安倍総理は5月17日、農業分野の成長戦略として、今後10年間で農業・農村全体の所得を倍増させる戦略を打ち出した。しかし5月22日、「TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会」の作業チームが発表した独自の影響試算によると、農家の所得は増えるどころか、全国で3483億円減少するという結果になった。作業チームの鈴木宣弘・東大教授(農業経済学)は安倍総理の成長戦略について、「所得倍増は、架空のアドバルーンであって全く根拠はない。TPPで所得は大幅に減少するのにどうやって10年で倍増できるのか」と厳しく批判した。
同会の関耕平・島根大准教授と三好ゆう・桜美林大専任講師によると、今回試算に含んでいるのは、米、小麦、大麦、牛乳乳製品、牛肉、豚肉、鶏肉、鶏卵の8品目。果樹や砂糖など影響額が大きいものを試算できなかったため、この数字は実額よりも控えめな試算額となっているという。
政府は、TPPにより農林水産分野で約3兆円の生産減少としつつも、輸出の増加や安い外国産品の流通による経済効果で、トータルではGDPが約3.2兆円増加とする影響試算を発表していた。しかし、この政府試算では関連産業や雇用への波及効果は含まれておらず、農家の所得への影響も考慮されていない。大学教員の会は、この点に着目し、醍醐聰・東大名誉教授と鈴木宣弘東大教授が中心となり、独自に政府試算の検証と試算を行った。
同会の土居英二・静岡大学名誉教授(経済統計学)らが、政府試算をベースに全産業の生産減少額を計算したところ、約10兆5000億円にのぼった。さらに就業者に与える影響(雇用効果)は、農林水産業で約140万人、全産業で約190万人の減少。GDPに与える影響は約4兆8000億円の減少となり、GDPを1.0%押し下げるという試算となった。土居名誉教授は「TPPによる関税撤廃の影響は、農林水産業にとどまらず、その2倍以上の規模の6兆円を超える額が、第二次、第三次産業に及ぶ。政府は安い外国産品により家計・企業が助かり、生産・消費の増加につながるとしているが、おそらく輸入のマイナスを相殺できない」と語った。