【IWJブログ】山本太郎議員 天皇陛下への手紙手渡し問題 参院議院運営委員会が5日に「お沙汰」決定 その前に考えておくべき3つの論点 2013.11.5

記事公開日:2013.11.5 テキスト
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(調査・野村佳男、平山茂樹 文責・岩上安身)

特集 山本太郎

 10月31日の秋の園遊会で、山本太郎参議院議員が天皇陛下に手紙を手渡した行為が波紋を呼んでいる。足尾銅山鉱毒事件で明治天皇への直訴を試みた田中正造になぞらえて称賛する声があがる一方、「天皇の政治利用にあたる」という批判の声もあがっている。

 インターネット上には「山本太郎の手紙全文公開」と題された文書が出回り、事務所側が「すべてデマ・捏造でございます」と火消しに追われる事態に発展した(「山本太郎の手紙全文公開」のデマ・捏造について 【URL】現在、該当ページ見当たらず)。

 参議院議員運営委員会は、11月5日に開く理事会で再協議を行い、山本氏への具体的な処分を決定するとしている。他方、同じ5日には、国会の内閣委員会で、山本氏が当選後初めての質疑に立つことが予定されている。

 私は、明日11月5日の18時から、質疑を終えた直後の山本氏に単独インタビューを行う。その前に、考えておくべき論点を3つに整理して提示しておきたい。

・12:00めど 山本太郎議員 記者会見 (予定)
【Ch6】http://www.ustream.tv/channel/iwj6

・18:00 岩上安身による山本太郎議員単独インタビュー
【Ch1】http://www.ustream.tv/channel/iwakamiyasumi
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論点1 「天皇の政治利用」だとする批判は妥当か

 参議院議院運営委員会は11月1日に理事会を開き、山本氏が天皇陛下に手紙を手渡した行為について、「『天皇の政治利用』に当たり、国会議員としてあるまじき行為で、参議院の品位をおとしめる」という認識で一致した。11月5日(火)に具体的な処分を決定するという。

  • 山本議員の処分 参院議運理事会で来週協議(NHK、11月1日 記事リンク切れ)

 閣僚や自民党の幹部からも、山本氏の行為が「天皇の政治利用」に当たるとして、処分を求める声が相次いでいる。

 下村博文文部科学大臣は11月1日(金)の定例会見で、「議員辞職に当たる行為だと思う。まさに政治利用そのものであり、看過することがあってはならない」と山本氏を強く批判。谷垣禎一法務大臣も「政治家である参議院議員が書状を提出することは、天皇陛下を国政に引きずり込むことになりかねないのではないか」と懸念を示した。

 自民党の石破茂幹事長も11月2日(土)に行われた講演で「報道で取り上げられることで、自身の存在感を大きくしようと思ったのではないか。それは天皇、皇室の政治利用だ」と述べ、山本氏に対する議員辞職勧告決議案の提出が必要だとの認識を示した。

  • 陛下に手紙 閣僚から批判や懸念(NHK、11月1日 記事リンク切れ)
  • 山本参院議員への懲罰必要、自民・石破幹事長(msn産経、11月2日 記事リンク切れ)

 ここで言われている「天皇の政治利用」とは何か。

 日本国憲法第4条は、戦前の軍国主義への反省から、大日本帝国憲法における天皇の統治権を否定し、「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない」と定めている。

 憲法の定める国事行為とは、「内閣総理大臣・最高裁判所長官の任命」(第6条)、「法律の公布、国会の召集他」(第7条)に限定され、いずれも「内閣の助言と承認」が必要であるとされている。

 こうした「国事行為」の他、外国要人の接遇、外国へのご訪問、国会開会式へのご臨席、新年一般参賀へのお出まし、そして園遊会の開催などは、天皇の「公的行為」として位置づけられている。

 天皇は政治的な権力、権能をもたない。これが現行の憲法の定めである。今回の山本太郎議員の行動に対し、右からは「不敬罪である」などといった批判が飛んだ。実際、国会でもそのような野次が飛び交った。言うまでもなく、戦前のような「不敬罪」の規定は、今日、存在しない。

 他方、左からも「天皇を政治利用してはならない」との批判が出ている。これは、天皇の政治的影響力がなし崩し的にではあれ、拡大することがあってはならないという警戒感からである。

 しかし、後で述べるように、日本国憲法第16条は、国民が政治意思を国政の場において実現させるべく、広く国や地方自治体といった国家機関に対して要望を述べる権利「請願権」を、すべての国民に対して保障している。「請願権」の運用を定めた「請願法」では、天皇に対する「請願」も制度として認めているのである。

