2011年に東京で起きた、三鷹バス痴漢冤罪事件から2年が経った。冤罪事件はなくなるどころか、自白を迫られたとする被疑者らは後を絶たない。取り調べの可視化を求める市民団体連絡会と日弁連らは1月17日、「取調べの可視化を求める市民団体連絡会主催・日本弁護士連合会共催 市民集会」を開催し、今後の取り調べのあり方について議論した。
集会には、ジャーナリストの江川紹子氏、映画監督で法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」委員の周防正行氏の他、三鷹バス痴漢冤罪事件の冤罪被害者・津山正義氏が登壇した。
(IWJ・鈴木美優)
2011年に東京で起きた、三鷹バス痴漢冤罪事件から2年が経った。冤罪事件はなくなるどころか、自白を迫られたとする被疑者らは後を絶たない。取り調べの可視化を求める市民団体連絡会と日弁連らは1月17日、「取調べの可視化を求める市民団体連絡会主催・日本弁護士連合会共催 市民集会」を開催し、今後の取り調べのあり方について議論した。
集会には、ジャーナリストの江川紹子氏、映画監督で法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」委員の周防正行氏の他、三鷹バス痴漢冤罪事件の冤罪被害者・津山正義氏が登壇した。
■ハイライト
2011年12月22日、午後9時半頃、JR吉祥寺駅から京王線仙川駅に向かうバスの社内で、「スカートの上からお尻をなでた」として津山正義氏が逮捕された。当時、津山氏は交際相手とのデートのために、勤務していた中学校に忘れた財布を取りに戻る途中だった。
本事件で津山氏は、「なぜ、これからデートをしようとしていた私が痴漢しなければならないのか」と怒りを込めて語り、バス車内の監視カメラに津山氏が痴漢をしている姿が映っていないこと、事故当時に両手を塞がれていた津山氏が痴漢をすることが不可能であったことなどを訴えたという。
身の潔白を証明する確たる証拠があるにもかかわらず、地裁立川支部の倉澤裁判官は、バスが揺れた際にこれまで映っていた津山氏の手が見えなくなった箇所を指し、「左手の状況が不明な時間があるので左手なら可能だ」と述べ、推測で痴漢と判断した。津山氏は、「なぜこんな判断に至ってしまうのか」と声を上げた。
三鷹警察署で津山氏の取り調べをしていた警察官は、「私の仕事は君を有罪にすることだ。有罪にし、裁判にする。君は有罪になる覚悟があるか」と津山氏に述べたという。津山氏は、「この言葉がすべてを物語っている」と語り、客観的な事実を用いて「痴漢」とする警察官や刑事らの考えの不当さを訴えた。
「自分はそういうことをする人間だったのか。一番してはいけない行為だと思っていたことを、本当に自分がやったのか」と、自身の記憶ではやっていないはずの痴漢行為を、本当に自分がしていたのかと考えさせられたと話す津山氏。朝9時から夕方5時まで、木製の椅子に手錠をかけた状態で座らされていたとき、津山氏は無実の自分を責めてしまうほど苦しい思いをしたと語る。
津山氏が公立中学校の教諭であることを受け、取り調べの警察官らは、「自分の教え子と同じくらいの年の女の子に裁判を受けさせるのか」などと脅し、自白を迫ってきたという。津山氏は、自白を強要してくる警察官らに対し、「平気で嘘をついて自白を迫る彼らが許せない」と怒りを露わにした。
痴漢冤罪を題材にした映画「それでもボクはやってない」(東宝・2007年公開)の監督、周防正行氏は、自身が属する法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会が作成した「時代に則した新たな刑事司法制度の基本構想」の内容を報告。
同基本構想内では、取り調べ全課程の録画・録音の要求、特定の例外の定義を明確化することなどが掲げられている。現状では録画・録音の当否を捜査機関が判断しているが、本構想内では、裁判所の判断で記録媒体の公開・非公開を判断すべきだと求めている。
周防氏らの要求に対し、警察・検察側は、「日本の捜査においては、密室での取り調べが非常に大きな役割を持ってきた。市民からの支持も得ている」と述べ、さらに、「取り調べの可視化によって、今までのような取り調べが出来なくなるということは、あってはならない」と取り調べ可視化を否定したという。これについて周防氏は、「録画・録音がないから真相が分からないと話しているのに、全く話が食い違っている」と警察・検察側の弁明を指摘した。
ジャーナリストの江川紹子氏は、最近の可視化を求める運動について、「以前と比べしぼんできた気がする」と懸念を示した。さらに、取調調書を証拠として採用する裁判所の在り方についても言及し、「裁判所が録画・録音された証拠を出せと言えば、こんなことは起こらない」と語り、「大きな責任は裁判所にある」と指摘した。
さらに江川氏は、「裁判所の批判をしてこなかったジャーナリストたちも悪い」と述べた。冤罪犯罪が問題となれば、各メディアも大きく報道し、裁判所の問題も提起される。しかし、時間が経つにつれ、裁判所の在り方について議論されることも近年では減少傾向にある。
現在裁判所では、検察側が用意した取調調書をもとに有罪・無罪の判決を下している。江川氏は、この流れについて、「有罪となるストーリーに合うように嘘を事実のように証拠にされているのが現状だ」と鋭く批判した。取調調書の提出で有罪判決がされるのは、警察にとっても裁判所にとっても効率的である。しかし、江川氏は、「冤罪をめぐる論争なんて、裁判所がきちんとした証拠を出せと言っていれば起きない」と怒りを露わにした。