「政府が右というのを左といえない」。メディアがこういう姿勢をとったらどうなるか。歴史には実例があふれている。
籾井勝人NHK会長に対しては、「辞任」を求めるNHKの元職員から、1500を超える署名が集まっている。元NHKのプロデューサーで、現在は武蔵大学教授の永田浩三氏も署名した一人だ。
永田氏は、NHK時代に『クローズアップ現代』などの番組を世に送り出してきたほか、2001年に起きた、政治権力による番組改変が起きた場面にも当事者として遭遇。近著『NHKと政治権力』(岩波書店, 2014)は、このNHK番組改変事件について詳細にまとめたものだ。
NHK経営委員会の百田尚樹氏や長谷川三千子氏は、安倍総理の「お友達」として知られている。第一次内閣でメディア対策を失敗した安倍総理は、今回はNHKの最高意思決定機関に、自分に近しい人物を送り込んだ。
安倍総理ら権力の中枢や、その支持勢力が狙ってきたものは何か。永田氏は、「教科書を叩き、NHKを叩き、そして今、本丸の朝日を叩いている」と見る。
NHKが倒れ、メディア総出の朝日新聞バッシングが当然のことのように通り過ぎていく現在の日本。この流れは、この先も続くのだろうか。「序章なのかもしれない」と語る永田氏。10月22日(水)に行われた岩上安身とのインタビューで永田氏は、戦後から今日までNHKを取り巻いてきたものを語り、日本の進み行く先に警鐘をならす。
- 日時 2014年10月22日(水) 15:00〜
- 場所 IWJ事務所(東京都港区)
※以下、実況ツイートをリライトし再構成したものを掲載します
岩上「みなさん、こんにちは。本日のお客様は『NHKと政治権力』の著者・永田浩三さんです。
今のNHKにはなぜ、ガラの悪い人たちが居座っているのか。その中心には安倍晋三という人がいて、この流れには何十年も溯ることができるのです。
永田さんは『クローズアップ現代』のプロデューサーでした。また番組『ETV2001』の編集長もつとめられていました。現在は武蔵大学の教授ですが、今、決起されましたね。籾井会長に辞任を要請する集会に賛同し、署名されました。
籾井さんは『政府が右というのを左といえない』と発言しました。右派の言論人、財界人、あるいは官僚が、メディアをぐらぐら揺るがそうとしています。その帰結としてNHKの体たらくがありますね。今声を上げようとした経緯は何でしょうか」
永田氏「8月21日の1500人の署名というのは、戦後NHKの中では初のことです。かつて、小野吉郎会長の辞任を求める137万人の署名がわずか2日で集まったことがありましたが」
岩上「海老沢会長は独裁的で評判が悪いという『エビ・ジョンイル』と揶揄されました」
永田氏「私が接した範囲では、海老沢ご本人は気のいい感じの方。政治家に顔がきくという人でした。後に安倍晋三さんの清和会から揺さぶりをかけられ、いろいろな目にあうことになるのです。
かつてNHKは自民党田中派・経世会の言うことを聞いていればよかった。それがいつのころからか、清和会の影響を受けるようになります。2001年の番組改変事件は、その境目の時期に起きました」
安倍政権の“広報担当”となるNHK
永田氏「『放送を語る会』が、NHKの『ニュース7』『ニュースウオッチ9』の内容を研究し、政府公報的な報道に傾いてきたというデータが出ています。
放送法の第一条に『健全な民主主義に資する』という文言があります。つまり、NHK職員が行うべきなのは、放送という道具を作って日本社会が民主主義になるようにすることです。そのために受信料をいただいている」
岩上「ということは、NHKが今すぐやるべきなのは、百田氏や長谷川氏の発言を追及することですね」
永田氏「まず、間違いを正さなければならない。政府の間違いですね。
籾井会長の『政府が右にいうものを左にいえない』という発言は、政府の広報になるという意味になっている。さらに『慰安婦がどこにでもあった』という明らかな間違いを言いふらしている。
この上に、籾井会長は理事の辞表を預かるという行動に出た。もう我慢できない、ということで、元NHK職員を中心に、今年8月に籾井会長の辞任を求める集会が開催されました」
岩上「NHKの現役の方の反応は?」
永田氏「籾井会長の発言に『恥ずかしい』という反応があります。発言の影響により、中国のスタッフとの関係が気まずくなったり、ケネディ駐日大使のインタビューが実現しないとも言われています。
今のNHKは『みんなのNHK』になっていない。『安倍政権のNHK』になってしまっている。自分から辞めるか、経営委員会で罷免されるかしないと籾井体制は終わらない。しかし、経営委員会には安倍総理の『お友達』が最低5人いらっしゃいます」
岩上「誰の権限で経営委員は選ばれるのですか?」
