ウクライナ戦争では、戦時に原発が攻撃目標となることが明らかになったというのに、岸田文雄政権は、2023年に閣議決定した「「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」で、原発の再稼働に加え、新規建設に取り組むことまで表明した。
経済産業省が、原発の新増設を進めるため、新たな原発建設が始まった時点から、建設費を電気料金に上乗せできる制度を検討していることが報じられた。
稼働前からの消費者負担はじめ、様々な懸念が指摘されるこの制度は、英国の原発支援策「RABモデル」をもとにし、経産省が年度内にまとめる新たな「エネルギー基本計画」に反映されるとみられる。
- 原発の建設費を電気料金に上乗せ、経産省が新制度検討 自由化に逆行(朝日新聞、2024年7月24日)
同制度の背景、問題点について、原発のコストに詳しい龍谷大学政策学部教授の大島堅一氏によるオンラインセミナーが、国際環境NGO FoE Japanの主催で2024年8月19日に行われた。
- 緊急オンラインセミナー:原発建設費用を国民から徴収? RABモデルとは?(8/19)(FoE Japan)
セミナー冒頭で主催者が、電力事業の環境に関し、「世界の発電費用はこの10年で、原発が上昇し続ける(2022年180ドル/MWh)一方、陸上風力(同60ドル/MWh)や太陽光(同50ドル/MWh)は劇的に低下」「原発のコスト上昇の原因は、建設費の爆上りと、建設期間が延びているから。安全対策にもとてつもない費用」と説明した。
大島教授は最初に、「原子力発電事業は、世界的にもじり貧」だが、特に日本では「福島原発事故後に大きく衰退し(現在、電力全体の5%程度)、原子力産業は存亡の危機」にあり、「今、支援策を実施しないと維持できない」と指摘した。
大島教授によれば、そのため原発支援策が講じられ、電源投資の入札制度「長期脱炭素電源オークション」(2024年1月第1回応札)では、「島根原発に20年間で約1兆円支援」されることになった。
ところが、こうした支援策でも、「原発の新設はできない」と、今年2月の経産省・原子力小委員会で、コンサル(デロイトトーマツ)が指摘したという。なぜなら原発は「必要資金額が高く、不確実」なため、「与信枠(電力会社に貸す限度額)があてられない」、つまり金融機関が「原発に資金を貸せない」というのだ。したがって、さらに「新たな支援策がないと原発は新設できず、将来的に原子力産業は終わる」というのである。
そこで、電力会社は「脱炭素と電気の安定供給に、原発こそ切り札」と主張。一方、電力自由化により、「総括原価方式」(原価に一定率の事業報酬を上乗せして料金決定する公共料金の方式)が徐々になくなっていることから、「新規建設と安全対策のコスト増加が経営を圧迫する」と訴え、国に対して、「次世代革新炉」開発・建設支援のための「投資・コスト回収の予見性確保」「資金調達環境の改善」等を求めていると、大島教授は指摘した。
そこで着目されたのが、英国で2022年の原子力融資法(Nuclear Financing Act)で導入された「新規原発のための資金調達モデル」(Regulated Asset Base=RAB)である。「RABモデル」は、もともと英国の公共投資の資金調達方法で、1980年代から水道・ガス、空港等の事業で使われてきた、インフラ事業の収益保証モデルだ。
大島教授によれば、これは「一言で言えば、総括原価方式の復活」だという。
その特徴は、原発の「建設期間中から収入保証」し、「建設費用の変動(上昇)リスク、建設期間の遅延リスクを消費者に負担させる」こと。この建設時から投資家(電力会社)に保証される報酬(収入)を、大島教授は、総括原価方式における「事業報酬のようなものだ」という。報酬は、電気料金に上乗せされ、原発稼働前から、消費者は徴収されることになる。
なお、運転期間中は、投資の回収分、そして維持費・運転費、廃炉費、放射性廃棄物処分費などの経費は別途計上される。これにより、投資側は非常に安定した収益が得られることになる。
質疑応答で、IWJ記者は、以下のように質問した。
IWJ記者「投資に見合わない原発を、無理に延命させるために、GX戦略(※)の内実として、RABモデルを導入しようとしているということでしょうか?」
大島教授「GX戦略の中で、原子力基本法の中に、『事業環境整備』っていう名前(規定)が付いたんです(第二条の三)。『事業が成立するようにしろ』『なんでもします』みたいなことが書かれてる。その実現ですよね。
その具体化が、一つは『脱炭素電源オークション』でした。(しかし)それだと(原発が)新設できない。じゃあ、どうするのかという回答として、『総括原価方式の復活』ということになるんだと思います」
(※)GX戦略:GXはGreen Transformationの略で、化石エネルギー中心の産業・社会構造を、クリーンエネルギー中心に転換する取り組み。岸田政権は、GX推進法とGX脱炭素電源法(原子力基本法等5つの法律の改正案を束ねたもの)を、2023年5月の国会で成立させた。そこには、原発をクリーンエネルギーと位置づけ、延命・新増設する方策が盛り込まれ、強い批判を浴びた。
2024年8月の日向灘地震で、南海トラフをはじめ地震への懸念が改めて高まったが、元来、日本は世界的に珍しい4つものプレートが集まる地点にあり、全世界のマグニチュード6以上の地震の2割近くが日本周辺で起きている。
また、日本には約2000の活断層があるとされるが、活断層の評価は極めて困難だ。同7月、敦賀原発2号機で、日本原子力発電が否定してきた、原子炉直下の活断層の可能性を原子力規制委が認め、再稼働を「不合格」とした。
未知の活断層の可能性は、既存原発の所在地を含めて日本国中にある。国土条件が原発建設にそぐわないにも関わらず、国と電力会社は、RABモデルで再び新規増設を進めようとしているのである。
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はじめに~静岡を襲う巨大地震と噴火リスク、そして浜岡原発の事故リスク!! 南海トラフ地震の犠牲者の約3分の1が静岡県に集中! 津波だけで、約9万6000人が亡くなる! 南海トラフに加えて駿河トラフ、相模トラフの3重トラフが重なる大災害エリア! 想定される地震は南海トラフ巨大地震(M9)、東海地震、東海・東南海地震 、東海・東南海・南海地震の3連動(M8.0~8.7)、神奈川西部を震源とする大正型関東地震(関東大震災、M8.0)、元禄型関東地震(M8.2)、加えて浜岡原発を抱え、活火山である富士山の噴火リスクもある!(前編)(日刊IWJガイド、2024.8.22号)
会員版 https://iwj.co.jp/wj/member.old/nikkan-20240822#idx-1
非会員版 https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/53813#idx-1
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はじめに~南海トラフ地震によって最大の被害を出すと予想される静岡県! 静岡で懸念されているリスクは、巨大地震・津波だけではない! 富士山・箱根山噴火リスク、そして浜岡原発の事故リスク!! IWJは静岡県に昨日に続いて直撃取材! 静岡県は、富士山が噴火した場合、浜岡原発のことは何も考えていない!!(後編)(日刊IWJガイド、2024.8.23号)
会員版 https://iwj.co.jp/wj/member.old/nikkan-20240823#idx-1
非会員版 https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/53816#idx-1
- 敦賀原発2号機 再稼働を事実上認めず 原子力規制庁の審査会合(NHK、2024年7月26日)
- 地震の多い国、日本(国土技術研究センター)
- 主要活断層帯(地震調査研究推進本部)