「私たちは一度も知らされていない」。9月20日の昼下がり、京都府庁前。若い男性がハンドマイクで道行く人に訴えた。「経ヶ岬への米軍配備ありきで計画を進めている防衛省、京都府、京丹後市には怒りを覚える」「配備先の住民のほぼ全員が、計画に反対もしくは了承しない立場だ」──。山田啓二京都府知事が、米軍の早期警戒レーダー(Xバンドレーダー)基地の受け入れを、昨日の府議会で正式に表明したことに対する抗議だ。この日は、レーダー配備先となる宇川の住民有志らも、京都府庁知事室へと出向き、基地受け入れ反対の申し入れを行った。
反対の申し入れでは、緊急共同声明「経ヶ岬での米軍基地建設計画の中止・撤回を求めます」を9月17日に京都府庁に提出した、米軍基地建設を憂う宇川有志の会の永井友昭氏らが、府の担当者と対座した。
永井氏らの主張はこうだ。今年の2月に突如浮上した、経ヶ岬へのXバンドレーダーの配備計画は、グアムの米軍基地が攻撃される際、そのミサイルの迎撃を目的とするもの。それは、有事の折には経ヶ岬が米国敵軍から優先的に狙われることを意味する。にもかかわらず、山田知事は地元住民への十分な説明を行わないまま、レーダー配備を受け入れることを正式表明している。「まさに由々しき事態だ」──。
人口の9%近くが米軍関係者になる
共同声明では米軍基地建設反対の理由を、1. 経ヶ岬周辺の住民は、この計画をまったく了承していない、2. 基地建設が住民の健康にどう影響するか、十分な検証が行われていない、3. 自然や文化遺産に与える影響が不明、4. Xバンドレーダーの配備は日米安全保障上必要、との防衛省の主張への疑念、としている。永井氏は「このレーダー配備計画は、米国が日本に持ち込んだものである以上、日本の地元住民の了承を得てから計画を進めるのが筋」と、府の担当者に迫った。そして、レーダー配備先である宇川地区の人口が約1700人であることに照らし、「レーダーが配備されれば、そこに約160人の米軍関係者が加わる可能性があり、これだけでも地元住民にとっては極めて重大な問題である」と訴えた。
さらに永井氏は、この8月5日の沖縄でのヘリコプター墜落事故にも触れ、「あの時に山田知事は『事故の原因究明がしっかりなされない限り、米軍基地の受け入れには慎重にならざるを得ない』と発言しているが、では、あの事故の原因は究明されたのか」とも迫っており、原因が究明されていない中で、レーダー配備の受け入れを表明した山田知事を「言動不一致」と断じた。そして、Xバンドレーダーを巡る電磁波不安などの懸念材料を挙げ、「府は現時点で想定し得るすべての問題に対し、国から確たる回答を得てほしい。ただ、それには相応の時間がかかる」とし、山田知事が住民の安心安全を重視する立場で計画を進めていれば、仮に受け入れを表明するにしても、「もっと先の話になるはずだ」と批判した。
地方自治体は中央政府の下請けにあらず
反対申し入れのあと、府庁内記者クラブで記者会見が開かれた。会見では大野光明氏(大阪大学)が「米軍基地建設に反対する緊急共同声明に、257人が賛同している」と伝え、「ここで、このXバンドレーダー配備での行政側の拙速な手続きを一度止め、この案件が抱える問題点を浮き彫りにし、その上で、反対を強く表明していかねばならない。そう考えて、緊急共同声明を発表するに至った」と説明した。さらにまた、「レーダーは既存の自衛隊分屯基地の中に配備されるも、計画では運用のために用地が5へクタールほど拡張される」とも話し、「新たな米軍基地が京都に誕生する、と認識するのが妥当」と主張した。
君島東彦氏(立命館大学)は「地方自治体の首長は、場合によっては中央政府に対抗することも必要」と力説。「経ヶ岬への米軍基地建設は、国策だから従うほかない」との立場で基地建設受け入れを正当化しようとする山田知事らに反論した。「レーダー配備を巡る外務省や防衛省の決定は、京都府民や京丹後市民のためにはならないことは明白」と強調した君島氏は、「山田知事は地方自治体の長として、地方自治法が定めている、地方自治体の自主・自立性を発揮すべきだ」と訴え、「地方自治体は、中央政府の下請け機関ではない」と力を込めた。