「5月15日の安倍総理の会見から、何だか胡散臭いね、という空気が広まっていると感じる。そういう中で公明党が今、岐路に立たされているが、これで閣議決定したって、そうすんなりと事が進むはずはない」──。
2014年6月13日(金)、神戸市のあすてっぷKOBEで「集団的自衛行使問題緊急学習講演会『日本は戦争する国にはなりません』ってホント?」が行われた。防衛官僚として、また、内閣官房副長官補として安全保障の問題に長らく関わってきた柳澤協二氏(国際地政学研究所理事長)が、「安倍政権の安保政策~何を目指すのか、日本のためになるのか」と題して講演を行った。講演で柳澤氏は、安倍政権の進める集団的自衛権行使容認の問題点を詳細に論じた。
柳澤氏は、集団的自衛権の行使を巡る安倍総理の記者会見について、「突っ込みどころ満載」と評し、1972年の政府見解を盛り込んだ自衛権発動の新3要件の矛盾や、集団的自衛権にまつわる誤解や都合の良い想定を、次々に指摘していった。
自民党の経年変化
「最近、なぜか私は、護憲派の星のような存在になってしまった。先日、自民党に呼ばれて講演してきたのだが、彼らの私に対する批判のひとつは『政府にいたくせに、なぜ裏切るのか』というもの。しかし私は、歴代自民党政権の公式見解を言っているだけだ。今の政権が勝手に右に行ってしまったので、取り残された私が左に寄ったように見えるだけ」。
このように前置きした柳澤氏は、「昔であれば、安倍さんのような飛び跳ねた人は総理大臣になれなかった。いろんな利益代表が集まってバランスを重視してやってきたから、自民党は長期政権を維持できたのだ。しかし、今、政権の握り方がまったく違ってきた」と話す。
かつての自民党には古賀誠氏や加藤紘一氏のような人がいて、「とにかく2度と戦争をしてはいけない」という共通の価値判断があった、と言う柳澤氏。「それが世代交代で、戦争を知らない人が登場して来るから、どのように日本の将来を展望していいのかわからなくなる。わからない時に一番人気を得やすいのは、勇ましい意見なのである」。
5.15総理会見は「内閣の危機管理の失敗」
柳澤氏は、安倍総理が安保法制懇の報告を受けて5月15日に行った、集団的自衛権行使を巡る記者会見について、総理が説明に使ったパネルを示して、次のように語った。
「私はこれを見た時、ずっこけてしまった。あまりにも典型的なシンボル操作。『おじいさんやおばあさんが…』と、国民受けしそうな例を選んでいる。会見ではいろんな質問が出たが、総理の答えは必ずここに戻って、『日本国民の生命を守るのが私の憲法上の使命です』となる」。
「私が現職(内閣官房副長官補)の時も、こういう想定はしょっちゅうやっていた。海外情勢が緊張すれば、外務省が渡航注意の情報を出す。この絵にあるような赤ちゃん連れのお母さんは、そういう段階で民間機で帰国する。事情があって取り残された邦人がいたら、私たちのプランでは自衛隊機でピストン輸送して3日で終える」。
「また、本当に危ない時に民間人を運ぶのか。今の自衛隊法でも『経路の安全が確保されていなければ運ばない』としている。危険な状況で民間人を運んで、犠牲者が出たら内閣としてどう責任を取るのか」。
「だから、私はこのパネルを見た時、『内閣の危機管理の失敗のケースだ』と思った。政策的な必要性も論証されていないし、そもそも北朝鮮が韓国のソウルを占領しなければ、こういう事態は起こらない。食うや食わずの北朝鮮に戦争をする力があるとは思えない。とにかく、突っ込みどころ満載の会見だった」。
1972年の政府見解を持ち出した末の論理矛盾
そして、集団的自衛権を使えるようにするため、自民党が自衛権発動の新3要件のひとつに1972年の政府見解の文言を盛り込み、「我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるおそれがあること」としたことについて、柳澤氏は異議を唱える。
「我が国に対する武力攻撃が発生するがゆえに、我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるおそれがあるのだから、そういう時に限っては自衛権の行使を禁止していない。つまり、個別的自衛権までは、こういう場合には許さなくてはいけないね、というのが60年安保以来の政府解釈。1972年の見解も、それを踏襲している」。
「だから、今回の『他国に対する武力攻撃が、わが国の存立を覆す』というのは論理矛盾だ。こんな粗雑な文章は中学生のテストでもバツだろう」と切り捨てた。
安倍総理が酔う「血の同盟」。それはいったい誰の血か?
「自衛隊は、今の法律で離島防衛を十分できる。実は、具体的に自衛隊に何をさせたいのか、政治が考えていないのだ。グレーなのは法律ではなく、政治家の頭の中」
閣議決定に向かう今、 重要な講演。公開感謝。
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