「石破幹事長の、500億円名護基金の提案は、負けが予想され始めたことへの焦りだったのではないか。とにかく、札束と権力を振りかざした戦いは、壮絶だった」──。名護市議会議員の仲村善幸氏は、このように名護市長選挙を振り返った。
大湾宗則氏は「2014年に自衛隊は、オスプレイ、水陸両用駆動車、ロボット飛行機グローバルホーク、F35ステルスを購入する。また、ヘリコプター搭載護衛艦(DDH)『いせ』『いずも』の就航などを考えると、辺野古新基地がほしいのは、本当は日本なのだ」と指摘。「今、日本の軍事戦略を、6万5000人の名護市民が一身に受けて立ち向かっている。本土も一緒にならないと、沖縄県民だけでは耐えていけない」と訴えた。
2014年2月27日、京都市東山区の東山いきいき市民活動センターで、「2・27 沖縄の今とこれから 名護市長選勝利の背景を語る会」が行われた。2月28日、キャンパスプラザ京都で予定されている名護市長選報告会を前に、仲村善幸名護市議会議員との交流、懇談の場として企画された。仲村氏は「安倍政権の暴走を止める戦いを、全国と連携して大きな力にしていく」と決意を語った。
- ゲスト 仲村善幸氏(名護市議会議員、ヘリ基地反対協事務局長)
主催者の話のあと、京都沖縄県人会事務局長の大湾宗則氏が、「沖縄県民は69年間、基地問題と対峙してきた。これからの名護市議会選、沖縄県知事選に勝利できたら、本当に基地をなくすことができるかもしれない」とスピーチをした。
名護市民同士『これからだね』と言葉を交わす
仲村氏の講演に移った。まず、名護市長選(1月17日投開票)への支援の礼を述べた仲村氏は、「名護市民の尊厳の勝利だ。2万票が目標だったが、稲嶺進候補は1万9839票を獲得できた(末松文信候補は1万5684票)。また、前回の市長選に比べ、今回は、特に怒りを持った市民が多く、盛り上がった。稲嶺氏の当選から1週間ほどは、『名護市民、ありがとう』という、沖縄県内外からの賞讃の電話が鳴り止まなかった」と話した。
「普通は、当選者がお礼を述べるはずが、今回は逆だ。今、名護市民同士が出会うと、『これからだね』と言葉を交わす。とにかく、安倍政権の暴走を止める、大きな力になったのではないか」。
石破幹事長の500億円発言は、完全な買収
「なぜ、市長選に勝てたのか」と前置きした仲村氏は、その前哨戦から話しはじめた。「今回、政府自民党の介入と圧力が、とてもひどかった。最初は三原じゅん子議員、小泉進次郎議員が、末松候補の応援に来た。石破幹事長は『名護市長選は、名護市北部の発展を考える選挙。辺野古基地は政府が決めること』と喧伝した」。
「投票日の2〜3日前には、500億円の名護基金を作る、と打ち上げた。完全に買収で、公選法違反だ。石破幹事長のその提案は、負けが予想され始めたことへの、焦りだったのではないか。札束と権力を振りかざした戦いは、壮絶だった」と振り返った。
また、2013年11月25日付『沖縄新報』の「自民5氏、辺野古容認」との紙面を掲げて、「沖縄選出の自民党議員5名(2名は容認派)のうなだれた写真が、全国の新聞に掲載された。自分はその記事を見て、本当に惨めな思いだった」と憤った。
「その後、沖縄県議団、仲井眞知事と、次々に容認を表明した。ところが、公明党沖縄だけは拒否。同様に、自民党古参議員も反旗を翻し始め、稲嶺恵一元知事や、元副知事、元県議会議長2名が続き、うち1人は離党した。さらに、那覇市議会も反逆するに至った」。
「公明党県幹事長の金城勉氏は、『琉球処分(明治政府が琉球王国を武力で威圧、沖縄県として日本に併合した)そのものだ』と怒りをあらわにした。また、オリバー・ストーン氏(映画監督)など、海外の有識者からの支援、保守層や女性からの支援も目立っていた。特に、今まではなかった、はっきりと意見を言う市民がとても多かったのが、印象的だった」と語り、稲峰氏の勝因を分析した。
すべては子どもたちの未来のために
