「経済成長主義の呪縛から解放されるには、何が必要か」 ~第22回縮小社会研究会 2014.5.17

記事公開日:2014.5.17取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

 2014年5月17日(土)、京都大学農学部総合館で第22回縮小社会研究会が行われ、奥田郁夫氏 (名古屋市立大学)・大谷正幸氏(金沢美術工芸大学)・宇仁宏幸氏(京都大学)の3人の学者が演壇に立った。

 今回は「経済」という視点から「縮小社会」の理想的あり方を探ることが狙いとされた。中でも、「経済学とは」という視座を取り入れつつ、ボリューム感のあるスピーチで客席の耳目をさらった宇仁氏は、すでに低成長期に入っている日本社会が、近い将来「経済成長主義の呪縛」から解放されるには、成長主義への固執に根差した「合成の誤謬(ごびゅう)」に陥らないことが肝要、と指摘した。

 合成の誤謬とは、不況時に見られる、企業や一般家庭が投資や消費を控える自己防衛的姿勢が、社会全体にさらなる不況を招くジレンマを言っており、宇仁氏は、人口減や石油供給の減少が本格化する今後の日本には、経済成長が見込めない中で積極的にお金を使う意義を説く「新たな価値観」が必要になる、と訴えた。

■ハイライト

  • 講演
    奥田郁夫氏 (名古屋市立大学)「環境経済論─南東アラスカの木材生産にまつわる生態系保全をめぐる対立の歴史と今後の展望─」
    大谷正幸氏(金沢美術工芸大学)「フレデリック・ソディの貨幣論と縮小経済の気掛かり」
    宇仁宏幸氏(京都大学)「非正統派経済学で縮小社会を考える」
  • 日時 2014年5月17日(土)13:30~17:00
  • 場所 京都大学農学部総合館(京都市左京区)
  • 主催 縮小社会研究会詳細、PDF)

 自身の研究テーマが、「この研究会に馴染むかどうか、大いに不安がある」と冒頭で表明した奥田氏は、「今日は私の研究テーマについて話し、それをみなさんに丸投げしたい」と宣言して講義を始めた。

 導入の部分では、経済学の応用分野である「環境経済論」に触れた。奥田氏は「かつては『公害』と呼ばれたものが、今は『環境問題』と呼ばれるようになっている」としつつ、「両者の概念の間には多少の開きがある」と語った。

 「環境問題の場合、責任の所在が特定されにくい特徴があり、そういった特徴を持つ環境問題を、解決する方法を考える学問領域が環境経済論だ」と説明。「環境経済論では、直接的規制で環境問題を引き起こす者を罰するというよりも、経済的動機づけという間接的規制で、問題が起こりにくくすることに重きが置かれる」とした。

 本題の「アラスカ研究」に関する議論では、アラスカは、1867年に米国がロシア帝国から買収していること、さらには1912年にアラスカ準州、1959年にアラスカ州になったことに言及。「米国が買収に支払った金額は720万ドルで、当時の相場で1ドルが1円だったから、米国は720万円で、約149万平方キロメートルという、米国最大の面積を持つアラスカ州を手に入れたことになる」とした。

 米国政府は買収当時、「720万ドルで巨大な保冷庫を買った」との批判も浴びた、と付言した奥田氏は、「そのアラスカの土地が、実際はかなり魅力的なものだった」と強調。19世紀末には各地で金鉱山が発見され、 20世紀には原油の探査も盛んになったことなどを駆け足で紹介した。

農業の衰退は「歴史の必然」

 続いて登壇した大谷氏の講義タイトルは「フレデリック・ソディの貨幣論と縮小経済の気掛かり」。理系出身の大谷氏は「ピークオイル」がもともとの研究テーマであり、石油埋蔵量の限界と、それが世界経済に与える影響について考察していくうちに、「気がつけば、経済学の領域に足を踏み入れていた」と自己紹介した。

 大谷氏が最初に取り上げたのは、ペティ=クラークの法則。これは経済発展に伴う農村部の人口枯渇を扱うもので、就業人口は1次(農業)→2次(工業)→3次(金融をはじめとするサービス業)へと、産業間で移動することを説いた経験則である。大谷氏は「これは『都市化、過疎化』と換言することも可能」とした。

 さらにまた、マルクスの『資本論』(1867年)を引き、「彼は、ヨーロッパ諸国の強制によって開かれた日本の貿易が、コメなどの現物ではなく、貨幣で行われるようになれば、日本の農業は破滅すると、この時すでに予言している」とし、比較的優位な工業に人的なものを含む資源が集中しがちな自由貿易の進展は、農業に負のインパクトを与えることを解説した。

従来型金融は維持不可能に

 そして、工業化以降の経済発展については、「潤沢なエネルギー供給が大前提になる」と指摘した大谷氏は、「既存の石油油田からの生産量は、すでに頭打ち。国際エネルギー機関は、今後は未開発油田や未発展油田が世界の経済発展を支えていく、との見通しを立てているが、これは現実的ではない」と切り捨てた。

 その上で、「EROI(エネルギー投資効率)」と呼ばれる概念を紹介。これは社会に出回るエネルギーを、生産のために投入したエネルギーで割ったもので、大谷氏は「近年のエネルギー開発はコストが跳ね上がっている」と強調した。

 一方で、潤沢な原油供給という前提が崩れた時代では、企業の生産活動は「縮小」を余儀なくされ、それは銀行の融資条件の厳格化を招くスパイラルを生み、従来型の金融システムに支障を来す、としている学説にも触れた。

 こうした大谷氏の議論で念頭に置かれたのは、人口減を主たる背景とする縮小社会というよりも、原油供給のピークアウトに根差した「脱経済成長社会」である。最後に、大谷氏が力を込めたのは「贈与経済」の大切さについてであり、「贈与経済型の社会システムが日本に普及すれば、たとえ経済成長が期待できない時代が到来しても、さほど悲観的にならずにすむ」との持論を披露した。

「新古典派経済学に洗脳されるな!」

 「現代の経済学は、正統派と非正統派に大別される」とし、いわゆる市場原理主義を掲げる新古典派経済学は正統派に属することを指摘し、「経済学という学問は、非常に未完成」と強調して講義をスタートさせたのは、最後の登壇者の宇仁氏だ。

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