日本は世界第1位のトウモロコシ輸入国
日本は世界最大のトウモロコシ輸入国だと聞いて驚いた。
日本人が一年間に食すトウモロコシの量など、たかが知れていると私は思ってきた。せいぜい、スープやサラダに彩りとして添えられている数粒のコーンか、夏場に食べる1、2本程度のゆでトウモロコシか焼きトウモロコシくらいだろう。
いつ、誰が、どこで、世界第1位の輸入国になるほどのトウモロコシを消費しているのだろうか。
実は、消費しているのは人間ではなく、豚や牛といった家畜だ。輸入トウモロコシの約8割は飼料となり、家畜の餌として消費される。残りの2割は、食用油やアルコール、香料、デンプン、果糖など加工食品の原料となる。こうして目に見えない所で、日本人は大量のトウモロコシを消費している。その量は年間で1,600万トンにのぼる。
輸入されるトウモロコシの約9割を、日本は最大生産国アメリカに依存している。アメリカのトウモロコシ作付面積は、なんと日本の国土面積ほどあるという。私たちが日々、口にする牛乳や「国産」とラベルの貼られた牛肉、豚肉、鶏肉は、アメリカからやってくる大量のトウモロコシによって支えられているのだ。
そして今、アメリカのトウモロコシ畑で、異変が起きている。
「コーンベルト」と呼ばれる、中西部にあるトウモロコシ生産地帯で、害虫被害が広がっているのだ。害虫被害の対象となっているのは、巨大アグロバイオ企業・モンサント社などが販売している遺伝子組み換えトウモロコシの一つ、「BTトウモロコシ」だ。
茎の内部に入り込み食害する害虫被害に悩まされてきた農家にとって、「BTトウモロコシ」の登場は夢のようだった。昆虫病原菌の一種である、「バチルス・チューリンゲンシス」の遺伝子が組込まれているBTトウモロコシを食べた害虫は、餓死するように改良されているのだ。
BTトウモロコシのおかげで、生産農家は、使用する殺虫剤の量を減らし、散布する労力も削減できた。その上、これまで害虫被害で損なわれてきた分も回復できるようになった。事実、導入当初のアメリカでは、収穫高は21,700万ドル増加し、殺虫剤使用量が1/3に激減という経済効果も報告されている。今回の騒動は、トウモロコシ生産大国のアメリカにとって、見過ごせない事態である。
アメリカだけではない。
2012年の世界の遺伝子組み換え作物の作付面積は、1億7,030万ヘクタールになった。商業栽培が始まった96年と比べると、面積は100倍に増加。農業生産者は世界で1,730万人にまで膨らんだ。遺伝子組み換え作物に関するニュースは、常に世界の注目の的だ。
遺伝子組み換え技術のしっぺ返し
なぜ、殺傷能力を持つ作物に耐性を持つ害虫が発生するのだろうか。
害虫は、毒素と接しながら世代交代をしていくうち、生命力の強い害虫が生き残り、抵抗力を持つ子孫が生まれるのだという。これを「スーパー害虫」と呼ぶが、一度、スーパー害虫が出現すれば、これまで不要だった殺虫剤を再び散布せざるを得ない状況になる。
イリノイ大学の教授らが行った、州内の農家に実施したアンケート調査では、殺虫剤を「使う」と答えた農家が、「使わない」と答えた農家を上回った。5月には、ウォールストリート・ジャーナル誌が、農薬メーカーの12年度の売上が前年比より伸びていると報じている。(※1)
農薬メーカーにとっては、スーパー害虫の出現は農薬の売上増につながるので歓迎だろうが、農家にとっては痛手となる。害虫被害により収穫量が減る上に、殺虫剤のコストが上乗せされる。そもそも、遺伝子組み換え作物の種子は高額だ。コーンベルト地帯の中には、経営が圧迫し、生産を諦めざるを得ない農家が生まれている。都市部に引っ越す世帯が増え、町の空洞化現象が起きているのだ。(※2)
(※1) Pesticides Make a Comeback- Wall Street Journal (英語)
(※2) 「Growing Doubt」(日本語字幕あり)
BTトウモロコシについては、新たなスーパー害虫出現による被害以前に、より根本的な問題点が以前から指摘されていた。1999年、生態系への影響が懸念されると、ニューヨーク大学の研究グループがイギリスの「ネイチャー」誌で指摘している。根から殺虫成分が土壌に染み出し、200日以上、殺虫性を土壌内に残留させることで、生物多様性を破壊するというのだ。
他にも、アメリカのコーネル大学が同年、「ネイチャー」誌に発表した論文によると、BTトウモロコシの花粉をふりかけた植物の葉を食べた蝶の幼虫のうち、44%が4日間で死亡。生き残った幼虫も発育不全になったという。
