【岩上安身のツイ録】アフリカについての世界トップクラスの研究者・舩田クラーセンさやか氏インタビュー報告 2014.5.27

記事公開日:2014.5.27 テキスト
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※5月27日の連投ツイート、岩上安身による舩田クラーセンさやか氏インタビューの報告を再掲します。
※インタビュー動画記事はこちらから
※記事をボリュームアップしました(5月31日)

 これより3月21日に行われた、岩上安身による舩田クラーセンさやか・東京外国語大学大学院准教授(現在は休職中)インタビューの模様を報告します。舩田氏はモザンビークを中心に、ポルトガル語圏アフリカ諸国の研究を精力的に続けている、世界トップクラスのアフリカ研究者。当日の体調が万全でない中、ご自宅でのインタビューに応じていただいた。この場であらためて御礼を申し上げたい。

岩上安身「米川正子さん(元UNHCR職員・立教大学特任准教授)の紹介で今回のインタビューをお願いしました。安倍政権がアフリカ進出を狙う時、アフリカでは何が起きているのか理解して話せるのは舩田さんしかいないと、熱いプッシュを受けました」

  • 安倍首相、リスボンで首脳会談へ ポルトガル語圏の資源国と連携狙う(産経新聞 2014年5月3日)※記事削除

舩田氏「(笑)」

舩田氏「マンデラ氏は日本では聖人という側面しか知られていませんが、解放運動に武装闘争を持ち込んだ人物でもある。南部アフリカ地域は解放の波が最後に流れ着いた場所。そこでは武力をもってしか解放されなかった歴史がある。その動態を見る必要があります」

岩上「欧州によるアフリカ支配の起源はどこまで溯るのでしょうか」

舩田氏「19世紀末以降の熱帯医学の発達によりアフリカの内陸部への進出が可能に。それ以前は沿岸部か島嶼部にしか拠点を置けなかった。そこで内陸から連れてこられた奴隷を受けとり、輸出した。

 熱帯医学に限らず、文化人類学、地理学、言語学も、異民族を理解して支配しようという発想から出ていることが多い。なぜ研究するのか、どこで誰として生きるのかを深く考えるときに、このことを抜きしてはいけない」

岩上「オバマ夫妻が(2013年6月に)アフリカを訪問した際、奴隷輸出をした海岸から海をみるシーンの写真などが外信で伝えられた」

舩田氏「国連のスタッフとして紛争が終わったモザンビークに行きました。国連のキャップを被り市民教育をする私を見つめる眼差しが痛かった。その人たちが何を考えどう生きていたのかを知れば、自分とこの人たちとの関係を考え直すことができるかと思いました」

舩田氏「植民地主義の背景を知りたければ、白人の進出以前を知らなければならない。アフリカには文字がありませんが、記憶を口伝えする文化がある。私の著書では聞き取り調査を行い、19世紀始めから20世紀後半までの歴史は描けたかなと。10年かかりました」

 我々は、なぜ欧州の植民地主義が、アフリカ(そしてアジアや他の地域)でどのようにその土地の住民を隷属させ、資源や土地などの富を奪い、ついには奴隷化させたのか、その生々しい手口を、今だからこそ、洗い直すように調べる必要がある。

 冷戦後に登場したグローバリズムの波、そして9.11以降に出現した米国という帝国の一極支配の中で、新植民地主義のグロテスクな素顔がむき出しになりつつあるからである。

 人を奴隷にする「手口」について、舩田氏はずばり、「奴隷を生み出したければ、戦争を生み出せばいい」と言い切った。

 核心を言いあてられたようでドキッとする。日本の集団的自衛権行使容認と武器輸出三原則の緩和、米国に煽られながら、ウクライナで起きている事実上の「内戦」、シリアの反体制派への米国の過剰な肩入れなど、様々な事例が即座に浮かぶ。

舩田氏「奴隷を生み出したければ、戦争を生み出せばいい。アフリカの王様に武器を渡し、抗争させて負けた方が奴隷に。欧州が内陸部に進出するとアフリカ側は徹底抗戦するが、銃弾を断たれ敗北していく。奴隷を生み出した社会構造は欧州由来であることを理解するべきです。

 もともとインド洋はアフリカ、エジプト、ベネツィア、インド、中国まで包含する大交易圏。大航海時代に欧州を頂点とした交易網への再編が開始され、グローバリゼーションの根幹となっている。その流れの中でアフリカ人は奴隷という形で商品化された。

 支配/被支配の関係は内面化していく。支配が終わった後も被支配を生き続ける。奴隷のキャラバンを見たという人にインタビューしたことがありますが、足かせの音が遠くから聞こえてくる、ということを言い伝えていました」

