復活望めぬ月刊誌、秘密法成立──逆風のフリー記者に「新規軸」あり 〜早大で石丸次郎氏らがシンポ 2014.1.18

記事公開日:2014.1.18取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

 「マスメディアの衰退につき合って、自分の仕事もジリ貧になっていくのはご免だ」──。2014年1月18日、東京都新宿区の早稲田大学早稲田キャンパスで開かれた、ジャーナリズム・シンポジウム2014「ジャーナリズムに何ができるか 特定秘密保護法 × データ・ジャーナリズム」で、石丸次郎氏(アイ・アジア、アジアプレス共同代表)から、何度もこのような言及があった。

 『現代』(講談社)、『論座』(朝日新聞出版)、『プレイボーイ』(集英社)など、近年の出版不況を背景に、事実上の廃刊に追い込まれたノンフィクション系月刊誌名が列挙され、原稿料値引きの実態も紹介されるなど、前半の議論は、雑誌を主戦場にして生計を立ててきたフリージャーナリストの窮状を訴える内容でもあった。

 青木理氏(フリージャーナリスト)は、雑誌ジャーナリズムの縮小とともに、編集者が書き手を鍛える文化が「過去の話」になることを危惧した。インターネットの言論空間では、原稿が(ほぼ)そのままアップされるケースが圧倒的で、「目立つことが目的の、剣呑な自己満足型の文面が非常に多い」というのである。今後それが、フリーライターの全般的な質の低下につながっていく恐れがある、と指摘した。

 もっとも、この集会は「ぼやき大会」ではない。既存メディアの存続が難しくなっていく中で、「調査報道」はいかに生き続けていくかという、前向きな意識が中心をなしていた。今後、調査報道が、インターネットの大普及をより積極的に味方につけていくことは自明として、問題は、かかる「コスト」をいかに捻出するかである。米国に急増した「非営利ジャーナリズム」や、データの可視化が売りの「データ・ジャーナリズム」をキーワードに、次代の調査報道のあり方を考える、熱気が漂う3時間となった。

■ハイライト

  • 司会 石丸次郎氏(アイ・アジア、アジアプレス共同代表)
  • 第一部 特定秘密保護法下の調査報道はどうなる?
    パネリスト 花田達朗氏(早稲田大学ジャーナリズム教育研究所所長)/平和博氏(朝日新聞記者、デジタルウオッチャー)/青木理氏(フリージャーナリスト、元共同通信記者)
    報告 立岩陽一郎氏(NHK記者)
  • 第二部 データ・ジャーナリズムとは何か、可能性は?
    報告 益田美樹氏(フリージャーナリスト、アイ・アジア、元読売新聞記者)/平和博氏
    パネリスト 益田美樹氏/花田達朗氏/平和博氏/青木理氏

 「この10数年間、日本のマスメディアの衰退ぶりは、明確に数字に表れている。私は独立系のジャーナリストとして、主に朝鮮半島問題を扱っているが、自分の経験値に照らしても、テレビ・新聞あるいは雑誌にルポルタージュを発表する機会がめっきり減っている」。集会は、こう強く訴えた、司会役の石丸氏が終始リードする形で進行した。

 一時期の雑誌休刊ラッシュに象徴されるように、既存のメディア自体が急速に縮小している、と指摘した石丸氏は、「フリージャーナリストに支払われる報酬の減額も顕著」と述べ、たとえば、グラビア雑誌の場合、90年代初頭は写真と文章で1ページ10万円ほどだったが、その後は5万円、3万円と段階的に引き下げられ、今や、その種の雑誌自体がなくなりつつあるなどと、実例を示した。

 石丸氏は「これは出版業界に限った話ではない」と強調する。「テレビでも民放の場合は、ドキュメンタリーに背を向けている印象がある。視聴率が低い番組には『退室の圧力』が加わっているのだ。テレビ業界の、われわれへの報酬も、この10数年間で半減した」。

既存メディアに復活を望んでも無駄

 登壇者の中で、「泣きごとを言ってもしょうがない」と力を込めたのは、青木氏だった。「いつの時代も、フリーの書き手は、書きたいという衝動に突き動かされてペンを握るもの」とし、「何らかの手段で暮らしを維持し、自分が書きたいものを細々と書いていくことは(一般論として)将来的にも可能だと思う」と語った。

 石丸氏は「既存メディアに復活を望んでも無駄」とした上で、ジャーナリズムが民主主義社会を支えるインフラである以上は、調査報道自体が、新たな活躍の場を創出していくことが肝要、と主張。「今日のシンポジウムは、そういった共通の認識の下で、議論を深めていきたい」と宣言した。

