「橋下維新は終わっている、との見方は早計かもしれない」 ~前大阪市長 平松邦夫氏講演会「『維新の会』は何が問題であるのか」 2013.11.1

記事公開日:2013.11.1取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

「橋下氏はメディアの利用が巧妙でパフォーマンスが上手。敵に回したくない相手だ」──。

 11月1日、兵庫県尼崎市の労働福祉会館で行われた連続市民講座で、前大阪市長の平松邦夫氏が「橋下『維新の会』は何が問題であるのか」の演題で講義をした。「橋下徹大阪市長(日本維新の会共同代表)への、ヘイトスピーチをするつもりはない」と冒頭で宣言した平松氏は、いわゆる「橋下改革」や維新の会の綱領について、「新自由主義の色合いが濃い」と指摘。「競争に強い人間だけが報われる社会を、誕生させてはならない」と力を込めつつ、これからの日本には「成熟国家」に相応しい理念が必要、と訴えた。

記事目次

  • 堺市長選で「橋下人気」を再認識
  • 「公募区長・校長制」は奏功したか

■全編動画

  • 日時 2013年11月1日(金)
  • 場所 労働福祉会館(兵庫県尼崎市)
  • 主催 市民の力で社会を変えよう!連続市民講座実行委員会

 この日、「橋下」と並んで、平松氏が口にした回数が多かった言葉が「新自由主義」。「『自由』をより推し進めるイメージで、耳障りのいい言葉だ。しかし、その本質は違う」。新自由主義とは、あくまでも「自己責任」を原則とするもので、たとえ実力はあっても、運に恵まれなければ、「今の不遇は、あなたの努力不足のせい」と、ひと言で片づけられてしまいがちな、極めて冷徹な競争社会を支える価値観である。

 平松氏は「新自由主義を推奨する人たちは『成功者が、やがて社会全体を引っ張り上げる』と喧伝しているが、鵜呑みにしてはいけない」と警鐘を鳴らす。「新自由主義がグローバリゼーションと合体することで、ほんのひと握りの人たちが、世界中の利益を独占的に手中に収めてしまう時代が、すでに幕を開けている」。

 平松氏は、橋下氏が掲げる大阪都構想や維新の会の綱領には「新自由主義の色合いが感じられる」とした。象徴的なのは、日本維新の会の綱領にある「自立する個人」という言葉で、平松氏は「これは、個人の安心した暮らしを守る安全網の役目を担ってきた、地縁・血縁社会や終身雇用制度などを、今以上に崩壊させること意味する」と強調した。

堺市長選で「橋下人気」を再認識

 さらにまた、綱領にある「日本を孤立と軽蔑の対象に貶め、絶対平和という非現実的な共同幻想を押し付けた元凶である占領憲法を大幅に改正し──」との記述についても、「この文面を読んだ時、私は腰を抜かしそうになった」と嫌悪感をあらわにし、「ここまで言い切っているのは、多分、共同代表を務めている石原慎太郎氏だろう」と述べた。

 平松氏は、橋下氏を「他人の意見に耳を貸さず、メディアの利用が巧妙でパフォーマンスが上手い」と評する。「私は市長時代に、当時の大阪府知事だった橋下氏に直に接してみて、『選挙で敵に回したら苦戦することになる』と痛感した」。

 平松氏は、巷間聞かれる「橋下維新は終わっている」との見方には違和感がある、と表明した。「その見方は希望的観測であり、早計かもしれない」と語り、この9月に行われた堺市長選の結果に触れた。無所属で自民党支持、民主党推薦の現職、竹山修身氏が、諸派で地域政党・大阪維新の会公認の新人、西林克敏氏を破って再選を果たしたが、平松氏は「メディアが言うような、竹山氏の圧勝ではなかった」とし、こう説明した。

 「投票日の4日ほど前に行われた、メディアなどによる事前予測では、竹山氏が圧倒的にリードしていた。が、最後の3日間、応援に駆けつけた橋下氏が堺市で熱弁をふるうと、予測では19万票(竹山)に対し10万票(西村)と大差だったものが、19万対14万に縮まっている。橋下効果で、4万票が増えたとしか思えない」。

 平松氏は、大阪維新の会の政策に反対する堺市民が、この市長選で初めて生の「橋下スピーチ」に触れたあと、「橋下氏は、よくがんばっている」と話すのを実際に聞いたという。「橋下氏には、反維新をも魅了してしまうところがある」。 

「公募区長・校長制」は奏功したか

 平松氏は、2011年4月に大阪で行われた統一地方選で、「橋下人気」に便乗して、政治にまったくの素人が何人も当選していることに言及。「彼らの選挙活動の特徴は、録音した橋下スピーチの大胆な活用にある」とした上で、実際に当選した、大阪維新の会の議員の何人かが起こした不祥事を次々に紹介した。

 また、橋下氏が大阪市に導入した「公募区長・校長制度」に話が及ぶと、平松氏は「公募にすれば良い人材が集まる、という発想の根っこには、『公務員は悪いことをする』という見方があるに違いない」と指摘した。

 そして、公募で区・校長になった人たちの中からも、かなり「蛮行者」が登場したことを報告。その中には、生徒の保護者にセクハラ行為を働いた校長もいる、とした。「こういった事態になってしまった以上、公募で入ってまじめに働いている区長や校長を守るためにも、役所は、採用では判断を誤った部分があることを、市民に説明すべきだ。そして橋下氏は、がんばっている区長や校長をもっと讃えてほしい」。

 スピーチの終盤で、平松氏は現在の日本維新の会の支持率に触れた。「昨年末の衆院選前は16%と驚異的な高水準。それが、今年の5月には約5%にまで下がっている。橋下氏が例の『慰安婦発言』をしたあとの10月には、さらに下がって全国では約1%だ。だが、近畿に限っては、3%あると聞いており、この点からも私は、『橋下維新は終わっている』との見方には疑問符を付けたくなる」。

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