「今の特殊詐欺グループは、自転車の車輪がいくつも存在していて、そのハブのスポークが、また別の車輪のハブになっているみたいな円環構造」~岩上安身によるインタビュー第1111回 ゲスト 神奈川新聞報道部デスク・田崎基氏 第1回 2023.3.7

記事公開日:2023.3.9取材地: テキスト動画独自
このエントリーをはてなブックマークに追加

(文・IWJ編集部)

※全編映像は会員登録すると御覧いただけます。 サポート会員の方は無期限で、一般会員の方は記事公開後の2ヶ月間、全編コンテンツが御覧いただけます。 一般会員の方は、23/5/9まで2ヶ月間以内に限り御覧いただけます。
ご登録はこちらから

 岩上安身は3月7日(火)午後3時より、『ルポ特殊詐欺』(ちくま新書、2022年11月10日)の著者で、神奈川新聞報道部デスクの田崎基(たさきもとい)氏にインタビューを行った。

 田崎氏の著書『ルポ特殊詐欺』は、今年世間を震撼させた連続広域強盗事件(「ルフィ」事件)発覚の3ヶ月も前に出版されたが、特殊詐欺グループが過激化し、実行役が強盗事件まで強要されるところにまで差しかかっている事実を、丹念な取材によって犯人の側から克明に描かれており、「ルフィ」事件を予告するかのごとき内容となっている。言いかえるなら、「ルフィ」グループは「特異」で「例外」的なグループではなく、特殊詐欺から凶悪化し、強盗殺人を犯すに至ったグループのひとつに過ぎず、氷山の一角である、ということが明らかである。

 インタビューの中で田崎氏は、一連の広域強盗事件の指示役「ルフィ」だと目されている、渡邉優樹容疑者、小島智信容疑者、今村磨人容疑者、藤田聖也容疑者ら4人について、次のように語った。

 「2019年にフィリピンで、特殊詐欺グループのかけ子の拠点が一斉摘発されて、その残党だとされているんですけど、ただそれより以前というのは、中国、タイ、ベトナムとかフィリピンもそうなんですけど、そういったところでかけ子の拠点が一斉に摘発されまくっているんですよ。で、その残党が残り続けているんですね、いずれも。

 だからこの、いわゆる『ルフィ』を名乗る特殊詐欺犯罪グループ以外のグループも、いろんな国にいたんです。それはもう摘発されているという報道もされているんです。その時に、いろんな物が押収されているんですけど、取りこぼしが、幹部クラスは事前に逃げていたとか、残っていたというのも、これもその一つなんですよね」

 一方で田崎氏は、こうした特殊詐欺グループの一斉摘発の「次の段階」についての情報を、捜査当局が入手できるだろうかという岩上安身の疑問に、次のように答えた。

 「捜査当局がどこまでつかんでいるのかわかりませんけども、私が取材している感じで言うと、いわゆる『突き上げ捜査』(逮捕した末端から指示命令系統の幹部クラスを割り出していく捜査)が非常に難しくなっていて、(指示にメッセージが自動的に消える)テレグラムを使うとか、いろんな分断策によって、突き上げができなくなっているんです。

 今回これ(ルフィ事件)は、スマホに(テレグラムの指示をスクリーンショットにして)唯一残っていた証拠が、フィリピンのこの彼らだという見立てが立ったから、たまたま(上の方まで捜査が)行けたんですけど、それ(そのような上層部に至る証拠)が残っていないケースの方が圧倒的に多い。

 実際に強盗殺人までいってしまうケースは極めてレアなんですけど、強盗致傷事件というのはすでに非常にたくさん起きているわけです。強盗致傷事件はすでに起きているのに、突き上げ捜査がうまくできていないという現実があるので、誰がどこに関与していたかという情報を探りきれない。

 横のつながりも縦のつながりも、切られているというケースが多い。仮にそれがつながっていると(露見した)とすると、それは(犯行グループに何らかの)ミステイク(があった時)しかあり得ないんですよ。私がこの本で書いている、取材できている部分も、どこかにミステイクがあるんです。

 一つは、テレグラムで来たメールをスクリーンショットしていた。端末に残していて、現場に行った時に確認していた状態で押収されるとか、あるいは地元の後輩にその内容をLINEしちゃったとか。そこに漏れ出ている場合しか、摘発の突き上げ捜査ってうまくいっていないんですよ、現実に」

 さらに田崎氏は、摘発されないために進化し続ける特殊詐欺グループについて、次のように語った。

 「ネットで闇バイトの募集をかけてリクルートするわけですが、リクルート役というのが別に存在して、リクルートはリクルートでやる人間が、指示役とは別にいるんですね。

 で、受け子とか出し子が『もうやめたい』と言った時に、『じゃあリクルートしろ』と。『10人集めればやめていい』ということをやらされる人間もいるんです。ですから、有象無象、樹形図的に広がっていくような構図になっているわけです。

 通底して言えるのは、そこに人間関係のリアルなものは存在しないので、どこを逮捕してもどこにも(捜査が)伸びないというのが、まさにこのSNSと闇バイトの構図ですよね。

