「間違っても日本の軍事力を外に出さないというのが、憲法9条。これを逸脱することは『憲法破壊』だ。『解釈改憲』というきれいな言葉は当てはまらない」──。
2014年4月12日、東京・水道橋のYMCAアジア青少年センターで、パネルディスカッション「Yes立憲主義 No解釈改憲」が開かれた。改憲論を主張しつつも、立憲主義を蔑ろにした改憲案には意義を唱えてきた慶応大名誉教授の小林節氏、社民党副党首の福島みずほ氏、ジャーナリストの今井一氏が登壇した。
ゴールデンウィーク明けにも、安倍晋三首相の私的諮問機関である「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)から報告書が提出される模様で、自衛隊の海外派兵がいよいよ現実のものになろうとしている中、解釈改憲による集団的自衛権行使容認の問題について論じ合った。
- パネリスト 小林節氏(慶応義塾大学名誉教授)、福島瑞穂氏(社民党副党首)、今井一氏(『「憲法九条」国民投票』著者)
コーディネーター 内田誠氏(ジャーナリスト)
まず、司会の内田誠氏(ジャーナリスト)が、安倍首相が「砂川事件」の判決を根拠に、集団的自衛権の行使を限定的に容認する考えを示したことを話題にした。
同事件は1957年、東京都砂川町(現立川市)の米軍旧立川基地拡張に反対する人々が、基地内に侵入したとして、日米安保に基づく刑事特別法違反で逮捕、起訴された事件のこと。1959年3月、1審の東京地裁は米軍の駐留自体が「憲法違反」として、被告7人に無罪を言い渡した。
検察側はこの結果を受け、高裁を飛ばして最高裁の判断を求める手続きを断行した。そして同年12月、最高裁は1審を破棄し、被告全員の有罪(罰金刑)が確定した──。
安倍首相は、この最高裁判決の「自国の平和と安全を維持し、存立を全うするために必要な自衛の措置を執り得ることは、国家固有の権能の行使として当然」との一文が、必要最小限度の集団的自衛権を認めたものだと主張したのである。
これについて、小林氏は「あの裁判では、在日米軍基地の日本国憲法に照らした合憲性が争点だった。自衛隊が集団的自衛権を行使して、海外に派兵することの合憲性が問われたものではない。そもそも論点が違うのだ」とし、安倍首相の主張はナンセンスと切り捨てた。
さらに小林氏は「砂川判決が出た1959年といえば、誕生したばかりの自衛隊の合憲性が議論されていた時期であり、専守防衛を超えた『集団的自衛権』など、そもそも論外だった」とも述べた。
元防衛官僚も集団的自衛権にダメ出し
続いて福島氏が、「安倍首相は『日本国憲法殺人事件』を犯そうとしている。解釈改憲は非合法的殺人であり、明文改憲は合法的殺人だ。私は、いずれにも反対するが、特に解釈改憲は、立憲主義を破壊するもの」と口調を強めた。そして、この5月に安保法制懇から報告書が出され、それを基に与党内で議論が行われること、その後の閣議決定で「集団的自衛権」の行使を認めるといった、これから起こり得るシナリオを提示。「私は目前に迫る問題である、このシナリオの実現の阻止に向けて全力で頑張る」とした。
そして、内閣官房副長官補としてイラク戦争への自衛隊派遣を統括した柳澤協二氏(国際地政学研究所理事長)の名を挙げ、「私は今、かつては敵対する関係だった柳澤さんと、解釈改憲反対で話をしている」とし、「イラク特措法を作った、元防衛官僚の柳澤さんですら、解釈改憲での集団的自衛権の行使容認にダメ出しをしていることを、ぜひ知ってほしい」と強調した。