 今回の山本氏の行為は、日本国憲法第16条が保障する「請願権」を、手紙を渡すというかたちで行使したもの、ということになる。そうなると、仮に処分があり得るとすれば、「請願法」が定めた手続きを踏んだか否か、という点が焦点になる。請願を行う権利を憲法で認めている以上、それを「政治利用」であると非難し、議員辞職のような重い処分を求めるのは、いかにも無理がある。

 ちなみに、山本太郎議員本人の認識では、何かお願いごとをしたわけではなく、「現状をお伝えした手紙だった」のであり、「請願」のつもりではない、という。

論点2.「天皇の政治利用」を理由とする処分は妥当か

 そもそも、今回の行為について、「天皇の政治利用」を理由に、国会が処分を下すことが法的に可能なのかどうか、確認しておく必要がある。

 これまで、時の政権が天皇の「公的行為」を政治的に利用することで事態の打開を図ろうとした事例は数多く存在する。

 2009年12月15日、天皇陛下と中国の習近平国家副主席(当時)が会談を行った際、海外の要人が天皇陛下との会見を希望する際に一ヶ月前までに文書での申請を求める「30日ルール」という慣習を破るものであったことから、会談の実現に動いた鳩山由紀夫総理(当時)や民主党の小沢一郎幹事長(当時)に対して「天皇の政治利用ではないか」と批判する声があがった。

 今年4月にも、安倍政権主催の「主権回復の日」式典に、政府の強い求めで天皇・皇后両陛下が出席。退出の際に、会場から「天皇陛下万歳」の声があがり、壇上の安倍晋三総理や麻生太郎副総理も万歳を三唱する一幕があった。これは、事前に決められていた式次第には含まれていなかったものである。菅義偉官房長官は4月30日の記者会見で、「自然発生したもので、政府として論評するべきではない」と釈明した。

 今年9月の国際オリンピック委員会(IOC)総会には、下村博文文部科学相から宮内庁側に対して強い働きかけを行い、皇族の高円宮久子さまが出席し、スピーチした。当初、宮内庁と文科省は「久子さまの現地でのご活動はIOC委員との懇談などに限る」として決着していたが、下村文科相が高円宮久子さまの出席を渋る風岡典之宮内庁長官に直談判し、押し切った。

  • 久子さまIOC総会ご出席の舞台裏 官邸の意向、渋る宮内庁押し切る(msn産経、9月29日 記事リンク切れ)

 これらも「天皇や皇族の政治利用ではないか」との批判が起きたが、国会では現在に至るまで、具体的な「処分」は検討されていない。前述の通り、下村文科相は今回の一件で「山本議員は議員辞職すべきだ」と最も厳しい批判を口にしている。

 今回の山本氏の行為が「天皇の政治利用にあたる」として処分の対象になるとすれば、下村文科相の言動も問題にされるべきだろう。そうでなければ、公平性を欠くことになる。

論点3 山本氏は議員辞職をしなくてはならないのか

 「天皇の政治利用」という批判が的を外したものであったとしても、天皇陛下に手紙を手渡しするという今回の山本氏の行為が、「請願」の手続きを規定した「請願法」(昭和22年3月13日)に抵触するのではないか、という指摘がある。

 請願法第3条には「天皇に対する請願書は、内閣にこれを提出しなければならない」という規定があり、直接手紙を手渡すという行為は、この規定に反するというものだ。

  • 山本太郎氏、天皇陛下に直訴 園遊会で手紙を手渡し 請願法違反の可能性も(ハフィントン・ポスト 2013年11月1日)

 この点はたしかに「ルール違反」としてとがめられる可能性はある。しかし、「請願法」そのものをよく読むと、違反した場合の罰則の規定が存在していないことに気づく。

 さらに、国民の「請願権」について規定した日本国憲法第16条には、以下のように定められている。

 <何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない>

 このように憲法には、国民一人ひとりに「請願権」を保障しているだけでなく、「かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない」とまで明記されているのである。

 もし、参議院議院運営委員会が、処罰を決定した場合、この憲法16条の条文との整合性はどうなるのだろう。事と次第によっては、「違憲」と判断される可能性もあるのではないか。

 むろん、国会は法廷ではない。法が厳密に適用されるとは限らず、政治力や世論の動向に影響されることもしばしばである。

 常識的に判断すれば、注意程度の話のはずだが、たった一人の新人議員に対し、閣僚や与党のトップがそろってむきになっている図は、かなり「異様」である。一方的な処分が下される可能性もあり、成りゆきを見守る必要があるだろう。