 もう一つは、2018年ぐらいまでは、このリクルートとかけ子の拠点というのが拠点化されていたんです。一つの事務所を会社組織みたいにして借りて、そこで30人、40人が営業マンのように電話をかけ続けるみたいなことが行なわれていた。でも、2018年、2019年くらいに、先ほどの中国やフィリピンのかけ子の拠点が一斉摘発されたのと同じタイミングで、拠点が潰されたんです。

 これによって、今、2019年以降に、拠点を設けない方法にシフトしました。

 かけ子の拠点自体、一人。自宅でかけていたという人間がこの間逮捕されましたけど、家から普通に電話をしていると。で、(警察が)逆探知していって押さえたら、その人一人しかいなくて、すべてのデータはテレグラム上でやり取りされているので、どんどん消えていっているということで、何も残らない。

 これが、指示役側がやりたいことであって、どこかに拠点を設けて、そこが捜索差し押さえされると、いろんな証拠物件が残ってしまいますよね、電話だとか、名簿だとか、飛ばしの携帯だとか。単独でやっている分にはそういったことが起きないということで、そっちの事案が増えてきている。

 統計的にもわかっていて、犯罪白書とかをみると、2019年くらいは、拠点の摘発というのがある一定の数あるんですけど、それが年々減って、去年はもう2件とか3件しかない。

 ですから、かなり進化しているし、足をすくわれる部分を削ぎ落としていくようにして、マニュアルというかノウハウというのが、日進月歩、磨かれ続けている。

 だから、ここで今お話したり紹介するものは、すでに過去のものであって、今、今日行われている犯罪というのは、さらにそこから磨き上げられて、摘発を免れる仕組みが組み込まれているということですね」

 他方で田崎氏は、特殊詐欺グループへの暴力団の関与について、取材経験にもとづいて次のように述べた。

 「実際に関与している場合には、2020年くらいからのトレンドですけど、民事事件で訴えて(被害者が暴力団に)お金を取りに行くという動きが出てきています。実際に稲川会とかから、被害者に対して数億円規模の和解金が支払われている。

 そういった経緯から、組の最高幹部から全傘下団体に対して、『特殊詐欺をやるな』という通達が、実際出ている。

 これはどういう民事訴訟かというと、使用者責任ですね。最高幹部のところに今、数億円規模のお金がありますから、ここから取るために、『使用者責任でしょ』ということで、三次団体、四次団体の傘下の舎弟の関係人が受け子をやっていたというケースを、使用者責任を追及して提訴するという民事事件があるんです。

 結局、お金のためにやっている話なので、それを奪い取られるとなるとやっても意味がないということになりますからやめろと。それが一つですね。

 もう一つは、使用者責任を追及していくためには、何らかの人間関係がないといけないわけです。私の本の中にも何らかの形で暴力団が関与していると書いています。私が最初取材したときは、特殊詐欺というのは、最高幹部のボスがいて、それが樹形図のように構築されているグループがいくつかあるんじゃないかということを想定していたわけです。

 ところが、取材をすればするほど、実はそうじゃないと。ここのこいつが、別の組織をすでに組織していてとか…、ピラミッド構造ではなくて円環構造なんじゃないかと。要は自転車の車輪がいくつもいくつも存在していて、そのハブのスポークが、また別の車輪のハブになっているみたいな構造が、円環構造状になっているんじゃないかなと思うんですね。(中略)

 つまり、狛江(の強盗殺害事件を起こしたグループ)とはまったく違う事件だったり特殊詐欺事件だったりが、組織されている別の人間が存在していて、それがまた別の事件を生み出している、あるいは組織化しているということが起きていると思うんですね。

 そうすると、この暴力団の関与というものが、具体的にいかなるものなのかというと、『詐欺の主犯とはなんぞや』という話を二課の捜査関係者とかに聞くと、結局、『犯罪の被害金を最も多く取ったやつでしょう』ということになるわけです。

 ところが、一つの被害事件に7~8人が関与しているというふうになるとですね、受け子に1万、出し子に10%、何とかで10%って、どんどん引いていくわけですね。さらに飛ばしの携帯を供給した人にお金を払わなきゃいけない、名簿を買い受けるのにいくら払わなきゃいけないということで、コストが相当かかっているわけです。

 そうすると、この『暴力団関係』と漠然と言っても、何がどう関与しているのか、末端のこの人がやったという話なのか、あるいは指示命令系統まで全部をやっていて、上納金をすべて吸い上げてきて、60%取ったって言えるのか、そこがたぶん難しいんだと思うんですよ」

 このあと、インタビューは田崎氏のお時間の都合で時間切れとなり、次回以降に続くことになった。

■ハイライト

  • 日時 2023年3月7日(火)15:00~17:00
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

アーカイブの全編は、下記会員ページまたは単品購入より御覧になれます。

サポート会員 新規会員登録単品購入 550円 (会員以外)単品購入 55円 (一般会員) (一般会員の方は、ページ内「単品購入 55円」をもう一度クリック)

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です