「いずれ関税撤廃は自民党の多くの議員も同じ考え」
私はコラム「万象点描」で、次のように書き、自民党の二枚舌を批判しました。
「2012年末の総選挙で、自民党は『ウソつかない。TPP断固反対。ブレない』というポスターを全国各地に貼り、JAの支持を取りつけて政権を奪還した。しかし安倍総理は、13年2月22日の日米首脳会談で、オバマ大統領に対して早々にTPP交渉参加を約束。3月15日には、TPP交渉への参加を正式表明した。
こうした安倍総理の姿勢は、JA、並びに全国で農業を営む方々に対する明白な裏切りである。『聖域』という名の『重要5品目の関税』、という最小限の約束も、実は守る気などさらさらない」
大西議員秘書が「確認したい」と言われたのは、これに続く、次のくだりです。
「自民党の大西英男衆院議員は、13年5月14日に私がインタビューした際、自民党が掲げた農産品の『聖域』について、『すぐにではなく、いずれ関税撤廃ということ。自民党の多くの議員も同じ考えだ』と語った。これが、自民党の本音なのである」
「すぐにではなく、いずれ関税撤廃ということ。自民党の多くの議員も同じ考えだ」という大西議員のこの発言部分について、大西議員の政策秘書は、「この大西の発言とされる内容が、事実、大西が述べた内容なのか、岩上氏が内容を意訳なされたものなのかを確認したい」とIWJに問い合わせてこられたのでした。
JAの方々は「聖域は守る」という自民党の公約を素朴に信じ、選挙でも応援してきたのかもしれません。それだけに、大西議員の発言は、自民党への信頼をぐらつかせるものであり、本当に事実としてそんな発言をしたのか、我が目、我が耳を疑う思いで、大西議員事務所へ問い合わせをしたのでしょう。
その中には大西議員の選挙区である東京16区、江戸川区の有権者の方々もいたことでしょうが、他の都道府県の農家の方々からの問い合わせもあったかもしれません。
しかし、もちろん、私が虚偽の事実を書いたわけではありません。残念ながら、というべきか、大西議員は、確かに私の書いたとおりに発言されました。
大西議員の口から語られた「事実」とは
ここで、該当箇所の映像と、実際に大西議員の口から語られた「事実」を、文字起こしでお示しします。
岩上「じゃあ次に参りたいと思います。次は大西さんの、大西先生のTPPの」
大西「さんでいいですよ。さんでいいです。どうぞ」
岩上「考え方ということで、これが色々出ました。そして、色々、アンケートにお答えになった資料というものをお送りいただきました。ずいぶんたくさんのメディアから、アンケートが来ていて、それに対してお答えになっていらっしゃるんですよね。
これです。はい、アップしてください。これです。これが、平成24年衆議院選挙においてのTPPに関わるアンケート回答。これ、このまま出しません。その部分のところだけ引用させてもらいます。
読売新聞に対して、『日本はTPPに参加すべきと思いますか? 思いませんか?』と言ったら、これは『やや賛成』とお答えになっていらっしゃる。『TPPへの参加について、あなたの考えは次のAとBどちらに近いですか?』『A:海外の需要を取り込み、経済成長が望めるのでよいことだ』『B:日本の農家の収入を脅かすのでよくないことだ』
『ややAに近い』に近いと。だから、海外の需要を取り込み、経済成長が望めるのでよいことだというところにやや近いと」
大西「まあまあ、これ長くなりますからね。はっきり申し上げますよ。条件付き賛成ですよ。全部」
岩上「条件付き賛成…」
大西「で、毎日新聞だけは、こういう問いをしてきたんですよ。ね?『TPPに反対ですか?賛成ですか?』それだけ。で、さらに加えて、あの、『TPPの農業分野についてあなたの考えにもっとも近いものをひとつ選んでください』」
岩上「なるほど」
大西「『コメなど可能な限り多くの例外品目を設けるべきだ』と言ってるんですよ。ね? 賛成か反対か? そのときに、私は条件付きの賛成ですから、これ本来だったら、どちらにも丸を付けないほうが良かったんでしょうね。毎日新聞だけです。あとは全部一貫してますよ。条件付き賛成。はい。
それをね、それを見ないでね。この毎日新聞だけ、なんかインターネットかなんかで公開されているんでしょうか? それで、大西はTPPに反対だと孫崎さんが発言した。それによって大変ですよ。ツイッターが。選挙でTPPに反対したのに、なぜ今、賛成してんだ。お前は議員辞職しろとかさ。とんでもない言論の暴力でしょ。ね? だけど、私ははっきり述べてるんだから、自分の信念を」
岩上「条件付き賛成なんですか?」
大西「そうですよ。だからTPPは、日本の経済の発展のために必要なことである。しかし、農業の問題だけはしっかり守らなければいかんということで、農業については条件付きでやりなさいと。
こう言ってきた。安倍総理は、そのようにオバマ大統領と会見をして、その条件付き、ね? 関税撤廃無制限でないという言質を得た。それでオバマ大統領との会見を終えて日本に帰ってきてから、TPP交渉に踏み切ることにしたんですよ」
岩上「この場合の、『聖域なき』というのはどのように解釈されるんでしょうか?」
大西「ん?」
