市民メディアの交流を図ることが目的の、「第12回市民メディア全国交流集会 三河メディフェス2014」が、2014年5月5日、愛知県の刈谷市総合文化センターで開かれ、IWJ代表の岩上安身が、東京からSkype(スカイプ)を使って討議に加わった。
岩上安身は、「市民メディアに携わっている人の中には『市民メディア』と『ローカルメディア』をイコールで結ぶ傾向があるが、インターネットで情報を発信すれば、地球の裏側にも届く。『地域』の枠を越え、国境も転々と越えて、『地域』と『地域』を結ぶ『インターローカル』なメディアだ」と強調し、市民メディア、特にネットメディアに従事する有志は、意識を高く持とうと呼びかけ、そうした意識の高さが「ネットメディアを力強いものにしていくのではないか」と語った。
その上で、「とはいえ、メディアの生命線は『何を伝えるか』にあり、配信形態の議論よりも中身が重要」とも語り、「言葉遊びではありますが」と断りながら、「市民メディアという言葉の『市民』を『志民』に変えたらどうだろうか」と提案した。
「われわれはメディア人として、『今がどういう時代で、何をしなければならないか』をよく考える必要があります。現在の日本は『戦争』の方向に向かいつつある。その方向性に抗う意味で、『志民』の方がふさわしいと思います」
世の中が不安定になると、常に過去の栄光の時代に回帰しようとするものだが、日本の場合、それが「明治維新」である、と岩上安身は語った。
「過去の成功体験に引きずられて、『維新』という言葉がつきさえすれば何でも良いと考える風潮があります。しかし、『明治』という時代は美化されている。同様に、『維新の志士』と呼ばれた人たちも、日本の近代化の担い手として、過剰に美化されているところがあります。
彼らは、日本の近代化に大きな功績があったのは事実だが、他方では、幕末から侵略のイデオロギーを共有していて、帝国を作り植民地支配をすることを実行していったのです。そのことを無自覚に繰り返すことは、あってはならないと思います。
そこで、『志士』ではなく『志民』という言葉を提唱したいと思うのです。『士』とは『サムライ』のことであり、身分制を前提としています。『サムライ』はカッコいいし、僕も憧れますが、これからの時代に必要なのは、『サムライ』ではない。志を持って、国民主権を実現すべく、能動的に動く民衆でありたい、と思います。必要なのは、こういう志を持った『志民』ではないでしょうか」
- 第二部 「市民メディアについて語ろう(第二部):これからの10年」
- MC:下村健一(市民メディアアドバイザー)
- パネリスト 真野明日人(IWJ)、平野悠(ロフトプロジェクト代表)、岩本太郎(フリーランスライター) 岩上安身(IWJ代表 ※Skype中継 14:00〜14:30頃まで)
- 日時 2014年5月5日(月) 10:00~
- 場所 刈谷市総合文化センター(愛知県刈谷市)
ケーブルテレビ局が担う役割とは
この交流会の常連は、市民メディアとして歴史が古いケーブルテレビ局やローカルFM局であり、IWJのようなネットメディアは「新参者」であるとも言える。第1部では、登壇した市民メディアのキーパーソンが、それぞれ自分たちの歩みを振り返りつつ、新聞・テレビに代表される既存メディアとは違うカラーをどのように打ち出してきたかについて話した。
1984年設立の鳥取県のケーブルテレビ会社、中海テレビ放送の代表取締役専務・高橋孝之氏は、「当社が誕生した当時、地方のテレビ局は東京のキー局が作った番組を流すことが主な仕事で、地域情報が占める割合は7%余りに過ぎなかった」と説明。1989年に、地元の視聴者向けのケーブルテレビ放送を開始した理由のひとつは、既存のテレビ放送へのそういった不満にあった、と語った。
放送開始前に市民ニーズを調べたところ、多くはケーブルテレビにもスポーツや娯楽を求めていること分かったが、「新たなニーズ」を掘り起こすために、ニュース報道中心の立場をとることにしたという。高橋氏は「今や災害情報では、NHKの視聴率を上回っている」と胸を張った。
元NHK職員で、市民とメディア研究会「あくせす」の呼びかけ人、津田正夫氏は、「阪神淡路大震災では、行政が対応し切れない部分が数多く発生した」と指摘。「地元市民たちの間に、自分たちで情報発信を行って、被災者を支援していこうという意識が芽生え、それが地元の市民メディア立ち上げの原動力になった」と語った。
