トランプ大統領が5月9日、イラン核合意からの離脱を表明した。この離脱決定に対する米国内の反応は、「離脱は新しい危険なギャンブルのはじまり」などと否定的で、米朝会談への影響という点も、米国は信用できないという印象を北朝鮮に与えるのではないか、などと懸念されている。
- Behind Trump’s Termination of Iran Deal Is a Risky Bet(ニューヨークタイムズ、2018年5月8日)
- In walking away from Iran deal, Trump bets heavily on U.S. power, but move could backfire with North Korea(ジャパンタイムズ、2018年5月10日)
これと時を同じくして、2度目の中朝首脳会談が、3月に続き、5月の7日、8日に行われた。金正恩朝鮮労働党委員長は、今度は列車ではなく、専用機で中国遼寧省大連市を訪れて中国の習近平国家主席と会談した。
- 中朝再会談、非核化の細部協議、7日、8日大連で(毎日新聞、2018年5月8日)
毎日新聞によると、習氏が「両国は運命共同体、変わることのない唇と歯の(ように近い)関係」と語ったと伝えられている。他方、金委員長は関係国が北朝鮮への敵視政策と威嚇をやめさえすれば、北朝鮮には核を保有する必要はないとし「非核化は実現可能だ」と述べたと伝えている。
シンガポールで6月中旬に開催と一部メディアが伝える米朝首脳会談の最大のテーマは、米国が求める北朝鮮の一括非核化と北朝鮮が主張する段階的非核化という対立にどう折り合いをつけるか、という点にある。しかし、リビアが非核化に応じたあと欧米の武力行使によって体制が崩壊し、最高指導者のカダフィ氏が惨殺された先行事例があるため、一括の非核化に北朝鮮が応じる可能性は低いと見られている。
このため、北朝鮮としては、段階的非核化の方針で中国の同意を得たいという狙いがあったのかもしれない。
この会談を踏まえて、習近平国家主席は5月8日(日本時間8日夜)、トランプ大統領と電話会談を行った。人民日報日本語版は、その模様を次のように伝えている。
「習主席は朝鮮半島問題における中国側の立場を重ねて表明し、米朝首脳会談への支持を強調したほか、米朝が同じ方向に向かい、相互信頼を構築し、段階的行動を取り、会談・協議を通じて各自の懸念を解決し、朝鮮側の理にかなった安全上の懸念を考慮し、朝鮮半島問題の政治的解決を共に推し進めることを希望するとした。」
ここで習主席が「段階的行動を取り」「朝鮮側の理にかなった安全上の懸念を考慮し」と希望を述べている部分は、北朝鮮の段階的非核化への理解を求めたものと見ていいだろう。
これに対してトランプ大統領は、「米側は朝鮮半島問題における中国側の立場を非常に重視している。中国側の発揮している重要な役割を称賛する。中国側と意思疎通・調整を強化し、交渉・協議による朝鮮半島問題の解決を共に推し進めたい」と述べたとされている。
トランプ大統領の発言からは、北朝鮮の段階的非核化に対して、理解を示したとも拒絶したともはっきりわからないが、一つはっきりしているのは、中国の役割を米国は非常に重視しているというメッセージである。北朝鮮の「奥の院」は中国だとでも受け取れるような発言である。
- 中米首脳が電話会談(人民網日本語版、2018年5月9日)
南北首脳会談が成功裏に終わり、いよいよ本命の米朝首脳会談が、一部メディアの報道では、6月中旬にシンガポールで開かれる可能性が高まってきた。朝鮮半島問題の本質は、1945年以降、朝鮮が南北に分断されて、軍事的な対立が続いていることである。その対立の中心に存在するのが、米国と北朝鮮の核抑止問題である。米朝の対話は、この朝鮮半島問題の解決には不可欠であるが、長く続いた対立が一挙に解決に至ることができるとは思えない。
- 米朝首脳会談、6月にシンガポールで開催か 複数メディアが報道(AFP、2018年5月7日)
ここに、今激動する朝鮮半島の現状をめぐって大変興味深い論考が二つある。一つは、ジャン・ピエール・カベスタン香港バプティスト大学教授が5月8日のニューヨークタイムズに寄稿した論考だ。金正恩体制の維持という観点から、多くのメディアとは違った意外な朝鮮半島情勢論を論じている。
もう一つは、5月8日に、38Northに寄稿したリュディガー・フランク、ウィーン大学教授の論考だ。1905年のタフト・桂覚書のバージョン2を想定して、大きな国際枠組みから朝鮮問題の「解決」のシナリオを論じている。
これは大変衝撃的なシナリオだ。朝鮮半島情勢を長年に渡ってウォッチし、分析してきた極めて信頼性の高い38Northのサイトに掲載された論文でなければ、多くの人が馬鹿馬鹿しいと思って放り投げてしまうだろう。それほど驚くべき内容だ。
【IWJ検証レポート】中朝首脳会談は「外交ショー」!? 経済的な安定が金体制の維持につながる!?それとも、もうひとつの衝撃のシナリオ、米中合意によるタフト・桂覚書バージョン2の実現で台湾と北朝鮮が「交換」される!? https://iwj.co.jp/wj/open/archives/420716 … @iwakamiyasumi
和平ムードに隠れた植民地主義の復活?
https://twitter.com/55kurosuke/status/994699257163624448