岩上「オンザテーブルということ。つまり、すべてが交渉の上に挙げられると。これは、USTRもはっきり言ってるわけです。ということは、一切、もう論議することもなく、聖域確保、撤廃なしというような約束というのは、誰もしていないはずなんですよ。これは、必ず、テーブルに載せられると。
そこで、重要なことがひとつあって、先日、そのUSTRに直接、訪米した訪米団があったわけです。
元議員や議員のグループなんですけれども、そこで帰朝して報告会をやった。そうしましたら、聖域と言いますか、例外扱いしてくれるのかと。この方たちも農業を守りたいとおっしゃっているから、志は同じだと思うんですけれども。守りたいと思っているので、それは聖域扱いをするのかと言ったら、これは、カトラーさんという、USTRのトップですけれども、No.3ですか。
彼女が、『関税の完全な撤廃を目指しているんであって、関税を残すということは一切ない』と(発言した)。ただ、それが段階的に減らすか。つまり、時間をかけて減らすか。つまりなくしてしまう。ゼロに。でなければ、一時的なセーフガードが認められるだけで、いわゆる聖域として関税を残すということはないと言ってるわけですよね」
大西「いや、だから、そういうことですよ。それは、だから、もちろん、その半永久的にね。この関税を残せなんて言ってないんですよ」
岩上「あ、そうなんですか?」
大西「そうですよ。それは、やっぱり日本の農業の体質改善や、日本の農業の競争力の強化を図りながら、そして、ゆるやかな形で日本農業の改革を進めるなかで、関税を撤廃をしていこうというような基本的な考え方は、私は持ってますよ。そして、自民党の多くの人たちも持ってますよ。
それを、TPPに入ったから、即関税撤廃だということはありえない。それは、アメリカも、農産物の関税は、撤廃したいけど、自動車は守りたいんですよ。あれ、自動車だって10年後に協議しようということで落着したでしょ? だから、これはまた、そこからの論議です。
なんで、アメリカさん、自動車だけは、関税撤廃を認めないで、日本の農業だけ、なんで即、関税撤廃だという話になるでしょ。それはありえない、外交交渉では。
ですから、これは、TPPを締結したあとに、しかるべき形で論議が進んでいくことだと思うんですよ。
自民党「TPP対策に関する決議」とも根本的に矛盾する
読者の皆さんには、おわかりいただけたと思います。
大西議員は、「半永久的に関税を残せなんて言っていない」とし、「日本農業の改革を進めるなかで、関税を撤廃をしていこうというような基本的な考え方は、私は持ってますよ。そして、自民党の多くの人たちも持ってますよ」と、確かに発言されました。
この発言は、私が日本農業新聞のコラムで書いた「自民党の大西英男衆院議員は、(中略)『すぐにではなく、いずれ関税撤廃ということ。自民党の多くの議員も同じ考えだ』と語った。これが、自民党の本音なのである」という箇所と一致します。
大西議員は、ご自身のみならず、多くの自民党議員が、関税撤廃への意思を持っていることをはっきりと明言したのです。
また、大西議員は「TPPに入ったから、即関税撤廃だということはありえない」と言いつつ、「TPPを締結したあとに、しかるべきカタチで議論が進んでいく」とも発言しています。これは、TPPの参加が、関税引き下げ交渉の「ゴール」ではなく、締結後にも、交渉が続いてゆく、即ち関税のさらなる引き下げ、あるいは完全なる撤廃の圧力が米国からかかり、日本側も応じる用意があることを意味しています。
TPPは交渉の終わりではない。そして日米間協議が続く中で、いずれ、「関税を撤廃していこうという基本的な考え方」を、大西議員も、他の自民党議員も持っているというわけです。
大西議員のこの主張は、インタビューのわずか2ヶ月前、2013年3月13日に出された、自民党による「TPP対策に関する決議」の中の文言と矛盾しています。
「決議」の中では、「TPP対策委員会第4グループとりまとめ」の項において、「TPPでの日本の主張」として次の文言が掲げられています。
「米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物等の農林水産物の重要品目が、引き続き再生産可能となるよう除外又は再協議の対象となること。10年を超える期間をかけた段階的な関税撤廃も含め認めない」
10年を超えるような、長期にわたっての段階的な関税撤廃も認めないと、自民党ははっきり言いきって決議までしています。この部分の約束を、全国の農業関係者の方々は頼もしく思ったことでしょう。
自民党は表向きには重要品目の関税撤廃を永続的に認めないとし、あくまで「聖域を保つ」と断言して、農業関係者の歓心を買いながらも、実際には、大西議員の言うように、いずれは関税の撤廃を目指している、という本音を腹の底にたくわえているわけです。
自民党の二枚舌が、私のインタビューの中で、図らずも露呈されたことになります。
大西議員事務所から、インタビューのデータを送るか、サイトでインタビュー全体を見られるようにして欲しい、という申し出がありました。大西議員側だけに見てもらって確認してもらうのは、インタビューの本来の趣旨と違いますので、多くの方に御覧になっていただけるように、11月20日に再配信し、その後もどなたでも御覧いただけるようにフルオープンにしております。どうぞ、御覧ください。
