、イラク第2の都市モスル、ティクリートを次々と制圧し、首都バグダッドに迫っている。

 これに対してオバマ大統領は、6月12日、「いかなる選択肢も排除しない」と述べ、ISISが支配する地域への空爆も排除しない考えも示した。昨年のシリア危機再び、である。気の早い人は、第三次イラク戦争の始まりか、とすら言い出す人もいるし、イラクは解体され、クルド人と、シーア派と、スンニ派の人々の国に3分割されるのではないか、という声まであがっている。

 しかし、理不尽な暴力の横行に誰も彼もが鈍感になってしまったものだ、と思う。

 さんざん非難されたブッシュでさえ、イラクへ攻撃を行う際には、アルカイダとフセインのつながり(そんなものはなかったが)や、大量破壊兵器の存在(そんなものもなかったが)を、軍事侵攻の理由とした。でっちあげの旗であれ、戦争の大義を掲げてみせたのである。

 ところが、オバマは、空爆のための理由をとりつくろうことすらしない。イラクは独立した主権国家のはずである。その国の内部の内乱、内戦に対し、一方のサイドに空爆を敢行することに、何の理屈も用意せず、何のためらいもみせない。なぜ誰も、国際法違反であると、オバマに教えてやらないのだろうか?

 集団的自衛権の行使を容認するということは、米国による空爆の危機に瀕するシリアやイラクのような中東諸国に対して、自衛隊が派遣される可能性がある、ということなのである。もちろん、テロによる報復を受けることは覚悟しなくてはならない。必要ならばそれも仕方ない、断固として戦うべきだ、という声が出ることはわかっている。だが、誰と戦う? ついこの間まで、ホルムズ海峡やペルシャ湾に掃海艇を出せ、と言われていたのは、イランを「仮想敵」とした戦闘だったはずだ。それが今や、ISISの台頭で、シーア派のイランが色めき立ち、あげく、仇同士だったはずの米国とイランが急接近している。誰が敵で誰が味方か、めまぐるしく変わるこの世界で、主体性なく、同盟軍に追随してゆくことだけを意味する集団的自衛権の発動での武力行使がどれだけ愚かしいか、わからないのだろうか。

大義もなく、国益もない戦争という愚行に突入するための準備

 愚行を遂行するには、目を閉じ、耳をふさぎ、頭で考えるのをやめなくてはならない。そうでなければ遂行できない。

 そう考えてみると、この集団的自衛権行使容認とセットにして、昨年末に日本版NSCが発足し、さらに、国民の広範な反対の声にもかかわらず、昨年12月8日に特定秘密保護法が強行裁決された理由がわかるというものである。これから日本は、大義もなければ国益もない、愚行中の愚行である戦争に突入する。そのために、目と耳と頭を奪う必要があったのだ。

 特定秘密保護法が、日本の民主主義の根幹を揺るがす”稀代の悪法”であることを、IWJはこれまで繰り返し報じてきた。特定秘密保護法は、国民の「知る権利」の尊重をうたった国際ルール「ツワネ原則」にも違反している。

 「ツワネ原則」とは、50項目から「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」の通称。「安全保障のための秘密保護」と「知る権利の確保」という対立する2つの課題の両立を図るため、世界70カ国以上から500人を超える専門家により議論され、2013年6月に南アフリカの都市・ツワネで採択された。

 5月上旬、その「ツワネ原則」の作成に深く関わった元米国防総省高官であるモートン・ハルペリン氏が来日し、各所で行われた集会やシンポジウムに参加した。

 ハルペリン氏は、「ツワネ原則」の作成者である以前に、国防総省の高官であり、米国の戦争遂行の司令部となるNSC(国家安全保障会議)の元高官でもある。安全保障上の機密保護にも自ら携わった。そうした「タカ派」的な経歴をもつハルペリン氏ですら、日本の秘密保護法をみて、たまりかねたように「日本の秘密保護法は21世紀の民主国家における最悪の秘密保護法制である」と批判の声をあげた。

 来日したハルペリン氏は、特定秘密保護法だけでなく、日本の原発政策と核保有、歴史修正主義、憲法改正などの動きについて、米国政府がどのように考えているか、日本の各界各層に対して、広くメッセージを投げかけた。

 外交・安全保障政策のプロフェッショナルが、日本を「戦争のできる国」に作り変えようとする安倍政権に対して強い警鐘を発する、必読のインタビューである。

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「【岩上安身のIWJブログ】迫る会期末 集団的自衛権行使容認の行方と緊迫するイラク情勢」への2件のフィードバック

  1. hotaka43 より:

     平和ボケと言っている人間が、自分達の方がボケていることに気付いていないんですから、この国は終わっています。
     平和、平和と云ってきた人々がいたから、自分達が生き延びられてきた。生まれて来れたことに気付いていないのです。考えて見て下さい。そのような方々が居なかったならば、下手をすれば父親が存在しないのです。居たとしても両親が一時でも離れ離れになってれば、「平和ボケ」と発言している、その人間は存在できなかったのです。更にその云っている本人自身が戦場に送り出されていたかも知れません。そうなっていれば泥水や砂塵に塗れていたか、海の藻屑だったかも知れないのです。
     そこまで考えられない様に、既存メディアや動画サイトと書き込みサイトを利用しているのが、今の自民党政権です。完全に洗脳です。

  2. @v1s3_ryさん(ツイッターのご意見より) より:

    公明党は自民党にべったりくっついてゆく「下駄の雪」だが、自民党と日本政府は、米国のご意向であらば国民に嘘をついてでもついてゆく「犬の尻尾」である。

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