大手メディアは「秘密法」で捕まったフリー記者を守ろうとするか

 この集会では、先般成立した「特定秘密保護法」がらみの討議もあった。石丸氏は「われわれジャーナリストは、今後も、世間に伝えるべき情報を伝えていくが、情報を隠したい体制側との間に『新たな摩擦』が生じることを覚悟しておかねばならい」と話し、各登壇者に発言を求めた。

 「秘密保護法が施行された場合、その第25条違反で、逮捕されるジャーナリストが出る可能性がある」と指摘した花田達朗氏(早稲田大ジャーナリズム教育研究所所長)は、「そうなった時に、日本のマスメディアが、そのジャーナリストを守ろうとするだろうか。私は、かなりの確率で、はしごを外されると思う」と述べ、「公権力を監視するという本分に忠実であるジャーリストには、『25条違反』の脅威が常について回ることになる」との認識を示した。

 石丸氏も似た意見だ。「マスメディアの社員記者が、秘密保護法で逮捕されることはないと思う。捜査の標的になるのは、私のような独立系メディアに勤める者を含む、フリーランスのジャーナリストや、ボランティア記者、あるいはブロガーだろう。これを自分にも起こり得る問題として捉えた場合、たとえ起訴に至らなくても、事務所のガサ入れなどされたら、たまったものではない」。

 平和博氏(朝日新聞記者)は「秘密保護に関しては『この法律で誰が得をするのか』という素朴な疑問がある」とした上で、例の「スノーデン事件」を紹介。NSA(米国家安全保障局)が、インターネットをまるごと窃視・盗聴していた事実が暴露されたことを強調した。

 「これは、世界の市民を驚愕に陥れた重大事実の発覚である」と重ねた平氏は、「秘密保護法の成立は、そういうことを平気でやっている米国と、機密情報の面で日本が手を組むことを意味する。安倍首相が本来やるべきなのは、ドイツのメルケル首相のように、『われわれの国に対しては盗聴を行っていないだろうね?』と、米オバマ大統領に直接突きつけることではないか」と力を込めた。

秘密保護法で得をする警察、ダメージを受けるジャーナリスト

 「秘密保護法を作ったのは『内閣情報調査室』だ」と青木氏が発言。「この組織は、警察官僚の出先機関。構成メンバーの大半は警察出身者だ」と続けた。

 米国から外交防衛上の重要情報を得るために、秘密保護法が不可欠という安倍政権の主張には、「まるで説得力がない」と青木氏は断じる。「自衛隊法という既存の関連法で、十分事足りる。要するに、あの新法は、警察が、自分たちが主管する『特定有害活動とテロの防止』を行いやすくするために欲しかったのだ」。

 「秘密保護法成立で、一番得をするのは警察。同法は、ずばり『治安立法』である」と青木氏は言明し、警察の発想はアナクロだとも指摘。「平さんも言うように、情報管理が必要というのであれば、目を向けるべきは今やネットの世界なのに、彼らの発想は、相変わらず『スパイが街にうごめいて情報取得を図っている』というもの。もっともダメージを受けるのは、『取材の自由』が奪われる、われわれジャーナリストだ」。

『プロパブリカ』は成功事例の代表格

 続いて集会は、米国で急速に台頭している「非営利ジャーナリズム団体」に話題を移した。

 石丸氏は言う。「米国のマスメディア衰退は、日本のそれを凌ぐピッチで進んでいる。この数年間で100を優に超える数の新聞社が倒れている。しかしながら、一方では、調査報道を行うNPO法人という新勢力が存在感を増している。ここで、米国の『非営利ジャーナリズム』の現状について、議論を行いたい」。

 石丸氏に紹介されマイクを握った立岩陽一郎氏(NHK記者)は、開口一番、「確かに、米国の既存メディアの衰退ぶりは凄い」と切り出し、「ワシントンDCでは、あのワシントン・ポストの名物記者が定期的に集会を開催し、集まった市民らに『うちの新聞を買ってほしい』と求めている。それでも、購読者数の減少には歯止めがかからないのが実情だ」と報告した。

 「NPOメディアの登場が顕著になったのは、2007年頃のこと。新聞社を辞めざるを得なかった記者たちの、受け皿の役割を果たした面が大きい。代表的な団体には、ニューヨークの(ウォール・ストリート・ジャーナルの主幹編集者らによって立ち上げられた)『プロパブリカ』がある。今や、大手新聞社以上の取材力がある、との評判も聞かれるほどだ」。

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