「原発事故がなければ、避難生活もなく、家族もバラバラにならず、職を失うことも、自死することもなかった。この悲劇を繰り返してはならない」──。
2013年9月6日、青森市の青森市民ホールで、核燃サイクル阻止1万人訴訟原告団の弁護士、海渡雄一氏の講演会「福島原発事故の被害実態と原発新規制基準について」が行われた。福島原発告訴団の代理人でもある海渡氏は、福島第一原発の汚染水問題や、原発事故当時の浪江町や双葉病院の実態を語り、「福島での悲劇を忘れずに、支え続けることが重要」と述べた。さらに、原発の新規制基準についても解説した。
汚染水対策を先延ばしにした東電のずさんさ
まず始めに、汚染水問題について触れた海渡氏は、福島第一原発で地下水が原子炉建屋に流れ込み、溶解した燃料と接触して、毎日約400トンもの汚染水が海に流出していること、また、貯蔵タンクからも環境中に300トンの高レベル汚染水が漏えいしている現状について語った。タンクからの漏えいについては、溶接もされていない応急の仮設タンクを使用している点を問題視し、「規制庁からシステムの早期改善の指示があったのに、東電はその更新を怠った。ずさんな対応だ」と述べた。
地下水の建屋下への流入については、地下遮断壁の構築がなされず、地下水が施設内に流入していることを主要因として挙げ、原発事故の後、政府は地下遮断壁の検討を指示していたにもかかわらず、必要な対策を怠った東電役員の対応を批判した。また、タンク基礎の亀裂から地下に汚染水が漏えいしている可能性に触れ、「汚染水は、根本的に止められない状態になっている」として、汚染ルートの確認の必要性も強調した。
3月12日、避難指示後の波江町
また、日弁連調査団が福島県浪江町を調査した時の様子を、スライドを使って報告した。2011年3月12日に出された避難指示によって、津波による行方不明者の捜索活動が中止となり、そのために失われた命があったことや、災害関連死について語った海渡氏は、「原発事故がなかったら、(不明者の捜索を続けて)何人かの尊い命が救えた。避難生活もなく、家族もバラバラにならず、職を失うこともなかったし、自死することもなかった。こういう悲劇を繰り返してはならないし、政府は重要な情報を市民に隠してはいけない」と訴えた。
海渡氏は、チェルノブイリ原発事故の健康被害についても言及した。甲状腺がんや白血病など、さまざまな健康障害と原発事故による被曝の影響は、当初は否定されていたというが、事故後に若年層のがんが増加したことから、「小児甲状腺がん、白血病については因果関係が認められている」と現状を説明した。
新たに開始される下北半島での地下構造調査
原発の新規制基準の欠陥について、海渡氏は「活断層の評価基準が、規制委員会の取り組みにより厳しくなっている一方で、耐震設計については、まともな基準が作られていない」と報告。また、経済的には意味がなく、危険性が高いプルトニウム技術から政府が手を引かない理由を、「核兵器保有能力を保持したい意志が、国の中枢にあるからだ」と断じた。
青森県六ヶ所村の核燃料再処理工場については、「世界中で放棄されている再処理技術にもかかわらず、今まで10兆円もの費用が投じられてきた」と批判した。さらに、規制委員会が下北半島で深さ10キロまでの地下構造調査を開始することを挙げ、調査結果によっては耐震評価の見直しにつながる可能性もあることから、「これが、再処理工場の命脈を断つかもしれない」と話した。
最後に海渡氏は「福島の原発事故後、本当に多くの人が原発を問題視するようになった。その点で、今後に悲観することはない」と語り、「災害によって、誰がどのような被害を受けたのかを知り、福島での悲劇を忘れずに支え続け、再稼働に反対し続けることが重要だ」と呼びかけた。