欧州連合は、こうした研究結果を受け、遺伝子組み換えトウモロコシの輸入承認手続きを凍結している。しかし、アメリカ政府は、慎重な姿勢を取り続ける欧州連合に対し、2003年、遺伝子組み換え作物の輸入を規制しているのは、世界貿易機関協定に違反しているとして、WTOの紛争処理機関に提訴した。これほどまでに、遺伝子組み換え作物は世界中で論争の続くテーマなのである。
TPPの影響
そんな中、遺伝子組み換えに対する日本人の意識はまだまだ低い。世界中で最も遺伝子組み換え作物を大量消費しているのが日本人であることも、あまり知られていない。先述したように、トウモロコシの輸入量は世界一であり、その大部分が遺伝子組換えトウモロコシである。次に多く輸入しているのは大豆だが、その量は年間約300万トンで、約7割がアメリカ産、うち9割が遺伝子組換え大豆である。
日本の場合、原料に遺伝子組み換え作物を使用した場合、その旨を表示する義務がある。表示方法は、「遺伝子組換え」、「遺伝子組換え不分別」、「遺伝子組換えでない」(任意表示)の3つ。しかし、実際に「遺伝子組換え」や「遺伝子組換え不分別」といった表示を私たちが目にすることは少なく、役に立つ情報にはなっていない。その理由は、現行の表示制度には数々の節穴があるからだ。
1) 原料の4番目以降には表示義務なし
原材料は含有率の多いものから記載されるが、3番目までの原料に遺伝子組み換え作物を使用していなければ、表示する義務はない
2) 原材料が5%以下であれば表示義務なし
遺伝子組み換え作物を原料にしていても、含有率が5%以下であれば、表示する義務はない
3)意図しない混入率5%以下の場合、表示義務なし
流通過程で、非遺伝子組み換え作物と遺伝子組み換え作物の完全な分別は困難であり、安全性審査の過程で「混入率が5%以下の可能性」とみなされた場合は表示義務対象外
4)検出できない場合は、表示義務なし
組み換えられたDNAが検出できない場合、表示義務対象外
つまり、遺伝子組み換えの原料が使われていても、表示される場合は稀であり、表示義務があるのはごく一部なのだ。遺伝子組み換え作物を飼料にした肉についても、表示はされていない。私たちは知らない間に、世界中で安全性が疑問視されている遺伝子組み換え作物を、日々、口にしていることになる。
日本はTPPの交渉参加を決定した。国会で批准し、本当にTPPに入ってしまえば、様々な食品の規制緩和が求められるだろう。対象となるのはもちろん、遺伝子組み換え作物だけではない。遺伝子組み換え作物の種子が大量に流入するほか、食肉でのホルモン剤や抗生物質使用の規制緩和、クローンや遺伝子組み換え家畜の容認などが懸念されている。
6月、産経ニュースが興味深い記事を掲載した(※4)。アメリカが、遺伝子組み換え食品の表示義務を容認する方針を示した、というものである。これで、日本にとっては「食の安全」への懸念が払拭されるという内容だ。これまで、TPPに参加した場合、表示義務が撤廃される可能性が高いだろうと案じられていた中、この情報が真実であれば、ありがたいことだ。
先に述べたように、遺伝子組み換え食品の表示義務はすでに緩い。もし、今ある表示義務すら撤廃されてしまえば、消費者は選択する術を失ってしまうからだ。
ところが気になるのは、この産経の記事に、どこからこの情報がもたらされたのか、まったく記述がない点である。これではこの情報の信憑性が判断できない。
記事を掲載したMSN産経ニュース及び、産経新聞に、いつ、誰が、このような主旨の発言をしたのか問い合わせたところ、「ニュースソースは新聞社にとって、信用問題に関わり、答えることができない」という回答を得た。けんもほろろの対応である。
この情報を報じているのは産経新聞のみで、他に触れているメディアは一切ない。そもそも秘密裏に進められている交渉内容が、簡単にリークされるだろうか。安倍総理がTPP交渉に初めて参加したのは7月下旬に開かれたマレーシアでの会合であり、この記事は6月16日に発行されている。正直なところ、この情報の真偽を疑う。TPPを推進したい誰かの情報操作ではないか?との疑いがぬぐえない。この件については、新しい情報を得た際は、続報としてお伝えしたい。
福島原発事故後、放射能に汚染された食材や食品に敏感になってきた消費者にとって、TPPは連続パンチのような打撃である。食の安全がますます脅かされる事態へと発展するだろう。7歳の娘を持つ私も、いよいよ鬱々たる気持ちになる。
テレビは毎日肉食ってる映像ながし、回転寿司なんかの養殖魚の餌と抗生物質 もヤバイし、結局多国籍企業の利益のために日本人は消費する。