加害者が、過激派組織と米国であるのとでは、被害者側のその後に「大きな差」が生じる。
パキスタンの反政府勢力、タリバンの支配下に生きる人々の惨状を告白し「勇気ある少女」として世界的に知られるようになった、マララ・ユスフザイさんは2012年10月、下校途中に武装勢力に狙い撃ちされ、頭部と首に銃弾を受ける重傷を負った。15歳の少女に対する残虐行為に世界中から激しい非難の声が上がり、女優でUNHCR特使でもあるアンジェリーナ・ジョリー氏がパキスタン、アフガニスタンの少女のために約400万円を寄付するなど、マララさんの存在は広く知れ渡ることとなった。
マララさんは2014年に、17歳という史上最年少でノーベル平和賞を受賞した。
そして、「もう1人のマララ」と呼ばれるパキスタンの少女がいる。2012年10月に同国北西部の故郷で、米国ドローン(無人機)攻撃の誤爆被害に遭い、目の前で祖母を亡くし、自身も負傷を負ったナビラ・レフマンさんだ。
ナビラさんは、ドローン攻撃の恐怖に日々対峙しなければならない、パキスタンの子どもたちの窮状を訴えるため、2015年11月に来日。同月16日、都内で行った記者会見で、「日本は平和でいい。なぜ、戦争に巨額のお金を使うのか」と米国を静かに批判した。
マララさんも、ナビラさんと同様に、米国のドローン攻撃による民間人被害を批判している。2013年10月にオバマ米大統領と面会した際には、ドローンによるテロ掃討作戦をやめるよう求めている。同じような境遇で、同じように平和を訴えているにも関わらず、マララさんだけが国際社会の脚光を浴び、ナビラさんの存在が黙殺されるのは、ナビラさんが、「米軍ドローン被害者」という、米国にとって「都合の悪い」存在であるからだ。
「イスラム国」に代表される過激派テロ組織に対するせん滅作戦を展開する米軍は、オバマ政権になってから、ドローンによるミサイル攻撃を主要な攻撃手段の1つに位置づけてきた。「民間人の巻き添えを最小限に抑えるピンポイント攻撃が可能」というのが米軍側の言い分だが、実際は「誤爆」による住民被害が多発している。その生き証人が、ナビラさんなのである。
集団的自衛権の行使容認、安保法制の採決強行によって、「米国の戦争」に参加することが可能となった日本。しかし安倍政権は、米国が主張する「民間人の巻き添えはごく少数」という主張を丸のみし、検証しようとはしない。
ナビラさんらを日本に招へいした現代イスラム研究センターの宮田律理事長は、「暴力を暴力で制するとの発想では、いつまで経っても一般市民が巻き添えになる『負の連鎖』は止まない」と語った。