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「【IWJブログ】山本太郎議員 天皇陛下への手紙手渡し問題 参院議院運営委員会が5日に「お沙汰」決定 その前に考えておくべき3つの論点」への4件のフィードバック

  1. 矢車草 より:

    今年の「美智子皇后の誕生日によせる言葉」にもっと注目すべきです。
    この一年の心境を問われた 問1.に対して語られた主文は!きわだって憲法についてにあると思います。
    お付き合いのあった方々へのご弔意を始め、一年間の様々な事象についてお話されているのですが、わたしたちにお伝えなさりたいことは「五日市憲法草案」に依せて、現行平和憲法への理解と慈しみだったのではないでしょうか。

    質問に明示されていたオリンピック招致についてなど、素っ気ないほどの2、3行です。

    例年に異なって、憲法についてお話なされたのは、自民党現政権による主権回復の日、オリンピック招致などへの強引な皇室利用への言及なのだと思います。
    美智子皇后のお言葉には当然天皇も目をお通しされていらっしゃるのでしょうから、現安倍政権への天皇の言葉と受け取るのなら、これは現政権への危惧であり、宮内庁としての抗議とみてもいいのです。

    福島原発事故に歴史的にいたたまれない程に傷ついているのが今上天皇皇后なのです。ですから、だれよりも正確な情報を欲していらっしゃるのがお二方なのだと思います。天皇皇后がイノセントであるなど良くも悪くも幻想です。

    皇室からのシグナルを受け取ることもあっていいのではないでしょうか。 勘ぐるのなら、山本太郎さんが宮内庁から事前に許可を得ていたことだってあるかも知れないのです。

  2. 勝見貴弘 より:

    請願法の適用について,一部誤認があると思われます。請願法が対象としているのは一般の国民であって国家公務員ではありません。そもそも請願」 とは、「主権者たる一般国民の政治意思を国政の運営に表明して実現させるべく、 広く国や地方自治体の国家機関に対して要望を述べること」を意味するのです。また請願法には天皇に対する請願の規定もありますが,これも国家公務員には該当しません。なぜなら,国家公務員(国会議員)が正規の手続に則って天皇陛下に請願できるということは,国政に関わる国会議員が天皇陛下に政治的役割を求めることができることも意味するからです。翻って,主権者である一般国民は,天皇に請願することを認められています。これは,一般国民が国政に直接携わる存在ではないからこその規定だと思われます。請願法の適用範囲について事実関係を確認した上で論点を再度纏めることをお勧め致します。

    1. さぶぅ より:

      「請願とは国民の政治意思を表明し要望するもの」というのは嘘。憲法の条文ぐらい自分で確認してから引用すべきだ。「憲法第16条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、」とあるように、トップに記載されている損害救済は政治意思の表明ではない。
      また、他の方も指摘しているが、「何人も」で始まる条文は第17,18,20,22,31,32,33,34,35,38,39,40とたくさんある。これらの条文ですべて国会議員が除外されると議員のなり手がいなくなる。勝手な解釈が馬鹿げた結果を招く。

      それから請願法第3条に天皇請願は内閣に提出しなければならないとあるが、第4条には誤って提出された場合は受けた部署が請願者に説明するか該当部署に送付しなければならないと規定している。つまり提出先を間違えることより、ちゃんと届くことが優先される。今回の例なら、天皇が「内閣に提出してください」と言って受け取らないか、「私の方から内閣に送付しておきます」と言わなければならない。3条違反を問うのなら、天皇の4条違反も問わねばならない。

  3. @senna1994may1 より:

    請願法が対象としているのは一般の国民であって国家公務員ではない。よって山本太郎議員の行為は請願法の適応外だという上記の意見に対してですが、これは官僚や政治家が好む解釈の違いであり、あくまで憲法第16条では「何人も」と言っている訳だから、国家公務員も当てはまると考えて当然だと思います。
    唯一ミスを犯したとすれば、請願法では内閣に書面で提出しなければならないとある部分でしょう。しかしながら、このブログに書かれてあるように、誤った手続きをしたことによる罰則規定などは憲法にも請願法にも何処にも記述されていません。よって、山本太郎議員を罰することがあればそれは拡大解釈であり行き過ぎた行為かと思う。
    さらに、憲法と法律で相反する矛盾等が生じた場合には、憲法を優先することが、憲法第98条にて「憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。」と記されています。
    よって、憲法で何人にも請願の権利を保障している以上、今回の山本太郎議員の行った行為に対していかなる処罰や差別もされてはいけないのです。

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