永田氏「内閣の案が出され、国会で承認を受けます。民主的な手続きと言われていますが、制度上おかしいですね。民主的な政権があるという前提が必要です。それがなければ問題のある経営委員が選ばれる。
かつては経営委員会はそれほど重要なポストとして見られていなかった。こんなに露骨に内閣の色に染まった経営委員会は、安倍政権になって初めてです」
岩上「百田尚樹氏のような、首相の近くで、愚劣である人物がいます」
永田氏「NHKはいろいろ問題を抱えていますが、宝です。本来なら日本の文化を正確に深みのある形で伝える。それなのに、(百田氏のような)偏見にみちた発言を繰り返すのは問題があります」
岩上「やめさせるということはできないのでしょうか?」
永田氏「きちんと調べなければ答えられませんが、制度上非常に難しいものとなっています」
岩上「お飾りのような経営委員会が政治的なものに再編・利用することを安倍さんは狙っていたということですね」
永田氏「安倍さんは、一度総理大臣になり、体調不良で辞任。再び総理になり、かつてのメディア対策の失敗について反省があります。一番日本社会で影響力を持つのは公共放送のNHK。ここに自分の目の届く人間を配置する」
岩上「今、大変な転換点にいるということですね。私は、辞めていただくべき人には、辞めていただきたいと思っています。どなたか法律的な知識をお持ちの方は教えていただきたいと思います。
私はいろいろな所で取材をし、記者と名刺交換をしますが、NHKの方だけは、私がいないものとして素通りしていきます」
永田氏「『怯え』の組織であることは間違いないのです。一つの役所ですから失点に敏感です。NHKの中にも変わりたいと思っている人もいるんです」
NHKの公共性はどこに?
岩上「私は受信料を徴税だと見ている。私の言う公共は下からのものです。IWJは寄付を募り運営しています」
永田氏「ただ、戦前・戦中にラジオのNHKがあり、戦後に放送法とともにできた新しいNHKは、ドネーションの仕組みでできたんです。
視聴の如何に関わらず、NHKの事業に対して、いただくお金だったのです。鉄塔に代表される放送事業に必要な設備も、受信料から出されています。
かつては、放送はあまねくサービスが受けられたほうがよい、という思想がありました。昭和20年代でも、地方にいてもラジオによって世界の情報を知ることができる。
かつての、この考えはまっとうなものだと思います。その後、民放が増えていきます。その中で、NHKは制度を上手く使い肥大化してきた面があります。肥大化すると組織防衛の力も働くようになりますね」
地デジにしても、新しい需要の喚起のために利用されました」
岩上「放送、思想の多様性をどのように担保するのかという問題ですね。米国ではある程度の規模の自治体は小さなメディア・放送局を援助しますね」
永田氏「民主主義の発展という観点からすれば、多様化は重要です。多数派の暴力を許すことになります。とても難しいのは、NHKが担ってきたものをどのようにシェアするかということですが…」
岩上「議論も始まっていませんね。NHK側が耳を傾けるようにしてほしいですね。私のアイディアは次のようなものです。
百田氏や長谷川氏は経営委員失格だから降りてもらう。NHK内に『好き勝手チャンネル』を作ってもらい、そこでやってもらう。で、その隣にIWJも対抗言論としてあるというものですが」
永田氏「プラットフォームを作るというのは最低限あっていいと思います(笑)」
岩上「みんなが情報の主権者の時代ですね。その主権者のお手伝いを、高みにいた人に協力していただきたいと思いますね」
永田氏「NHKの公共性が揺らいでいます。日本人はNHKを『お上の放送』だと思い込んでいるところがあります」
岩上「私はそう思っていました(笑)」
NHK戦後史:籾井会長発言「政府の右を左にいえない」の根っこにあるもの
永田氏「あの戦争を、NHKラジオは一緒になって推進しました。その意味で、戦後のNHKの社会的役割は重要でした。
戦後のNHKの放送委員会には岩波茂雄を始めリベラリストが参加。会長には大原社会問題研究所を設立した高野岩三郎氏が就任しました。
話はそれますが、戦中の反省からに、経営と編集を分離しようと大掃除をしたのは読売新聞です。
また、ロッキード事件の時に『赤旗』のスクープがたくさんあり、NHKニュースでも『赤旗によれば』という赤旗に依拠した報道がありました。NHKへの批判はありましたが、覚悟はあったということですね。
韓国で言えば、80年に光州事件があります。その後に民主化の流れに。放送では光州事件で市民の側に立てなかったことをあらため、KBSの経営委員長には、軍事政権に反対した人物が就任します」
岩上「占領下の日本で、日本を反共の砦と位置づける逆コースの流れとなります」
永田氏「高野さんは病気になられて、志なかばでお亡くなりになります。
