京都市伏見区の龍谷大学深草学舎で、1月21日、講師に上智大学文学部新聞学科教授の田島泰彦氏を迎え、龍大9条の会 1月緊急学習会「どうする?どうなる?特定秘密保護法」が開かれた。
田島氏は、昨年末にスピード成立した「特定秘密保護法」が施行されれば、新聞の、国家に関する報道が「官報」並みのレベルになる恐れがあると警鐘を鳴らした。
「国家関連の重要情報を握っている公務員に、最高で懲役10年というプレッシャーがかかれば、彼らは一斉に萎縮して、メディアへの情報提供を控えるようになるだろう」。新聞記者が、粘り強い取材で相手から重大事実を引き出して記事を書く「調査報道」は、今でさえ多くないのに、今後はますますその割合が低下し、国が発表する情報に基づいた、いわば「人畜無害」の国家関連記事しか紙面に載らなくなる可能性が十分ある、というわけだ。
また、田島氏は、民主主義社会を正していく上で大切な、市民による「言論活動」も、その根拠になるファクトが世の中に出回らなければ、説得力のない叫びにしかならない、と指摘。市民有志に向かって、「秘密保護法廃止」という難しい目標に挑むべきと訴えた。
- 講演 田島泰彦氏(上智大学 文学部新聞学科教授(メディア法)) 「改めて考える、特定秘密保護法の成立とこれからの日本社会(仮)」
- コメンテーター 斎藤司氏(龍谷大学 法学部准教授(刑事訴訟法))
田島氏は、まず、「共通番号制度」に触れた。これは、マイナンバー制度とも呼ばれるもので、国民一人ひとりに割り当てる固有の識別番号から、社会保障や納税の情報を、国が一元管理できるようにするもの。マイナンバー法は、昨年5月に成立した。
有識者たちからは、「対象となる個人情報が、段階的に増やされる危険性があり、市民のプライバシーは、やがて『まるはだか』にされてしまうのではないか」と言及されている。
田島氏は、共通番号制度と秘密保護法は、「お上の立場から、この国の情報を統制していく点でつながっている」と強調する。つまり、国は、この2つの取り決めを車の両輪にして、1. 国民への、情報提供の是非を勝手に決められる、2. 国民からはプライベートに関する情報を、法律をうしろ盾にして集められる──という、「情報統制」に必要な基盤を築くことになる。
「このままだと、国の情報統制の下で、日本の民主主義は一段と形骸化してしまうだろう」と懸念を表明した田島氏は、「国の秘密情報に関しては、すでにある法律によって、これまでも『秘匿のカバー』が掛けられてきたことを、ぜひ知ってほしい」と強調した。
ただの秘密が「特別秘密」に格上げされる
代表的なのは、公務員の「守秘義務」である。「公務員、わけても日本中の国家公務員が、職務を通じて知った国家関連の秘密情報の合計は、いつの時代も膨大な数になる。つまり、公務員に守秘義務が課せられてきたという、その1点だけで、国に関する秘密情報の中で『秘匿のカバー』から漏れるものは、基本的には、これまでもなかったことになる」。
ことに米軍がらみの機密情報については、「刑事特別法」という形で、漏洩と探知・収集にあたる者には、最高で懲役10年の処罰が用意されていたなど、「軍事関連の分野では、かなり厚い情報秘匿のカバーが、すでに掛けられていたのだ」。
では、安倍政権は、なぜ、わざわざ「秘密保護法」を作ったのか──?
田島氏は解説する。「国民の一般的な認識では、軍事・防衛がらみの秘密と、それに関連する外交上の秘密が国家秘密だが、秘密保護法には『特定有害活動(スパイ的行為)の防止』『テロリズムの防止』という新分野も加えられている。要するに、従来のルールだったら普通の国家秘密だったものを、『特別秘密』に格上げすることを通じて、漏洩者への「厳罰枠」を広げる狙いが(安倍政権には)あったのだ」。
「未然主義」を併せ持つ徹底ぶり
「特定有害活動の防止」「テロリズムの防止」が、新たに対象になったことについて田島氏は、「警察官は本来、地方公務員だが、警察庁の長官が特定秘密に指定した情報が、地方の警察に流れるため、彼らも特別秘密情報の管理の担い手になった」と述べた。
特別秘密情報の「情報源」ともいえる人たちが、漏洩行為を行った場合、秘密保護法の下では、最高で懲役10年の罰則が与えられる。田島氏は「懲役10年には、当人のその後の人生をズタズタにする威力があるだけに、秘密保護法が施行されれば、情報源は間違いなく萎縮する」と言明する。
国と契約している民間の事業会社や、政府三役・首相補佐官といった一部の政治家も、漏洩で厳罰の対象になる、ともした田島氏は、「国は『適正評価制度』の導入で、内部告発の心配が不要な公務員や民間人だけに、特別秘密情報を扱わせることになる。これは、漏洩の防止を図る、いわば『前のめり』の規制であり、これも秘密保護法の大きな特徴だ」と説明を重ねた。
秘密保護法の「適正評価制度」に関しては、本人の犯罪歴や精神疾患の有無などはもとより、家族についても、個人情報が調査される可能性が十分にある。
さらに田島氏は、情報源への「アプローチ」にも規制がかかる、とも指摘した。「特別秘密の管理を害するような行為で、その情報を取得する行為にも、最高で懲役10年が課せられる」とし、「対象者には、メディアの記者のみならず、一般市民や大学の研究者なども含まれる」と強調。「『特別秘密の管理を害する』という概念には、相手に酒を飲ませてしゃべらせるといった行為も含まれるだろう」と話し、「将来的には、取得のための『探知・収集』も、規制の対象になる可能性がある」と語った。
「根拠なき主義主張」による論争という不毛