舩田氏「モザンビーク内だけでも26の民族。アフリカ大陸には1200の言語がある。2600という説もある。問いは『民主統治』の問題だと思います。民主的に少数派も含めて国の財産が分配される権利が保証されることに尽きる。

 植民地支配を脱して、『モザンビーク人』『アンゴラ人』となる。しかし、アンゴラでは白人による植民地支配から、黒人の一党独裁の支配に移行しただけです。民衆から見て何が変わったといえるのか、という問いですよね。

 欧州の産業革命以降、原材料が必要になる。欧州の目の前のアフリカは一番近い供給源。同時にアフリカで労働者が必要となるので、奴隷を他地域に売り渡すのは合理的でなくなる。内陸部統治とともに鉱山資源の採掘、プランテーション経営が開始される。

 でも、アフリカの人が白人のために働いたのはなぜでしょうか?」

 舩田氏のこのなぞなぞの答えは、意外で、そしていたってシンプルなものだった。「課税」なのだというのだ。

 これもドキッとさせられる。消費税増税にアップアップの我々のことを言われているのではないか、と。

 「白人は税金を課すことを始めた。労働報酬が発生し、もはや奴隷ではないのですが、税金を払うために労働をさせられることになる。

 ワシントン・コンセンサス(※1)が世界に広まり一番たいへんな目にあったのはアフリカで、ルワンダ虐殺の背景にもこれがあります。急激な緊縮財政・民営化が、パンやガソリンの値上げにつながる。一番につらいのはぎりぎりに生きる人たち。

 すべて市場の原理で、水でも医療でも学校でも保険でも、任せればいい、ということはない。困った人が救われる社会であることが重要です」

(※1)新古典派経済学の理論を共通の基盤として、米政府やIMF、世界銀行などの国際機関が発展途上国へ勧告する政策の総称。構造調整政策もその1つである。米財務省や上記の国際機関、さらに著名なシンクタンクが米国の首都にあることから名付けられた。市場原理を重視するところに特徴がある。貿易、投資の自由化、公的部門の民営化、政府介入を極小化すること、通貨危機に対しては財政緊縮、金融引き締めを提言する。クリントン政権のルービンなど米国政府の財務長官に金融界出身者が多いことから、米系金融機関の利益を図る路線になりやすいともいわれる。(kotobankより知恵蔵2014の解説・石見徹東京大学教授)

岩上「帝国主義時代のテクニックがリニューアルされて現在使われている。今ようやく人びとが気づき始めている。話を戻しますが、植民地において、どうやって税金を払う労働者としての内面化は起きたのでしょうか」

舩田氏「今、わたしたちは近代国家が整備してきた統治のための鎖につながれています。税金、戸籍、土地測量、といったしくみに組み込んでいく。

 もう一つ重要なのは、仲間うちでの対立を生み出す構造があったこと。アフリカ社会は移動農耕で富の平準化があったが、植民地側は村の有力者を植民地行政の末端に組み込む。給与を払い、子弟をキリスト教の教育を受けさせる。

 ただ、人間の限界と可能性があり、多くの人は明日の生活や立場を背負い生きている。植民地側の顏をしながら、夜は抵抗運動をしていた人もいたし、そうでない人もいた。そういう襞があったことは確か。

 それでも、国家を統治するさまざまな手法が機能し、『しくみ』になり、『正しいこと』となったときに、いつの間にか税金を払うことが当たり前のことになる。その他には、布を買う場所は白人の店に限られていた。

 縛られないことをどうやって実現することに私にも答えはないが、縛られている事実は意識にあったほうがいい。今、自分が何かに縛られていることに気づいて、自分を解放するために何ができるのか」

岩上「まず、縛られていることに、自ら気がつかなくてはなりませんね」

舩田氏「日本で気づくのは難しい。モザンビークの僻地に留学した教え子が農家での体験をメールで伝えてきました。1日1ドル以下の絶対的貧困という指標でも測れない自給自足生活。一緒に暮らす中で、彼らの豊かさに気づかされた、自分達ですべて作り出していると、力強さに驚いている。

 現場には答えがありますが、本も持っていって欲しい。現場で見ている現実が、どのような構造の中で起こっているのか知り、モザンビークの農作物がニューヨークの市場とどうつながり、植民地の過去とどうつながっているのかを考えるために。

 ある種の人びとが頂点に立つ、儲けの構造が、現在きわまっている。一時的には帝国主義、植民地支配は恥ずかしいという考えや、世界の資本主義化の中で貧しさを余儀なくされた人たちがいる、その不正は是正されなくてはいけないという共通理解があった。正義はある、という議論が生まれつつあった。

