「地震発生から1分20秒後には、冷却水の流れが完全に停止していた」──。
2013年12月7日、岡山市のろうきんビルで、東京電力の原子炉技術者であった木村俊雄氏を招き、講演会「津波の前から始まっていたメルトダウン」が行われた。
木村氏は、福島第一原発の「過渡現象記録装置」による膨大なデータを解析した結果、地震による自動停止直後に、本来あるべき炉心の水の流れがなくなっていたことを指摘。炉心につながる小さな配管が、地震で破損した可能性があり、結果として、津波到達の前に、気泡が核燃料に張り付き、燃料破損をもたらす危険な状態「ドライアウト」に陥っていた可能性がある、という。木村氏は、今後、こうした見解を国会議員にも訴えていく予定。
再稼働へ向け、舵がきられた島根原発2号機
はじめに、平和フォーラムしまね事務局長の松永氏は、活動の報告を行う中で、中国電力が島根原発2号機の再稼働へ向けて、国に安全審査を求めている現状を語った上で「安全審査は規制委員会が行うが、万が一、事故が起こった時のリスクは、地元住民が背負うことになる。福島の事故原因が究明されていない中で、なぜ、急いで再稼働しようとしているのか、疑問である。地元住民に対して、きちんとした説明をして、議論の場を提供してほしい」と述べた。
「電気を買わない」という選択が、電力会社に大きな影響を与える
次に、2000年まで東電社員として、福島第一原発の炉心設計などを担当し、柏崎刈羽原発の1号機の試運転にも携わっていた木村俊雄氏が登壇した。
まず、「福島第一原発は、本当にトラブルが多かった。その際、役所や行政に対して、本当の情報を揉み消す隠蔽体質を目の当たりにした。次第に、東電に対して不信感を抱くようになり、辞めるに至った」と、これまでの自身の体験を語っている映像が流された。また、現在、木村氏が取り組んでいる自給自足の生活に関しては、太陽光発電を導入したことにより、節電が実現できている現状を語り、「電力を買わない、ということが、電力会社に大きな影響を与えることができる」と述べた。
地震発生後、ドライアウト現象が発生していた
木村氏は、地震によって原子炉が破損する条件は、以前から揃っていたことを指摘した。燃料棒の構造、プルトニウム生成の過程を解説し、原子炉の断面図を示しながら、炉心冷却の仕組み、圧力容器内における冷却水の流れを説明した。
そして、事故後に東電が公開した、原子炉の運転状況を記録した日誌から、冷却水の流体データが削除されていたことに気付いたという木村氏は、「地震発生から1分20秒後には、冷却水の流れが完全に停止していたことが判明した。原子炉内で、細い配管が破損し、核燃料に気泡が付着し、核燃料の破損をもたらす『ドライアウト現象』が起こっていたのではないか」と見解を述べた。
「地震によって原子炉が自動停止した後は、福島第一原発で起こったような状況になってはいけないと、電気事業法によって規定されている。地震から1分20秒後には、脆くもその法が崩れ、今回のような事故になってしまったと考えられる」。
その上で、「(事故処理を)東電任せにするのではなく、国と国民が一丸となって、この問題に取り組まないといけない」と主張し、事故原因の究明を進めて、そこから得た対策を、新安全基準に盛り込む必要性を語った。