次に会長になるのが、朝日新聞の記者だった古垣鐵郎さんという人です。この人の時代が、まさに朝鮮戦争の時代です。この人は、高野さんの時代に、吉田茂から、高野さんに対する『お目付役』として送り込まれているんです。
この時代に、なんとラジオ第二放送で、いっとき、米軍の北朝鮮向けの謀略放送をNHKの電波を使って流すということがありました」
岩上「謀略放送とはどんなことですか?」
永田氏「つまり、プロパガンダ放送ですね。これは日本語の放送だったと思います。そういうことをやっているんですね。申し出て、やったという風に聞いています。
ですから、籾井さんの、『(国際放送で)政府が右と言うものを左と言うわけにはいかない』という発言の根っこにあるのは、ずっとあるということです」
岩上「この古垣会長は、NHKは他にさきがけて、国策に貢献することを明言したということですね。『国策放送局』だと、自ら言っているわけですね」
永田氏「これは、根っこはずっとあります、実は。戦前・戦中はもちろんそうでした。いったん、それは駄目だよ、となりましたが、朝鮮戦争以降、繰り返し、その話は出てくるのです」
百田尚樹という経営委員の問題点
岩上「百田さんのような人を経営委員としてあがめるNHK職員の屈辱とは、どういうものでしょう」
永田氏「百田さんは関西で活躍していた構成作家でした。それが安倍総理の応援団となり、ある時からを境に発言の度が過ぎるようになりました。
NHKは公共放送ですから、人権ということについては、ものすごく気をつかわなければならない。百田さんにも、もちろん言論の自由はありますが、NHK経営委員というのは、縛りがきついのです。
人を傷つける『人間のクズ』という発言も問題がありますが、百田氏は、政治的にも極右といっていいような発言もしています。また、長谷川さんは言論を暴力で封殺するような、そういう人の味方をする。
これは、どちらの方も、公共放送の経営を担う役職には、不適格です」
岩上「百田さんの代表作の『永遠の0』というのは駄目なプロパガンダです。そうツイッターに書きましたら、当人から、『読んだんだろうな』とすごむメンション付きで返信がありました。誰が読むかと。腹が立ちました。『永遠の0』は強制性があった特攻隊を綺麗ごとに仕立て上げている。英霊をだしにして金儲けをしたことになります。
NHKでは『振武寮』を取り上げた、素晴らしいドキュメンタリー番組があります。ぜひとも、NHKで再放送はないのでしょうか」
永田氏「アーカイブ番組という形であります」
岩上「百田氏へのインタビューも実施し、追及してほしいですね。
沖縄の報道関係者に対する風当たりが強くなっています」
永田氏「辺野古の新基地や高江のヘリパッドのことを記事にするのがなぜ反日なのでしょうか」
高市早苗氏の総務大臣就任という現実:20年前の「若手議員の会」が日本を支配する
岩上「現在の総務大臣は高市早苗さんです」
永田氏「総務大臣は放送に大きな権限を持っています。新聞と違い、放送には国にたてをつけないという弱みが実はあるのです」
岩上「これはあまり知られていませんね。テレビのしばりのほうがきついということですね」
永田氏「BBCも女王から許可をもらいます。しかし、『政権への批判はやめません』ときちんと言う。米国では、反共政策の中で、放送免許をもらえない、待たされることが相次ぎます」
岩上「高市早苗さんは9月3日に総務大臣に就任し、就任会見でNHKの国際放送でプロパガンダ放送をするように聞こえる話をしていますよね」
永田氏「その通りだと思います。許認可権限を持っている大臣が、その権限の行使について、慎重でなくてはならないのです、そもそも。それを、大臣になったその日に言ってしまうという、これが高市さんの問題そのものだと思います。
高市さんはずっと、そのようなことを言い続けてきた人です。高市さんは90年からずっと安倍さんと共同歩調をとってきました。
『歴史教科書への疑問』という1997年に出版された『日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会』のによる本があります。この本に書かれていることが、その後、日本のメディアに影を落としていくことになるのです」
岩上「現実化してしまっていくということですね。ある種のマニフェストですね、反動家たちの」
永田氏「この会の代表は中川昭一さん。会ができたときの事務局長は安倍晋三さんです。高市さんは幹事長代理として参加している。このメンバーの人たちが、今、閣僚であり、自民党の枢要なポストについているということだと思います」
岩上「高市さんはネオナチ団体代表とのツーショット写真があります。ほかの閣僚では、山谷国家公安委員長は在特会関係者との写真があります。
