「今まさに日本は、放射能汚染とTPPという2つの難題の前で崖っぷちに立たされている」。こう切り出した安田節子氏は、放射能汚染とTPPが、いかに私たちにとって危険であるか、主に食品の安全の観点から警鐘を鳴らした──。
2013年9月7日、大阪府豊中市のとよなか男女共同参画推進センターすてっぷホールで、「私たちは安全なものを食べたい! ~放射能やTPPが心配~」が開かれた。講師の安田氏は、食品の放射能汚染や遺伝子組み換え問題などに詳しく、『食べ物と放射能のはなし』(クレヨンハウス・ブックレット)、『自殺する種』(平凡社新書)などの著作がある。さまざまな事例を示しながら、「日本がTPPに参加すれば、食の安全がさらに脅かされる。あきらめずに反対の声を上げよう」と呼びかけた。
- 内容
主催あいさつ
朗読 石浜繁子氏(朗読人ひまわり代表)「拝啓東京電力様」(青田恵子作)
講演 安田節子氏(食政策センター・ビジョン21)
質疑応答
アピール
人工放射線核種と人類は共存できない
はじめに、安田氏は「日本の放射能規制は緩すぎる」と指摘し、「飲料水の基準値は現在10ベクレル/キロだが、それはアメリカの基準の100倍。食品の基準値は100ベクレル/キロで、低レベル放射性廃棄物の基準が100ベクレル/キロ以上であることを考えると、途方もなく高い数値である」と述べた。
また、「人間は日常的に天然の放射性核種を摂取しているので、福島第一原発事故由来の放射性核種は、微量だからまったく問題がない」という言説に対して、安田氏は次のように異を唱えた。「天然のカリウムの中に1万個に1個存在する放射性カリウムが、私たちの体を通過する間に放射線を出して細胞にヒットしても、次の1万個に1個来る放射性カリウムが、同じ場所にヒットすることは、ほぼありえない。細胞はちょっと傷ついたら、すぐ修復される。このように、人類は天然の放射性カリウムと共存していけるシステムを持っているが、人工の放射性物質は違う。放射性の粒子が団子状に固まり、体のいろいろな部位に蓄積され、ずっと同じ場所に放射線を浴びせ続ける。だから、どんなに微量でも人工放射性物質を取り込めば、必ず何らかの障害は起きる」。
さらに、福島県では18歳以下の小児甲状腺がんの発症率が通常の60倍以上になっていること、日本心不全学会の「東日本大震災が阪神・淡路大震災と大きく違うのは、心不全が顕在化していること」という研究発表などを挙げて、「誰も汚染のあるものを食べてはいけない。汚染のあるところで暮らしてはいけない。放射能とは共存できない。それを原則にした対策、支援策が必要だ」と訴えた。
TPPの狙いは日本の規制撤廃
続けて、「放射能汚染に加え、もうひとつの災禍がTPP」と安田氏は語った。「今までの貿易協定は、お互いにとって大切なものは自由貿易の対象から除外していた。だが、TPPは『例外なしの関税撤廃』と『例外なしの規制撤廃』を掲げる、非常に特異で危険な協定だ。そして、本当の狙いは規制撤廃にある。食品の安全規制、環境規制、労働規制など、私たちの暮らしを守る規制を撤廃させて、アメリカにベースを置く多国籍企業が日本の市場を奪い取ろうとしている」と懸念を表明した。
安田氏は「以前から、アメリカは『日本の規制を撤廃せよ』と毎年要求を突き付けてきた。それが年次改革要望書で、民主党の鳩山首相は受け取りを拒否して、バッシングにより退陣させられた。その後、菅首相が復活させたのが、日米経済調和対話。そこではアメリカが、ポストハーベスト農薬を認めるように要求している」と述べ、「TPPに加入して、10キロで1000円というような安いカリフォルニア米をアメリカから船で運ぶと、輸送中に日本では発生しないアフラトキシンという、微量でも肝臓がんを引き起こすカビ毒が発生する。防かび剤や殺虫剤、殺菌剤などのポストハーベストは、非常に残留量が高くなるため、日本では禁止されているが、輸送中のロスを減らしたいアメリカは、これらの農薬散布を認めるように要求している。もし認めると、米に対する殺虫剤は、現在の80倍使用してよいことになってしまう」と語った。
市民運動が築き上げた成果をなぎ倒すTPP
さらに安田氏は、TPPの大きな問題としてISD条項を挙げた。外国企業が、投資した国の規制のために思うような利益が得られなかった場合、その国の政府を訴えることができるというものだ。「20年前にアメリカ、カナダ、メキシコ間で締結したNAFTA(北米自由貿易協定)では、このISD条項により、いくつもの案件でアメリカ企業がカナダ、メキシコ政府を提訴し、賠償金の支払いを受けている。逆に、アメリカ政府が提訴されて負けた事例は1件もない。外国企業の利益獲得のため、国民の主権、国内法がなぎ倒される。日本でも、食品添加物や農薬の減量、遺伝子組み換え表示、原料原産地表示など、今まで市民運動によって築き上げてきた食の安全が、全部なぎ倒されてしまう」と、これを問題視した。
最後に、安田氏は「今は、国を挙げて放射能の対応に全精力を注ぐべき時。TPPに参加する必要などない」と明言。「政府が恐れるのは、声を上げる多くの人たちの群れだ。あきらめずに声を上げ続けよう」と呼びかけた。