1000万票のJA票を裏切り、切り崩す安倍政権
農協は自民党の「最大の支持組織」として、長年、自民党を支えてきました。農家数は年々減少していますが、農協は、正組合員と准組合員を合計すれば、いまだに1000万人近い組合員を擁しています。巨大な「農協票」です。
09年の選挙では、民主党が農家への「戸別所得補償制度」を打ち出したことで、農協票の大半が民主党に流れたと言われており、これが政権交代に大きく影響していたとも分析されています。
民主党・菅直人政権時に持ち上がった日本のTPPへの交渉参加問題。農協が2011年に集めたTPP反対署名は、日本の人口の約10分の1にあたる1160万筆を超えました。2012年の衆院選で、自民党は「TPP断固反対」を掲げ、農協票を再び取り込み、政権を奪還したのです。
しかし、安倍政権が、アベノミクスの一環として今年6月に閣議決定した「新成長戦略」は、政権交代の「恩義」のあるJAに対して、「仇で返す」ようなものでした。
「新成長戦略」の最大のポイントは「農協改革」です。これはJAの事実上の解体であり、農家の発言力の低下を狙ったものです。
まず、全国約700の農協の司令塔である「JA全中」を新たな組織に移行させ、単協に対する経営監査などの権限の大幅縮小を打ち出しました。また、生産から卸し業まで一括した管理体制で農作物を流通させているJA全農を株式会社化するとし、農業法人への企業の出資の規制緩和も目指すとしています。さらに、農業生産法人の設立要件も緩和するとしており、企業の農業参入を促進してゆくというのです。
自立した家族農・自営農の集まりである協同組合を企業の形態に再編することは、将来的に何を意味するのでしょうか。
会社法改正以後の一般企業がそうであるように、株式企業となれば、株主支配が貫徹されることになり、株主には高い割合で外資が含まれることになるでしょう。農業法人が、日本の国土の多くを占める農地を所有し、その農地を外資が株主支配すれば、領土を巡るまがまがしい侵略戦争など引き起こさなくとも、無血で日本の国土を事実上、手に入れることができます。その農地をまた別の目的に転売することも可能でしょう。
もしそうしたグローバル資本の思惑に抵抗しようとして、政府や地方自治体が国土保全のための規制をかけようとすれば、TPP参加後であれば、ただちにISD条項による提訴が行われることでしょう。
小規模農家は次々と農地を手放し、農家を廃業するか、農業法人の従業者とならざるをえなくなります。何にことはない。戦後の農地解放以前の「小作人」へ逆戻りです。
農業関係者の悲鳴「我々はなぜ殺されようとしているのか」
こうした日本の農業と農家の切り捨て政策について私は、コラムの中で、次のようにも書き、警鐘を鳴らしました。
「安倍総理がTPPへの参加を表明した真の理由は、『強い農業』の復活による経済成長などというものでは、もちろんない。安倍総理の狙いは、JAの解体であり、日本の小規模な家族経営農家を消滅させ、農業と農地を株式会社化した上で、大資本に売り渡すことである。
7月30日付けの産経新聞の報道によれば、安倍総理は、TPPに反対するJAを指し、『日教組のような抵抗組織だな』と周囲に怒りをぶちまけたという。かつての小泉政権が郵便局を『抵抗勢力』として『悪魔化』し、新自由主義改革を推進したように、安倍政権はJAを『悪魔化』するキャンペーンを張ろうとしているのだ」
安倍政権の「裏切り」を前に、農業関係者の方々は、「我々はこれまでさんざん自民党に尽くしてきたのに、なぜ、こんな扱いをされるのか」と疑問に感じているでしょう。
これもコラムで書きましたが、私は今年7月、全国のJAの組合員の方々、百数十人を前にして、お話をさせていただく機会がありました。
私はTPPに対する批判者であり、したがってTPP参加をすすめる安倍政権への批判者でもあります。今は「TPPは交渉差止・違憲訴訟の会」の呼びかけ人にも名を連ねています。そんな私に、自民党の「最大の支持組織」であるJAの関係者が講演を依頼するとは、どんな風の吹き回しでしょうか。「講演依頼をなぜ私に?」とおたずねしました。
「我々は、なぜ『殺されようとしているのか』わからないです。なぜなのかを、知りたい」。担当者の方は、そう率直に答えられました。
「我々はTPP反対という自民党の公約を信じ、衆・参の両選挙で自民党を盛り立て、安倍政権を誕生させました。しかし、その公約はあっさり反故にされ、それどころか、JA全中解体を迫られています。尽くしたあげく、なぜ、殺されなければならないのか、わかりません」
切実な口調でした。本気で自民党を信じ、そして裏切られた、その悔しさがひしひしと伝わってきました。
JAが「殺される」理由 〜TPP参加で「聖域」の関税を守る気のない自民党と、それでも安倍政権を支えるJAの不条理 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/212270 … @iwakamiyasumi
「この道」の先に待ち受けているものとは?大西議員の口から語られた「事実」
https://twitter.com/55kurosuke/status/615009272821186560