「自分たちのメディア」という意識
神戸市長田区の市民ラジオ局、「FMわぃわぃ」総合プロデューサーの金千秋氏は、「1995年1月に阪神淡路大震災が起こらなければ、われわれのラジオ局は誕生しなかった」と語る。
「あの地震により、地元社会の中に埋め込まれていた、さまざまな格差の問題が一気に表出した」と述べ、「避難所で、日本人名で暮らしている在日韓国人への情報発信を行うことが、私たちの放送の始まりだった。そうするうちに、在日ベトナム人も避難生活に困っているらしいという噂が耳に入り、ベトナム語でも情報を発信するようになった」と語った。
市民メディア成功の秘訣について、前出の中海テレビ放送の高橋氏は、市民たちの間に「自分たちのメディアである」との意識を育むことがカギになると訴え、「市民参加型の番組づくりを行った」と説明した。「地元の老人クラブに集う高齢者たちが、取材スタッフとしてカメラを担いで、学校や自治会に出向くことになった」。
しかしながら、市民が作る番組には、今なお質の低さが目立ち、「なかなか見られる番組にならないのも事実」とも。高橋氏は、県内の大学教授らによるアカデミックな情報発信番組や、民間の金融機関によるマネー番組といった、情報の専門性が売りになる新機軸をすでに導入していると話した。
全国に散らばるIWJの「中継市民」
短い休憩を挟みスタートした第2部では、IWJの「中継市民」の一人として、愛知県で活躍する真野明日人氏が登壇。「まのっち」の愛称で知られている真野氏は、本業は仏師で、自身も「まのび放送局」という市民メディアを主宰しつつ、IWJ愛知の中継も担っている。この日は、IWJの「代表」として、IWJについて代弁をした。
「IWJは、2010年10月からインターネットを活用して全国ネットの動画配信を行っている。東京には常勤スタッフがいる本部があり、地方には、私のように現場に出ていく市民記者が散らばっている」と、IWJを紹介した。
司会を務めた、元TBSアナウンサーで、市民メディアアドバイザーの下村健一氏は、IWJについて、「ケーブルテレビやミニFM局のようにローカルメディアではない点が大きな特徴のひとつ」と指摘。「コンテンツ不足に悩んでいる多くの市民メディアにとり、IWJの配信本数の多さは羨ましい限りだろう」と語った。
真野氏は、「IWJは、海外取材もやっている。約5000人の会員には定期的にメールマガジンを送り、そこでお勧めのコンテンツを紹介している」となどとも紹介した。
ライブハウスが市民メディアになる
IWJとは対照的に、少人数を対象に過激な情報発信を行うことで異彩を放っているのが、東京・新宿にある、トーク(議論)に特化したライブハウス「ロフトプラスワン」だ。
1970年代から数多くの有名ロックバンドを輩出した名門ライブハウス「新宿ロフト」。その新宿ロフトの創始者である平野悠氏は、1990年代に入り、大手資本がロックを食い物にするようになり、全国に音楽のライブハウスが急増したのを機に、それまでになかった「トーク」のライブハウスを始めたという。
「酒を飲みながらの論争という『イベント』を売りにしている。登壇者のみならず、お客さんも挙手して舌戦に加わるのだが、ヒートアップして乱闘にまで発展したこともある。そして、それをショーとして楽しむ人たちがいた」。
首相官邸前デモの空撮は快挙
平野氏は「自分はタブーに挑んだ」とし、オウム事件の折には、「オウム真理教を批判する有識者だけで固めるのではなく、オウム信者も招いて議論を交わした。テレビのように、批判者だけで予定調和の終わり方をしたくなかったからだ」と話した。「(ロス疑惑で有名になり、2008年に他界した)三浦和義氏のように、一般社会では発言しにくい人物を積極的に呼んだ。三浦氏には、ステージの上で『お前は、本当に(妻の)一美さんを殺したのか』と本気で問いただした。それぐらいの迫力がなければ、トークでは金を取れない」。
下村氏は、平野氏に向かって「大手メディアができないことをやっている点で、ロフト自体がひとつの市民メディアだ」との言葉を贈り、「ただ、ロフトという閉鎖的空間だからこそ、可能になる部分が大きいと思う」とも指摘した。