 ところが、9.11以降は正義の解釈が違うものとなった。自分たちの地位、富、安全を囲いこまなくてはならないという危機感を欧米諸国が持つようになった。再び世界はブロック化していく」

岩上「今日起きつつあるブロック化というのは、集団安全保障と自由貿易協定ですね」

舩田氏「国家はツールとなりつつあります。アグリビジネスを取り上げると、畑だけの支配から、食卓まで取り込むバリューチェーン(※2)の支配に力を入れている。その時に米国の企業である必要はない。同様に、もはや労働者の国籍は重要ではなくなる。

 国家がどうあるべきかの哲学が、19世紀末から変わっていない。トリクルダウン、GDP成長のような、1+1が2であるという簡略化された理解がトップ・エリートの中ではびこっている。1+1が2にならない現実に生きている生活者との断絶がある。

 安倍さんがモザンビークで約束してきたナカラ回廊開発(※3)。ナカラ回廊は植民地時代からある内陸から港へ向かう交通路です。モザンビークはかつては農業立国でしたが、石炭、天然ガスの埋蔵量が豊富だと知られてきた。資源国は独裁になりやすい。

 資源が発見される場所にはもともと人が住んでいる。こういう場所でランドグラビング(土地収奪)が起こる。たとえばある土地に埋蔵資源があるとして、その土地を鉱区とした場合、その地域の権益が売り渡される。それとともに、その土地の住民の立場は企業の配慮で住まわせてもらっているという立場になってしまう。植民地時代のコンセッション方式(※4)と同じです。

 行政は存在しており、本来は企業と住民との交渉をモニターする責任がありますが、企業のやりたいようにさせています。土地を手に入れれば資源、水、農地を得ることになる。土地を手に入れることは、勝利することになります。

 モザンビークのランドグラッビングは世界で5位。だいたい217ヘクタールという面積は日本の全農地の約半分の広さに相当します。最近は世界銀行も強制立ち退きをともなう開発計画には融資しない方針をとっている。ラテンアメリカでは土地の強制収奪は難しくなっています。

 日本は大豆の大消費地です。多様化が必要という理由で、モザンビークに目をつけた。とうもろこしと大豆の供給源の多角化を考えるときに、モデルとされたのがブラジルで事例のある大規模プランテーション方式です。このアイデアは20世紀初頭の植民地主義的発想です。

 ブラジルでこの事例があるのは、当時のブラジルが軍事独裁政権下だったから。実際には、このモデルは破綻していると考えたほうがいい。むしろ土地を分割して小農方式にしたほうが生産性がよいという研究があるのです。

 ナカラ回廊沿いに大規模農地を開発しようとするプロサバンナ事業(※5)が、日本の援助という形で行われています。その反対運動連合体UNAC代表のマフィゴ氏が北海道で地元の農家と交流しました。反TPPグループが受け入れをしてくれました。IWJがその模様を中継してくれています。

 マフィゴ氏は日本の小農も同じような立場に置かれていることに驚きます。このようなことは世界大で起こっている、食と農を巡るシステムの最終段階にあると双方が自覚し、日本もモザンビークも最後の戦いをしていると連帯を誓った。

 モザンビークの人たちは怒っていると言っています。自分たちはかつて解放闘争を人間の尊厳のために戦った。それを可能にしてくれたのが土地。プランテーション化された土地を取り戻し、細々と耕してきた。飢えからの解放も畑があったから可能だった。

 モザンビークの若者のエリートは、畑があったから学校に行けた、と口を揃えます。政府は、石炭、資源に加え、畑すら奪おうとする。そこに農民の怒りがある。そして、そこに乗っかっている日本政府の援助や投資の問題がある。

 私たちは消費者として金のパワーで何でも買えると思っていますが、生命としては食べさせてもらっている。見えない鎖がついている私たちマスとしての消費者、納税者が、一人に戻って考えるしかない」

(※2)マイケル・ポーター (1985) が著書『競争優位の戦略』の中で用いた言葉。価値連鎖(かちれんさ)と邦訳される。ポーターはバリュー・チェーンの活動を主活動と支援活動に分類した。主活動は購買物流 (inbound logistics)、オペレーション(製造)、出荷物流 (outbound logistics)、マーケティング・販売、サービスからなり、支援活動は企業インフラ、人材資源管理、技術開発、調達から構成される。バリュー・チェーンという言葉が示すとおり、購買した原材料等に対して、各プロセスにて価値(バリュー)を付加していくことが企業の主活動であるというコンセプトに基づいたものである。(売上)-(主活動および支援活動のコスト)=利益(マージン)であるため、図示した場合にはバリュー・チェーンの最下流にマージンと記載される。(Wikipediaより)

