「現行の技術ではシビアアクシデントをゼロにすることはできない」 ヤツコ元米原子力規制委員長が断言 2013.9.24

記事公開日:2013.10.2取材地: テキスト動画
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(記事・翻訳:野村佳男、記事構成:佐々木隼也)

 「人間が地下水をコントロールすることはできない」——。米原子力規制委員会(NRC)の元トップであったグレゴリー・ヤツコ氏は、安倍総理の「状況はコントロール下にある」という発言を強く牽制した。米国で長年原子力行政に携わってきた元規制当局トップが、原発利用の限界を訴える意味は大きい。

 9月24日(火)10時より、日本外国特派員協会(FCCJ)主催による「グレゴリー・ヤツコ氏、トーガン・ジョンソン氏、筒井哲郎氏記者会見」が行われた。(会見はほぼ英語です)

 「現在も続く福島第一原発の危機 (The Ongoing Fukushima Daiichi Crisis)」と題された記者会見では、汚染水問題などを中心に、今なお世界中の注目を浴びている福島第一原発の現状について、原子力政策における規制当局や市民団体の立場から、議論が交わされた。

※会見は、筒井哲郎氏以外、英語となります。

記事目次

■ハイライト ※会見は、筒井哲郎氏以外、英語となります。

  • 日時 2013年9月24日(火)
  • 場所 日本外国特派員協会(東京都千代田区)

福島のような事故は世界中どこでも許されない

 会見はまず、米原子力委員会(NRC)前委員長のグレゴリー・ヤツコ氏が、福島のような原発事故が一般的な経済活動に及ぼす影響の大きさに触れ、「これほど経済活動全般に大きな影響を及ぼすような原発事故は、日本でも米国でも、世界中どこでも許されるものではない」と、原子力エネルギーに関する電力会社の技術的能力について厳しい見解を示した。

汚染水漏れは「問題の始まりに過ぎない」

 ヤツコ氏は福島第一原発の事故に関して、50兆円もの影響を与え、除染や廃炉に何十年もかかると、経済的な影響の甚大さを説明した。

 また現在大きな問題となっている汚染水について、「米国でもタンクからの汚染水漏れや地下水の問題などを見てきた。それ自体も大きな問題であるが、それは問題の始まりに過ぎない」とし、今後予定されている4号機の使用済み核燃料の取り出し作業など、安全性に関して前例のない非常に重大な行程が残っていることを強調。このような事態に対して、国民が総勢で関心を向けることや、専門家による最良の助言を求める姿勢が大事だと語った。

避難や汚染が「絶対に起こらない」技術でなければ認められない

 また、住民や環境に及ぼす影響に関しても、福島の事故は、それまでの放射能事故とは異なる側面を持つ、大きな汚染の後遺症を残す前例のない事態であると分析。安全性に対して、「まったく新しいマインドセット(考え方)を持つ必要がある」と述べた。

 その上で、広範囲な住民の避難や土壌汚染が「絶対に起こらない」原子力技術でなければ認めるべきではない、という厳しい水準を適用すべき段階に来ているとし、「現在稼働中の原発もその水準で見直すことになるかもしれない」と語った。

市民の力で米サンオノフレ原発を廃炉に

 続いて、南カリフォルニアのサンディエゴフォーラムという市民団体代表を務めるトーガン・ジョンソン氏は、福島原発事故の三週間後にサンディエゴで子供たちが飲む牛乳から放射能が検出され、アメリカ西海岸でも放射性降下物が蓄積して酪農事業に影響があることが分かって以来、原子力技術の信頼性に疑問を持ち、福島や地元近くのサンオノフレ原発の問題に目を向けるようになったと語った。

 2年半かけて、カリフォルニア州の多くの地域住民や医療関係者、政治家を交え、原発のリスクとベネフィットに関する市民の立場を確立してきたと、氏が中心となった市民連合活動の内容を紹介した。

 市民連合には、実際にサンオノフレ原発の格納容器を作った経験を持つエンジニアなど、多くの専門家も参加したことや、菅直人元首相やヤツコ氏、原子力専門家のアーニーガンダーセン氏、NRC前委員のピーター・ブラッドフォード氏などを招いて公開討論会を行なったことも紹介された。

 その結果、サザン・カリフォルニア・エディソン社(サンオノフレ原発の事業者)は、討論会の3日後にサンオノフレ原発の廃炉を決定した(※)。ジョンソン氏は、「サンオノフレ原発の閉鎖にはさまざまな力添えがあったが、その一つとして市民が決定に関与し規制当局にプレッシャーをかけるというプロセスがあった」と、主要なステークホルダーである市民による活動の意義を強調し、日本でも同じことが求められていると思うと語った。

(※)7月18日に廃炉が決定したサンオノフレ原発については、日本では、製造元の三菱重工の設計上の不具合によるもの、という認識が広がっている。これは、米原子力規制委員会が「三菱重工のコンピュータ分析のミスが、配管の過度な損耗を引き起こす」との調査結果を受け、運営会社であるサザン・カリフォルニア・エジソンが、三菱重工に損害賠償請求の意向を示したことによる。

しかし、実際はサンオノフレ原発が断層から近いこと、万が一事故が起こった際の近隣住民への賠償額が膨大な額になることなどが次々と判明し、福島第意一原発事故が引き金となり、市民の猛烈な反対運動が州政府や行政を動かし、廃炉に至った。こうした経緯については、日本のメディアではほとんど報道されていない。

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