松島法務大臣と小渕経産大臣さんが辞任したときに、日本のメディアはそれだけを報じました。一方、海外のメディアは高市さんや、Zaitokukaiと関係がある山谷さんはどうなのかと論じています」
永田氏「高市さんの就任会見の発言について確実な情報がないので気をつけて発言しなければなりませんが、イギリスのTimes紙は最近、日本政府によりNHKの従軍慰安婦、南京虐殺や領土問題などの英語報道に関しての指導があった、それを立証する内部文書があったと報道しています」
「ニュース・ウォッチ9」キャスターへの二つの批判
岩上氏と永田氏の対談、たいへん興味深く拝見しました。岩上さんの「受信料を徴税だと見ている」という指摘に対し、永田氏は「放送はあまねくサービスが受けられたほうがよい、という思想のもとに戦後のNHKはドネーションの仕組みで作られた」というような説明をしておられましたが、これはおかしいです。公共のためのドネーションというのはフィランソロピーの概念だと思いますが、それなら資産階級の篤志家が行なうものであって、日々の食事代にも事欠いてスーパーマーケットで値引き野菜を買っているような所帯からも受信料を徴収する仕組みは、やはり岩上氏に「徴税」と言われてもしかたがないと思います。
また、永田氏は読売争議について、NHKも同情ストを率先してやったというようなことや、あるいは大原社会問題研究所の創設者がトップになったエピソードを語られ、元はNHKは右翼的ではなかった、ということを披露したかったようですが、私たちにとっては現在のNHKが問題なのです。現在のNHKが、大原社会問題研究所に眠っている戦後すぐの在日朝鮮人人権擁護運動などの貴重な資料について紹介の番組を作成しているでしょうか?
自民党は戦争映画や戦争記録映画など残虐な放送はだめとして放送しないようにした為、過去のことを知らない若者が育ったのではないか。
「みんなのNHK」から「安倍政権のNHK」へメディアへの政治権力の介入〜元NHKプロデューサー・永田浩三氏に岩上安身が聞く http://iwj.co.jp/wj/open/archives/188812 … @iwakamiyasumi
この流れは「序章なのかもしれない」と語る永田氏。残念ながらその通りだ。
https://twitter.com/55kurosuke/status/614587480398901248
平成27年9月18日
NHK様
わが家は現陛下のご成婚の時にテレビを父が購入して以来50数年の間、何の抗議もせず30数年年前よりは銀行口座の引き落としで支払ってきました。この間にも自民党以外の政治家と政党に対する偏向報道が見られましたが、NHKスペシャルやクローズアップ現代、歴史の番組など良質のものもありました。
しかし、3.11の原電の事故報道以降真実を伝えていないと思われる報道、例えばメルトダウンしていることが遅れたことなど国民の安全より国家の方針を優先していたのではなかったのですか、その後の事故調報道を何のコメントも無くなぜ報道したのでしょうか。あなた方の科学部は見せかけなのでしょうか。
この後、籾井が会長に就き言った「時の政府が右というものを左とは言えない」の発言には驚きました。この時受信料を中断する決意をし、2015年4月に引き落とされる振替を変更しました。この間郵送で領収書らしきものを6通送られてきましたが彼がNHKを辞めるまでは保留します。
『みんなのNHK』『NHKは皆さんの受信料で成り立っています』この言葉は公共放送としてですが本当でしょうか。放送法の第1条(目的)の一、不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保する。二、には放送が健全な民主主義の発達に資するが謳われていますが、現状はそうではないと思います。いかに具体的におかしいことを簡潔に列挙します。
1)年頭の陛下のお言葉である『平和・民主主義』をどうして削除して報道するのですか。昭和天皇の崩御の時は通常番組を取りやめても病状を逐次報道したではないか。これは恐れ多くもNHKの検閲行動に等しい。
2)秘密保護法成立であなた方の報道は何ら影響を受けることはないのでしようか。それでも民主主義の発展に寄与するといえるのですか。
3)あなた方の2万数千人の雇用は半数以上が派遣ではないのですか。また社員の給平均給料は年俸1200万円で派遣社員は600万円らしいですが、残業ゼロ法案・派遣法改に単に「可決されました」の報道で済むのですね。あなたがたの給料は私たちの受信料です。
4)反原発のデモを、NHKへの抗議のデモ、戦争法反対デモをどうして報道をしないのですか。
NHKOBや永田浩三の声を聞いてください。私のNHKに対する気持ちを述べ再度受信料の凍結をお伝えします。 0570-077-077にも以前に電話いたしました。今は、NHKに洗脳されるかと思いテレビを見ることができません。
以上