(※3)モザンビーク北部のナカラ経済回廊地域は、石炭などの天然資源や広大な土地、水資源などに恵まれ、天然の良港であるナカラ港を基軸とした開発・産業振興が期待されています。日本や各国ドナーによる支援や民間企業による投資活動が活発化していますが、同国政府は北部地域の開発計画を有しておらず、全体像や開発の規範がないまま虫食い状態の開発が進行しています。この協力では、同回廊に関する開発の制約・促進要因の分析を行い、開発戦略策定のための調査を行います。これにより、資源の適切な管理、適切な民間投資の促進を目指します。(JICAサイトより)

(※4)ある特定の地理的範囲や事業範囲において、事業者が免許や契約によって独占的な営業権を与えられたうえで行われる事業の方式を指す。(Wikipediaより)

(※5)正式には「日本・ブラジル・モザンビーク三角協力による熱帯サバンナ農業開発プログラム」と言い、モザンビーク北部地域の千四百万ヘクタール(日本の耕作面積の三倍)を対象に行なわれる一大農業開発事業である。「三角協力」とあるように、七〇年代日本がブラジルで行なった大規模農業開発事業(セラード開発、下枠参照)を成功モデルとして、日本とブラジルが連携してモザンビークで実施しようとするもので、その規模は中小農民四十万人に直接、間接的には三百六十万人の農業生産者に裨益(ひえき)すると謳われている。(JVC 高橋清貴・「モザンビーク・プロサバンナ事業とは何か?」より)

岩上「いろいろなテーマを思いださせるお話です。築地の移転先も大規模チェーンに都合の良いシステムが前提されている。小規模小売業者は排除される。日本中で起きていることです」

舩田氏「今の話はある人にとっては『何が悪いの』という話になりますね。『農の福祉力』という著書のある池上甲一先生の取り組みもあまり知られていない。一人一人にどう考えてもらうかという課題がありますが、私の教員という立場ではゼミで限界集落に通うということをしています。

 大きなシステムの中で一番苦しみを強いられる人びとから何を学べるのか、私にとっての課題は同じ。大学人として日本と世界のリアルな課題を現場から考えてほしいと訴えたい。ただ、現地の人の声は『弱者』の声ではなく、立派で、強く、限りなく果敢ない。

 プロサバンナが問題であることを現地の人々が2010年に世界に発信しました。私にコンタクトがあり、その後、現地を調査し、報告書を作りました。農民200人くらいの話を聴き、日本の関係者に現地のことを勉強してほしいと訴えているところです。

 報告書の4章で、モザンビークではどういう農業が営まれてきたのかを描きました。援助する側は焼き畑だからダメだという。しかし調べると、創意工夫のある生産様式があり、飢えへの対応性があり、環境変化に強い品種を使い分けていることが分かった。

 統計にあらわれないが、栄養価が高い食物を子供たちが食べている。そういう農業を否定して潰そうというのはおかしいということは訴えたい。

 『食料安全保障と影響のためのG8アライアンス』の中身は、土地と種の支配。ここにシンジェンタやモンサントが入り込んでいる。もはや土地に縛りつけることはないが、農民が日々使う種、生産手段を奪ってしまう。

 我々が安いと思って食べているうちに、我々の身体も支配されていく」

岩上「まさにTPPと同じ問題です」

舩田氏「それを農民・農業の問題と考えていることが間違い。金でもっと安く買えるということが、我々の将来を狭めている。問題は当事者の我々が気づかないこと」

岩上「政府による操作もあり、それに足並みを揃えるメディアの責任もあります」。舩田氏「教育の課題も大きい。大学入試のあり方が、小学校まで規定している。大学も国や企業に口を出されて動けない」

舩田氏「大学人として、疑うことを若い人たちにしてもらう教育をしなければ。だからメディアも頑張って欲しい」

岩上「皆さんIWJの会員になってください(笑)」

舩田氏「これも多様性です。お金を使うときに何に使うのかを考えなければ。最後は一人一人の気づきと連帯です。こうやって撮影されコンテンツとなることで、考える材料となることは大事。そういうものが失われるのつらいです」

岩上「IWJはそう簡単には失われません(笑)」

 以上で舩田先生へのインタビューの報告ツイートを終了します。(了)

インタビューの動画全編は、5/31まで非会員の方にも特別公開中!

※「IWJはそう簡単には失われない」と公約しましたが、IWJは財政の崖っぷちです。どうぞご支援をお願いします。岩上安身からの報告とお願い。第三期収支報告(2014年5月29日発表)

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