【IWJブログ・TPP特別寄稿vol.2】「日本を、モンサントの遺伝子組み換え作物を食料とする国にしてはならない」 TPPの本質について ~河原林裕 九州大学大学院農学研究院 教授 2013.6.27

記事公開日:2013.6.27 テキスト
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 IWJは、2010年に菅政権がTPPを突然持ち出した当初から、TPPにはらむ問題を追及し続けています。「TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会」に賛同されている大学教員の方々は、800名を超えます。しかし、「大学教員の会」の2度にわたる記者会見を、IWJが中継した以外は、日本農業新聞が報じたのみで、同会の活動および賛同者の主張について、他のメディアではほとんど取り上げられていないのが現状です。IWJは、こうした知識人の方々の声を、少しでも多くの人に伝えたいと考え、寄稿をお寄せいただけるようお願いしております。

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◆◇TPPの本質について◆◇
九州大学 河原林 裕 (かわらばやし ゆたか)
国立大学法人・九州大学大学院農学研究院
極限環境微生物ゲノム機能開発学講座
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 私は分子生物学者です。常に大腸菌をはじめとする微生物に対する遺伝子組み換え技術を用いて、生命現象の解明を目指すことを研究の課題としております。地球上の様々な環境には多数の生物、特に微生物が生息していることに日々感動しながら研究を行っております。どの様な環境に生物が生息しているかという例をお示ししたいと思います。

 料理をお好きな方は岩塩をお使いになられていると思いますが、岩塩はどんな色をしていますか? 白?ではないですよね。紫のようなピンクのような色をしていませんか?

 これは塩を好む微生物が岩塩になる前の塩の多い環境に生息していた時に作り出した色素が残っている色なのです。また地下から湧いてくる温泉の中にも微生物は多数生息しております。これらの例の様に、地球は多種多様な生命が、長年の歴史の中でお互いの生命を尊重しながら育まれてきました。

 これまでは自然の中で時間をかけて生命は進化・対応してきました。実は私が行っている研究に関する事なので申し訳ありませんが、蛋白質・酵素の中には沸騰しているお湯の中でも平気・元気なものがいます。これを人が作り出すことはまだまだ不可能です。しかし、高温の温泉の中にも生息している微生物が居り、その微生物は沸騰している湯の中で機能する酵素を持っております。自然のほうが人間の英知より偉大だと感じる瞬間です。

 ところで、今回のTPP交渉の中での大きな課題の一つが農業の自由化だと思います。実はこれは農業の自由化ではなく、農業・種子を商品とするアメリカの多国籍企業が、自由に世界を支配する為のアメリカ合衆国による戦略だと言わざるを得ません。日本の食糧自給率の低さはすでに危機的です。恐らく、中国に食糧輸出を規制されただけでひとたまりもないでしょう。

 そのような状況の下での農業の世界への開放(開放ではなく放棄でしょう)で何が起こるのでしょうか? より人手を掛けない農業への変質が、商品としての農作物では必然となります。ではその時、人手を掛けずに生産するための手段は一つです。農薬を用いて生産効率をあげ、人件費を削減することが必要となります。その目的を儲けにしている企業が、PCBという有毒化合物の生産で巨大化したモンサントという企業です。

 強力な農薬とその農薬に耐性を持つ遺伝子を組み込んだ作物を同時に販売するという戦略で、強大な種子企業となりました。強力な農薬「ラウンドアップ」は、一度土地に散布されると、どの様な植物も生育できなくなります、モンサントが同時に販売する遺伝子組み換え農薬耐性作物以外は。この農薬との抱き合わせ自体も、生態系への影響が大きいもので問題がありますが、この遺伝子組み換え作物にも問題があります。

 我々生命科学を対象とした研究者は、遺伝子組み換え生物は自然に放出されないように細心の注意を払って研究を進めています。一方で、モンサントの遺伝子組み換え作物は、大量に世界中で生産されています。しかもアメリカ合衆国当局の審査は、自然界に存在する遺伝子の導入だから問題があるはずがないということで、全く確認なしで認可されています。

 ここで問題なのは、組み換えに用いられた遺伝子ではなく、遺伝子組み換えという自然界では起こりえない過程で作成された作物の性質は大丈夫か、ということです。実はこの遺伝子組み換え作物によく奇形が見つかるのです。これは、導入している遺伝子が安全かどうか、ということと全く関係なく、遺伝子を作物に導入するために用いたDNAが、作物の遺伝子の中にどのようにして入り込むかによります。

 この技術によって、遺伝子組み換え作物内の目的で無い遺伝子の近くに入った場合には、今までは不要で眠っていた遺伝子が大量に生産されることが起こりえます。このような作物を食料にしなくてはならない国に日本をしてはならないでしょう。我が国では、手間暇かけて自然の摂理を利用した農業が営まれてきました。この自然と調和した循環社会を守っていくことこそが、日本を確実に次の世代に引き継いでいける道筋ではないでしょうか。

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