解釈改憲による集団的自衛権行使容認が7月1日に閣議決定されたことで、集団的自衛権をめぐる動きは、戦後最大の転換期を迎えている。
8月15日に行われた政府主催の全国戦没者追悼式では、昨年に引き続き、安倍総理から「不戦の誓い」の言葉が出ることはなかった。
翌8月16日、積極的な言論活動を行っている首都大学東京教授の社会学者・宮台真司氏、世界200カ国でTV放映されたドキュメンタリー映画『選挙』(2007年)で知られる想田和弘氏、国内外で国民投票・住民投票を追ってきたジャーナリストの今井一氏が顔を揃え、「宮台真司×想田和弘×今井一 公開討論会[9条・解釈改憲]にどう対峙するのか」と題した討論会が行われた。
「アンチ橋下」有志の会合や、原発都民投票などで行動をともにすることもある三者は、憲法9条、集団的自衛権、民主主義などについて、活発な意見を交わした。
- 公開討論 宮台真司氏(社会学者、首都大学東京教授)/想田和弘氏(映画作家)/今井一氏(ジャーナリスト、[国民投票/住民投票]情報室事務局長)
- 会場を含めた全体討論
9条を国民投票で問うことの是非
今井氏は集団的自衛権に関して、元内閣法制局長官の阪田雅裕が主張する、「解釈改憲でなく憲法改正で問うべき」との意見は少ないとしながら、「9条改正が必要」との自身の立場を明らかにした。その上で、主権者である国民が「戦争する、しない」を含め、論じるべき問題で、そのためには、「9条改正」の是非を問う、「国民投票を行うべきだ」と主張した。
また、戦後を代表する思想家、丸山眞男も「絶対戦争をしないと書く必要がある」と、9条改正案を出していたことを挙げ、「9条改正」論者を悪とする「レッテル貼り」に対して疑問を呈した。
他方、宮台氏は、今井氏の「国民投票が必要」という考えに理解を示しながらも、「時期尚早だ」と述べた。宮台氏は、制度としては民主主義だとしても、決定のメカニズムが全体主義となることに「危惧を抱いている」と明かし、「団体動員が行われる投票が、民主主義と言えるだろうか」と疑問を呈した。
その上で、自身が請求代表人を務めた原発都民投票などの住民投票で練習をしながら、「国民投票へという動きがよい」との見解を示した。
9条の「曖昧さ」が戦争を回避してきた
想田氏は、今井氏の「白黒はっきりさせるべき」という考えに対し、「グレーの部分が必要ではないか」と問いかけた。9条が空文化していると言われようとも、「結果的に戦争が起きていない状況であるなら、それは成功」であり、抑止力となっているからだという。
ニューヨークを拠点に活動を続ける想田氏は、米国民の9割が戦争賛成だったイラク、アフガニスタン戦争の様子を現地で見て、9条のような歯止めがないことに恐怖を感じたという。
想田氏の発言を受けて、曖昧さでやってきたのは「大人の知恵」と解説する今井氏は、それが一番嫌いだと返し、会場からの笑いを誘った。「戦争する、しない」は、グレーではダメだと今井氏は断言した。
ニューヨークで2012年12月の衆議院選挙を見ていたという想田氏は、同年4月に自民党が提出した憲法草案を見て、「民主主義を望まないような勢力が勝てるわけがない」、と高を括っていたと明かした。注意深く見てこなかったことを省みるとともに、現状について、無関心を背景に「熱狂なきファシズム」が進行していると懸念を示した。
想田氏は、安倍総理のような人物が出てきたことで、「主権者」という意識を持った人たちが出てきていることを評価するが、同時に「特効薬」がないことを認識することが重要だと強調した。
安倍総理は「憲法について考える機会を提出してくれた」