TPP交渉が佳境を迎えつつある。
米国時間2015年4月23日、米議会下院の歳入委員会は前日の上院に続き、大統領に強い交渉の権限を委任する貿易促進権限(TPA)法案を賛成多数で可決した。「TPP妥結に欠かせない」とされるTPA法はこれから両院の本会議で審議にかけられる。
TPA法案の成立は困難だとみられているが、予断を許さない状況には変わりない。TPPに反対する市民らは24日、衆議院第2議員会館前に座り込み、抗議の意思を示した。
TPP交渉差止・違憲訴訟の会の呼びかけ人を務める山田正彦元農相はIWJのインタビューに応じ、安倍首相の訪米を前に、自民党内には交渉妥結を確信する空気が広がっていると明かした。さらにTPPに関する最新情報や米国の思惑を分析し、米国が焦る背景にはAIIB(アジアインフラ投資銀行)の存在があるのでは、とも指摘する。
また、北海道の卵農家の女性は、TPPによって「卵かけご飯」が食べられなくなる危険性を訴えながら、持参した卵200個を道行く人々に配布した。
山田元農相「TPA法案は通らないのでは?」ここ1週間の流れが重要
この日は約200名の市民が議員会館前に座り込んだ。
正午から始まった座り込み行動は、「TPP反対」のシュプレヒコールを交えながら午後5時まで続き、北海道や東北、関東を中心とした各地の団体代表らが思い思いにスピーチした。
TPPの危険性にいち早く注目し、現在はTPP交渉差止・違憲訴訟に取り組んでいる山田正彦元農相は、与党内の「自民党筋はみんな、日米TPP交渉はもう(妥結で)決まったという雰囲気で、確信を持っている」と指摘。「安倍総理が訪米して、日米間で妥結、あるいは大筋合意した、という話を記者会見で話すのではないかとみられている」と紹介した。
さらに、「(大筋合意の)勢いをテコに、TPA法案を通したいというのが米国側の腹だと思いますから、やはり、米国側も結構焦っているのではないでしょうか。その中には、中国が中心となってやっているAIIBに対抗し、TPPでアジアの囲い込みを実現したいという思惑があると思う」と米国の考えを分析した。
「しかし」と山田氏は続ける。
「5月下旬に大筋合意を得るための閣僚会議を設定しているようですが、そう簡単には行きません。今のところ、TPA法案は、米国議会でも、民主党も共和党の中も反対の声があるので、私は通らないのではないかと思っています。ここ一週間から10日の間に、どういう流れになるのか。それがとても大事です」
TPPが日本に与える悪影響について、山田氏は特に「医療」の問題へ懸念を示す。
「韓国は、米韓FTAを結んだせいで、この2年の間に、医療費が以前の2倍近くに上がりました。タミフル1本が米国みたいに7万円もします。盲腸の手術は一回350万円かかります。そういう形にならないように、しっかりがんばっていかなければいけない。今日は急な呼びかけにもかかわらず、大勢の人が集まってくれました」
栃木50代男性「重要5品目死守」の約束はどこへ?
栃木県から新幹線で参加しにきたという農家を営む50代の男性は、「今日は天気が良かったので田んぼの仕事をしたかったが、こちらも大変重要な課題。一言でも声が届けばいいと思って参加しました」と語った。
男性はTPPについて「せめて国民の生活は守ってもらえるようにしてほしい。こちらも生活がかかっているので困る」と不安を口にする。
「最初に、交渉が始まるにあたって『重要5品目を死守する』と言っていたが、それがだんだん緩和になって、その内、なくなってしまうのではないかと非常に心配しています。米国から米17万5千トンの増加を要求されていると言われていますが、すでに日本国内に米が50万トンくらい余っている。余っているところにさらに輸入すれば、もっと余ってしまいますよね。それをどう考えているのか。農水大臣や首相から納得のいく説明が欲しいです」
TPPは日米安保という傘の下で行なわれる経済交渉
東京から参加したという60代の労働組合び男性は、「一番の懸念は農業です」と話し、TPPによって自給率が低下することになれば、安全保障の面からいってもマイナスではと懸念を示した。