【IWJ追跡検証レポート】スクープ証言! 規制緩和で傷つくのは誰か 名神高速バス逆走事故から教訓とすべきこと 2014.5.19

記事公開日:2014.5.19 テキスト
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(取材・記事:IWJ 平山茂樹)

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 4月20日に発生した、名神高速一宮ジャンクションでのバス逆走事故。2012年5月に7人が死亡した関越自動車道高速ツアーバス事故以来となる、観光バスによる大事故だ。なぜ、観光バスの事故はなくならないのか。その背景には、規制緩和によって競争が激化し、安全性を軽視せざるをえない観光バス業界の驚くべき実態があった!

  ニュースの「その後」を追跡しながら検証する「IWJ追跡検証レポート」第一弾! TPPや国家戦略特区など、安倍政権によるさらなる規制緩和が強引に進められるなか、実際に観光バス会社に勤務した経験者による、衝撃の「内部告発」をレポートする!

日本のバス管理、規制緩和で「事後チェック」へ

 多くの観光客や家族連れにより、行楽や帰省で飛行機や新幹線といった各種交通機関がごった返すゴールデンウィークから、はや2週間が経過した。ぎゅうぎゅうにすし詰めになりながら、やっとの思いで目的地に到着したという人も少なくないだろう。

 ゴールデンウィークのような行楽シーズンに頻発するのが、高速道路での渋滞にともなう自動車事故である。特に観光バスは、運転手の居眠りなどを原因とした事故が、毎年のように報告されている。

 今年のゴールデンウィーク直前にも、観光バスによる事故が発生した。しかし、その背景を取材すると、単なる運転手のミスにはとどまらない、バス業界全体に蔓延する、驚きの実態が浮かび上がってきた――。

 4月20日、愛知県一宮市大和町の名神高速一宮ジャンクション付近で、2階建ての観光バスが中央分離帯のガードレールを突き破って上り線に進入して逆走し、乗用車など十数台と次々に衝突。バスを運転していたバス会社社長の男性は愛知県警の調べに対し、「居眠りをしていた」などと話しているという。

  • 観光バス、中央分離帯越え逆走 名神高速、十数台と事故(朝日新聞、4月20日)(該当ページ削除)

 4月22日に放送されたテレビ朝日「モーニングバード!」でこのニュースが取り上げられた際、レギュラーコメンテーターとして出演している岩上安身は、「韓国の旅客船事故と同様、この事故の背景にも規制緩和がある」とコメントし、規制緩和によってバスの安全性の確認が事前チェックから事後チェックに変更されてしまったことの問題点を指摘した。

 「この事故も、バックグラウンドにあるのは、やはり規制緩和です。10年あまりでバス業者は倍増していますが、がバス1台あたりの利益は3割減となっています。だから、ひたすらコストカットをしないと、経営が成り立たないという会社だらけになっています。ギリギリのところで過当競争をやっているのです。

 これは事故が起きるたびに指摘がされてきているのですが、事後にチェックするように日本はシステムを変えてしまいました。以前は事前の行政指導で一定の規制をかけていました。しかし、規制の緩和で事後にチェックするということになってしまいました。これでは、事故後にチェックということになっていかざるを得ません。全国のバス12万6千台を監査する人員は、全国で300人くらいしかいません。これでは、事実上、監査はできないと言えるでしょう」

 バス事故といえば、2012年5月に発生した、関越自動車道で7人が死亡した高速ツアーバス事故が記憶に新しい。バスの運行会社「陸援隊」は、規制緩和による過当競争の中、コストカットをするために、運転手を日雇いで雇用。運転手の勤怠管理や健康状態のチェックをなおざりにするなど、ずさんな安全管理体制が明らかとなった。

 バスをはじめ、自動車や航空輸送の安全性のチェック体制について、行政の対応は「事前チェック」から「事後チェック」へと移行している。2007年の国土交通白書には、次のように記載されている。

 「従来は、事業の開始前に行政が積極的に介入する、いわば『事前チェック』型の行政が展開されてきた。しかし、大幅な規制緩和を行った今、このような行政のあり方も抜本的に転換する必要がある。今後も、事業者の参入に際して安全性要件を審査する等、最低限の事前チェックは必要である。しかし、それ以外の事前チェックは必要最小限のものとし、事業者の自由な参入を促進するべきである」

 事業者の参入障壁を低くするため、安全性の管理体制を、「事前チェック」から「事後チェック」へと緩和する、というのである。しかし、「事後」というのはどの時点を指すのだろうか。「事後」が「事故後」であっては、とりかえしのつかないことになる。

観光バス業界、驚くべきダンピングの実態

 上述した規制緩和に輪をかけるようにして観光用バスの安全性を蔑ろにしているのが、バス会社と旅行会社による過当競争と、その結果として生じるダンピング(不当廉売)である。

 1ヶ月弱、関東にある某観光バス会社で運転手としてアルバイトで勤務したAさん(50代・男性)は、IWJの取材に対し、バス業界の驚くべき実態を赤裸々に証言した。

 「まず、雇用契約書というものがありません。そんな”立派”なものはないんです。健康診断も、会社が手配するのではなく、自費で受けさせられました。もちろん、しっかりとした勤怠管理もありません。その会社は、運転手はほぼ全員が、アルバイトか日雇いだったと思います」

 アルバイトで観光バスの運転手を雇用しているということも驚きなのだが、その雇用に関する契約書も存在していないという。さらに、安全な運転のために必須であるはずの健康診断を、自費で受けさせられたというのだ。

 Aさんは、関東北部の都市にある会社にアルバイトとして雇用されたのだが、しばらくして、そこからかなり距離のある別の会社への「配置換え」を言い渡されたという。

 「2つは系列会社ではなく別の会社なのですが、お仲間という感じで、仲間内で仕事を回しているような雰囲気でした。なし崩し的に、そちらの所属になってしまった、という感じです。

 バス運転手として勤務するには、健康診断を受けたり、警察に行って運転経歴証明書を取ってくる必要がありますよね。しかし、そのための日にちを会社が設けてくれることもありませんでした。仕事のない日にやれよ、ということです。

 なにしろ、人が足りないんです。バスの台数は决まっていますよね。台数のぶんは仕事を受けることが出来るわけです。すると、バスが余っているけど人が足りない、というケースも出てきます。それで、仲間内で、運転手をどんどん回していく、ということになっていくのだと思います」

 自宅から遠くの会社に「配置換え」されたとなると、毎日、長時間かけてそこに通わなければならない。しかし、驚くべきことに、会社からは、通勤するための交通費が支払われなかったという。

 「その会社に通うにはかなりの距離があるのですが、交通費は全部自分持ちです。移動した際にかかるガソリン代の支給もありません。考えられないことですが、会社では『これが現実だ』と言われました。見ていると、他の会社も同様のようなので、おそらくこういったことをやらないと、利益が出ないということなんでしょうね」

 バス会社が、このような安全性を度外視するコストカットを行う背景に、ダンピングが存在するとAさんは語る。

 「旅行会社の過当競争は、非常に厳しいものがあります。ダンピングの結果、旅行会社からバス会社への支払いが少ないため、旅行会社の事務員や運転手といった末端にしわ寄せが来ています。

 私がバイトしたところの車は、走行20万キロを超え、最初の車検が平成初期というものでした。ギアの入りが悪く、車に慣れていないとエンストを起こしてしまいました。お客さんも危機感を感じたようで、『運転手を変えろ』というクレームがありました。しかし、待遇が悪くて人が集まらず、来てもすぐにやめてしまうので、代役を出すにも人がいませんでした」

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