「地域再生のため、放射線に対する不安を取り除く」 ~ICRPのダイアログセミナーで住民たちが語る 2014.5.11

記事公開日:2014.5.11取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・阿部玲)

 「子どもたちのために、南相馬にドームシティを。火星に移住したつもりで暮らすような、大胆な発想が必要だ」──。

 2014年5月10日と11日、福島県南相馬市の南相馬市民文化会館(ゆめはっと)多目的ホールで、国際放射線防護委員会(ICRP)が発起人となった、「第8回福島原発事故による長期影響地域の生活回復のためのダイアログセミナー『南相馬の現状と挑戦―被災地でともに歩む』」が開かれた。

 ICRPは、放射能による長期汚染地域の住民防護の視点から、2011年秋以降、福島県内で住民と専門家が直接交流できる会合を開催している。第8回目の今回は2日間にわたって、南相馬市の住民および近隣市町村の住民、行政担当者、各界の有識者など、さまざまな立場の人々が集い、自分たちが抱えている状況や福島再生のビジョンについて自由に語り合った。

■動画
※ 都合により、5月11日13時30分から行われた「セッション6」のみの録画となります
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  • 13:30 ~ 16:30 セッション6 「自助による放射線防護のための対話(ステップ2) いかなる条件と方法が必要か」
  • 【司会】ジャック・ロシャール(フランス、CEPN) 【報告担当】テリー・シュナイダー(フランス、CEPN)
  • パネル討論参加者 【専門家・行政】  横田美明(南相馬市除染対策課)、高橋荘平(南相馬除染研究所)、ケート・オバーグ(南相馬姉妹都市交流員)、高山あかり(東大理) 【住民】  荒孝一郎(南相馬)、和田智行(南相馬)、齋藤(南相馬)、但野謙介(南相馬)、高村美春(南相馬)、門間誠(福寿園)、伊藤早苗(南相馬からの避難者)、一瀬昌嗣(NPOあいんしゅたいん)、鈴木健一(南相馬)、安東量子(福島のエートス)、田中章広(リンケージ代表取締役)、田中睦美(仙台避難母さん代表)、西一信(南相馬)、遠藤真也(いわき)、入澤朗(東京) 【医療・保健】  宮崎真(福島医科大学)、坪倉正治(南相馬総合病院)、堀有伸(ひばりが丘病院) 【報道】  菊池克彦(福島民友)、大森真(テレビュー福島)

分断により、価値観の違いが顕在化

 南相馬市除染対策課の横田美明氏は、「分断による価値観の複雑化」について、次のように話した。

 「南相馬市は、もともと原町市、小高町、鹿島町の3つ。2006年の『平成の大合併』で新しく誕生した市だ。ようやく合併の醸成感が出てきた頃に、東日本大震災が起きた。津波被害の大きかった地域は放射線量が低く、津波被害のない地域は、放射線量が比較的が高かった。そういうこともあり、縦軸(合併前の境界)、横軸(放射線量)で地域が分断され、これに賠償も絡んで価値観の違いが顕著になった」。

 住民の放射線への不安に対して、横田氏は「対話が有効だと考える。小規模で身近な住民対話集会を、頻繁に行っていくことが必要」と述べた。同時に、「市内には、まだまだマイクロ・ホットスポットと呼べるような場所がたくさんあり、これらについても対応していかなくてはいけない」と語った。

 南相馬除染研究所の高橋荘平氏は、「放射線に対する不安を解消する取り組みを続けていく」としながらも、「それだけではなく、今後の希望につながるような話をしていきたい。新しい産業を生み出すこと、それが大きなうねりになるのではないか」と、前向きな姿勢を示した。

「火星で暮らす感覚」大胆なドームシティ構想

 4月23日に南相馬市長を表敬訪問したという小沢氏(馬場地区特定避難勧奨地点住民の会)は、「子どもたちが土をいじれない、山にも行けない、海にも行けないという状況を打破するために、ドームシティ構想を検討してほしいと、市長に要望してきた」と報告した。

 「われわれは、火星に移住したような感覚で生活していく必要もあるのではないか。JAXA(宇宙航空研究開発機構)で、宇宙放射線や宇宙農業の話も聞いてきた。宇宙放射線がある中での生活、そのスモール版のようなものと考えていただきたい。ドームシティの中では、子どもたちが自由に土に触れて、サッカーもできる。外界の汚染物は持ち込まない。また、原発でさらなる有事があった際は一次退避所にも使える」。

 このように話す小沢氏は、「とんでもない話と言われることもあるが、ゼネコンが喜ぶ仕事になるのではないか、と考えている。市長も『山を半分崩さないと』というような話をしていた。既成概念に捕われず、大胆な発想をすべきだ」と提言した。

 いわき市の末続(すえつぎ)から来たという遠藤真也氏は、「いわき市でもダイアログセミナーを開催してもらったが、南相馬市の問題は、やはりそこに住んでる住民が、その場所で考えるべきだと思っている。しかし、行政と住民がもっと繋がっていけばスムーズになる。行政自ら、同じ市民としての目線で話せば、お互い近づいていけるのではないか」と意見を述べた。

放射能に対する恐怖感の払拭

 東京大学の早野龍五教授は、「私は南相馬で、坪倉医師などとともに、かなり早い時期に給食の調査を行った。それから3年経つが、実態よりも、内部被曝について心配している住民が多いように思う。地元の食材を給食に使うことに対する抵抗感も、払拭されていないと聞く。私は、南相馬の小さいお子さんからセシウムが検出されることは、おそらくないと思っている」と話した。

 そして、「先日は、テリー・シュナイダー氏(放射線防護評価センター)とともに、福島高校の生徒をジュネーブに連れて行き、福島の現状を英語で、ヨーロッパの高校生に話してもらった。今後も将来に向けての取り組みをしていきたい」と抱負を語った。

 飯舘村から来たという酒井氏は、「前回のICRPの対話の会で、その後、何か状況が変わったかというと、まったく変わっていない。住民の側から変わる必要を感じ、ADR(裁判外紛争解決手続)の集団申し込みを行った。放射能は人によって感受性が違う。対話の会をこれからも続け、市町村同士で情報を共有していくべきだ」と提言した。

原発事故がなくても高齢化問題は起きる

 テレビユー福島の大森真氏は、「震災を通じて、福島の子どもたちに公共心が芽生えている、という意見に同意する。福島の高校生と接していると、他の地域に比べて、人を思いやれる子が多いと実感する」と述べ、「そういったことを、これから大事に守っていきたい。彼らが働き盛りになる頃には、福島はもっといい所になっているだろう。また、そうしなくてはいけない」と復興への思いを語った。

 司会のジャック・ロシャール氏(放射線防護評価センター)は、「さまざまな方の話を聞き、農業再生、さらに教育まで拡張した取り組み、大きな規模の新たな産業の構想などに驚いた。地域再生の障害として、精神的な不安が大きい、ということもわかった。放射線量が低いのに、病院などのインフラが不十分である。高齢の方ほど故郷に戻りたいという気持ちが強いが、地域を担う世代が戻って来ない。だが、高齢化の問題は、原発事故がなかったとしても起きていた問題だ。別の言い方をすれば、南相馬は20年後の問題に、他の地域より早く取り組めるとも言える」と感想を述べた。

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