仲村氏は、もうひとつの勝因として、「稲嶺市長は、再編交付金も断っている。そのかわり、補助金を研究し、13事業のうち11事業を乗り換えて、見事に、基地建設がなくても名護市はやっていける、という実績を作ってみせた」と述べた。
「市民目線の行政に努め、必要なことから実現していった。保育園を増やし、560名の待機児童を解消した。中学卒業までの医療費無料化や、建物耐震化の予算獲得などを行い、1996年から続いてきた、疲弊するだけの基地依存経済政策と北部振興策から脱却させた」。
「今回のスローガン『すべては子どもたちの未来のために、すべては未来の名護市のために』は、よかった。若い職員と稲嶺市長とのガチンコ討論会など、市役所内の取り組み、市長の手紙、地域提案型事業の奨励、独自産業の開発など、これまでの市政の成果があったのも勝因だった」とした。
「軍事植民地」と指摘したオリバー・ストーン監督
「今回の選挙は、『名護市だけのことではなく、沖縄県だけのことでもない、日本の今のあり方を問う選挙だ』と稲嶺市長は言った。同時に、構造的差別があぶり出された。昨年、沖縄を訪れたオリバー・ストーン監督は、『軍事植民地的状態だ』と感想をもらした。日本政府は、沖縄を日本とは考えていないのではないか」。仲村氏は朴訥な語り口ながら、舌鋒鋭く語っていった。
そして、「1月24〜25日に、沖縄防衛局は辺野古のボーリング調査の入札公告をした。また、辺野古反対行動に、刑事特別法(米軍施設内に正当な理由なく侵入した際に適用される、日米地位協定に基づいた法律。1年以下の懲役)の適用を検討中だ。アメリカ政府が言うなら、まだわかるが、日本政府がそれを言うのは、まったくおかしい。差別にほかならない」と憤った。
仲村氏は「名護市議会は27名だ。14名取れば、多数派になる」と言い、今後の動きとして、埋め立て申請に対する市長の意見表明、辺野古埋め立てにかかる名護市長懇話会の発足、アメリカ政府や日本政府への陳情、環境省への反対意見の具申、辺野古の世界遺産への申請など、基地建設反対運動を含めた活動スケジュールを報告した。
最後に、「安倍政権の暴走を止める戦いとして、全国と連携して大きな力にしていく」と決意を語って、マイクを置いた。
辺野古に基地がほしいのは、本当はアメリカではなく日本政府
質疑応答の中で、これからの名護市について、仲村氏は「今回、土建業者も2つに分かれた。たとえば、住宅リフォームに、市内業者を使うことを条件に20万円の補助金制度を作ったら、7倍の経済波及効果があった。キャンプ・シュワブを一大保養地にする計画など、観光地化も現実的だ。これからの課題になる」と話した。
大湾氏が、次のように補足した。「再編交付金を断ったが、名護市には、キャンプ・シュワブ、キャンプ・ハンセン、八重岳レーダー基地、辺野古弾薬庫がある。今回、さらに新基地を作るということ。現在、自衛隊は、海兵隊訓練基地のキャンプ・ハンセンで訓練をし、2014年度防衛予算で、オスプレイ、水陸両用駆動車、ロボット飛行機グローバルホーク、F35ステルスを購入する」。
「また、ヘリコプター搭載護衛艦(DDH)『いせ』に続いて、昨年8月に『いずも』が進水。こういう背景を考えると、辺野古新基地がほしいのは、本当は日本なのだ。だから、2000億円の思いやり予算を捧げて、米軍にいてもらっているのではないか」。
「日本の軍事戦略を、6万5000人の名護市民が、一身に受けて立ち向かっている。本土も一緒にならないと、沖縄県民だけでは耐えていけない」と訴えた。
また、「(基地建設反対運動に対する)ヘイトスピーチは増えた。建白書を東京に持って行った時、『非国民』と罵倒された。今、実質、自治体と言えるのは、沖縄県だけだ。抵抗のないところで、民主主義は育たない。沖縄から学ぶことは多い。また、アメリカ自体が、辺野古での問題拡大を懸念している」などと述べ、活発な意見交換が続いた。