平野氏が「さまざまな市民運動の火付け役はロフトだ」とも述べると、一昨年の夏に大いに盛り上がった、首相官邸前での反原発市民デモが話題になった。フリーライターの岩本太郎氏が、広瀬隆氏が音頭を取り、IWJなど独立系メディアが資金を出し合って実現させた、ヘリコプターによる空からの撮影に触れ、その空撮画像を掲げてみせた。下村氏は「この写真は、市民メディアが、ある地点に到達したことを物語っている」とし、「大手メディアでなければできない、と考えられていたことが、市民メディアによって切り崩されている」と力を込めた。
今のメディアに、過去のコンテンツの生命を
その後、壇上では、市民メディアの躍進という点では、インターネットの登場が大きいとの指摘がなされ、しかしながら、ネットを使えば動画配信ビジネスが簡単に成り立つかというと、「答えはノー」との共通認識も示された。
Skypeで参加した岩上安身は、「ユーストリームなどを使えば、1人でもメディアを立ち上げられるが、見てもらうのは簡単ではない」と指摘する。
「ユーストリームの社長にインタビューをしましたが、多くの市民メディアが『見てもらえない』という悩みを持っているようです。せっかくのコンテンツを何本か実際に流してみても、1人か2人にしか見てもらえなければ、意気消沈して止めてしまう人も少なくありません。
個々それぞれが情報を発信することができるのがライブストリーミングの利点ではあると思いますが、それをきちっとストックし、告知していくというステーションやハブとしての機能をちゃんと持つ必要があると思います」
これに対し、下村氏が「ならば、『告知』に力を注げばいいのか」と質問すると、岩上安身は、「見てもらうためには『告知力』が必要。IWJをスタートさせる時点でその点には気づいていた」と「告知力」の重要性に同意しつつも、「蓄積された過去のコンテンツの整理が欠かせない」と強調し、次のように話した。
「今日のコンテンツが、3日前の、あのコンテンツに関係する、といったケースがけっこうあります。つまり、過去のコンテンツの当該部分を、今日のコンテンツに練り込んで伝える工夫が必要になってくる。その精神は、われわれが週単位で出しているメルマガ(IWJウィークリー)づくりにも生かされています」。
ツイキャス普及をどう見る?
「ツイキャス」をはじめとするITの進化と市民メディアの関係性に議論が及ぶと、岩上安身は「IWJの第一世代は、いわば『ユーストリーム、ツイッター世代』」とし、「新しいITツールが誕生すると、それを使いこなす新世代が必ず誕生する。今は、ツイキャスを自然に使う若者の姿が、時代を象徴している。IWJは第2世代として、ツイキャス中継市民を養成していく」と語った。
岩上安身はツイキャスについて、「ユーストリームよりも手軽に発信して手軽に見れるが、必ずその場限りで終わってしまう。一応アーカイブは残るが、鮮明なかたちで保存するのにはちょっと使いづらいと思う」との感想を述べつつも、「ツイキャスを使うボランティアスタッフが、IWJでもポツポツと現れており、その人たちがとてもいい動きをしている」と語り、今後、積極的にツイキャスを活用する意欲をにじませた。
下村氏は「(必要な通信環境を構築するための)パブリックアクセスの獲得に腐心した、ケーブルテレビ局やローカルFM局の関係者からすれば、IWJのような、パブリックアクセスの獲得を巡る苦労とは無縁のネットメディアは『異質』の存在に映っているかもしれない」と述べ、「しかし、今は、そのIWJが新世代の配信と見なすツイキャスによる、自分ひとりで、ひょいとコンテンツを流せてしまうやり方が、すでに普及している」と発言。
その上で、ケーブルテレビやローカルFMが、こうした技術革新の波が高まる中で、存在意義を示していくにはどうすればいいか、との視点での、さらなる議論を登壇者らに促し、集会を終盤へと進めていった──。
市民メディアへ忍び寄る圧力
客席からは、ネットメディア「アワープラネットTV」のスタッフが発言した。「われわれは『認定NPO』という制度のおかげで、たくさんの寄付を得てきたが、今、この制度が廃止されつつある」と指摘したそのスタッフは、「市民メディアの言論を封じるための、さまざまな圧力がかかっているが、そのことを、各市民メディアの現場が、どれほど実感しているだろうか」と訴えた。
さらにまた、「アワープラネットTV」の活動を金銭的に支援する企業や個人からは、「視聴率や配信本数ではなく、あなた方の報道で、どんな成果が得られたかを具体的に示してほしい」という声が届くようになっている、とも述べ、「コンテンツ配信後の、その成果の検証まできちんと行わないと、人々はネットメディアへの共感を持たなくなると思う」と語った。