「法務と政治は別世界ではないか。どのようにギャップを埋めるのか?」――。
1月30日、日本外国特派員協会主催の記者会見に招かれ、このように質問された宇都宮健児・東京都知事候補は、これまで、数々の法律を作るたびに与党・自民党を説得してきたと振り返り、「こうした立法活動こそ、政治的活動だった」と述べ、都政への自信を示した。
(IWJ・原佑介)
特集 2014東京都知事選
「法務と政治は別世界ではないか。どのようにギャップを埋めるのか?」――。
1月30日、日本外国特派員協会主催の記者会見に招かれ、このように質問された宇都宮健児・東京都知事候補は、これまで、数々の法律を作るたびに与党・自民党を説得してきたと振り返り、「こうした立法活動こそ、政治的活動だった」と述べ、都政への自信を示した。
記事目次
■ハイライト
会見冒頭、宇都宮氏は、「42年間の弁護士経験を活かし、都政を変える」と意気込み、自身の政策を披露した。
用意した基本政策は五つ。
一つが「東京を世界一働きやすくて暮らしやすい、希望の持てる街にすること」。二つ目に「防災・震災対策の強化」。そして「脱原発」、「教育現場への管理統制の撤廃と、いじめのない学校教育づくり」、「平和憲法を尊重し、安倍政権の暴走に歯止めをかけること」である。さらに、「シンプルで環境に配慮した東京五輪の実現」と、「猪瀬前都知事の5000万円問題の徹底追及」の二点を特別政策として掲げた。
東京には現在、特別養護老人ホームに入れない高齢者が約4万3千人、幼稚園、保育園に入れない待機児童が、8千人?2万人いる、と宇都宮氏は説明する。さらに、「石原都政から都営住宅が一つも建設されなかったこともあり、『住まいの貧困』が顕在化している」とし、雇用問題・ブラック企業の深刻性にも言及した。
その上で宇都宮氏は、「私が知事になったら、特別養護老人ホームを建設し、入りたくても入れない状態を解消する。また、質の高い保育園の建設を実施し、待機児童解消に努める。住まいの貧困解決のため、都営住宅の開発を再開し、東京に75万個存在する空き家を都が借り上げて、公共住宅として都民に提供する。
また、低賃金の労働者のために『家賃補助制度』を導入する。そしてブラック企業規制条例を作り、東京からブラック企業をなくす。長時間労働を禁ずる『過労死防止条例』を作る」と訴えた。
平和憲法の維持を主張する宇都宮氏に、質問が飛んだ。「覇権を狙う中国が日本の諸島へ侵略に乗りだした場合、都知事としてどう対応するのか」。
宇都宮氏は、「第二次世界大戦前のように、植民地を作って後進国を支配する時代は終わったと考えている」と明言。さらに、「軍事力で領土問題を解決できる時代も終わった。基本的には外交で問題を解決するのが21世紀の物事の処理の仕方だ。ところが安倍政権は、中国、韓国との首脳会談も行わず、それどころか、靖国を参拝し、ますます関係は悪化している」との見解を示す。
「私が知事になったら、ソウルと北京の市長に呼びかけ、『平和都市会議』を開催し、自治体外交を通じたアジアの平和外交を作りたい。平和と友好の祭典である東京オリンピックを成功裏に開催するためにも重要だ」とした。
ある記者は、細川護熙候補との一本化に関して質問した。「宇都宮氏の基本政策の中には、細川氏と同じような部分があるように思う。統一候補を出すなど、協力すべきではないか」。
これについて宇都宮氏は、「脱原発という点では同じ方向を向いているが、それ以外は違う」と断言し、「我々は細川氏と公開討論会を開き、市民運動の皆さんに一本化を判断してもらおうと提案した。しかし、細川氏には応じてもらえなかった」と明かす。
続けて、「細川氏は、憲法の問題や集団的自衛権の行使については、これまであまり明確にしてこなかった。その細川氏を応援している小泉氏は、首相当時、規制緩和政策をとり、新自由主義のもと非正規労働者が増え、派遣切りが大量に発生した。細川氏は、こういう小泉さんの政策を踏襲している可能性がある。これでは貧困問題は解決しない」とし、自らとの政策の違いを明確にした。
風営法による「ダンス規制」と、「有害図書規制」についての立場を問われた宇都宮氏は、「表現の自由を侵害するという理由で、ダンス規制と有害図書規制に反対している」と、きっぱり。
「民主主義社会においてもっとも重要なのは、出版、集会結社、表現の自由ではないかと思っている。憲法でも、基本的人権として保障されている。ところが、最近の政府の動向は、こうした表現を制限する方向に動いている。象徴的なのが、秘密保護法の強行採決。私はこうした動きを憂いている」と説明した。
「弁護士として長い経験を有しているのはわかるが、政治とは、法務と別世界なのではないか。そのギャップをどのように埋めるのか」。政治家としては素人ではないか、と遠回しに指摘された宇都宮氏は、これを否定し、都政への自信を見せる。
「私がやってきた弁護士としての活動は、一般の弁護士と少し違った面がある。一般の弁護士は、個別の依頼者の依頼を受けて、その事件を解決することが中心になっている。しかし、たまたま私が多く取り組んだ事件は、社会的な事件だった。
例えば、個別の多重債務者の救済でも、全国に何百万人といる多重債務者を救済するためには、法を変える必要があった。この30年間で、さまざまな法律を作ってきたが、法律を作るためには、国会で過半数の賛成が必要だから、法律を作るためのロビー活動は野党だけでは駄目で、与党も説得しなければいけなかった。
この活動そのものが、ある意味では『政治的活動』ではないかと思っている。知事になれば、条例を作るにも都議会の協力を得なければならない。これまでの経験から、事実の道理に基づき、都民のためになるものであれば、自民党や公明党の都議会議員も賛成していただける。そういう確信を持っている」。